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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第四章 行軍・北部戦線
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人喰い、そしてシェア

「さあ、さあ。ゲームの始まりだよ」


 その合図と共に、人間の兵士は死に物狂いで殺し合う。


 泣きながら。

 痛みに耐え。

 怒りをぶつけ。

 憎しみを込めて。


 仲間を殺したら自分だけは助かるかもしれない。

 他の村なんて知ったことか。飢えに苦しむ村人のためにすぐに帰って畑を耕さなければならないのだ。


「やっやめてくれ……殺さないでくれ!」

「うるせぇ! お前が、お前らが襲ってきたんだろうが!」


 血塗れの剣を持った男が足下に倒れている男から剣を引き抜く。

 既に倒れた男は絶命し、残る男も身体のいるところに傷がある。


「お袋が! 足がもう動かねえんだ! 俺が死んじまったらもう……!」

「俺だって、四人のガキんために生きなきゃならねえんだよ!!」


 どちらにも正義があり、どちらにも守るべき相手がいる。

 しかしこの世の悪を煮込んで凝縮させたかのような魔人は互いに殺し合えと言っている。

 互いに殺し合わなきゃ、どちらも死ねと言っている。


「死ね!」

「やめ――」


 これ以上男の話を聞くと、同情で剣を振るうことに迷いが生じてしまう。

 剣を持つ男は悲惨な顔を浮かべながら泣き付く男に剣を振るった。


 グサリと肉を切る感触が腕に伝わる。

 ボキリと骨を断つ感触が全身を走る。


 ただひたすらに、斬って、潰して、その男が息絶えた後も、潰して、潰して、潰して――


「死ね! 死ね! 死ねぇええええ!11」


 命が尽きても潰され続け、そしてもはや人としての原形すら留めていないナニカとなった男を見て、ようやく自分のやったことを理解する。


「あ……ああ……」


 剣を手放し男は肉塊を手で掬って人だったモノへと詰め込み始めた。


「ああぁァァア――!!」


 人を殺めた。

 それだけではない。


 見るも無惨な姿へ変え、もはや人とは呼べない姿のモノへと成り果ててなお、何度も何度もすり潰した。


 命令とは言え、やったのは自分だ。

 仕方がなかった。そんなふうに思えるならどれだけ良いだろう。


「…………」


 周りを視ると、同じく仲間を手にかけ唖然としている兵士が何人もいる。

 中には狂ったように――いや、実際、もう取り返しの付かないところまで狂っているのだろう――自分の拳がすり切れ赤白い骨が露出してもなお死体に馬乗りになって殴り続ける兵士の姿も。


 哀れだとは思えない。

 人を哀れむ余裕なんて、今の自分にはないのだから。


 男は罪悪感で自我が押し潰されそうになるも、唯一の希望に縋って歩き出す。


「……なあ」

「なあに?」

「これで、おれたちは、かえしてくれるん、だよな……?」

「約束は守るよ」


 でも――


 その言葉を聞くと、身体の芯から震え上がる恐怖が兵士たちを襲った。


「怖がらないで、貴方たちにはもう何もしないから」


 少女の皮を被った化け物は、にっこり笑って先ほどから硬直している三人の男を見る。


「この人たちをねー、処理したいんだけど、生憎好みじゃないの」


 最初は少女の意図が分からなかった。


 刃向かったから殺そうとしている。

 確かにそれくらいのことはするだろう。


 そうでなくとも魔人と人間だ。

 本来ならば敵同士なのに、生かしておく理由などどこにも無い。


 殺せというなら、きっと生き残ったメンバーは躊躇わずに殺すだろう。


 言うなら早く言え。

 殺せば良いんだろう。

 いくらでも殺してやる。

 だから早く帰らせてくれ。


 そんな、甘い考え(・・・・)をしていた自分がバカだった。


「あのね、これを皆に食べて欲しいんだ」

「……は?」


 そう言って指を指したのは見ての通り三人の男。


「食べ……る……?」

「そう。私人を食べるの好きなんだけど、あんまり周りに食べる人いなくてね。だから前々から美味しいって気持ちをシェアしたかったんだよ」


 恐ろしいことに、少女の顔には悪行を考えついているような悪い影は何一つない。


 そうして残された兵士たちはようやく理解する。

 この化け物にとっては、当たり前のことを言っているだけなのだ。


 人を食べるのは当たり前。

 それを美味しいというのも当たり前。

 嬉しい気持ちを共有したいと思うのも当たり前。


 悪意を持って言っているのではない。

 彼女は全て本心から、純粋に人肉の食事を薦めているのだ。


「あ、人の一番美味しい食べ方なんだけどね、オススメはやっぱり躍り食いかな。お腹の辺りをがぶってするか、二の腕辺りは柔らかくて食べやすいよ。感想聞いたら解放してあげるから」


 そう言ってラヴが再び腰をかけると周りの男たちが動き出す。

 体が操られているのか、嫌だ嫌だと言いながら服を脱ぎ、下着だけになって川の字で横たわった。


「お、お前ら……冗談だろ……? なあ!」

「や、やめろ! こっち来るな!!」

「おかしいだろ! クソッ! 何で動かねぇんだよ!!」


 一歩ずつ、また一歩ずつ近付いてくる兵士たち。


 これは人間ではない。

 これはきっと動物の肉だ。

 これは人間ではない。

 これは人間じゃない。


 人間じゃない。人間じゃない。

 近付く兵士たちはそう自分に言い聞かせ、ついには三匹(・・)を囲むようにして立ち並ぶ。


「やめてくれ……! たのむ……!」

「人間じゃない……人間じゃない……」

「お前らは、人間じゃないんだ……!」


 そうして男が一人、寝転ぶナニカに齧り付く。

 するとナニカからは耳障りな絶叫が聞こえ、他の二つのナニカも共鳴するかのように泣き出した。


 そうしてまた一人、齧り付く。


 腹に。

 肩に。

 腕に。

 指に。

 脚に。

 胸に。


 力一杯顎を使い、引きちぎるとそのままむしゃむしゃ咀嚼する。


 味は一切しない。

 強いて言うなら口全体が鉄臭い。


 そして自身の涙と鼻水が混じり合い、もはや味覚なんて死に絶えていた。


「どう? 美味しいでしょ?」

「おい、しい」

「……しい、です」


 それを聞くと化け物は満足げに頷いて――


「どんどん食べて良いからね。こんなに残ってるんだから」


 そう言って、辺りに散らばった肉片を見渡した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 食人種族が周りに居なかったからな〜 そりゃ自分の好きを共有できない環境は何かしらストレスよな よかったねー
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