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生まれ賭ける!!

 史上最強のエステティシャンがいた!

 魔法使いと呼ばれ、人々の外見と心をあらゆる存在へ変化させるその技術はまさしく神の領域にたどり着く物であった。

 生きて何十年、彼女は富、名声、あらゆる物を得たが……

 一つの不満だけがあった。

 それは……なんという言い難い……

 彼女は……

「私の青春を返しなさいよーー!」

 彼女は……

「メン様?返事をしてください!メン様!」

 彼女は……!

「これは、もう助からない……」

 彼女ーーメンは死ぬ前に叫ぶほど……

 学園青春生活を送りたかったのだ!

 どうしても!


 学園青春生活!

 それは一見誰もが体験するような出来事だが、実はそうではない!

 少なくとも、メンには違った!

 彼女は自分の技術を磨くため、あらゆる修行をしたら……

 青春が過ぎてしまったのだ!

 史上最強の能力と引き換えに、青春を失ってしまったのだ!

 そして今、彼女の怨念は膨大し、神にも通じ……それから!

 奇跡を呼び起こした!

 神から送られたのだ!

 もう一度の青春のチケットを!

 生まれ変わるチャンスを!

 与えてくれたのだ!

 ……転生という形で。


 メンが生まれ変わった!

 気がつくと、自分が自分と同名で同じ顔の女子高校生になっているのだ!

「これは、私……なんか服がちょっとダサいけど……でも……!」

 感動!身にしみる奇跡の実感!

 もう一度青春を体験する並外れの奇跡!

 最高の喜びを与えてくれるであろう。

 なんせ、これでやっと……

 夢の学園青春生活が……

 始まらない!

 ……

「あれ?先生今なんて?」

「お前はこのままでは退学だと言っているのだ」

 始まらないどころか!

 青春終了の危機!


 テンボウ学園、メンが移り変わった少女が入学していた学校だ。

 普通の学校と違うのは、テストとかで得る点数の代わりに、麻雀の点棒を使っていることだ。

 そして、その点棒を学生だけでも行き渡れる特殊ルールもある!

 とどのつまりだな……ここは普通の学校ではなく……

 博打学園だ!

 博打で点棒を奪い合うこの学校に、点棒こそ力の証!

 その点棒がなくなった時点で、退学することになる!

 そう、ここはただの学校ではないどころか……

 異に異を重ねたその特殊性が表したことは一つ!

 ここはただの学校ではないどころか、異世界の学校だということだ!

 元の世界によく似たパラレルワールドにあるパラレルスクール、それこそが……

 メンが入学している学校の正体であった!

 そして、メンが移り変わった少女の今の残りの点棒は……

 一本の百点の点棒しかなかった!


 危機降臨!神はお人好しではない!

 転生したのはいいものの、青春生活終了の絶体絶命のピンチに落ちている!

 百点の点棒だけでは地位も力も最低格!

 終わる寸前!死にぞこない!

 メンに訪れる最大の危機!

「うぅ……」

 鏡の前で化粧しながら、メンは考えを巡らせている。

「不幸よー、この子退学寸前だし彼氏いないし鞄に化粧品と本がほとんどないくせにゲーム詰めてるし最悪だわ!どんな生活してんのよ!」

 なんと、巡らせているのは文句だけだった。

 いや、彼女にはもう見当がついてる。

 この状況を巻き返すにはどうしたらいいのかということを彼女は知っている。

 点棒がない今では、クラスメートたちすら彼女を軽蔑している……

 この状況を巻き返すにはもう……

 ……しかない!

 博打を……ギャンブルを……

 やるしかない!


 博打を打つ!

 そう覚悟を決めたのは、転生して間もなくの頃だった。

 戦わないと生き残れない。

 しかし、それには相手が必要不可欠、敵なしでは戦えない。

(博打の相手を探さないと……)

 メンはそう思って……いや、勘違いしていた。

 相手を探さないとならない……それはまったくの思い違い!

 逆だ!むしろ!

 避けなければならないのだ!

 敵から!吸血鬼たちから!

 なぜなら、メンには死臭が漂っているからだ!

