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ローン・ウルフ  作者: ナハラ
3/9

3

空から基地が見えてくると、ウルフは大きく、低い声で遠吠えをした。その声に皆、顔をあげる。その時ロウルサーブの尻尾がピクリと動いたのに、沙姫はいち早く気づいた。ウルフから離れまいと必死にしがみつく……あの尻尾の動きが沙姫を獲物として見ていることを知ってるからだった。


「ウルフ、私ってそんなに美味しそうなの?」


ウルフが地面に足をつけると沙姫はおそるおそる尋ねる。その質問にウルフはすぐに答えた。


「ああ…教えてやろう哀れな沙姫よ。俺達ロウルサーブだけでなく、どの魔物も人間を好む。それは食料として最高だ。しかし、どの人間も好きというわけではない。生まれたてはまだ肉付きが浅く、食べる部分が少ない。ま、小食なら別だがな?逆にしわが増えた年寄りは肉付きがぐにゃぐにゃで悪く、味も渋い。だがデブは肉が沢山あり、こってりとしていてなおかつ甘い!俺は好きだ。しかし、やせ型は好きじゃないな。生まれたてよりもまずく、食べられる肉が少ない。長老はつまみに丁度いいと言っていたがな。」


おつまみ!それを聞いた沙姫はくらっとなった。私達人間をおつまみ扱い…。


「そして何よりも栄養のバランスがよく、味も程よいことで人気があるのが…沙姫、お前のような小娘や小僧なのだ。」


(ウルフって…グルメ?いや、ロウルサーブ全員がそうなのかも……。)


ウルフは一通り話し終えると、どうだとでもいうように胸を張った。沙姫は自分が人気のある味なんだと、少しショックをうけたようだ。そうしている内に沙姫の匂いにつられたのか、ウルフの周りに空腹なロウルサーブが集まってきて涎を垂らし、ウルフに問う。


「ウルフ、そんな御馳走を持っておでましとはいいものだな。まだ若い娘ではないか……よこせ!」


一匹のロウルサーブがウルフの背中にいる沙姫に近づく。それに続いて数匹が沙姫を囲むように近づく…しかし、ウルフは落ちつきはらっていた。


「沙姫。」


「うん。分かってるよウルフ、長老みたいだよね。」


沙姫は七面鳥をそれぞれの方向に投げた。七面鳥の魅惑とも言える香ばしい香りに魅入られ、ロウルサーブはそれを追い、試しに少しだけ口に含む……瞬間、驚きと歓喜の声が基地に轟いた。七面鳥の魅力を知ったらもう止められない。むさぼり食うロウルサーブを見てウルフはため息をついた。


「全く…犬のように情けない奴等だ。」


「てい。」


「ワォーン!」


沙姫はウルフから降りて七面鳥を投げた。すかさずウルフは獲物を追う…ウルフも人(魔物)のことは言えなかった。


「長老!」


「……………。」


七面鳥を食べ終えたウルフは、再び沙姫を乗せて長老のいるテントへと足を踏み入れた。長老は低い位置で固定されてあるハンモックに横たわっていたまま答えない。


「長老!」


「……………。」


ウルフはもう一度呼びかけたが、返答なし。ウルフは尻尾を足の間に入れ、耳をねかせた。沙姫はウルフが何かに恐怖を抱いていることに気づき、声をかける。


「どうしたのさ…?」


「もしや……長老ッ!長老ーっ!!」


ウルフは長老に近づき、鼻面で長老の体をつついて揺する。そうなって初めて沙姫は不安になった。


「う、ウルフ?まさか…嘘だよね?匂いは?」


沙姫がそう言うと、ウルフは丹念に匂いを嗅ぐ…そこでウルフの表情が固まった。耳も尻尾もすべて動きが止まる。


「ウオォオオォォォッ!!」


そして、ウルフは雄叫びをあげた。恐れていた恐怖が目の前にあること、頼れるリーダーを失ったことの悲しみとこの事を仲間に伝えるために、ウルフは大地をも揺らす雄叫びをあげた。沙姫は長老の死を確信し、どうしたらよいか分からずにただただウルフを撫でていた。


「長老が死んだだと!?」


基地中がざわめいた。予期せぬ突然の死に、皆が動揺する。ウルフは群集をギッと睨んで黙らせた。


「……本当は長老に言うつもりだったが、この際皆に言おう。俺達の石を盗んだのは……ロークアーシャだ!」


「ロークアーシャ!?よりによって奴等が…。」


ウルフの発言を聞くと、周りから驚愕と憎しみの声があがる。ウルフはそこで皆に頭の中を整理する時間を与えるために、しばし黙って皆を見下ろしていた。

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