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箱庭の生態系  作者: 彼岸花
ウサギシジミ

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3/23

ウサギシジミ1

 最初に観察する生物が生息しているのは、鬱蒼と植物が茂る区画だ。

 この区画は平坦な作りをしていて、丘のような地形は全くない。地面を形作るのはふかふかとした腐植土。土は湿り気を帯び、それなりに大きな生物が歩けばうっすらと足跡が残るだろう。

 そんな大地のあちこちに生えているのは巨大な草本性植物。地面から直接生えている葉は長さ四メートル幅〇・五メートルほどもあり、柄は見られない。茎は見られず、葉だけが茂っている状態だ。葉の裏側には小さいながらも鋭い棘が数本生えていて、外敵への防御力の高さを物語る。葉自体も非常に分厚くて頑丈な作りとなっていた。表裏拘らず刻まれた無数の傷跡が、様々な捕食者の攻撃を耐え抜いてきた事を教えてくれる。

 展開された巨大な葉は区画の天井から降り注ぐライトの光を受け止め、地上部分を薄暗くしている。更に葉裏から大量の水分を吐き出し、じっとりとした湿気も作り出していた。暗く、じめじめとした環境……少々大袈裟な言い方をすれば、この植物がこの区画の環境を作り出している。

 そんな重要な存在である植物の葉を、容赦なく貪り食うモノがいた。


「バリ。ボリ、ボリボリ。バリ、ボリ」


 『彼女』は大きな顎を開け、その植物の上に乗りながら葉を食べている。

 体長は約三十センチ。ちょっと大きめな動物、ヒトに身近な生物で例えばウサギぐらいのサイズだ。しかしその身体の表面を覆うのはウサギのような体毛ではなく、クチクラを含んだ頑丈な表皮。とはいえ頑強な甲殻という訳ではなく、触ればぷよぷよと柔らかな弾力が返されるだろう。身体の横幅は最も広い部分で十センチほどと、かなりずんぐりとした体躯だ。

 身体の先には、幅五センチほどの『頭』がある。頭は身体と違い、甲殻質で出来ていた。頭部にある目は動物的な眼球ではなく、レンズ状の単眼。これが左右に六つずつ合計十二個付いている。口は左右に開く大顎と小顎を持ち、これで植物の葉をバリバリと噛み砕く。

 身体の前方部分には六本の脚が生えている。脚は身体と違い甲殻質で出来ており、また先は尖った一本の爪状をしているが、何かに突き刺すほど頑丈でもない。精々六本の脚で、葉を掴むのが限度だ。身体の真ん中から後方に掛けて肉質の脚が五対存在し、こちらは大地こと葉をしっかりと踏み締めている。

 その外観を一言でいうならば、『丸々太ったイモムシ』だ。しかしながらヒトが暮らす地球に、これほど巨大なイモムシはいない。キューブを建設した人類ならば『製造』する事は可能だったが、わざわざこのような生物を作り出し、人類の新天地を探すという重大な使命を帯びた船に乗せる理由もない。

 ならば何故、こんな奇怪な生物がキューブ内にいるのか?

 それは彼女達が此処キューブの中で進化した生物だから。かつての祖先から大きくその形態を変化させ、キューブ内の環境に適応した結果だ。全ては、自分達が生き残り、次の世代を未来へと繋ぐために。

 ヒトにとって身近で、都合の良かった生物。ヒトの手を離れ、野生を取り戻した彼等の生き様を見てみるとしよう。






 真核生物ドメイン


 節足動物門


 昆虫綱


 鱗翅目


 ウサギシジミ科


 ウサギシジミ属


 ウサギシジミ

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