 百点しかなく、博打も苦手の死にぞこないなんて……

 あいつらのカモでしかないからだ!

 逃げなければ……さもないと……

 狩られてしまうだろう。

 狩人に……


 点棒ハンターと呼ばれた男がいた。

 学校での地位、そして力を手にするために……っておいおい、違う違う。

 単なる博打中毒だ。

 相手が見つかる途端勝負を仕掛けてし、点棒を徹底的に毟り取るその姿はまさに獣だ。

 いやいや、外見は獣どころかイケメンだけどなぜか顔が知られてない。

 そういう博打中毒者のことだが……

 どうやら、彼は狙ってるらしいね……そう……

 狙ってるね……


 それはそれは、メンが帰宅しようとする時に起きたことであった。

 自分の靴の上に置いてあった一つの手紙……

 いや、ラブレターだ。

 かわいいデザインと感動的な文章が書いてあり、まさにラブレターの鏡とも呼べるラブレターだ。

(こんな物送ってて……本当に……)

 メンにはすぐにわかった。

 これは果たし状である事実を!

 獲物を騙し取る偽装行為!

 化粧ということが世界一レベルのメンの前に、偽りは通さない!

 見破る!

(かわいい……)

 上に書いているある場所を見て、メンは決めた。

(こちらから……)

 約束に答える、つまり!

(食い殺すわ!)

 火の中へ飛び込む!

 危険に近づく!

 時が来る!

 来る!

 破滅と再生の重なる時!

 戦の時、来たる!


 時が来た!

 告白の時!しかし、それは愛の告白ではなく……

 死の告白だ!

 もちろん、実際に死ぬことではないけど……

 青春の死は若者にとっての死!

 青春から離れることは人生から離れることだ!

 そういう命を賭けた二人が、遂に!

 集う!

 出会う!

 運命により……!

 戦う!

 このテンボウ学園……とち狂う博打訓練所の屋上に!

 出会わざるを得ない!

 約束の時……それはつまり!

 恋と!愛と!人生と!

 最も遠い場所にある無意味で歪なギャンブルが!

 始まろうとした!

 メンが屋上への扉を開けて、覚悟を決めた。

 その覚悟も……

「……何この人」

 驚きに成り代わった。

 メンは見えなかった……

 ハンターの顔が、見られなかった……

「来たか」

 その人の周りに浮いてる点棒たちのせいで!


 ハンターの顔が見えなかった!

 周りに浮いてる点棒のせいで!

 超能力か?魔法か?それとも、ギャンブラーの意思……覚悟……そういうオカルト的なことでのなせる技か?

(魔術かしらね)

 真実はどうであれ、ともかく、メンが驚くのはただそれだけではない。

 真に驚くのは、あるオブジェクトが置いてあることだ!

「麻雀卓……これはまさか……」

 麻雀卓が置いてあるその意味!

 言わずもがな!一つのことを意味する!

「メン……俺と勝負しろ」

 それ以外ありえない!

「特殊ルールの二人麻雀……山越しで!」

 二人だけの麻雀勝負!

 山越し!


 二人麻雀?山越し?

 麻雀というのは通常四人でするゲームなので、それを二人でプレイすることはつまり、特殊なルールを使わなければならない。

 それが山越しなのだ!

 山越しとは、二人麻雀ではあるけど、厳密的に麻雀ではない!

 地雷を踏む麻雀なのだ!

 通常の麻雀の流れやドラなどの複雑なルールさえも捨てたシンプルなゲーム!

 まず、二人とも各自の新品の麻雀牌から牌を選び、一つのテンパイする手札を作る。

 それから、残りの牌を使い、これから相手が引く八枚の山を作り上げる。

 これでゲームの準備は整えた。

 最後はダイスで最初に引く人を選び、ゲームを始める。

 互いの山から順番に引いて、先にツモった人が勝ちであり、ロンは存在しない。

 勝負つかなかった場合は残りの牌でもう一度山を作り、もう一度始める。

 そして、このゲームに役などは存在しない、渡す点棒の数は勝負の最初で決める。

 複雑なルールはなく、ツモったら勝ち!

