『オキと東(ひがし)の塔(とう)の魔女(まじょ)』 「ケーネの水面(みなも)に揺(ゆ)れる地図(ちず) 2」
これは、少年ユタとお友達になった、若者オキのお話です。
オキは、大きな街で、小さな金物屋を営んでいました。見目麗しい青年で、しかも口が達者なものですから、年がら年中、いつも女の人たちから、その恋心を告げられていました。
けれど、オキはすげない態度。オキは、自分でも数え切れないくらい、たくさんの女の人たちを悲しませてきました。
オキは、常々こんなことを、商売人仲間たちの間で言っていました。
「俺は貧乏人のせがれだ。だから神様は、俺に美しさ、強くて立派な体という財産を与えて下さったんだ。この一番の武器を、よくよく考えて上手に使わなくちゃ、俺の人生、最後までひもじいままさ」
こんなだから、オキには本当の友人と呼べる者が一人もいませんでした。
そのオキの容姿の噂を聞きつけたのが、東の塔に住む、これまた比べる程のない美貌をかねそなえた若い魔女。
彼女は、オキの姿を千里眼の魔法で高い塔のてっぺんから盗み見、いっぺんに心を奪われてしまいました。
若い魔女は、呪文を唱えました。
「ムゲルマ、エンゲ、ナマホミス。ヨッタ、アバタマ、スメトラヨ」
この言葉は、遠くにある自分の欲しいものを、この場所に即座に呼び寄せるための呪文です。
オキは、自分の住んでいる街中から、魔女の住む東の塔のてっぺんにある部屋に、いっぺんに運ばれてきてしまいました。オキは目をぱちくり。さっきまで自分が街の真ん中にいたと思ったら、次の瞬間には女の人の部屋にいたからです。
東の塔の魔女は言いました。
「私の名前はロヨラ。オキとやら、私を見てどう思う」
オキは、この若い魔女を見ました。年の頃は自分と同じくらいでしょうか。深い紫と漆黒のビロードを身にまとい、純白の真珠が控えめにあしらわれたカチューシャは、魔女の黒髪にとても似合っていて輝かんばかりでした。
オキはドギマギしました。これまでこんなに美しい女の人を見たことがなかったからです。
オキは、自分の心臓の音が、ロヨラに聞こえてしまわないだろうかと狼狽えながら、つい、こんな風に言ってしましました。
「なんだ、お前も私に惚れたのか。無理も無い。俺は今まで、会う女、会う女、みんなから想いを寄せられてきた。お前が私と付き合いたいというのなら、お前が私に金を払わなければならないな」
魔女は、自分が侮辱された恥ずかしさに、一度に顔を真っ赤にして、とっさにテーブルに置いていた魔法の小枝を手に取ると、オキにむかって振りかざしました。
「乙女の純情を弄ぶ傲慢な男め。お前など狼になってしまえばいい。イタデ、マタド、ウニシスモ!」
そして、大粒の涙をこぼしながら、ロヨラはどこかへ行ってしまいました。
ロヨラの部屋に残されたのは、魔法で人の言葉を話す狼に変えられたオキばかり。毛むくじゃらの体に、ぴんと立った耳、良く効く鼻、地面に着いた四本の足、そして尻尾。
狼になったオキは、トボトボと一匹で、高い塔のてっぺんから、螺旋階段を使って、少しずつ下へ降りていきました。
塔を半分も降りた頃でしょうか、オキは急にお腹がすいてきました。そして気付いたのです。自分が、動物の生のお肉しか食べられない、獣になってしまったことに。
オキは怖くなりました。今までも、干したお肉や、焼いたお肉なら食べたことがあります。けれど、生のお肉は一度も食べたことがありません。果たして、そんなものを食べて、お腹を壊さないでしょうか。
そんなことを考えながらたどり着いたのは、ロヨラの塔の厨房でした。椅子の上に飛び乗ってみると、テーブルの真ん中に、見たこともない形のお肉が置いてあります。それは木の枝に、いくつも紫色のまん丸なものが付いていて、その皮の中身が、全部、生のお肉のようなのです。
そのお肉は、とても甘い、いい香りがします。これなら、オキも食べられそうです。
オキがその紫色のお肉の中身を食べ始めると、部屋の上からバサバサバサと羽の音がしました。
