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紅空の巫女  作者: ルーライト
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3.嫌われ者

 部屋に向かう最中、ちらりと見えた乳白色の建物に興味を示した小雪。行ってみますか、とアルツィに言われて興味本位で立ち寄ることに。「みな、姫巫女様たるコユキ様がいらっしゃれば活力になりましょう」とはアルツィ。

 こじんまりとしたその建物は、某クラフトゲームのハウスを思い起こさせるような形をしていて、ちょこちょこと真四角の窓が点在していた。掘っ立て小屋とまではいかないが、作りが雑ではないか? と思った。


「ここは魔力と魔宝石について研究している場所になります。自然界から魔力を得られないか、魔宝石から魔力が大半抜けてしまった所謂クズ石で魔力増幅が出来ないか。……まぁ、他国に魔宝石を買い付けにいかずとも自国だけで何とか出来ないかと鋭意研究中でして」


 そう案内してくれたのは、研究所所長のエリオサー。長さがバラバラでボサボサ頭を適当に纏めている髭面で、白衣にスウェットに便所サンダル。白衣さえ着ていなければ休日にだらけるおっさんのようなスタイルだ。

 他にも何人か忙しそうに走り回る面々もいるが、その誰もがラフというか軽装だ。小雪の中の研究職というのは、ドラマの影響もあるだろうがきっちりしたイメージを持つ。少なくともエリオサーのようにダラッダラではない、と思われる。


「コユキ様、クズ石とは彼の言った通り、魔力を大半失った魔宝石――つまり本来なら打ち捨てられるか何かに少し魔力を付け足す際にのみ用いられる要は役に立たない魔宝石にございます」


「それでもこの国ではクズ石ですら貴重なもの。一欠けらとて無駄には出来ない。何とかして魔宝石に残存する魔力を増幅出来ないか、どうにかして他国との差を埋めたいという気持ちもあるんですけどね」


「獣共は魔宝石での攻撃も仕掛けて来たり致しますので、どうしても武力の足りない我々では国境を守ることが精一杯なのです」


 小雪は、彼らの涙ぐましい努力と他国からのその侵略行為に胸を痛めた。どうして同じ人間なのに分かり合えないのだろう。この星に生きている者なのに争いあうのだろう。ぐるぐると思考が回る。

 その様子を見て感慨深そうなアルツィとアルツィにドン引くエリオサー。頭をぽりぽりとかいたエリオサーは、説明はされていないが色々と察した様子で「ちょっと見てもらいたいものが」と小雪とアルツィをある一画に案内した。


「これは前々から研究しているクズ石なのですが、実は魔力の増幅には成功はしているんです」


 え、と声を漏らすとアルツィも初耳だったようで「何故報告が無い!」と憤る。しかしエリオサーは報告出来ないと言った。


「クズ石の魔力増幅は実は出来てはいる。だけど何でか増幅した魔力が流れていって元よりも魔力が少なくなってしまっていっているんだ。供給されるクズ石は少ないだろう? あまり無為にも出来ないし、かといって原因不明のままだ。これをお前は報告出来るか?」


 魔力増幅が出来ていようが、それを留められていなければ無意味なことだ。アルツィも口を噤む。困り果てていたところに姫巫女の来訪。もし何かしらの手掛かりが掴めれば、と満場一致で王にこのことを報告し研究所に何とかして来させられないかと計画を練っていたようだ。そんな中で、何もせずとも姫巫女の方からやってきた。エリオサーたちにしてみれば鴨が葱しょってきた、みたいなそんな感じなのだろう。


「この研究所の最後の希望なんだ。頼む。今から魔力増幅を行うから、原因が何なのか突き止めてくれ。いや、分からなくてもいい。ただ見ていてくれ、それで何か分かったら言ってくれ」


「は、はい……」


 おい、エリオサーが呼んだ研究員は、手際良く小さな石ころを魔法陣の中央に置いた。その魔法陣の中央の真上まで伸びている透明な管は、配管のようにあちこち入り組んでエリオサーの手元で揺れる中身の入ったフラスコが置かれた蒸留装置のような装置に繋がっている。

 シュッと何かをする音がして小雪がエリオサーの手元を見ると、マッチのようなものが握られていた。


「それ何ですか?」


「ん? これは火の魔法が宿る魔宝石、火炎石(ルビー)を木の枝に挟んだ奴だ。魔宝石は衝撃を与えてやれば効力を発揮するが、こんだけちまっこいと衝撃を与えることすら難しいからな。苦肉の策って奴だ」


「ところでエリオサーさん敬語崩れてますよ」


「キャラじゃねえし疲れちまう。あっちがいいなら努力するが?」


「いえこちらで」


 そっちの方が似合いますよ、と小雪は微笑む。エリオサーは肩を窄める。アルツィはエリオサーが不敬であると憤ってはいたものの、小雪がそれを許したのならと複雑な思いでやり取りを見つめていた。