 そういうゲーム!

 そういう麻雀!博打!

 ギャンブルだ!


 特殊ルールの二人麻雀、山越し!

 勝負の誘い!

 闇のデートの誘いだ!

 乗るか否か!それは……

「いいよ、付き合っても」

 言うまでもない!そのために来たのだから!

 青春を!命を!

 この戦いに賭けて!

 やるしかない!

(点棒をしゃぶり尽くした後に……)

「『恋人』の頼みだもんね♪」

(捨ててあげるわ♡)

 対決へ!


 対決!決戦!衝突!

 勝負の時間!

 賭ける点棒を決める時!

 メンには最後の百点の点棒を賭けるしかないが……ハンターは違う!

 戦い抜いた彼の持っている点棒の量は、学園一と言っても過言ではない!

 その数はなんと!

 1、2、3……

 0が六個ある、つまり!

 ……百万点!

 メンの一万倍である!

 圧倒的というより、格が違う。

 戦うべきではないとも言える。

 そんなに点棒持っているなら、メンに勝負挑まなくてもいいけど……

 ハンターはただの勝負師ではない!

 破滅を望む博打中毒者だ!

 無意味なことに命かけるタイプ!

 百点しかないメン、あるいは自分……

 どっちかが破滅する勝負……

 つまりこのゲームに賭ける点棒の数は最初から決めていた……

「では私は百点……」「限度まで」

 気がつくと、空からたくさんの点棒が降ってきた。

 魔術か魔法か?そんな考えを驚きで消し去るような……

 点棒の雨!

 百万の雨!

「速く……」

 限度まで!限度いっぱいの!

 百万点賭け!

 そう、ハンターはそういうやつ!

「始めよう」

 破滅希望者!

(……調子狂うわ)

 ゲーム開始!


 山越しが始まった!

 両方とも全賭けのデスマッチが!

 遂に始まった!

 まずは新品の麻雀牌を出し、その中からテンパイを作る!

 役による点数差が存在しない以上、もちろん待ちの多い手札の方がいい。

 具体的に言えば、国士無双十三面待ち、純正九蓮宝燈の九面待ちのような手札がいい。

 しかし、そんな簡単な手札では読まれる可能性もあるので、敢えて普通の多面待ちにする手もある……

 さらにそれを読まれることを考えて、国士無双十三面待ちとかにする手も……

 どっちにしろ、ただの単騎待ちにする意味はない。

 これはこういう読み合いのゲームだ。

 でも、相手の個性が分かれば相手の手を推理することも可能かもしれないとは言え、二人はまだお互いのことをよく知らない。

 この場合、運ゲーになりやすい!

 っと、二人はどんな手札にしたのか?

 それは……


 テンパイを作る!

 メンには麻雀の経験がほとんどない、だから必然か……

「えっと……1雀頭4メンツ……で」

 スマホで麻雀のルールを確認している!

「……」

 声には出してないが、ハンターは少し混乱している。

 なぜなら、テンボウ学園では、麻雀は基本中の基本!強いか弱いかはともかく、麻雀がわからないやつなんていない!

 いないはずだ……

 しかし、メンは生まれ変わったばかりだ、前世で化粧の技術に全てを捧げた彼女には、麻雀なんてこれっぽっちも知らない!

 完全なる無知!

(なんだこの女、演技か?)

 そんなわけない!マジの不知!無学!

「麻雀って複雑ね」

 そんな状況でメンが作ったテンパイとはいったい……?

「できた!」

 嬉しそうに、メンが言うけど……

 メンよ、それはちょっと……その手札は……

 流石にいけないだろう。

「完璧だね!」

 その手札は……

 テンパイしてない!

 ノーテンだ!


 ノーテン!テンパイならず!

 それはどういう意味かというと……

 上がれない!完成できない手札だ!

 負けが約束される手札!

 勝ち目がなく!潰される!

 死に至る!

 そんな手札!

 スマホでルールチェックしたのに……こんな暴挙!

 前代未聞の行動だ!

 メンよ、早く気付け!

