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59:土守の里2

三日連続更新です。

連続更新はもう少し続きそうです。

時間さえあればもっと書くのに。

「お父様。光の御子様と御一行がいらっしゃいましたよ」


 キーニが朗らかな笑みと共に部屋に入る。キーニの後に続いて部屋に入ると、中に広がっていたのは何か祭具のようなものでごちゃりとした汚部屋。その中心には、何か壺のようなものを磨く、カーキ色のシャツと緑のズボンという装いの壮年の男が一人。白髪まじりの黒髪は、キーニと似た色合いで、彼がキーニの父親である族長なのだろう。彼はこちらを見向きもしないで、大きなため息を吐き出した。


「……キーニ、お前はまたそのような。先日大神様より神託を賜ったばかりだと話したろう。言って良い冗談と悪い冗談があるぞ。全く、中央の学園にやらせたのは間違いだったか?」


 呆れ果てたように言う彼に、キーニは困ったように「あはは」と笑う。


「お父様、さしもの私だってそれくらいの分別はございます。正真正銘、嘘偽りなく、光の御子様がいらっしゃったんですよ。……大神様の加護を持たない私にはともかく、お父様なら分かるでしょう?」


「む?」


 そこで初めて、男がこちらを向いた。髭を綺麗に剃り上げた、職人気質の気難しそうな顔。キーニの繊細な雰囲気とは真逆で、豪快さに振り切ったような顔付きである。


 男は訝しげにキーニと、その後に続いて部屋に入った俺たちを見て、はっとしたように目を見開いて立ち上がった。


「おお、おお!その身より迸る大いなる力の奔流!正しく大神様のお力に相違ない!ぬおおお!御神岩の導きに感謝と祈りを捧げますぞ!」


 拳と拳を叩きつけるような勢いで合わせ、男が頭を垂れる。その勢いに気圧されて思わず後ずさると、背中が何かにぶつかった。


「あたっ!」

「ご、ごめん、ミラ。大丈夫?」


 いつの間にか俺の背後に隠れようとしていたミラにぶつかってしまったらしい。ミラはそのまま倒れてしまったのか、尻餅をついた姿勢で腰をさすっている。俺はミラの手を取って引き上げ……られなかったので、そのままミラが立ち上がるのを手助けする。ミラは「ありがとう」と俺の手を引っ張って立ち上がり、そのまま俺の半歩後ろに収まる。怪我が無さそうだったことにほっと胸を撫で下ろして、俺は再度、男の方に向き直った。


「お父様、子供が怯えてしまいます。皆さま、こちら私のお父様……族長のトマです」


「いかにも。わしはトマ。この土守の民のまとめ役を任されておる。こちらは娘のキーニだ」


「改めまして、族長の娘、キーニと申します」


「あぁ、はい。僕たちは——」


 仕切り直して、俺たちは族長、トマに自己紹介をする。トマはうんうんと頷きながら自己紹介を聞いていたが、それが終わると、トマはニカッと豪快な笑みを浮かべた。


「うむ!して、光の御子よ。もはや用件は分かりきっていようが、こういうのはやはり形式が大事と思う。ので、改めて問おう。何ゆえ、この地に参られたのか?」


「父はこう見えて勇者アスラの伝説が大好きなんですよ」


「むぅ、キーニ……」


 すかさず補足するキーニに、トマがぶーたれた風に顔をしかめる。その様子がなんだかおかしくて、俺たちは顔を合わせて笑ってしまった。


 ますます不服そうな顔を強めるトマに、ヴィスベルはこほん、と小さく咳払い。気を取り直して、言葉を続けた。


「ええっと、僕たちは、今、大神から加護を授かるための旅をしてまして」


 ヴィスベルの言葉をほとんど遮るようにして、トマが「うむ、うむ!」と大きな相槌を打つ。「それで——」と続けたヴィスベルのセリフに被せるように、トマがその先を引き継いだ。


「それで、この土の大神様のおわすこの地に来られたのですな!ええ、ええ!ちょうど、この塔の三階、四階に空き部屋もいくらかあります。どうぞ、加護を授かるまではここに滞在してくだされい!」


 まだ何も言っていないというのに、とんとん拍子である。鼻息荒く言い切ったトマは、次のヴィスベルの言葉を今か今かと待ち構えているようにさえ見える。


「はい、それで、加護を得る方法なのですが……」


 と、今度はヴィスベルが最低限のことを言い終えるよりも先に、トマがうおお、と雄叫び。


「今は丁度良い時機ですぞ、光の御子殿!つい数日後より、里の民が大神より加護を賜る儀式があるのです!それに参加しては如何かな!?うむ、うむ!それがいい!ではすぐにでも儀式に臨むための資格を得る必要がありますな!では、キーニよ。わしは光の御子殿を試練の間に案内せねばならん。残りの客人たちに、部屋の場所や、なんなら里の中を案内して差し上げなさい!」