見上げてみると、一羽のオウムが、天井から吊されたカゴに入れられてこちらを見ています。
「盗人! 盗人!」
オキは、塔の主人に断りも無く、そのお肉を食べたことを恥ずかしく思いました。
「ご、ごめんよ。でも、ここのご主人はどこかへ行ってしまったし、俺は狼の姿に変わってしまったから、この紫色の肉を勝手に食べてしまったことを、書き置きすることもできないんだ」
オウムは、オキの言った言葉を繰り返します。
「できない! できない!」
オキは思いつきました。
「そうだ。伝言を頼まれてくれないか。お前は、人の言葉を伝えるのが仕事だろう? 私の気持ちをロヨラに伝えて欲しいんだ。できるかい?」
オウムは答えました。
「できる! できる!」
オキは、オウムに向かって言いました。
「ロヨラ、ごめんなさい、オキ。ロヨラ、ごめんなさい、オキ」
オウムは、その言葉を繰り返します。
「ロヨラ、ごめんなさい、オキ。ロヨラ、ごめんなさい、オキ」
この塔の全体には、ロヨラの魔法が効いていたので、オウムはそこだけ、オキの声で話すことができるようになりました。
オキは、塔を出て、人間の姿に戻るための旅を始めました。けれど、その途中、なかなか食べ物にありつくことができません。
狼になってしまったオキは、生のお肉しか食べることができないからです。
まれに、木の枝から落ちている、甘い香りのするお肉にありつくことができました。赤くて薄い皮に包まれたお肉や、だいだい色の分厚い皮に包まれた、今まで食べたことのないお肉です。
それらは、とても柔らかくて、懐かしいような味がしました。
ある日オキは、荒れ野で、ユタという少年に出会いました。
オキは言いました。「俺はお前を食っちまうかもしれないぞ」。
オキは、本当はちっともユタを食べるつもりはなかったのですが(全然おいしくなさそうだったからです)、久しぶりに会えた人間を、少しからかってみたくなったのでした。
狼の姿のオキは、その後、ユタと再会し、ある出来事があったおかげで、再び人間の姿に戻ることができました。
オキは喜びました。自分が、人間の顔と体を取り戻せたからです。
少年ユタと共に、北国の町、エゾナを訪れたオキは、ケーネという女の子の家に一晩泊めてもらいました。でも本当は、早くこの町で特別な仕事をしているという女の人たちに、チヤホヤされてみたくてしようがなかったのです。
けれど、次の朝、一人で町の通りへ繰り出してみて、オキはガッカリしました。自分の顔や体の美しさが、エゾナの町に住んでいる女の人たちには、まるで通じないのです。
それもそのはず、この町の女の人たちは、みんな神様の真意を読み解く仕事をしています。
ですから、男の人の見てくれになんか、てんで関心がないのです。
それよりも、魂の美しい者、へりくだった心を持ち合わせた者に、心惹かれてしまうのです。オキにはそのどちらもありません。
オキは、ユタと共に、ケーネにもらった水鏡の地図を頼りに、東の塔の魔女に、きちんと謝りに行くことにしました。
ケーネの水面の地図を使うと、ロヨラの東の塔まで半日ほどで着きました。
ロヨラは、オキの姿を見ると、ばつの悪そうな顔をしました。
「キッチンのオウムに聞いたわ。あなたが私に謝ってくれたこと」
オキは、ロヨラに改めて謝りました。
「ロヨラ、私の鼻持ちならない心を許して欲しい。私の見てくれは、魂の美しさ、へりくだった心の前には、何の役にも立たなかった。私と付き合うには、お金が必要だ、などというのは、あなたがあまりに美しかったので、つい照れ隠しで言ってしまったのだ」
美しい魔女ロヨラも、オキに謝りました。
「私こそ恥ずかしい。私があなたに、自分の姿を褒めてもらおうとしたのは、私の高慢さ。結局、私はあなたにフラレてしまい、あろうことか、あなたを魔法で人の言葉を話せる狼の姿に変えてしまった。許されないのは私。オキ、どうか私のこの力を許してくれないかしら」
オキは答えました。
