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紅空の巫女  作者: ルーライト
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6.第二騎士団

「リン兄ちゃん。何か、持ってきてくれた?」


 勢いのままに振り向くと、栄養不足によりやせ細った男の子が伸ばしっぱなしの髪の隙間から見上げていた。タンクトップ一枚だけしか身に着けていないからか、一瞬女の子に見えた。


「……シュカ」


「今見たよ。このお姉ちゃん、変なことしたね」


 シュカと呼ばれた男の子はまっすぐ指を小雪に向けて指す。「人を指すな」人差し指を掴んだリンは、鎮火したように脱力して溜息を吐き出した。片手に持っていた林檎を服で皮を軽く擦ってから鼻先に突き出す。


「このお姉ちゃんは、姫巫女様だ。お前らを救いに来てくれた姫巫女様だ!!!」


 やるよ、と林檎をシュカに手渡し、周りに聞こえる大きな声で叫ぶ。子供たちは赤い林檎に興味津々だが、大人たちは姫巫女という事実に沸いた。わぁっとあっという間に家々に引きこもっていた人が出てきて、周囲はお祭り騒ぎとなった。


「我らをお救い下さる姫巫女様! どうか今までのご無礼をお許し下さい!」


「おお……何と神々しいお姿か……。これで我々も日の目を見るのですな」


「他の国に怯えなくても済む! ばんざーい!!」


 大人たちは他国に怯えずに済むと安堵して喜びを、子供たちは久しぶりにお腹を満たすことが出来て幸せそうに笑った。人の輪から外れたリンは、冷めた目でそれを見つめていた。そして徐に顔を明後日の方向へと向けた。次第に馬の蹄の音が聞こえてくる。一つではなく複数の音。

 家の陰から現れた馬に乗っていたのは、アルツィともう一人厳つい顔の男。後ろからは兵士たちが複数人。リンにとっても見覚えのある兵士の姿がある。


「コユキ様!」


「探しましたぞリン殿」


 すぐに馬上から降りて人をかき分け小雪の安否を気遣うアルツィ。遅れて馬上から降りる男は真っすぐにリンに近付いていく。他の兵士たちも次々降りていく。こんなに賑やかになってしまったのだから見つかるのは時間の問題だった。当然だ。


「探す程広かないだろこの町は」


「……アルツィ殿が血相を変えて第二騎士団の詰所に来たのです。リン殿が姫巫女様を攫ったと」


「まぁそれは間違っちゃないな。この間、アミル王から城下町に降りる許可を貰ったらしいから連れてきただけだ」


「それにしては、随分乱暴だったようで」


 半分泣きそうになりながらアルツィは小雪の体調などに異変が無いか確かめている。それを見ながら、ふん、と鼻を鳴らす。目線の先の小雪は子供たちに色々がらくたにも見える宝物を嬉しそうに受け取っている。


「アルツィは来ると思ったがお前が来るとは思って無かったがな」


「姫巫女様をウチの外交卿が攫ったとなれば王に大目玉を食らいますからな」


「……」


 どうでも良さそうな顔を一瞬したリン。しかしアルツィが般若の顔でリンに近付いてきたのを見て耳を塞ぐ。ぎゃあぎゃあ騒ぐアルツィとリンを見て厳つい男は、またか、と肩を竦める。そこへ小雪が近付いてきて背筋を伸ばした。


「あのぉ……」


 窺うような目で低姿勢に声をかけてくる。直角に腰を曲げてお辞儀をすると、萎縮したように「ひえ」と漏らした。


「お初にお目にかかります姫巫女様。(わたくし)はアミル第二騎士団団長ゴルーガと申します」


「あ、えと、雨宮小雪です」


 お互い頭を下げ合う一組の男女。BGMは派手に喧嘩する声。とりあえず、と住民たちが腹いっぱい林檎を食べたのを確認してから別れを告げ、町の近くの第二騎士団詰所へと移動した。

 城の騎士団が警備すればいいのに、という疑問は移動中ゴルーガが答えてくれた。


「毎日城と詰所を行き来するのは大変ですし、いざという時に町を守ることが出来なくなるかもしれません。兵の中には居住区を家族のいる町にしている者もいますし」


 かくいう私も家族が町におりまして、と照れ臭そうに小鼻の脇をぽりぽりかいた。元々は実力者としてアルツィの良き相談相手も務めていたようだが、その実力故に自ら第二騎士団への異動を願い出たのだという。

 第二騎士団はゴルーガが第一騎士団にいた当時、風紀がとても乱れていたらしい。敵が攻めてこないと慢心していたというのも一つなんだろうが、それでもゴルーガにとっては見過ごすことの出来ない乱れ具合だった。

 第二騎士団の詰所は、町と城の間に設置されていた。第一に比べると人は少ないが、元々アミルは人が少ないからこれでも多い方なのだろう。


「それにしても、言い方に不快感を与えるやもしれませんが、まだうら若い方だというのに我が国をお救い下さるとは」


「若くて不安ですか?」


「いいえ! いいえ! とんでもございません。そうではなく、ご家族の方がご心配なされているのではと」


「何だか良く分かりませんが、私がこっちに来た時間に戻してくれるそうなので今は安心してます。あっちではここで過ごした時間は過ぎていないみたいですから、何年過ごそうが構いません。それより私に課された使命を全うしないと、親に叱られちゃいます。中途半端に関わるな、関わるなら全うしろって」


 頭をかいた小雪。「良いご両親をお持ちに」ゴルーガの瞳が慈しむように細められる。彼も家族がいると言っていた。きっと、子供がいるのだろう。小雪は親を褒められて嬉しくて頷いた。

 そんな頃にようやく、アルツィとリンの言い合いが終わったようで静かになった。他の下っ端兵士がおずおずと二人にお茶を出す。


「コユキ様戻りましょう」


「はぁーん? もう戻るのか。城下町への出入りの許可は貰ってるしもう少し良いだろ」


「お前は黙ってろ」


「ああそうか、町がゴーストタウンだから近付かせたくねえってか。流石は天下の騎士様だねえ?」


「煩い口が過ぎるぞ!」


「ゴーストタウンだっつったのはコユキだボケ!! やんのか!!」


「お二方少し落ち着かれよ」


 こそこそ、と他の兵士に聞いたところ、まぁ見た通りではあるが二人はどうにも合わないのか会う度会う度喧嘩をしているらしい。口を開かなきゃ良いのに、と兵士は呆れているが、互いにいつの間にか煽り合いになっているらしいから、これはもう恒例になっているそうだ。

 ゴルーガの静止でそっぽを向くリンとむずがゆそうなアルツィ。リンにペースを乱されている為にゴルーガに恥を晒したと考えたのだろう。いつも喧嘩している時点で恥も何も無いとは思うが、彼の精神衛生上黙っておこうと小雪は心に秘める。


「また、町に来ていいですか?」


「ええ勿論です。民も喜びましょう」


 反対しそうな顔つきのリンに、それでも確固たる意志を持って小雪はもう一度町に行きたいと言った。ゴルーガたち第二騎士団に見送られて城へ戻ると、リンがアミル王に説教をされてくるといなくなる。

 アルツィはいつものことです、と庇う気は無さそうだ。それなら小雪も叱られるはずじゃ、と着いていこうとしたが、「コユキ様はようございます」と王様付きのエーミールに言われてしまう。

 はぁ、と気の無い返事をしてリンを見送る。面倒臭そうな足取りのリンが戻ってきたのは夕食を過ぎて、風呂も入って後は寝るだけというくつろいだ時間だった。


「お前には一言と思ってな。明日早朝、アミルを経つことになった」

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