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68.カミツチの儀1

何だかあらすじが気に食わなかったのとタイトルが適当じゃなかったなって思ったから改題&修正しました。


 カミツチの儀。グランドカノンの大岩を登り、その頂で大神から加護を授かる儀式。挑むのは資格を得た若者達。今回カミツチの儀に挑戦する俺たちは、朝日も登るか登らないかという時分に大岩の入り口前に集合させられていた。


「——よって、我ら土守の民はこの伝統を守り、受け継いで来たのであって——」


「おいおい族長!いい加減聞き飽きたぞ!普段はもっと簡単に終わらせてるじゃねーか!」


 ミカエラの横で、イライラしていたらしいクレスが言うと、集まった聴衆から小さな笑い。トマは一瞬悲しそうな顔をする。多分、光の御子であるヴィスベルが参加するから気合を入れたのだろうが……年長者の長話が退屈なのはどこの世界も似たような物らしい。


「仕方ないのぅ。此度は里外の人間や2度目の挑戦となる者が数名おる、中々珍しい年であるが、例年の如く、勇猛果敢に試練を駆け抜ける者が現れること、大いに期待しておる。では、これよりカミツチの儀を開始する!」


 トマの宣言で、カミツチの儀の幕が開けた。俺とヴィスベルは、聴衆の中にいたフレアやミラ、カウル達に手を振って、口を開けている岩の入り口に歩を進める。


「トマさんの話、長かったですね」

「本当にね。試練の前から疲れたよ」


 ヴィスベルとそんな事を囁き合って、俺たちは決められた場所に並ぶ。予め決めた順番によれば、ヴィスベルが最初で、俺が最後だ。


「ヴィスベルさん、ご武運を」

「ああ、ミカエラの方も、頑張って」


 そんな声を掛け合って、俺たちは別れて自分の場所に向かった。

 最初にヴィスベル、次に里の青年、その次にクレス、そしてキーニ、里の少女、マルベルが続き、カノンが穴に消えて行って、ついに俺の番が来た。


 グランドカノンの大岩の大岩を登る、と言っても、別にロッククライミングをする訳ではない。大岩の根元に空いた大きな穴から中に入り、その中を通って最上部である『フェテラスの母屋』という場所で大神達から加護を貰って帰ってくるというのが、カミツチの儀の概要だ。

 その内部は神の力で空間が歪んでいるらしく、何やら複雑な迷路のようになっているらしい。何でも他の挑戦者と出会う事はほぼ無く、自分の身一つで迷宮を攻略する必要があるとの事だ。無理だと思ったら予め待たされた小さな神像に祈れば入り口まで一っ飛びだそうだから、少なくとも帰って来れない心配はなさそうである。


 早速岩の中に入ると、そこは、不思議な空間だった。岩の中のはずなのに、心地よくそよぐ風を感じる。見回すと、いつの間にか周囲を色とりどりの草花に囲まれていた。その美しい光景に見惚れていると、どこからか優しげな声音が響いてくる。


『あらあら、懐かしい気配がすると思ったら。そう、あなたが命の愛子ね?』


 音の源を探すと、咲き乱れる草花に紛れて、人影があった。その人影は、明らかに草花とは違っていた筈なのに、意識しなければ気付かない程自然に草花の中に溶け込んでいた。

 否、彼女が溶け込んでいたのではない。この咲き乱れる草花、それ自体が彼女の一部分なのだ。俺は直感的にそれを悟った。元々自身の一部なのだから、溶け込むも何も、そうあるのが自然なのだ。


 そこに立っていたのは、頭に黄金のティアラを頂く、濃い金の髪の女性。ゆったりとした浅緑の衣を纏い、そのエルフ然とした長い耳には不思議な光沢の耳飾りが輝いている。そこから感じられるのは、アニマ・アンフィナや火の大神を相手に感じたのと同じ、圧倒的な神威。


「あなたが、アニマ・フェテリ……?」

『ふふ、ええ、そうよ。私が豊穣を司る大地の大神。そして、あなたに試練を授ける者よ』

「試練?」


 柔和に笑うアニマ・フェテリ。彼女は、近くに咲いた花を一つ一つ指差しながら、言葉を続ける。


『あなたには……そうね、忘れな草の路がお似合いかしら?』


 アニマ・フェテリが手に取ったのは、周囲の他の花と比べて一回りほど小さな青い花。小さいながらも鮮やかな青を振り撒くその花は、一目見ればずっと記憶に残り続けそうな鮮烈さを持つと同時に、どこか必死そうな印象を受ける。


