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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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計測、そして魔法

 夜食を食べ終えたラヴたちは再び運動場へ戻り、次のテストに備えてだらだら駄弁っていた。


「そもそもクラスにどれだけ実戦向けのを扱える人がいるのかって話なわけよ」

「使い慣れてるのは身体強化の魔法かな」

「わたくしは防壁魔法を使えましてよ!」

「アタシは神聖魔法一通り使えるよ」

「……え、えっと、いろいろ……」

「ケイトは?」

「うーん。一応防御系もできるけど、実戦でできるレベルってなると隠密系かな」


 何だかんだ全員が使える当たりさすが一組と言ったところだ。

 唯一曖昧な回答でお茶を濁したローラだが、どうやら本当に様々な属性の魔法に精通しているらしく、それこそ回復魔法から霊体に対する即死魔法まで多種多彩な魔法を扱えるようだ。


 彼女が推薦された理由が良く分かる。

 ローラはこのグループの中でも最年少だ。それどころかきっと今代の候補生の中でもダントツ最年少だろう。


 魔法の才能。

 それこそがローラが選ばれた理由だった。


「おら、駄弁ってないでこっち来い」

「はーい」


 午後のテスト、夜食と来て、午前のテストが開始される。


 テストを受ける前に、ノーマンから簡単な説明が入る。

 とは言えあまり話すこともなく、まずは魔法が扱える者とそうでない者に分かれる。

 三〇人中、前者が一一人、後者が一九人らしい。一一人の内の五人がラヴのグループというのはかなりの低確率なのではないだろうか。


 そう思うと、何だか第一部隊のエリート集団のようで、我がことながら鼻が高い。


「よーし、んじゃあちょっと良いところ見せちゃおうかな」

「やり過ぎるなよ」

「分かってますって」


 指パッチンで指先の火を点滅させながら、クラスの前に出る。

 今回のテストは一人一人行なうらしく結果も付けられなければ成績の評価にも影響しないらしい。


 あくまで候補生がどの程度魔法を習得しているかの確認であり、これはむしろ教員のためのものであった。


「エクスチェンジ!」


 高らかに呪文を唱えて服を着替える。

 先ほどのコーデとは異なり、今度はリンドコリナで購入したあのドレスに身を包んだ。


「きゃーっ、ラヴっち、ちょーカワっ!」

「当然!」

「良いからさっさとやれ」

「隊長、これも魔法ですよ」


 美学の美の字も知らないノーマンに、呆れて一つ溜め息を零す。

 しかしこれ以上やるとガチギレ危険域に達すると知っているラヴは、茶化すのも大概にしてクラスの皆へと身体を向ける。


「フィジカルエンハンス! ファイアボール、アイスボール、スロー!」


 肉体強化と同時に火球、氷球を出して投げつける。


 ただ攻撃魔法を出すだけなら身体強化の魔法は必要ない。

 二つの球が着弾する前に、瞬時に向かいへ先回りして、両手で二つを取り込んだ。


 右手に着弾した火球は激しい火炎となり、左手に着弾した氷球は極限の冷気となって周囲の空気を凍らせた。


「ふっ――!」


 二つの力を合わせると、次の瞬間爆音とともに爆風が吹き荒れ、ラヴの身体は天高く打ち上げられていた。


 高く、高く、高く。

 どこまでも飛ばされると思えた上昇も、やがて星の引力により減速する。

 その頂点に差し掛かったところで、ラヴは次なる魅せ技を打ち出した。


「シャイニングアローレイン!」


 何千、何万もの光の矢が夜空を駆け巡り、流星の夜空が如き夜景が観客たちを包み込む。


「アーマエンチャント! フェザー!」


 やがてラヴの上昇が頂点に達する。


 魔法のポーチから日傘を取り出し強化の魔法を施した。

 その後全体に軽量化の魔法を加え、ラヴはゆっくりと落下していく。


 土埃一つ出さずにふわりと着地し、カーテシーを以てショーを締めくくる。


 クラス中から拍手の嵐が吹き荒れて、凄かった、綺麗だったとラヴを讃える声が湧き上がる。


「で、実戦に耐えうる魔法は?」

「身体強化くらいじゃないですかね。アローレインは敵陣のど真ん中で使えば効果あるでしょうが、味方諸とも攻撃してしまいますし」

「なら余計なものをくっつけるな」


 ノーマンに叱られながらも待機列に戻る。

 彼が何と言おうと民衆(クラスメート)はラヴに味方しているのだ。これは勝ったなと、何と勝負をしているわけでもないのに優越感に浸る。


「まったく……次、ローラ」

「ひゃ、ひゃい!」


 ガチガチに緊張しながら前に出る姿はさながら算数で使うコンパスのようだ。

 ぎっこぎっこと効果音を出さんばかりの動きで所定の位置に着き、指をモジモジと弄りながら俯いてしまう。


「ローラ! 頑張れーっ!」

「テンアゲテンアゲーっ!」


 グループの中でも特にテンションの高い二人が高らかに応援する。

 しかしそれが逆に注目を引いてしまい、ローラの緊張がさらに高まってしまうが、二人はまったく気付いていないようだ。


 いや、注目を集めるという点では気付いているかもしれないが、彼女ら二人は注目されることでやる気が上がるタイプ。

 ローラとは決定的に違う人種で、落ち込んでいるならもっと高めて上げようと善意による負の連鎖が続いてしまう。


「ローラ! 私みたいにドカンと流れ星降らしても良いんだよーっ!」

「えっ……う、うん! やってみる!」

「おおっ!」


 ラヴのアドバイスを元に魔法を構築する。


 そしてこの日、ラヴたち一組一同に思いもよらない悲劇が襲いかかった――



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