 エリオサーは火のついたそれをフラスコの中にそのまま入れる。とぽ、じゅわっっ、当然だがフラスコの中身は液体だ。一瞬で消える火。その際に発生する蒸気がどういう原理か配管を通って石ころの置いてある場所まで届いた。その頃には水滴になっていて、ぴちょりと一滴落ちる。

 ぽわわ、仄かに赤く光る石。しかしその光は次第に収まっていく。小雪の目の端にちらちらきらきらと瞬きが映る。目を瞬かせてもう一度良く見てみるとその瞬きは二対の羽根のようだった。


「何だろ」


 二対の羽根を持った小人が、その小さな手に仄かな赤い光を持って外へと出て行っていく。あ、と小雪は思わず声に出した。


「ねえ待って!」


 小雪の声は、エリオサーやアルツィたちのみならず、その小人たちも引き留めた。小人たちは互いに顔を見合わせた後、光を空中へ送り出してから遠慮や躊躇も無く小雪に近付いてくる。

 じろじろと四方八方からの視線に流石に居心地を悪そうにしながらも、小雪は頑張って口を開いた。


「その光って魔力よね? それをどうするの? この国の人たちそれが無いと困るんだって。持っていくのは止めてあげてよ」


 小人たちはまたも互いに顔を見合わせ――ぷっ、と誰かが堪え切れないといった風に噴き出すと周りも笑い出す。嘲笑う感じでは無い、ただ純粋に小雪が面白いことを言ったような、そんな笑い方。


<キミ、もしかして何も知らないの?>


<あーおっかしい。笑っちゃったよ>


<ねえねえもしかして、この子あれじゃない? ひめみこ!>


<あー>


 長袖のシャツにズボンの小人と、長袖のワンピースの小人。彼らは一様に喋り出す。


<あーあ懲りないなぁ>


<族長様ぷんぷんだよねえ>


<だからあんなにぷんぷんだったんだぁ>


<かーわいそ、かーわいそ>


<あの子も怒るかなぁ>


<あの子はそれどころじゃないよ、誰なのあの悪戯したの>


<族長様じゃないのぉ?>


<族長様以外にいないでしょ>


<やっぱりねー。早く謝っちゃえばいいのになー>


「ね、ねえ。話聞いてる?」


 段々別の話になっていくのを修正するように話に割り込む小雪。そこでアルツィが「コユキ様何かいるのですか」と恐る恐る聞いてきた。いるも何も目の前に、と言いかけて小雪はアルツィが小人を目で捉えていないことに気付く。

 ケタケタ嗤う小人たち。視える訳ないじゃん、と色々な場所から声が降ってきた。


人間族(ヒューム)の中でも視えないのなんてアミルの奴らくらいだよ>


<よくぼくたちむしされてたりするんだよぉ……>


<別に視えててもうざったいだけだしいいけどねーっ>


 そ、れ、にぃ、人差し指を立てて振る小人。


<お前たちなんか僕たち大っっっ嫌いだから関わりたく無いんだぁ>


<僕たちがすることに口出しすんなよアミルの癖に!>


<アミルのくせにー!>


<くせにー!>


 この国の人間困ったところで僕たち困んないもんねー。ねー。可愛らしい外見とは裏腹に随分な言いようだ。妖精族(フェア)とは聡明な一族では無かったか。もしかして他の国の亜人に洗脳でもされているのかも、と洗脳を解いてあげなくちゃと使命感に燃える小雪。


「コユキ様?」


 使命感に燃えている中でアルツィに呼ばれ、気付くと小人たち、妖精族と思しき子たちは既にいなくなっている。石ころの魔力はいつもの通り無くなっていた。

 この事実は即座にアミル王――スターリャ・ドゥ・アミルに伝えられた。小人は妖精族で、クズ石の魔力増幅を成功させてはいたものの、その魔力が妖精族によって奪われていたことに憤る。


「一体どういうことだ。妖精族すらも我々の敵であったか……」


「ううむ……アミルの民だけが妖精族を視ることが出来ないと、彼奴らはそう言ったのですな?」


「え、ええ」


 頷く小雪。王スターリャと側近エーミールは互いに顔を見合わせて難しい顔をする。彼らには何か思うところがあるのかもしれない。不安そうな顔をした小雪。アルツィは安心させるように微笑んだ。


「王よ、コユキ姫巫女様は本日はお疲れのご様子。休ませてもよろしいでしょうか」


「おお……そうじゃったな。コユキや、今日は存分に休むとよい。明日からはアルツィがいれば城下町も行って構わん。じゃが今治安が悪くてのう……あまり行くのはお勧めせんぞ」


 それじゃあお休み、そう言ってスターリャは朗らかな笑みを浮かべ手を振って見送ってくれた。部屋まで送り届けてくれたアルツィは、恭しくお辞儀をして「ではまた明日の朝に」と言い残して何処かへと行ってしまった。恐らくは騎士団の寮でもあるのだろう。

 部屋には専属らしきメイドが隅の方に立って待っていた。先程のメイドだ。手にはナイトガウンと似た部類の服が握られている。ああー、またひん剥かれるのかぁと思った小雪は既に諦めモードで受け入れた。

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