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ローン・ウルフ  作者: ナハラ
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「それで、どうするのだ?ウルフ。」


プロースが前に出てきてそう言った。まるでその他に問題があるみたいな言い方だ。ウルフは尻尾を立て、思い出したように淡々と言う。


「ああ、次に誰が長になるかだったな。どうする?」


ウルフはふと背中で寝ている沙姫に振り向き、少し呆れた表情をする。ウルフの言葉にプロースが目を丸くした。


「どうするとは…長老から何も聞いてないのか!?」


「ああ、俺が行った時は既に死んでいた。」


ウルフはさらりと言うが、一族はざわめいた。ロウルサーブは一族の長が死んだ時、長が次なるリーダーを選ぶものだが、今回、長老が何も言わずに死んでしまっている。こんなことは異例だった。どうすればよいかわからず、戸惑う一族。ウルフはとりあえず鼻面で沙姫をつつき起こした。


「……ん?」


「沙姫、次の長はどうすればいい?」


ウルフの選択に、一族が凍り付く。


「ウルフ、ロウルサーブを治める長を、まさか一族でも何でもない人間の小娘に選ばせようというのか!?」


「ああ、少なくとも俺達よりは知恵があるからな。かなり悔しいことだが……使えるものは全て使おう。」


ウルフのセリフで、皆が安心する。一部の者はまだウルフを、沙姫を疑っていたが。沙姫はウルフから話を聞くと、目をぱちくりして言った。


「え…跡継ぎで喧嘩しないのが不思議。次の長?長って…リーダーだよね。それなら、年輩のロウルサーブか、リーダーシップがあって一族から一目置かれてるロウルサーブがうってつけだよ。」


あまりにも簡単そうに言ってしまうので、一瞬、ウルフもプロースも皆、言葉を失った。間が置かれ、もう一回思い出したようにいう沙姫。


「後、一族に忠誠を誓ってる者でないとダメかもね。」


沙姫がそこまで言うと、ウルフは一族を見回す…ふと目に入ったのは一匹の鋭い目つきをしたロウルサーブだった。沙姫はウルフの目線を追い、ウルフより少し薄い毛の色をした者を見る。そのロウルサーブは沙姫とウルフの目線に気づき、前に進みでた。


「なんだいウルフ?アタイがどうしたってのかい!」


「え…メス!?」


沙姫はその声を聞いて驚愕。今までオスの声しか聞いてこなかったから、メスの声が新鮮に聞こえるのだ。ウルフから聞くと、名前はキインだという。キインに皆の目が注目すると、キインはウルフを見た。


「…年輩で、リーダーシップがある。キイン、お前は確か長老と年が近かっ…」


そこまで言った時、キインの前足がウルフの脳天に勢いよく降ろされた。ウルフは頭の激痛に地面に伏せ、前足で頭を押さえる。キインはふんと鼻をならすと、軽蔑のまなざしでウルフを見た。


「全く…レディーに年をきくもんじゃないよ!」


「…悪い、キイン…しかし本当に年は近…」


「おだまり。」


キインがぴしゃりと言い、ウルフを黙らせる。ウルフは恐怖に耳をぴたりと寝かせた。そこで沙姫がとどめの一言。


「まるでウルフが謝る私に見えた。」


「暫くはそっとしておいてくれ…今なら風の音でも飛び上がりそうだ。」


「しかしウルフ。お前がキインに対してヘマをやらかすとは珍しいな。」


次の長がキインに決まった夜、プロースがねぐらの外で月を眺めているウルフに話しかけた。ウルフは適当な返事をすると、静かな風の匂いを鼻で吸い込む。


「あの小娘は?目を離してると喰われるぞ。」


「沙姫なら平気だ。キインに預けてある。喰うなとも言っておいた…それよりプロース、俺に協力してくれんか?」


ウルフはプロースの瞳を見つめ、プロースはウルフの瞳を見据える。やがて、頷いた。


「分かった。久々の汚れ仕事だな?」


「ああ、沙姫はおいていく。今から、ロークアーシャの巣へ行く。」


プロースは返事のかわりに尻尾を揺らす。二匹は立ち上がった。


「「いざ!」」


二匹は、自分達の基地から、ロークアーシャの巣に向かって大地を駆け出す。空に浮かび上がる淡い青色の月は、静かに二匹を照らしていた。

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