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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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集団、そして苦戦

 初めての戦闘訓練から数日後。

 毎日バッタバッタと倒される候補生たちだが、既に惜しいところまで来ている候補生はちらほらいた。


「さすが一組だ。上達が早いな」

「あのー、隊長ー、なんで私教える側なんです?」


 曰く、今ラヴに必要なのは経験であり、特定の誰かと高め合うのではなく、できるだけ多くの技や知恵を体験し、その全てに対応できるようになれと言う指示だった。


 初日はノーマンに打たれて心身共にダウンしていた彼らだったが、数回打ちのめされたら少なくとも心には多少余裕が生まれた。

 思い上がりを潰され、こういうものだと受け入れられた彼らの復帰は早かったが、その間ノーマンは他の候補生の相手をしている。


 そこで再び勇気ある候補生がこう言った。


『ラヴさん! よかったら、手合わせしてくれませんか!』


 これ好機と見たノーマンが暇をしている候補生たちをラヴと手合わせさせることにした。

 五人集まったらラヴに挑戦。そして次の五人が集まったら、もしくは誰かが戦闘継続困難であると判断したら交代。


 集団戦はもっと後にやるつもりだったが、空き時間にその予習ができるのなら越したことはない。


「ラヴさん! 行きますよ!」

「戦闘中は符丁以外の声はいらない。思考を乱す原因になる」


 声を出す少年から潰す。

 今の彼らとラヴは敵同士。

 無意識に出た言葉ならまだしも戦闘中に敵と会話をするなど言語道断だ。


「次」

「ファイアボール! スロー!」

「技が単調。単純な技を使うなら複数組み合わせて。単純な攻撃で活かすべきは威力か、速度」


 ハエを払うかのように手を振るう。

 すると一瞬で火球がかき消え、逆にラヴの指先には水玉が現れた。


「ミニマム・ウォーターボール。インジェクション」

「きゃっ」


 弾丸のように素早い水玉が少女の額に直撃する。

 もしもこれが実戦ならば、今頃少女の頭は弾け飛んでいただろう。


「次」

「皆! 囲め!」

「……はぁ」


 全員が白兵戦を得意とするなら少数を大勢が囲むのは理解できる。

 しかしそこに飛道具や魔法を主武器とする人員が加わると、とたんに陳腐な作戦になってしまう。たとえば――


「魔法は危ないよ」

「ファイアボール! インジェクション!」


 ラヴに目掛けて高速の火球が撃ち込まれる。

 それをギリギリまで引きつけて、引きつけて、引きつけて。


 目の前に迫る火球を、紙一重で回避する。

 そしてその火球はそのまま目にも留まらぬ速さで進んでいき、ラヴの背後を陣取っていた候補生に直撃する。


「ぎゃあっ!? あ、熱い! 消えろ! このっ!」

「イクスティングイッシュ」

「消え――あ……」

「傷見せて。……あー、水ぶくれできてるね。ウォーター。リメイン」


 手袋を外して自分の手を洗う。

 そして懐からポーションの原液が入った瓶を一本取り出し、自分の指に一滴垂らすと、彼の水ぶくれに薄く塗る。


「いっ……」

「もう少し、頑張って。……はい。おしまい」


 そうして振り向き、棒立ちで待っている四人に言った。


「この様に、近接職以外のメンバーがいる場合は包囲作戦は絶対にやっちゃダメなの。もしどうしてもその必要があるのなら、相手の後ろに壁を作って包囲してメンバー同士を対角線上に置かないこと」


