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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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天使、そして従属

 ラヴが倒れてからさらに一週間。

 少女は少しの期待を馳せてラヴの部屋に訪れた。


「ら、ラヴっち……」

「カティ、いらっしゃい」

「きゃっ……んんっ……」


 カティが来るや否や、気配を消して後ろから抱きつくラヴ。

 そのまま彼女の耳にかじり付き、舌で転がしながら甘噛みする。


「やっ……んっ……ダメだって、ラヴっち……っ」

ろうひて(どうして)? ひらい(きらい)?」

「あっ……きらいじゃ、ないっ……けどぉっ……」


 期待の眼差しと熱い吐息が送られる。

 すっかり潤んだ瞳で見つめられ、事情を察したラヴは部屋の鍵をロックした。


 ◆


 遡ること約一週間前。


 ラヴは倒れた翌日丸一日熟睡し、起きたのは翌々日の夜だった。

 モニカからはただの過労と診断されしっかり休息を取れば元気になると言われたものの、ラヴを心配した四人は付きっきりで看病していた。


 しかしそこで重大事件が起きた。

 なんとカティが早とちりして入院用のオムツを買ってきたのだ。


 曰くラヴが起きたときにお漏らししていたら気を落としてしまうかもしれないと考えたらしく、最初は完全な善意によるものだった。


 しかしラヴの衣服を開けさせていくうちに変な気持ちになっていったという。


「アルジサマ……きれい……」


 彼女にも当然理性はある。

 主人の裸体で欲情したとしても、そこから行動に移すことはない。


 ただ。

 ただ少し、魔が差しただけだった。


「んっ……アルジサマっ……すき……しゅき……っ」


 ラヴの部屋。

 ラヴの布団。

 ラヴの身体。


 ラヴの匂いが至る所に充満し、まるでラヴに抱かれているかのような体験が、カティの欲望を掻き立てる。


 ラヴに乱される姿を想像し、ラヴに支配される姿を想像し、ラヴに迫られる姿を想像し、ラヴに求められる姿を想像した。


「んっ……アルジっ……サマ……っ」


 触れるようなことはしていない。

 ただ、彼女を見つめ、彼女を嗅ぎ、彼女を感じる。


 触れるのは、自分自身だ。


「はぁっ……んぁっ……はぁっ……もっ……ちょっと……」


 あと少し。あと少しで火照った身体を鎮められる。

 そう思い、気を抜いた、その時だった。


「ん……」

「え……?」

「え、と……カティ?」


 ちょうどそのとき、ラヴが長い眠りから目覚めたのだ。


 固まる空気。

 青ざめるカティ。


「あ……えっ……これ……ちがっ……」


 見られた。知られた。軽蔑された。


「なっ……んでっ……!?」


 終わった。終わった。終わった。

 一番好きな人に、一番見られちゃいけないところを見られている。


 なのに、なのに――


「とまっ……んんっ……とまってぇっ……」

「カティ……?」


 唇が触れあうほどの至近距離。

 汗が上から下へ、カティからラヴへ流れ落ちる。


 名前を呼ばれる度に脳が蕩けて体の奥から快楽が溢れ出た。

 いけないことだと自覚するほど身体が痺れて腰が浮く。


「あっ……ふっ……ら、ラヴっち……」

「どうしたの?」

「なまえ……名前、呼んでっ」


 身体を預けて密着し、ラヴの耳元で囁きおねだりする。


「カティ?」

「ふっ……んっ……はんっ……んんーっ!」


 ラヴに全身を預けて脱力し、荒い呼吸で熱を吐く。


 最悪で最高。

 理性人としての破滅がこれほど気持ち良く、開放感があるなんて。

 ラヴから繋がりを通じて伝わってくる困惑が、恐怖が、軽蔑が、どれもが堪らなく気持ち良い。


 しとしとと垂れる涎を拭いもせずに、夢心地のまま意識を手放した。


 ◆


「弁明を聞こうか」

「申し開きもございません」


 痴態を晒し、あまつさえそのまま主人の上で寝てしまうという暴挙に出たカティ。

 当然彼女が起きる頃にはラヴにがっつり見られているわけで、今更取り繕ったところで結果は変わらない。


 同意も取っていない。

 完全に寝込みを襲う形になり、立派な犯罪だ。


「……立って?」

「え、でも……」

「カティ?」

「はっはいっ!」


 いつもより低い声で言われたせいか、飛び跳ねるように起き上がった。


 開けた衣服がするりと落ちてカティの裸体が露わになる。

 ショーツすら膝元までずり落ちて、既に下着の体を成していない。


「っ!」

「隠さない」

「は、はい……」


 自身の全てをさらけ出す。

 するとラヴはいつものように優しく微笑み――


「きゃっ……」

「動かないでね?」


 足でショーツを下げ、足の爪で端を切る。

 床に落ちた下着を拾いもせずに、ラヴはベッドから降り立ち耳元で囁いた。


「目、瞑って?」


 先ほどの意趣返しと言わんばかりの甘く、蕩けた言葉。

 熱い吐息が耳に届き、カティの脳を痺れさせた。


 ラヴの言葉に逆らえない。

 まるで心が書き換えられているような、心から服従を望んでいるような、そんな言葉。


 ――これが、守護天使の力なの……?


 支配されたい。屈伏させられたい。陵辱されたい。穢されたい。

 いけないと思えば思うほど、身体は火照りラヴを求める。


「よし、できた」

「ふぇ……?」


 耳元で囁かれたと思ったら、急にラヴの熱が遠ざかる。


「鏡、見てごらん」

「え……これ……」

「可愛いでしょ」


 全身鏡を見ると、そこには可愛らしい下着を着けた自分の姿。

 身に覚えのないブラとショーツだ。


 しかもストラップレスブラに紐パンティ。

 可愛いと言っても、それはいつもと違う大人の可愛さ。


「カティ。それ脱いでみて?」

「え、はい……? あれ? これ……あれ……?」


 紐に手をかけ強く引っ張るが、一向に緩む気配はない。

 それどころかどこを引っ張ってもびくともせず、蝶結びなのに位置すらずらせなかった。


 仕方がないので布地に手をかけようとするも、中々指が入らない。


「本当は奴隷たちにあげるつもりだったんだけどね」

「ら、ラヴっち……もしかして……」

「あはっ――気付いた?」


 その下着はラヴの魔力がないと脱げない仕組みになっている。

 元は絶対に開けない戦闘服と言うことで軍が開発した物らしいが、それがいつの間にか別の目的に転用されていたらしい。


「イケない子には、お仕置きしないとね?」

「っ……! は、はいっ……アルジサマっ」


 期待に満ちた眼差しで返事をするカティに、もう抵抗する意志は一欠片もなかった。



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