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100年前の世界について 2021/08/16

作者: 石田 初羽

 このエッセイはこちらのツイートを引用してツイートしたツイートを手直ししてお届けします。こんな感じで気軽に短い文章を投稿できたら楽しいかなと思って。


https://twitter.com/marxindo/status/1426888129231790087


 昔の白黒映像が怖い。気持ちは分からなくもない。

 最近自分が生まれた頃のことが気になってて、その流れでyoutubeで『BSマンガ夜話』をずっと見てる。私が生まれた1996/08/23は高橋留美子『めぞん一刻』特集の再放送日だった。この頃の人々はインテリアもファッションも目に染みるようなビビッドなものを好んでいたようで、視聴者からのお便りをバカでかいFAXで受け付けている。スタジオの人達が話している後ろでFAXが番組の間中ひっきりなしにピーガーピーガー唸り続けているのを微笑ましいと思った。

 そんなふうに懐かしさからではなく目新しいもの見たさに眺めていると、時折当時の世相が分かる会話が出てくる。この頃の人々はバブルが弾けた後のショックが未だ深く、失業率の増加と若年世代の就職難を懸念していたらしい。だがまさか25年経っても尚状況はさして変わらないままだとは思っていまい……などと考えながら見ていると。

 あれは確か岡崎京子『Pink』回だったと思う。司会の大月隆寛さんが突然熱っぽく語り始めた。


 今の我々はこの漫画のさりげない日常描写を見て「これは〇〇だ」と理解できるけれど、あまりにも当たり前過ぎて敢えて説明したりましてやどこかに書き残したりはしない。だがこの漫画を10年後20年後に誰かが手に取ったとして、読者は果たしてそこに気づけるのだろうか?我々と同じように?


 こんな内容だったと思う。こういう問題に深い危機感を抱いているのは、大月さんに民俗学者としての一面があるからだろうと思う。周りの出演者たちはいまいちぴんと来ていない様子で賛同する人もいないままその場は別の話題に流れていった。しかし、それまで司会としての役回りに徹していた大月さんが会話の流れを断ち切ってまで熱っぽく問いを投げかけた意味が、25年後の未来でその番組を見た私には分かる気がした。断絶。

 これがまだ25年程度だからこのくらいのショックで済んでいる。芸能人に疎いので出演者はほとんど分からないが、それでもこの頃の古田新太さんは髪がフサフサでサングラスを掛けててトガりまくってたんだなあ、くらいのことは思う。多分出演者の中に今現在既に亡くなっているという方はいないと思う。だが更に25年経ったらどうだろう。

 私が生まれた1996年の101年前、1895年のパリで世界初の映画が撮影された。『工場の出口』だ。まだまだ映像撮影の技術は一般には普及していない。

 だが2020年の100年前となると1920年になる。世界中がきな臭い雰囲気に包まれる中で映像技術は発展を遂げ、娯楽、コマーシャル、戦意高揚などの目的で広く使われるようになった。


 ……話が脱線してきたので要するに何が言いたいかと言うと。


 私が小学生の頃、お年寄りの方は戦時中の話をしていた。それは学校の授業でもそうだったし、NHKの番組でもそうだ。だが今現在80歳前後の方がする話は戦後の苦しい状況から華々しく復活していく過程だったりする。この前NHKで見たのは、誰だったか覚えていないのだが戦後の歌謡曲ブームで名を挙げたか何かした人のドキュメンタリーだった。よぼよぼのお爺さんが生の体験として語る話題が私が子供の頃とはがらりと変わっていたことに衝撃を受けた。いや、当たり前のことなんだけれども普段そんなことを何も考えていないからそれだけショックだったという話。多分、自分が生き続けている以上こういうショックの受け方をこれから先も何度も経験するんだろうな。

 それはそれとして、もうひとつ言いたかったのが80歳90歳の人が昔を語る時に、最初から映像が出てくるということ。20年前の90歳が語る時はわずかな白黒写真を頼りに聞き手に状況を想像させながら語っていたはずなんだ……。

 この辺りでようやく引用したツイートに戻るけれども、白黒の映像が「怖い」から「見ない」ということの危うさを、ここまで読んでくれた方になら少し共有できたと思う。目まぐるしく変化し続ける時代を生きる私たちにとって100年前は立派に歴史時代だ。そして、当時の映像が残っていることの何と恵まれているか、ということになるべく多くの人に気づいてほしい……。そこに蓋をしてしまうと、ほんといろんなことが蔑ろになっていくと思う、まじで。

 死人に口なしというがあれは嘘だ。過去は私たちに絶えず内省を促し続ける。死者は雄弁に語る。

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