 さもないと……

 負けが!

 青春の死が!

 しかし、メンは山を積む作業に入る……

 手札はチェンジせず!

 ゲームが進む!


 メンが手札を作り終えた……しかし、それはなんと、ノーテンだった!

 それをハンターが知るわけもなく、自分の手札を作り始めた。

(先彼女は初心者みたいなアピールしてるが、もしそれが演技なら、俺を誘う罠に違いない)

 考えをを巡らせ、ハンターは思う。

(あいつの罠にハマってはいけない!)

 このゲームで、普通に遊べば作る手札は三種類。

 么九牌全部上がれる国士無双十三面待ち、一色の数牌を全部上がれる純正九蓮宝燈、それとそれらのように強力ではないけど変化が効く多面待ち……この三つに限る!

 しかし、分かってて国士の当たり牌を積む人はいないから、基本的に手札は純正九蓮宝燈にする。

 つまりこれは、相手の色を当てるゲームとも言えるのだ!

(初心者はマンズだけが九蓮宝燈だと勘違いする場合は多い……その初心者の演技で俺に待ちがマンズだと勘違いさせてほしいかもしれないけど……その手に乗らない!)

 実際には、ノーテン!

(この理屈だとあいつの手はソウズかピンズ、二つに一つ!)

 ノーテン!

(色を跨ぐ多面張の可能性もあるけど……)

 テンパイしてない!

 無駄な思考!考え!読み!

(しかし、それらは無駄に終わるけどね、こちとて無策にここにいるわけではない!)

 ハンターが発動する!

 必殺技……必勝法を!

 それが相手がテンパイを作るのを待ってから自分の手を作る理由!

 彼にだけある能力!

(発動!)

 エレキット・アイ!

「なにいぃぃぃーー!」

「うわっ、なんですかいきなり叫んで」

(ありえない!こいつ……)

 気づく!

(……ノーテンだと?!)


 エレキット・アイ、それはハンターの特殊能力。

 小さい時から電磁波を操ると感じることができて、年を重ねていくうちにその能力が強力になっていく。

 そして、その能力を麻雀に使う方法は簡単。

 この局の場合、麻雀牌は新品だけど、実は彼が用意した特殊な磁石入りのイカサマ麻雀牌だった。

 ハンターには、あらゆる牌の居場所がわかる!

 それが彼の能力!

 無敵のガン牌!

 ……が、しかし……

(ノーテンとは、どういうことだ!)

 だからこそ、混乱する!

 この状況に!

(この女……どういうつもりだ?)

 わからない!

 理解不能の闇に!

 落ちていくしかない!


 混乱するハンターを放っといて、メンは山を積み始めた。

「どうしようかしら」

 悩んでるフリしても、めちゃくちゃ速い速度で山を積み始める。

 まるで何も考えていないような速度、いやいや、実際彼女は……

 本当に考えていない!

 ただ手の隣にある牌を積み上げているだけ!

 全くの無思考!ゲームを舐めている!

 先、国士とか九蓮とかの心理戦についての解説があるけど、彼女はそれらのことが全然考えていない!

(牌を積むの面倒くさっ)

 心の中は文句を言っているだけ!

「疲れた〜〜、ねえねえ」

「……なんだ?」

「面倒くさいからあんたが代わりにやって」

 いや〜〜〜

「ダメだろ」

 ダメだろ!

 ギャンブル崩壊の危機!


 断られたら、意外とメンは素直に作業に戻る。

 しかし、適当に積んでいたせいで、やってしまった。

 やってはいけないミスを!

 山を倒してしまった。

「うわ、最悪」

 山の内容が丸見え!

 それと、ハンターはまだ手札を作り終えてない!

 起きてはならないミス!

 自ら死に至る挙動!

 そして、ハンターは疑い始めた。

(まさか、本物のアホか?)

 疑う!

(先のは策でもなんでもない、ただのボケ……?)

 それから起きたことで、ハンターがやっと確信した。

 何が起きたかって?

 それは……メンが……

 丸見えの牌を山に戻した!

「完成!」

(バカだ!)

 確信する!