「許されないなんて、とんでもない。私は、狼の姿に変えられて、荒れ野をさまよい、おかげで大切な友人を得ることができました。このユタという少年です。あなたの魔法がなければ、この子に出会うこともできなかった。あなたの魔法は、友達のいなかった私に、最初の友人を授けてくれたのです」
ロヨラは、ユタの方を見て言いました。
「あなたは、ユタというのね。ありがとう。あなたは私の大切な人を、人の言葉を話す狼から、人間の姿に変えてくれた。お礼の言葉もないわ。代わりに、この魔法の巻物をあなたに渡しておきましょう。何か困りごとがあった時、読んで使ってね」
オキとロヨラが、互いに自分のことを謝り終えると、ロヨラはまた目の前にいるオキのことを意識し始めました。そして、顔を赤らめて、もじもじしてしまったのです。
その姿に、オキは二度目の恋に落ちました。
「ロヨラ、私の恋人になってくれないだろうか」
突然の告白に、ロヨラはドキドキしました。
「でも、私達、まだ、出会ったばかりだし・・・」
オキは、顔をほころばせて、こう答えました。
「あなたの魔法の力は、私の過ぎる時間の長さまで変えてしまったようです」
ロヨラも、はにかみながら答えました。
「オキ、私もよ。私達、一緒になれるかしら」
その時、突然、部屋の中に、真っ黒な大きな闇が現れて、見る間にロヨラを覆ってしまいました。ロヨラは、始め驚いたような顔をしましたが、その闇から現れた腕の中で、深い眠りに落ちて行きました。
その大きな暗い闇は、黒いマントを羽織った、二人よりも一回り年上の男の人の姿になりました。
男の人は、眠りに落ちたロヨラを抱きかかえると、オキのほうに向かってニヤリと笑ってから、忽然と姿を消してしまいました。
オキはうろたえました。男はロヨラをどこに連れ去ってしまったのでしょう。もう、どこにも手がかりはありません。
その時、ユタの持っているケーネの地図が、ゆっくりと光を放ちました。地図の水面の表面は、まるで命を持っているかのようにユラユラと揺れ始めました。そして、みるみるうちに、ロヨラの塔と、その地下にあるらしい洞窟の地図を映し出しました。
そして、黒い影と光の珠が、一緒にその洞窟の奥深くに消えてゆくのが見えました。
ふたりは息をのみました。ロヨラはきっとあの男に、地下洞窟のただ中へ、連れ去られてしまったに違いないのです。
ユタは言いました。「行こう、オキさん。ロヨラさんは、この洞窟のどこかにきっといる」
けれど、オキは少し怖じ気づいているようでした。「この塔の地下洞窟の、そんなに深いところまで降りていって大丈夫だろうか。そこはきっと、大変な魔力のたまり場だ」
オキは、一度ロヨラの魔法で狼に変えられてしまったことから、魔法の力の強い場所が、特別に怖くなってしまったようなのです。
ユタはあきれました。「何を言っているんですか。オキさん、このままロヨラさんを助けに行かなくていいんですか」
オキは不安そうに言いました。
「私は、魔法を使うこともできない、町の小さな金物屋のせがれだ。ロヨラには私のような男よりも、もっと相応しい相手がいるかもしれない」
ユタは、ますます呆れて言いました。
「さっきまで、あんなにこれからのことを誓っていたあなたなのに、そんなに弱気でどうするんですか。オキさんがしっかりしていれば、そんなことは何でもありませんよ」
ところがいっそう、オキはオロオロする始末。オキには、肝心なところで自信が無いようなのです。
オキは、すっかり力なく言いました。
「・・・ロヨラは、あれほど美しい人だから・・・」
その時、ユタは、不思議にキッパリと言葉にして言いました。
「僕は聞きました。ロヨラさんは、オキさんのことを大切な人だと。一緒になれるかしらって言っていましたよ。あれは、ロヨラさんの本心じゃありませんか?」
その言葉で、オキはとうとう決心しました。
「行こう、ユタ。私はロヨラを、あの魔法使いの男の手から取り戻したい」
そしてふたりは、ロヨラの塔の下にある洞窟へと降りてゆくことになりました。
