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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第六章 新米士官
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歓迎、そしてパーティー

「「ようこそ! 憲兵第一課へーっ!!」」


 パーティークラッカーが鳴り響き、ドアのすぐ上に設置されたくす玉からは色とりどりの紙吹雪が舞い落ちる。

 奥にあったデスクは片付けられ、魔法によって文字通り広くなった空間には幾つもの料理が置かれていた。


「わぁっ!」


 カティが両手を口に当てて飛び跳ねながら全身で喜んでいる。

 対してラヴは人騒がせだと難しい顔をしていたものの、隣で身体を張って喜んでいるカティを見て毒気を抜かれて苦笑いをしていた。


「もう、脅かさないでくださいよ」

「ははは、ごめんね。律儀に待ってるって言うからさ。こっちもちょっと焦っちゃったんだよ」


 確かにサプライズがしたかったのに部屋に入らずどこかへ行かれてしまっては元も子もない。

 しかしそれならば最初から気配を消さずに返事をすれば良かったのではないか。


「これは組み分けも兼ねていてね」


 不在でも構わず入ってきた場合。

 部屋の前で待っていた場合。

 部屋を離れようとした場合。

 その反応によって配属される班が決定する。


「要は賭けられていたんですね」

「そういう訳だ。まあ何にせよ、ようこそ憲兵第一課へ。改めて、一課の長、ブルーノです。よろしくね」

「ラヴ、並びにカティです。階級は中尉。よろしくお願い致します」


 ピシッと背筋を伸ばして敬礼する。


 以前ノーマンから聞いたことがある。

 この敬礼ができていないと新卒だろうがお構いなしにキレ散らかしてくる上司もいるそうだ。

 そしてそういう上司に限って何故か連帯責任だとか言って被害を広げようとするらしい。


 それを聞いてから、ラヴは身体が覚え込むまで正しい敬礼の仕方を繰り返し練習した。


「こちらこそよろしく。それとパーティーを始める前に、もう一人紹介しておくよ。ダリオくん」

「ハッ!」


 ダリオと呼ばれた男。

 見た目はラヴたちよりも一回り年上なくらいだろうか。

 しかし如何せん目つきが悪く、まるでラヴたちを睨んでいるかのような形相だった。


「ダリオであります! 階級は軍曹であります!」

「彼は入隊十年で軍曹にまで上がった非常に優秀な隊員でね。今後君たちのサポートをすることになるから」


 新米将校の下には軍曹がつくことが多いというのは噂程度に知っていた。

 要はお目付役だ。

 最初から新米に全ての指揮を任せていては元も子もない。


 しかし新米とは言え将校は立派な幹部だ。

 故に下の階級の部下にさせるわけにもいかず、こうして補佐的な立ち位置につかせることで新米の暴走を止めようとしているのだろう。


「よろしく。ダリオさん」

「よろー」

「よろしくお願い致します!」


 敬礼を交す三人。

 そうして一通りの挨拶が終わると、ラヴたちが主役の歓迎パーティーが始まった。


「ラヴさん! カティ様! 一緒に働けて嬉しいわ!」

「ご活躍は常々伺っております!」

「パレードの時のお二人、とても素敵でした!」


 ブルーノから許可が下りると、ラヴたちに向かって賞賛の嵐が飛んできた。


「こちらこそ一緒に働けて嬉しいわ」

「活躍ってドーユー噂なの?」

「ありがとう。あれはメリッサとエリーゼさんの合作よ」


 しかしラヴたちは憲兵たちの包囲網を難なく捌ききって全て正確に回答していく。


 そこからはもはや質問大会だ。

 ラヴとカティの皿には次から次へと料理が盛られ、飽くなき尋問が続いていた。


「ところで私たちが担当する隊員さんたちに挨拶をしたいのだけど」


 いい加減聞かれるだけの億劫な会話は終わりにしたい。

 そう思ったラヴは一段落したところで話題を変える。


 幸いラヴたちが疲れ気味なことが伝わったのか、憲兵たちもそれに応じて素直に話す。


「あぁ、それならあちらですよ」


 目を向けた先には部屋の隅で数人が固まって壁の花となっている男女が数人。

 何とも居心地が悪そうな顔で配られたグラスを傾けちびちびと飲んでいた。


「あれだけなんですか?」

「まさか!」


 曰くこのパーティーに招待されたのは全員伍長以上の階級――つまり下士官以上の隊員らしく、それ未満の隊員は来ていないのだとか。


 ラヴたちが最初に率いる部隊は四〇名程度の小隊らしい。

 今日来ている下士官たちはその小隊の分隊長を勤める者たちで、いわばラヴの直属の部下になる者たちだ。


「ダリオさん」

「ハッ!」


 ラヴたちの側で控えていたダリオがラヴの言葉に傾注する。


「よろしければ彼らを紹介して頂けるかしら」

「畏まりましたッ! 総員前へッ!」


 壁際に屯していた下士官たちが隊列を組んで向かってくる。

 それまるで――というより正しく軍の行進だ。


「本官は――ッ!」

「いや、硬い。硬いって」


 隣で腹を抱えて爆笑するカティとあまりの軍隊っぷりに思わず動揺するラヴ。

 しかし当人たちはどうしてラヴたちに止められたのか分からない様子で、敬礼しながら固まっていた。


「フォーマルなパーティーじゃないんだし、もっとカジュアルにいこうよ」

「し、しかし……」

「酒の席なんだし、挨拶はこれくらいで良いのよ」


 男の手を握り握手を交す。


 この世界の住人は挨拶をやたら行動で示したがる。

 握手やハグ、敬礼などなど、何か身体を動かさないと気が済まない文化らしい。


 ラヴとしては挨拶なんて「おはよう」と「ばいばい」だけで十分じゃないかと思っているが、その考えはこの世界では異端のようだ。


 そうして矢継ぎ早に五人全員と挨拶をして顔と名前を記憶する。

 この五人がラヴとカティの直属の部下となる下士官で、その下には各七名の隊員がいる。


 総数四十名。

 それが、ラヴたちが最初に持つ部隊の規模だった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 五人の下に各八人がいたら総勢は四十五人になります。
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