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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第五章 行軍・南方戦線
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進路、そして訓練

 頬杖を突きながら、ラヴは一枚の紙を指でなぞる。


「はぁ……」


 珍しくため息を付く彼女は紙の表にデカデカと書かれたタイトルを呟いた。


「進路希望調査、ねぇ」


 前世の記憶を思い出す。

 高校生の時は両親の薦めもあって大学進学しか考えていなかったが、今回は自分で考えて決めなければならない。


「むーん……」


 皆に聞いてみたところ、やはり軍という特殊な環境に入るだけあってか全員即答できる目標を持っていた。


 マリーは近衛師団に入隊予定らしい。

 今後はそこで数年間勤務し、故郷の竜都に戻って次期領主としての経験を積む。

 そしてゆくゆくは竜都を治める盟主となるという。


 ケイトは花形の一つである憲兵隊に志願するらしい。

 とは言え彼女が心願する憲兵隊の部隊は表向きこそ憲兵隊だが実際は諜報機関。

 部隊への入り口も今年は偶然憲兵隊だったが毎年毎年コロコロ変わっている面白い部署だ。


 ローラは卒業後軍を抜けて賢者エドウィンのいる西の大森林に帰るらしい。

 元々士官学校への入学は言われたから入っただけなのだとか。

 故郷に帰ったら以前の通り死ぬまで研究を続けるらしいが、入学前とは異なり今は魔法以外のたくさんのことに興味が湧いたのだとか。


 そしてカティはただ一言。


『ラヴの居るところがアタシの在るべき場所だよ』


 とだけ言って調査票もその通りに書いた。


 つまりは自身の進路がそのままカティの進路にもなると言うわけで、人生二つ分の責任を背負うことになるのだ。


「うーん、こうなったら最終手段」


 いつまで悩んでいてもきっと自分では決められない気がする。

 そんなわけでやってきたのが隊長――ノーマンが使用している客間だった。


「ノーマン先生はいらっしゃいますか?」

「第三訓練場で稽古を付けていらっしゃいます」

「あー、そういえば」


 客間の警備に一言お礼を言うと、ラヴはその場を立ち去った。


 現在教師陣は突然の出兵に対応すべく全候補生に補習を付けている。

 ノーマンはその内の戦闘実習を担当していると聞いていた。


 人伝に聞いたのはラヴたち第一部隊がその補習に参加していないからだ。

 最初は何か手伝える物がないかと模索していたのだが、教師陣から第一部隊が参加すると候補生たちが萎縮すると丁重に断られてしまった。

 これに関してはマリーやカティを筆頭にした数々の肩書きに持ちにも全く動じる様子のない一組の面々がおかしいのだ。


 しかし今回ばかりはお邪魔させて貰う。

 何せ明日が提出期限で二人分の人生がかかっている重要な書類なのだから。


 そんな言い訳を心の中で呟いて、ラヴは訓練場へと足を運んだ。


「隊長は……あー、ちょうどやってる」


 訓練場では爆風と土煙が立ち上り、その中心で大杖を持った候補生がバカスカと大魔法を連発していた。

 そんな雑な攻撃を難なく躱し、涼しい顔で対戦相手の欠点を分析するノーマン。

 手合わせにもなっていない、ただの魔法の発表だ。

 この程度であれば一組なら前期の座学の合間に自主練で習得している。


 ――これは早々に魔力切れ起こすでしょ。


 見たところノーマンの対峙相手はそれほど保有魔力も多くない。

 連発している魔法も使うごとに威力が落ちているし、集中力が保てていないのか精度も落ちている。


 ――保って十発かな。


 それから魔法を数えて、六発当たりで膝を突き、弱々しい七発目を撃ち出して、八発目は不発に終わる。

 そこで試合は終了し、大の字で倒れている男子候補生にダメ出しを始めるノーマン。


 やれ魔法のレパートリーが少ないだの、やれ魔法の精度が雑だの、細々とした注意を無遠慮に指摘していた。


「ん、なんだラヴ。来ていたのか」

「隊長、進路相談のアポを取りたいんですけど」

「……お前が進路相談?」


 何かとても失礼なことを考えられている気がするが、それを無視して聞き直す。


「ダメですか?」

「ふむ……分かった。だがまだ十三組ほど残っているが――」

「んー、じゃあ私も見学してますね」


 一瞬だけ迷惑そうな表情をするノーマンだったが、もちろんラヴはそれを見逃さなかった。

 どうして教師陣はそこまでして第一部隊と他候補生を引き離したがるのだろうか。

別にマリーやカティではないのだから一人くらいなら萎縮することもないだろう。


 その原因を探るためにも是非見学していきたいものだ。


「はあ……仕方がない。邪魔はするなよ」


 結局はノーマンが折れる形で許可が出て、ラヴは控え席に腰を下ろす。


「おい、あれって……」

「嘘だろ……第一部隊の……」


 先ほどまで雑談していた群集の視線は今や突如現れたラヴに集中していた。


 ――まったく、ちゃんと見学していなさいよ。


 きっと注意したらこう飛んでくる。

 自分とは違うポジションだから参考にならない。自分よりも劣っているから参考にならない。


 そう言うものに限って後衛の射線に入る前衛だったり、前衛を背中から撃つ後衛だったりするのだ。

 一組にも最初はそういう考えを持ったプライドだけが高い名家の子女がいたが、ラヴたち五人がその鼻をへし折った。


 ――今度は団体戦ね。……この後衛と組むなら足止めに徹するかな?


「あ、ラヴっちここに居た!」


 舞い上がる砂埃を魔法で弾きながらどう戦うかを考えていると、後ろから聞き慣れた声で呼びかけられた。



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