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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第二章 軍学校と吸血鬼・前期
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夜食、そして友だち

 全寮制と言うこともあって、候補生が使う食堂はかなり広く作られている。

 寮生は皆ここで食事を取り、同期とコミュニケーションを図ることで結束を強めていくのだとか。


「焼肉定食ください。ニンニクなし、ご飯なし、味噌汁なし、野菜なしで」

「定食って言葉の意味、ご存じですの?」


 メニューを決めて給仕に伝える。あとはトレイを持って待機をしていれば、順番に呼ばれる仕組みだ。


「焼肉定食、ニンニクなし、ご飯なし、味噌汁なし、野菜なしの方ー!」

「あ、私でーす」


 並んでいる候補生たちが一斉にラヴを凝視する。

 初日から料理に注文を付ける度胸もそうだが、あまりにも偏食が過ぎる注文に一同絶句を禁じ得ない。


「は、早く行きますわよ……」

「え、うん」


 一緒にいるマリーまでも注目を受ける始末。

 羞恥のあまり一刻でも早くその場から逃げ出したかったマリーは、ラヴを急かして食堂の奥へと進んでいく。


「んーっ、おいし」

「まったく、今日は厄日ですわ……」


 溜め息をつき、今日だけで起こった出来事を思い返す。

 マリーは将来軍を率いる身となる。それは竜として生まれたときから決まっていることで、抗えない運命。

 だからこそ、生半可な気持ちでは取り組まず、民を守るため、部下を守るため、そして国を守るために最善を尽くしたいと思った。

 その新年への第一歩が、この軍学校への入学、そして優秀者として認められることだ。


 だと言うのに、初日から悪目立ちするし、同じ候補生に強く当たってしまうし、変なクラスメートに目を付けられるし、先生にはドン引かれるし。


「そう言えば! 貴女、ノーマン先生と親しげに話していましたわよね? 一体どう言うご関係ですの?」

「あ、それボクも聞きたーい」


 突然声をかけられ、二人は声の方向へと振り向いた。

 隣のテーブルで食べていたのは同じクラスの女子。確か今日は最後列の一番窓側に座っていた子だ。


「確か名前は……ケイトさんだったかしら」

「さんはいらないよ。ね、ボクもマリーって呼んでいい?」

「えぇ、構いませんことよ、ケイト」


 ラヴたちは広く使っていたテーブルを片付け、ケイトの場所を確保した。

 トレイを持って移動したケイトはラヴの隣に移動して、よっこらせと年寄り臭いかけ声とともに着席する。


「んで、んで、どう言う関係なのさ!」

「どうって言われても、ただ一年ほどずっと一緒にいただけだよ?」

「どゆこと!?」


 予想外の回答に、二人はさらに食いついた。

 ケイトに至っては鼻息を荒くしてラヴに向かい、食い入るように覗き込む。


「別に深い意味は無い。先日までこいつは二つ上の夜行部第一部隊に従軍していただけだ」

「の、ノーマン先生!?」

「あら隊長」


 敬礼しようとするラヴを手で制し、片手でトレイを持ってテーブルへ運ぶ。

 どうやら教職員らも同じ食堂で食べるらしい。候補生によってはだいぶ肩身が狭くなるシステムだが、自称優良候補生のラヴたちは特に何とも思わない。


「もう打ち解けたのか」

「はい。二人とも友だちです」

「友だち……」


 何だかマリーがにやけているが、それを無視して話を進める。


「それで、何の話をしていたんだ?」

「私の経歴、と言うより隊長との関係ですね。リンドコリナで出会って、そこから第一部隊に従軍して、各地を回って、つい先日王都へ帰ってきたと」

「ね、ねぇ、第一部隊って、あの第一部隊なの?」


 どう言う意味と尋ねると、前でごにょごにょ呟いていたマリーが復活する。


 本科生の二年目は、五人ほどの班に分かれて一人の教官に付くことになる。

 そしてその教官を隊長とし、各地を回って傭兵のような仕事を熟し、一年経ったら王都に戻って卒業する。校長も説明していたカリキュラムだ。


 そして、部隊編成は実力によって選ばれる。

 部隊番号が先であればあるほど優秀な部隊とされ、より遠くまで行軍でき、番号が後であるほどあまり地方には行けないのだ。


 つまり第一部隊は全候補生のトップファイブが集まった集団というわけだった。


「へぇ、そうだったんですね」

「リアクション! もっと、こう、何かないんですの!?」

「だって、キースとラウラ、ギルベルトならまだしも、メルラとかバートとか見てると、ねぇ」

「気持ちは分かるがメルラは一昨年の最優秀者だったぞ」

「うっそでしょ……」


 あのメルラが最優秀者。

 にわかには信じられない言葉を聞き、ラヴは怪訝の眼差しを向ける。


 しかしそれをマリーが証明する。

 マリー曰く、メルラ先輩は学年どころか歴代の中でも一二を争うほどの天才だったらしい。尤も、彼女は教えられたことを自己流で噛み砕いて習得するタイプの天才だったため、教える才能は殆どなかったのだとか。


 しかしそれを補ってなお突出した才能は、王都で有名人になるほどであった。


「何せ新卒を採らないと言われていたあの国家戦略室に史上初めて新卒で、そして史上最年少で入ったのですからっ!」

「前から思ってたんですが、メルラに国の行く末決められてこの国大丈夫なんですか?」

「……言いたいことは分かるが」


 ラヴはむしろメルラの悪いところの方がよく知っている。

 自堕落で、最初は敵を甘く見て、可愛いものに目がなくて、すぐに抱きつき、一口酒を飲んだだけで酔っ払い、泣き上戸となって周りに迷惑をかけ、そして往々にしっぺ返しを食らう。


 しかし確かに良いところもある。

 彼女の扱えない魔法は殆ど見たことがないし、体術だけで大抵の盗賊を懲らしめていたし、隊のムードメーカーとしていつも笑顔で支えていた。


 そしてなにより食事中の鳴き声には甘美な魅力があった。


「……確かに凄いの、かも?」

「でしょ? でしょう? それにこちらのノーマン先生だって、今代最高の白兵使いと呼ばれる実力者なのですわ!」

「へえぇー」

「おい、その顔やめろ」


 ニヤニヤと笑うラヴに居心地を悪くするノーマン。

 努めて無視するようにガツガツと飯を口に入れ、その場の誰よりも早く席を立った。


「ったく、お前たちもちゃんと休んでおけよ。遊んでると明日の身体測定に支障を来すぞ」

「はーい」


 先生の姿が見えなくなったところで三人はお喋りを再開する。

 ノーマンにそんな異名があったなんて意外だった。てっきり命令を断れなかった中間管理職のおじさんくらいのポジションかと思っていたら、どうやらそこそこ偉いらしい。

 第一部隊が如何に特別かというのを聞いていれば、旅の道中色々と推測ができたのだが、誰も彼も学校のトップファイブだなんて一言も言わなかった。


 尤も、彼らの学校での実力のほどを聞かなかったのは他でもないラヴである。

 彼らの実力は隣で見ているからよく知っているし、彼女にとっては学校での彼らの評価なんて興味がなかったのだから。


「それでね――っと、もうこんな時間」


 興に乗ったお喋りは時間の感覚を狂わせる。

 いつの間にか夜食時間の終わりを告げるチャイムが鳴っており、本来ならばあと十分で次の授業が始まるのだが――。


「なんて、今日はもう授業ないんだよね」

「えぇ。午前からは自由行動ですわ」

「それなんだけど」


 ラヴが一つ提案をする。


「良ければ、日用雑貨の買い物に付き合ってくれない?」



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