仕事、そしてクリュ
その後は色々な意味で悲惨だった。
うるさいとラヴが乗り込み、思い切り腹を蹴飛ばされたセカンドはそれだけで噴水のように水が吹き出て身悶えた。
ファーストはラヴの右手を見た瞬間に服を脱ぎ捨て全裸になって腹を見せる。
そこへ彼女が右手で触れると床に黄色い水溜まりを作って失神してしまった。
そしてクリュ。
一体今の一瞬で何が起こったのかと混乱していると、ラヴが突然声をかけて一言。
「まったくもう。クリュ。お掃除お願いね」
「ひゃ、ひゃい!」
そうしてラヴは予定調整があるからと言って踵を返した。
一連の嵐が過ぎ去った部屋に一人ぽつんと佇むクリュ。
とにかく今は掃除をしなければ。
ボロボロの衣服を脱いで水溜まりに浸し、ゴシゴシと匂いがなくなるまで綺麗にする。
「はむ……んちゅ……」
掃除道具がない場合、それでも与えられた仕事をしないといけない。
セカンドの身体から未だ垂れ落ちる水滴は舌で掬って、その発生源まで綺麗に舐め取った。
できるだけ音を出さないように丁寧に優しく肌を伝って綺麗にするものの、次から次へと溢れ出る雫を舐め取っていてはぴちゃぴちゃと音が立ってしまうのは仕方が無かった。
「あぁっ、んっ、そこっ……もっとっ、ごしゅじんさまぁっ!」
気絶しているのに妖美な声を上げるセカンド。
「んっ……ふっ……あっ……んんっ……」
それとは対象に、言葉は少ないが舐め取る度に身体がビクビク震えるファースト。
その二つの反応はまったく違うがどちらも顔を赤らめ吐息はどちらも何かを期待してのものだった。
◆
「えー、ごほん。気を取り直して、次のお勉強です」
「はい!」
耳まで真っ赤にして膝を抱えて蹲ってしまったファーストはおいておいて、さっそく第二部のお話だ。
「とりあえず皆服を着ましょうか。後々ご主人様にお洋服を買って頂けるでしょうが、今はファーストの給仕服を着て下さい」
「こ、こんな良いもの借りていいの?」
クリュが先ほどまで着ていた衣服はスラムの廃墟から拾ったもの。
クリュの身を守る唯一の装備で、なおかつ彼女の掃除道具だ。
先ほどの粗相を掃除した時のようにあの服は雑巾として機能もする。
当然吐瀉物を処理したときは酷い臭いになるので仕事が終わったら川に出て洗濯をするのだが、その時全裸にならないといけないので暴漢には注意しないといけなかった。
そんな使い古されたクリュの服に比べてファーストたちが持っている服はまるでお姫様が着るドレスのようだった。
「おっと、上着を着る前に下着もしっかりと着けて下さいね」
「したぎ?」
「服と身体の間につける布のことです。第一部隊の皆様はいつもこういったものを着けているのです」
そう言って出したのは白生地に黒いレースが拵えられた綺麗なショーツだ。
「これを着けるのです?」
「いえ。こちらは大人用なので、貴女はこちらを履いて下さい」
真っ白のショーツと可愛いフリルが付いたブラトップ。
ファーストのために作られたものの食事にストラップが邪魔でお蔵入りとなったブラだ。
ほぼ未使用だし今後も使わないだろうと言うことでクリュに全てあげることになった。
「これだけじゃダメなのです?」
「はい。下着だけでお外へ行くと暴漢に犯されてしまいます」
「うへぇ……」
スラムの女の子はいつの日も暴漢と人攫いとの戦いだ。
暴漢に捕まればおまたにズンズン棒を突っ込まれてズンズンされてしまう。
何の意味があるのか分からないが、それは苦しく痛く、汚く怖い。
自分から誘うとお金をくれることもあるためズンズンをさせてお金を稼ぐ子もいるのだが、クリュは鳥獣種だからお金が貰えないらしく、仕方なく清掃業の日雇いで働いていた。
「襲われちゃうのにしたぎつけるんです?」
「下着の上に給仕服を着ます。そうすれば普段と変わりませんし、襲われても暴漢程度なら私たちが守れます」
「えっ、戦うの?」
今まで暴漢と出くわしたら逃げるしかなかった。
奴らはたいてい集団でいるし、一人の暴漢は強い。
勝てるかどうかも分からない敵と戦うくらいなら少し危険でも飛翔を使って逃げた方が安全なのだ。
「ふふ、私、戦闘力はファーストほどはありませんがイロイロできるんですよ?」
セカンドはラヴの力の一部を引き継いでいた。
魔眼や怪力のような強力な力こそないものの、影に潜む能力や動物に変化する能力、霧になる能力、幻覚を見せる能力などなどその多彩な能力は非常に便利なものばかり。
一部どうしてもラヴほど自在には使えないが、それでも人間だった頃とは比べものにならないほど強くなった。
「最後に、一番重要なのがお洗濯です」
「お洗濯なら得意だよ!」
「良いお返事です。でも慢心してはいけません」
ラヴが着る服はデザインはもちろん肌触りや外部から見えない部分までかなり拘っている。
概ねラヴとメリッサの趣味で作られた数々のドレスは生地も最高級のものから外見の関係上敢えて低品質の生地を使っているものもある。
ラヴの従者となるのならそれぞれの最適な洗濯方法を全て覚える必要があり、もしもサボったものならセカンドすら恐れるお仕置きが待っているのだという。
「とは言え覚えるまでは洗濯はせず、他のお仕事になれてきたら少しずつできるようになりましょう」
「はい!」
優しい先輩たちに囲まれて、クリュは一つ一つ新しい仕事を覚えていった。