その洞窟は、暗くてジメジメしています。洞窟は複雑な形をしていて、たくさんの道に分かれていました。けれど、ケーネの水面の地図が、ふたりがどちらへ進めばいいのかを、きちんと教えてくれました。
ふたりは、洞窟の底にたどり着きました。
しばらく進むと、天井の高い、開けた場所に出ました。そこには、柱のように背の高い、赤い肌をした大きな巨人がいて、スックと立ちふさがっていました。
ふたりは身構えました。巨人は何かの門番のように、身動き一つせず、こちらを見下ろしていたからです。
巨人は、二人の姿を確かめると、突然、泣き出しました。
「私は、この先にある宮殿の門番をしている緋色の巨人。この私の愚かな姿を見てくれ。私はこの通り、とても大きな体をしている。そのため、この洞窟の門番に選ばれだのだ。けれども、あまりの大きさに、天井に頭がくっついて、身動きが取れなくなってしまった。なんという愚かな姿だろう」
ふたりは、巨人のことを哀れに思いました。
その時、ユタは何かを思い出しました。ロヨラからもらった魔法の巻物です。巻物を紐解いてみると、紙の上に書かれていたものは、一曲の譜面でした。古い古い、魔法の歌です。
ふたりは、その魔法の歌を歌いました。すると、驚いたことに、みるみる巨人の体が縮んでいって、オキと同じくらいの背の高さになりました。
さっきまで巨人だった赤肌の門番は、大粒の涙を流しながら二人に感謝しました。背の高さが、ちょうど良い具合になったからです。そのお礼に、この先にあるという宮殿の扉を開ける、秘密の鍵を預けてくれました。
洞窟を先へ進むと、先ほどの門番が言っていた通りに、厳かな宮殿がありました。
ふたりは、先ほど門番にもらった鍵を、宮殿の飾り扉に差し込みました。扉はゆっくりと静かに開きました。
宮殿の中には、一本の廊下が続いていました。その両側は、薄紅色の花々で飾られています。
二人が廊下を進んでいくと、何やら少し開けた場所に出ました。
始めは暗くてよく分からなかったのですが、どうやらそこは円い形の、程よい広さの寝室になっているようでした。
ふたりの目が徐々に暗闇に慣れてくると、少しずつ部屋の中の様子が分かってきました。
部屋の奥の壁は一面、鏡になっていました。その手前に、大きなベッドが一つ置かれていて、天井からは、紫色の薄いレースのカーテンが降りていました。その寝室のベッドに、一人の女の人が眠っているように見えました。
ロヨラです。
ロヨラをさらった男は、レースのカーテンのこちら側にいました。
男はふたりの姿を認めると、不敵に笑ってこう言いました。
「ほう、ここまでたどり着くとは。どうやら、門番をしているはずの巨人が、お前達の味方に付いたようだな。だが、私の魔力は、お前達ふたりの力を合わせたより、ずっと強い。今、お前たちがいる場所から、少しでもこちらに近づくことはできないぞ」
そう言って、左手の薬指にはめた金色の指輪から、激しい竜巻を巻き起こし、こちらに投げつけてきました。
二人は、サッと左右に分かれました。間一髪、竜巻は二人の間を通り抜けて、寝室の入り口から飛び出していきました。
男は言いました。
「おのれこしゃくな。だが、一度くらい免れることはできても、この竜巻は何度でも私の指輪から呼び出すことができるのだ。まだまだいくぞ」
そう言って、次々に竜巻を呼び出しては、二人の方へ放ってきました。二人はキリキリ舞い。すんでのところで身をよじって、竜巻をかわし続けます。
けれど、ふたりとも、どんどん寝室の入り口の方へ追いやられてしまいました。もう、ロヨラのいるこの場所に、とどまる術はありません。
「ふっふっふ。もう逃げる場所は無いぞ。この竜巻を食らえば、お前達の体は、この部屋から投げ出され、宮殿からも吹き飛ばされて、この塔の外へと放り出されてしまうだろう。はっはっはっ。さらばだ」
そう言って、今までで一番大きな竜巻を指輪から呼び出し、二人へ投げつけようとしました。