(ここまでしたら、もうあいつに……)

 勝ち目はない!


 メンに勝ち目はなくなった!

 どこから見ても、それは揺るぎなき事実!

 手札はノーテン、山はバレバレ……

 勝てないどころか、引き分けにすらできない!

 負ける可能性百パーセント!

 なのに!しかし!

 絶望してない!

 メンに余裕すら残っている!

(まさかと思うが、ラブレターを信じたのか?本気で俺と恋人になったと思って、これはただの遊びと思うのか?でも点棒は賭けてる以上それはないはず……)

 まるで沼!底のない沼!

 勝つことが約束されてるのに、逆に不気味!

 早く終わって欲しいとすら思う!

(なんだこれは……)

 沈む!

(こんな気味悪い勝負、したことない!)

 沈んでいく!

 心が!

 精神が!

 暗闇に取られ……!

(くそ!)

 ただただ……

 恐ろしい!


「はやくしてよーー」

 メンの声で、ハンターは意識を取り戻した。

 なんてことだ。

 ハンターはまだ手札すら作っていない!

(落ち着け、落ち着くんだ……)

 手札を作りながら、自分に言い聞かせる。

(あいつはただのバカだ、それしかない!それ以外ない!)

 先モロバレした山を思い出す。

(それらを待っている手札にすれば勝ち……!)

 その通り。

 先見た牌を待てば、必ず上がる。

 そして相手がノーテンなので……

 これが必勝の策……

 否の打ちどころのない策。

 そうすれば勝てる。

(迷うな!)

 進めば勝ち!そこに罠なんてない!

 やれば勝ち!

(たとえそれはわざと見せた牌でも……どうにはならない!あいつに勝つ方法はない!)

(この迷い、もやもやさえ捨てれば……勝ち!)

 牌を一個一個震えて拾ってきて、先見た牌を含めた純正九蓮宝燈を作る……

 一個一個!

 まるで手が何かに絡められてるように、作りにくい!苦しい!

 永遠のような時間が経ち、遂に……!やっと……!


「できた」

 手札を作り上げた!

(これで勝ち……)

 残りは山!

 山を積んで勝ち!

 勝利を得る!

(負けない……後は山を積んで、勝負するだけの消化試合……)

 負ける要素なんてない!

(それなのに……)

 それなのに……!

(いや、考えすぎだ、もう負けない、後は勝つだけ)

 それなのに!

 消えない!

 心の中の恐怖が!

 謎の恐怖が!

 消えてくれない!


「うん……」

 悩むフリをして、ハンターはメンの様子を観察している。

(仕掛けてくるか?)

 仮にメンに勝つ気があれば、ここで何かをやるはずだと。

 例えば牌を入れ替えるイカサマとか、ハンターが山を積む作業をする時は絶好のタイミングだからだ。

 だから悩むフリをして、メンの様子を観察するのだ。

 しかし、メンは先からスマホをいじっている。

 まるでただの退屈な女子高生……

「彼氏できたってツイートしてもいい?」

「あ?ああ、いい……多分」

「そう?じゃ彼氏とゲーム中ってツイートするわ」

(全くわからない!ツイートってなんだ!)

 ハンターはインターネットが苦手なのだ。

(くそ!全くわからない!何だこいつ!もういい!はやく勝負を……)

「あ、ちょっとタンマ、トイレ行ってくる」

 自由自在!まさに縛られない!

 手札と点棒、自分の鞄やスマホまで置いて、なんと!

 トイレに行った!

「は?」

 勝負ならぬ勝負!

 空に飛ぶギャンブル!

 見たこともないタイプの博打!

 ハンターは戸惑い、そして……

 立ち尽くすしかない!


 メンはトイレに行った!

 私物すら残して行った!

 勝負の真っ最中!ギャンブルの途中に!

 トイレに!

(逃げではない、スマホも鞄も残してる、ではなぜ……?)

 理解不能!意味不明!

(まさか……本当にトイレ?)

 疑惑!

(安全意識がないってレベルの話じゃあないんだぞ!)

 しかし今ならできる!

 ハンターの頭にある考えが浮かんでくる!

