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魔王軍の吸血鬼  作者: 高麗俊
第三章 軍学校と吸血鬼・後期
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奴隷、そして苦痛

「んー、今日は趣向を変えてみようか」

「んんっ、がっあっ……!」


 ラヴが牙を突き立てそのまま血は吸わずに肉ごと抉る。


 快楽を期待して、快楽を身構えていたセカンドは予想外の痛みに悶え苦しむ。

 しかしラヴの口から肩を離せばお仕置きを食らってしまう。

 それにラヴの唾液には非常に強力な快楽成分が含まれている。彼女の口に傷口を当てれば、最初は痛くとも次第に極上の快楽に変わっていくのだ。


 縋るように身体を寄せてもっと食べてとせがむセカンド。

 その顔は苦痛と恐怖で歪んでいた。


「あはっ。そう、この味。やっぱりこっちの方が好きだなぁ」

「ごしゅじんさまっ! はやくっ! ご主人様のっ!」

「あはっ……ごめんね、セカンド。今日はずっと痛い日よ」


 ラヴが魔法を唱えると、強烈な痛みが全身を貫き脳まで響く。

 強制的に身体が修復される感覚。


 欠損した場所が組成される際、一瞬とは言え新しく構築された神経がむき出しの状態で晒されるのだ。

 その痛みは想像を絶し、取り繕う余裕もなく彼女は泣き叫びながら懇願する。


「いだい! やめで! ギズ! ギズじでよぉっ!」

「あはっ。そんなに欲しいの?」

「ほじい! ほじいほしいぼじいぼしいほしい!」


 懇願している間も身体はどんどんすり減っていく。

 囓られ、治され、食べられ、直され。


「んっんむ……ふぉら(ほら)ほほひ(ここに)はふはん(たくさん)はうお(あるよ)

「そっ、それぇ! くださいっ! くださいっ!」


 無様に全裸で土下座をし、矜持も気品もなく懇願する。

 至る所に噛み痕があり、傷口からは血が流れ出る。


 身体は自身の血で真っ赤に染まり、それがラヴの食欲をさらに刺激した。


「そう。……はい」


 ベッドに腰掛けるラヴが足を差し出す。

 言うまでもない。足が差し出されたらやることは一つだ。


「はむっ……ちゅっ……ちゅるっ……あむっ……」

「そこから舌を離さずココまで来れたら、ご褒美あげる。手が触れたらお仕置きね」

「ひゃ、ひゃいっ……んれろぉっ……」


 足の指から舌を這わせ、足の甲、臑、膝、太ももと上へ上へと登っていく。


「ひ、ひうへーひはふ(しつれいします)


 ラヴのバスタオルに手をかけて、細心の注意を払って衣を剥がす。

 屈辱的な行為を強制される被虐心、主人の着物を脱がす背徳感、ムダ毛一つない絹のような肌、眼前にある主人の秘部。それら全てに興奮するセカンド。

 意識していないのに口から涎が溢れ出て、それが潤滑油となり舌の滑りを助長させた。


「はぁっ……はぁっ……んあっ……」

「ほら、あとちょっと、あとちょっと。がんばれがんばれ」


 足の付け根から下腹を滑り、へそからまっすぐ上へと舌を這わす。


「あ……」


 しかしそこでピタリと舌が止まる。

 眼前の膨らみから目が離せない。


 ――な、舐めたい……!


 同性すらも、いや、同性だからこそ羨む完璧なプロポーション。

 その神髄とも言える美しい胸が目の前にある。


 舐めたい。触りたい。揉んで確かめたい。

 その思いはセカンドの視線を釘付けにし、見れば見るほど思いは強くなっていった。


「はぁっ……はぁっ……」


 だんだん舌が麻痺してくる。

 それでも必死に肌に付けられているのは、少しでもこの幸せな時間を長く続けたかったからだ。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 触りたい。触りたい。触りたい。


「んっ……」

「え……?」


 本当に無意識だった。

 意識外からの攻撃というのはこういうことを言うのだろう。

 今まで何をしても微笑みを崩さなかった主人が、くすぐったさを堪えるようにほんの一瞬喘いだのだ。


 セカンドは言いつけも忘れて顔を上げ、ラヴの顔を直視する。


「あっ……」

「……お仕置きね?」


 その瞳は生物を見ていない。

 道ばたに落ちている犬の糞を見つけたときのような目だ。


「ごおっ!?」


 メキメキと腹の奥で嫌な音が響く。

 反射的に視線を落とすと、ラヴが密着した状態で拳を下腹にめり込ませていた。


 その後遅れて衝撃が伝わり、部屋の壁まで吹っ飛ばされる。


「ごじゅじっ……ゆるひ……がっ!?」


 頭を踏まれ、腹を蹴られ、髪を持って持ち上げられる。


 吹っ飛ばされた勢いで鼻が折れたのか、鼻血が今でもボトボト垂れて奴隷の寝室を赤く汚した。


「もうしっ、ごっ……ごじゃいっあがっ……」

「聞こえないー!」

「申し訳ございません! ごおっ……も、申し訳ございません!」


 床に額を擦り付け、恥も外聞もなく屈伏するセカンド。


「セカンド。貴女はなに? 私にとっての何なの?」

「わ、わたくしめは奴隷でございます! ご主人様の道具でございます!」


 淀みなく答えるセカンドだが、その顔にはいつもの余裕は感じられない。

 それが余計に惨めさを引き立てて、必死に考えて切羽詰まって答えを出す彼女をラヴは愛しいと思った。


「そうだよね。それなのに、さっきのはなに?」

「お、おそれ多くも、がはっ!?」


 少しでも言い淀んだら頭を踏みつけ黙らせる。

 それでも彼女は弁明し続ける。そうしないと命がないから。


「畏れ多くもご主人様の胸をまさぐろうとしました!」

「それだけじゃないでしょ?」

「ひっ……おごっ!? も、申し訳ございません! ご主人様を犯す妄想をしました! ご主人様が私の指で乱れる姿を妄想しましたぁっ!」


 もう自分でも何を言っているのか分からなかった。

 しかし言葉を紡ぐごとに自分の性癖が露出する状況にセカンドは形容し難い快感を覚える。


 ――もっと、もっと私を見てください! もっと私を知ってください!


「きも……」

「あんっ……」


 生命が脅かされているからだろうか。

 ラヴの唾液がなくとも全身が痺れるほどの快楽が押し寄せて、世界がパチパチと瞬いた。


「こっこれっ……らめっ……くしぇに、なっちゃ――」

「……あら?」


 沈みゆく意識の中、セカンドは己が新たな扉を開いたことをはっきりと感じ取っていた。



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