その時、勝利の笑みを浮かべた男の背後の鏡から、稲妻が飛び出してきました。男は、とっさに身をよじって、その電撃をかわそうとしましたが、その電光は正確に、男の薬指にはめられている金の指輪に落ちたのでした。
「あばらおぼろえばらべ」
哀れ、男は、金の指輪に落ちた、その雷に感電してしまい、ジタバタとおかしなダンスを踊ったあと、その場にのびてしまいました。
気がつくと、男と同い年くらいの女の人が、部屋の奥一面に張られた鏡から現われ、紅のマントをたなびかせて、こう言いました。
「アンタ、こんなところでなにやってんの?」
その声は、あきれはてていました。
この女魔法使いの名前は、ミセス・マイラといい、ロヨラを連れ去った男魔法使い、ミスター・マイラの奥さんでした。ミセス・マイラの左手の薬指にも、ミスター・マイラと同じ、金色の指輪がはめられていて、そこから制裁の稲妻が飛び出してきたようでした。
「まったく、あんたは、いっつもフラフラして困るんだから。はいはい、起きた起きた」
伸びていたミスター・マイラの頬を、ぺちぺちと手で叩くミセス・マイラ。
この騒ぎに、ロヨラも目を覚ましました。
マイラご夫妻とロヨラは、元より顔見知りの、魔法使い組合のお友達でした。ロヨラのあまりの美しさに、ミスター・マイラもつい魔が差したのでしょう。魔法の力でロヨラを眠らせて、この地下宮殿の一室に、さらってきてしまったのでした。
しかし、もうロヨラには心に決めた人がいます。オキです。オキは魔法使いではありません。でも、生まれ変わった魂と、へりくだった心で、ロヨラのハートを射止めたのです。
その話を聞いて、ミスター・マイラは、奥さんについてすごすごと帰ってゆくことになりました。
「ほんとうに申し訳ないね。うちの人が迷惑をかけて。この人は年中こんなものだから、もう慣れてしまっているけどね。でも、魔法を使ってロヨラさんを眠らせてしまうだなんて、今回ばかりは言い訳ができないね。二度とこんなことがないように、後でようく言い聞かせておくから(ここでミセス・マイラはニッコリ笑い、ミスター・マイラは小さな悲鳴をあげて飛び上がりました)、これまで通りとはいかなくても、どうか私達とお付き合いを続けてくれないかい?」
ロヨラは少し気を回して答えました。
「いいえ、私の方も、オキの告白にときめいて、ちょうど油断していた時だったんです。私が気の緩めなければ、ミスター・マイラの魔法は、決して私に効く種類のものではありませんでした。どうか、あまりご主人を責めないであげてください」
ミスター・マイラは、あの自信に満ちていた時の姿が信じられないほど、隅っこで小ちゃくなっています。ただただモジモジして、シュンとしています。
マイラご夫妻が、魔法を使って家に帰るついでに、みんなはご夫婦の家で、お茶を呼ばれることになりました。
ミセス・マイラがその真紅のマントを大きく広げ、みんなの体を包み込んでしまうと、次の瞬間、一人残らず全員が、マイラ夫妻の家の前にいました。
家でのお茶会は、和やかなものになりました。ミスター・マイラは、ロヨラとオキとユタの三人各々に、自分のしでかした過ちと非礼の数々を詫び、今回ばかりは奥さんに特に深々と頭を下げて、みんなは互いに打ち解け合いました。
ミセス・マイラお手製のクッキーと、庭でとれたというハーブのお茶を頂きながら、話はユタが旅で出会った、風車守りのおじいさんの話になりました。
「あの風車守りのおじいさんは、たった一人で風と一緒に、あの奇妙な形の風車を守ってくれています。寂しくはないでしょうか」
そうユタが言うと、ミセス・マイラは風車守りの近況を教えてくれました。
「あの風車守りの風車は最新型だからね、最近、近くの村の子供たちが、見習いとして手伝いに通い始めたらしいよ」
その話を聞いて、ユタは嬉しく思いました。そして、また風車守りのおじいさんに、きっと会いに行こうと思うのでした。
その様子を見ながら、オキとロヨラはいつまでも微笑んでいました。
これは、東の塔に住む、美しい魔女、ロヨラに聞いたお話です。(おしまい)
(2021-02-07 1401版)