『其れは忘却を嫌う者。忘れなかった数だけ、汝の道が拓かれる。豊穣の源を注いだ数だけ、あなたは実りに恵まれる。道標には……小さく愛しい、青の小花をあげましょう』


 アニマ・フェテリが告げると、俺の目の前を鮮やかな青色の旋風が覆い尽くす。その青が消え去ると、そこにあったのは先ほどまでとは似ても似つかぬ岩肌の洞穴。光源はどこにもないが、不思議と細かい所までよく見える。


 そこに満ちている空気は、フラグニスの竃でアニマ・フィブに連れられて足を踏み入れた神界に近いだろうか。きっと、神々の力が強く影響している場であるに違いない。


 手の中に何かの感触があることに気付いて目を落とすと、俺はいつの間にか、先程アニマ・フェテリが手に取った青い花を握りしめていた。道標、と言っていたからには、何かのヒントになりそうだ。俺はそれをとりあえず懐に仕舞い、ううむ、と腕組みをした。


「何も分からないまま放り出されてしまった」


 ヒントになりそうなことといえば、最後にアニマ・フェテリが言っていた言葉くらいか。


「忘れなかった数だけ、汝の道が拓かれる……。あと、豊穣の源に触れた数だけ実りに恵まれる?」


 口の中で転がして見るが、よくわからない。


「……とりあえず、一本道みたいだし歩くかぁ」


 一人でちょっと寂しくなったのを大きめの独り言で打ち消して、俺は歩き始めた。


 違和感に気付いたのは、数十分ほど歩いた頃だった。


 いつまで経っても同じような道が続いていて、一向に進んでいる気がしないのだ。退屈を紛らわせら何度々通路の端に見える青い花の数を数え始めたのはいいが、こうも変化がないと退屈を通り越して拷問である。


「ていうか、さっきから花があるのも片側ばっかりだし……。この感じ、昔やったRPGで経験あるな。フラグ回収しない限り延々同じ所歩かされるってやつ」


 なんだか嫌な予感がしたので、目印がてら明るい導の光を設置する。そのまままっすぐ歩いていくと、ほんの数分足らずで、初めて通るはずの目の前に自分が設置した光源が浮いているのが見えて来た。


「うへー、マジかぁ……」


 どうやら予想が当たってしまったらしい。しかし、分かれ道があった訳でもなく、まっすぐ歩いているだけだったのでどんなフラグを回収しそびれたのか皆目見当も付かない。道中で見かけたものと言えば、延々続く岩の壁と先程設置した光源、あとは貰った花に似た青い花くらいだが……。


『忘れなかった数だけ、汝の道が拓かれる』


 ふと、アニマ・フェテリの言葉を思い出す。もしかすると、忘れなかった数、というのはこの花の事を指しているのかもしれない。だが、覚えているというだけなら花を見た回数くらいは退屈に任せて数えていたし、そういう事ではないのだろう。


「置き忘れ、とか言うよね?」


 もしかして、と、俺は道の隅に生えていた小さな花に手を伸ばす。その花に手が触れたかどうかという所で、小さな花は小さな無数の光になって消えてしまった。その小さな光は、ふわふわと俺の懐に吸い込まれていく。丁度、さっき手元にあった花を仕舞ったあたりだ。


「お、正解っぽい?」


 取り出すと、花は微かに青い燐光を纏っている。きっと、これで道が開けた筈だ。


 再び花を仕舞って歩き始めると、変化は思いの外あっさりと見つかった。


「こんな所に横道なんてなかったよね」


 それまで真っ直ぐだった道に、知らない横穴が増えていた。どうやら、このダンジョンは通路のどこかにある青い花を見つけて先に進むという形式らしい。


「ふーん、何かゲームみたいで楽しいじゃん」


 俺は、とっくに忘れ去ってしまっていた童心を思い出して、ちょっとテンションが上がった。


「都合6回くらい世界を救った勇者様のダンジョン攻略能力を舐めるなよ?」


 言っていてちょっと痛い感じもしたが、今この場には俺しかいない。完全に勇者様の頭になった俺は、意気揚々と次の花を探す冒険に旅立った。




 嫌らしい隙間に生えていた花や、奇を衒って見上げなければ分からない天井の窪みにあった花も回収し、俺は順調に歩を進めていた。


「さて。どうしよう」


 目の前には、まだ咲いていない花の蕾。つついてみるが、うんともすんとも言わない。辺りを探しても水辺くらいしかなく、進める場所が他にない。


 水辺の水は底まで透き通って見えるほど綺麗な物で、水面にはいくつか花が咲いている。しかし、咲いている花は道標と言われた青い花ではないので、きっと触っても意味はないだろう。というか実際触っても何も起こらなかった。水に落ちそうになってまで頑張って手を伸ばした俺の努力を返してほしい。