 ラヴはノーマンのように的確なコメントを出せるわけではない。

 なので全てはラヴの主観に基づくものだ。詳しい話はノーマンに報告してコメントを貰ってくれと言って放り投げる。


「さて、お待たせ」

「問題ございませんわ。わたくしたちも今集まったところですので」


 このチームだけは四対一。

 しかし今のところ他の誰よりも善戦しているチームだ。それは言わずもがな、五人組、マイナス一。


「今日こそはギャン入れっから、ラヴっち」

「……絶対倒す」

「打倒ラヴ!」


 ノーマンの話ではラヴを倒したら免許皆伝と言うことだった。

 免許皆伝の次に待っているのは師範代なので、つまりはそう言うことだ。


 ラヴという共通の目標が現れて、いいように扱われていることを哀れに思いながらもラヴは負けるわけにはいかなかった。

 何せ本格的な集団戦になるまで耐えきれば、もう一人肉を買って貰えるのだ。


 前回のあれも非常に美味であったが、次はさらに上を行くという。


 一番乗せられているのは、他でもないラヴだった。


「ふっ――!」


 先に動くはラヴ。


 ノーマンはラヴと候補生を対峙させるにあたり、ラヴにいくつかの制限をかけた。

 一つ、魔法や魔眼を使わないこと。

 一つ、意図的に候補生を傷つけないこと。

 一つ、喉が渇いたら即座に訓練を終えてノーマンに報告すること。


 他にも細々とした条件はあるが、概ねこの通りだ。

 魔法が使えなくなったので、ラヴは身体能力強化の魔法も使えなくなった。


 強く切られたら傷つくし、殴られても痛みを感じる。

 そんな状況下で瞬時に正確な判断を下し、敵を制圧する。そんな能力を培うのだと彼は言った。


「アイアンウォール!」

「ハッ――!」


 マリーは前面に鋼鉄の壁を作ってラヴの進行を阻害する。

 しかしラヴはそんなものお構いなしに鉄拳を叩き込み、分厚い壁に大穴を開ける。


 まず叩くべきは後衛。

 その中でもローラは何を出すか分からない。たとえ判断が鈍かろうと、手持ちの切り札が多いと知っている者からすれば十分な脅威となり得る。


「ローちん! イクリプス!」

「イクリプス!」

「ホーリーランス!」


 彼女たちが取った解決策。

 それはローラを一人にさせず、必ず司令塔となる人を付かせることで、即座に判断をしてローラに命令、その後ローラが魔法を実行するという構想だ。


 一回分の工程は多くなるものの、それのおかげでローラの魔法は劇的に安定した。


 五人組の中でローラの担当となるのは大抵カティ。

 それは戦場において恐怖に囚われず的確な判断ができる他、他のメンバーが全員前衛職だからという理由で。

 マリーもケイトもカティを推奨し、結果全員の支持を受けて司令塔へと抜擢された。


「パリメンラヴっちオサエンティー!」

「了解ですわ!」

「了解!」


 おかしい。

 別に符丁を用いているわけでもないのに、ラヴには分からず皆には分かる通信言語体系が確立している。


 ラヴが聞き取れたのは「ラヴっち」と言う言葉だけであり、それ以外の内容は憶測でしかない。


 しかも微妙に憶測できてしまうことが厄介だ。

 ある程度は解読できるために思考がそちらに寄せられてしまうし、深く考えれば何パターンかの結果が生まれてしまう。


 強い上に非常にやりづらい。

 この四人の評価は、この言葉に尽きる。


「ここは通しませんわ!」

「クッ――」


 魔法で作り出した大盾を持って、ラヴの侵攻を妨害する。

 地に生えた壁とは違い、これはマリーの腕に固定されているため打撃力が吸収されてしまい、そう簡単に壊せない。


 並大抵の相手ならば使用者の腕ごと粉々にすることもできるのだが、残念ながら相手はラヴと同等の肉体を持った竜の末裔。

 ラヴとて素手ではどうすることもできず、現状突破策が思いつかない。


「ッ!?」

「おっと! これも避けるんだ」


 そしてマリーに集中して足を止めていると、意識の範囲外からケイトが奇襲を仕掛けてくる。


 以前ケイトは隠密魔法が得意と言っていたが、得意なんてものではない。

 ラヴの鋭い五感すら欺いて、攻撃に転じるまで一切存在を感じさせない彼女の技術はノーマンにすら匹敵するかもしれない。


 今はまだ攻撃する直前の気配で気付けるのだが、攻撃のタイミングが分からないというのは非常に神経を使う。

 ノーマンとの訓練ではラヴの方がよく使っていた手法だが、逆にやられる側になるとここまで不愉快に感じるのか。


「マキシマム・アイアンウォール! アラウンド!」

「しまっ――!?」

「ローちん! レッツ!」

「ぱ、ぱーりないっ!」


 カティが撃ち出すホーリー・エクスプロージョン。

 ローラが撃ち出すダーク・エクスプロージョン。


「「インジェクション!」」


 二つの力は天で交わり、鋼鉄の壁に阻まれたラヴの頭上へ落ちてくる。


「マキシマム・アイアンウォール!」


 ラヴがそう唱えた瞬間、運動場は激流の如き光と闇に飲み込まれた。



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