 今ならできること!

(確認……するか?)

 もしかしたら、本当はテンパイしているんじゃないのか?

 そういう疑問を払うチャンス!

 今確かめば!

 わかる!完全にわかる!

 メンの正体がわかる!

 そういう機会!チャンス!希望!

 湧いてくる!

(いや、待て)

 そこで、ハンターは自分の考えを否定した。

(俺の能力に間違いはない、それに、もしかして、あいつはわざとトイレに行くと言って……実はそこらへんに隠してるじゃないのか?)

 手札を確認した瞬間飛び出して、イカサマを指摘……

 そういう罠かもしれない!

(なら確認できない!やつが戻ってくるのを待つしかない!)

 待つしかない!

 メンの帰りを!ただ待ち続け……

 そうするしかない!


 待つ!待っている!

 メンの回帰を!

 そして、待っている時間に……

 ハンターは山を積んでいない。

 ただ待ち尽くすだけ。

(気をつけないと!今こそ油断できないんだ!さあ、はやく影から出ろ、こっちは覗く気なんてないぜ)

 その時、謎の音がした。

「……!」

 誰も喋ってないから、その音ははっきり聞こえている。

(どこからの音だ?)

 聞いた感じ、それは振動音、それも音がしたのも一瞬だけ。

 音を探り、元を辿れば、それにたどり着いた……

 メンのスマホに。


「……あれか」

 またスマホが振動した。

 しばらくしたら、もう一度……

 もう一度、もう一度、もう一度「うぜぇ!」

 流石に我慢できないハンターは、スマホを手に取った。

(名目上では一応彼氏だし、見てもいいか)

 よくない。

 よくないが、ハンターには気になって仕方ないのだ。

(せめてマナーモードにするだけでいいか)

 そう思って、スマホの画面を開いた。

 通常スマホにはパスワードを入力して開くけど、なぜかメンのスマホにパスワードが設定されていない。

 その結果、何の障害もなく開いた。

 そこに映るのは、メンのツイートに対する返信だ。

(なんだこれ、ツイートってこれのことか)

 それから、ハンターは絶句した。

 なぜ絶句したというと、見たからだ。

 そのメンのツイートに、写真が載っているからだ。

 その写真に、メンが今作った手札が映っているからだ。

「え」

 ハンターが感じた手札と同じ手札が映っている。

 ノーテンだ!


 ノーテン確認!メンのスマホによって!

 ノーテンが確認された!

 メンがノーテン!ノーテンパイ!

 テンパイしてない!

 揺るぎない事実に化した!

(……話にならない!バカ過ぎる!こんなのギャンブルじゃない!)

 スマホを置いて、ハンターは複雑な気分になった。

(いっそうテンパイに直してあげたほうが面白い……いやいや、ダメだろ)

 ため息をし、ハンターはゆっくりと山を積み始めた。

(こんな意味のない博打は初めて……)

 勝負の熱が冷めてきてるハンターだけど……

 それははっきりとした油断だ。

 例えどんなに優勢であろうと……

 勝ち可能性が百パーセントだろうと……

 まだ勝ってない時は……

 勝利とは言えない!

 必ず勝つ!

 しかし、それでも!

 まだ勝ってない!

 勝利をまだ得てない!

 終わっていない!

 絶対勝つということは、勝ったことではないんだ!

 勝負はまだ続いている!


 勝負は続く!

 そのサインとして、メンが帰ってきた!

 その様子だと、普通にトイレに行ったように見えるけど……実際そうだ!

 メンはトイレに行ってきた!

「ごめーん、待ったー?」

「別に」

「ならよかった」

 満面の笑顔を浮かんで、メンは座るけど……

「スマホいじった?」

「うるさいからマナーモードに」

「もう!勝手にいじらないでよ!」

 怒ってるように見えるが、それはスマホが覗かれたことに対しての怒りだと、ハンターは判断した。

「ごめん」

「わかればいいよ、そういえばどこまで進んだ?」

 まるでギャンブルそのものに興味がない……

 そんな雰囲気……そんな態度……

 不関心!