「宝箱とか落ちてないかなって分岐は全部調べてるし、ここで何かするんだろうけど。ゲームだったら、もうヒントがある筈だよね。うーん、何かヒントになりそうなやつは……」


 ——そういえば、女神様が『豊穣の源を注いだ数だけ、あなたは実りに恵まれる』とか言ってたような?


 刹那、閃き。まだ蕾で咲いていないというのなら、水をやれば咲くのでは?


 思い立ったが即行動、俺は水辺に近付くと、ナイフを抜いてその先端を水面に浸ける。


「《浮揚の輪》」


 それは、以前には馬車の揺れを何とかするために使ったり、それ以降も度々使う機会があった、物を浮かべるだけの魔法。


 術式も簡単で制御も容易、効果も地味とコストと労力に見合った性能の魔法であり、まぁ普通にそれなりに便利に使えてしまう魔法な訳だが、成長した俺の手にかかれば更に便利な魔法になる。


 俺は水に浸けたナイフの先に集中して、ナイフの先に小さな風船を作るイメージで魔法を起動する。そのままナイフをゆっくりと水から引き上げると、ナイフの先端部にはとぷん、と拳大の水球が出来上がっていた。


 そう、以前は固形物以外を浮かせる事ができなかったこの魔法で、なんと形が不安定な液体を浮かせる事が可能になったのである。これは非常に革新的な技術だ。ジャンルとしては実用性度外視の奇術に当たるかもしれないが。


 いや、実際、今、現在進行形で役に立ってるし、水を運ぶのに器がない時には全然使えるから実用性も兼ね備えていると言っても過言ではないかもしれない。いやはや、自分の才能が末恐ろしいぜ。


「いやぁ、今度大道芸でやろうと思って練習してたのが、まさかこんな所で役に立つなんて。これぞまさしく、芸は身を助ける、って奴だ」


 軽口を叩きながらナイフの水を蕾の元まで運搬し、優しく上からかけてやる。すると、水を被った蕾がふんわりと綻んで、青色の小花が開花した。


 開花した花をちょんと触れば、それはこれまでの花と同じように光になって俺の持つ花に吸い込まれてゆく。


 そして、光が消えた直後、先程水を汲んだ水辺の方で微かな音がした。そちらを見れば、水辺の先に新たな道が開けているのが見える。


「よし。これで先に進めるな」


 そこからの道のりも、多少工程が増えただけで花を集めて進むだけだった。複数の花を集める場所や、全ての花を集める前に道が開けた場所、違う種類の花に水をやらないと進めない場所など色々あったが、どこも順調に突破できた。お陰で自尊心と自己効力感は現在カンスト中である。


 そんな道を、どれくらい進んだ頃だろうか。俺は、それまでとは雰囲気の違う小部屋にたどり着いた。


 小部屋。そう、小部屋である。これまでは洞窟という風情で、あくまで岩に空いた自然の洞窟を探検しているようだったのに、そこは人の手が入っている事が見て取れる、確かな部屋であった。


 煉瓦造りの小さな石室。最奥には傾いた天秤。天秤の片側には、もはや見慣れた青い花が乗っている。これまで見てきた花と違っているのは、花がうっすらと光っている事か。その光からは、俺の手元にある花が放っている光と同じ気配を感じる。


 もう片側は空だが、察するにこの花を置けという事だろう。逆に、これ以外に置ける物もないのだが。


 花を置くと、天秤はゆっくりと水平に釣り合った。


『見事です。先へお進みなさい。フェテラスの母屋で会いましょう、命の愛子。あなたに地脈の結晶を授けましょう』


 入る時にも聞いたアニマ・フェテリの声。「地脈の結晶?」と初めて聞く単語に首を傾げた直後、天秤が眩く輝き始める。そのあまりの眩しさに、俺は思わず目を閉じた。

コメント、マイリス、評価等々お待ちしております。

ミカエラさんも多分待ってると思うのでみんなどしどし送っちゃって下さい。

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