「山は積み終えたから、ゲーム開始だ」

「そう?ならよかった」

 ダイスを取って、ハンターはため息をした。

(これほどつまらない対局の始まりはな「私の勝ちね」い)

 ……?

「今なんて?」

 世界で一番かわいい笑顔を浮かんで、メンは言う。

「私の勝ちね♡」

「はあああああーー?!」


 メンからの勝利宣言!

 勝ちの自己宣告!

 勝ったと!

 そう言っている!

「い、いや、でも……」

(ノーテンだろ!)

 ノーテンで!

(山もバレただろ!)

 山もバレてるこの状況で!

 勝利宣言!

 自信満々の勝ち宣告!

 ありえないにもほどがある!

 しかし、メンは確かに言っている!

 勝ちだと!

 勝ったと!勝ったと!

 ここで勝つと!

 決めている!

「はやくダイス振ってね」

 勝負が暴走している!

 そして、この狂った状態で!

 ゲーム開始!ゲーム開始!ゲーム開始!

 ゲーム開始ーーーーーー!!


 起家はハンターに決めた!

 ゲームが!ギャンブルが!博打が!

 始まった!

「何をふざけている!お前が勝つわけもなかろう!」

 徹底的怒ったハンターは、心の声をそのまましゃべってしまっている。

「先行は俺だ!その山をツモれば勝つ!そのことに揺るぎはない!それに例えお前が先行しようと!」

「ノーテンでは上がれない!俺の勝ちが確定的だ!」

 喋ってはならないことまで……

「そう?」

「そうだ!」

 気分が良さそうに、メンはニコニコのままで話を続いた。

「もうかわいいね!そうだとしても……私の勝ちよ♡」

「くっ……!狂人め!死ね!点棒失ってこの学校から消えろ!俺が引いて……!」

「勝ち……!」

 引いて勝ち!

 そうだと思って、ハンターは引く!

 勝つ牌を!

 勝ちへ!

 勝ちへ!勝ちへ!勝ちへ!

「これで勝ち……!」

 勝ち!

 勝利!

 栄光を手に!

「ツモ……?」

 ならず!


 ツモならず!

 ならず!

 ツモってない!

 引いたのは白!国士無双の当たり牌!しかし!

 ハンターの待ち牌ではない!

 それどころか!そもそも!

 山に入ってないはずの牌!

 見知らぬ牌!

 世界観を殺す鬼の牌!

「白……だと〜〜〜〜〜!」

 引くべきではない!

 リアルじゃない!

 現実ではありえない!

 もしこれが本当なら……

 メンが現実を変えたとしか思えない!

 引くはずの運命を!

 真実を!

 ねじ伏せた!

 そうとしか思えない!

「バカな……白だなんて……ありえない!」

「私のターン♡」

「やっやめろ!待て!引くな!どこかがおか」

「待てない♡ツモ♡」

「なっ〜〜〜〜〜〜〜〜」

 ツモる!

「何〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 メンが牌を倒すと……

 そこには綺麗なチートイツがあった!

「こんなのありえない!どっとこかでイカサマ……」

「そうよ、でも……」

 ハンターの頬にキスをしてから、メンは背を向けた。

「そっちからやってきたことだし!」

「そうそう、物を片付けたら、後で私の家まで送り込んでね、ダーリン♡」

「ノーーーーーーーーーー!」


 ハンター完全敗北!

 敗因:メンの能力ーースーパー・エステによる牌の化粧技術!

 史上最強のエステティシャンということは!牌にすら化粧できることだ!

 適当にゲームを進める原因は、どうでもいいからだ!

 最後に!ほんの少しだけ時間があれば完了する最強のマジック!

 だから油断を誘いまくった!

 まるでバカのように振る舞って!全てはそのため!

 最後の一瞬に!そのわずかな敵が油断した隙で!

 運命を捻じ曲げた!

 メンが去った後、牌の上の化粧がゆっくりと風と涙で消えて行った。

 勝つことは変わるが、勝ったことに変わりはない!

 メン!完全勝利!

 今回の戦利品は……

 奴隷一人と百万点だ!


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