 言い切るや否や、トマは信じられない俊敏性でヴィスベルの腕を掴み、部屋から出ていく。「ちょっとぉ!?」というヴィスベルの驚き声がドップラー効果を伴ってみるみる遠ざかっていくのを聞いて、俺はぽかんと大口を開けていることしかできない。


「あのオッサン、途中から一人で話進めやがったぞ?」


 ようやく現実に復帰できたのは、カウルのそんな一言があってからだった。


「……まぁ、よっぽど嬉しかったんでしょうね。御伽噺の当事者になれるのが」


 もはやそんな感想しか思い浮かばない。キーニは勇者アスラの伝説が大好き、と言っていたが、あれはもう大好きの枠に収めていいような情熱ではない気がする。


「すみません、うちの父が。恥ずかしい所をお見せして……」


 キーニは自分の父の奇行に頭痛を覚えたのか、やれやれという様子で、片手で目頭を揉んでいる。俺は、バン(おとうさん)が同じことをしたら、と想像してみて、すぐにそれを後悔する。心中、お察しします。正直、このキーニという女性はちょっと苦手だったのだが、少しだけ同情する。


「ええ、父もああ言っていましたし、部屋に案内しますね。……少し前からあの調子の父に言われて、四、五部屋ほど物置になっていたのを泊まれるようにしてありますので……」


 すっかりげんなりした風なキーニの言葉に、今度は少し罪悪感。ていうかあの人、いつ来るかもわからない光の御子のために部屋を開けて置いたのか?大好きのレベルを超えてて怖いくらいなんだけど。



 キーニに案内された部屋は、どこも結構広い、いい部屋だった。特に内装に差がある訳ではなく、どれも簡素な机と木のベッド、あとは外衣掛けがあるシンプルな部屋。部屋割りについても適当でいいだろうと言うことで、俺、ミラ、フレアが三階の部屋を。ヴィスベルとカウルが四階の部屋を、それぞれ一部屋ずつ借りる運びになった。一人一部屋が割り当てられるのはこんな旅だと結構少ないのでちょっとテンションが上がる。


 各人で自分に割り当てられた部屋に荷物を置くのに、一旦解散する。


「しっかし、元気がいいというかなんていうのか」


 先程のトマの勢いを思い出して、少し笑ってしまう。……そう言えば、あんな風な楽しい感じは、久々だったかもしれない。少し神樹様で待つ両親やビアンカ婆さん、枝の民達の顔を思い出して、かすかに胸が締め付けられるような感覚になる。


「ホームシック、かなぁ?」


 ベッドに寝転がり、そんな言葉を転がす。ミカエラは、まだ12になろうかという幼子だ。神樹様を降りて数ヶ月、そろそろなってもおかしくない。


 ——いや。ミカエラが、ではなくて。俺が、寂しく思っているんだろうな。


 一度死んで、この異世界に生まれ直した。ミカヅキとしてのアイデンティティなんて、もはやこの心だけ。それだって、こうしてミカエラとして生きている今、どこまでミカヅキであると言えるのか。


 元の世界が恋しくないかと言えば嘘になる。恋人も、家族も、友人さえも少ない前世だったが……。いや、だからこそ、だろうか。その少ないつながりが、もはや自分の手の中にないことが、この上なく心細く感じる。


 ごろりと傾けた視線の先に、布が被せられた何かが見える。ベッドから降りて、なんとなくその前に立ってみる。てっぺんに手が届かないくらい大きな物体。でもそれは、同年代の中でも小柄なミカエラだからこその感覚で。そっと覆い布に触れると、それはすとん、と呆気なく外れる。


 その下にあったのは綺麗な一枚の大鏡だった。鏡の中に、きょとんと首を傾げた銀髪の美少女が見える。その銀の瞳と目があって、一瞬惚けてしまって。そしてようやく、それが自分(ミカエラ)の姿だと思い出す。


「不意打ちが来ると、やっぱりまだすぐには分からないな」


 俺が苦笑すると、鏡の中の少女も苦笑する。その姿は、到底自分(ミカヅキ)のものとは思えなくて——


 ——自分がどうしようもなく、自分(ミカエラ)なのだと。自分(ミカヅキ)ではないのだと。理解するしかなかった。



 旅装よりはいくらか過ごしやすい普段着に軽く着替えて、旅装には浄化の魔法をかけておく。そして、魔導書の確認や、念のため武器の手入れ。一応魔導書と武器を取り付けたベルトだけを上から装着して、俺は一階の広間に向かった。


 俺が降りた時には、広間ではヴィスベル以外の全員が揃って談笑している所だった。ミラは、この短時間でキーニと打ち解けたのか、出会ったばかりの人見知りが嘘のように和気藹々と話している。フレアとカウルは、それを見守りながらたまに口を挟むような感じのようだ。俺が降りて来たことに真っ先に気付いたらしいミラが目が合うや否や大きく手を振ってくれた。俺は、それに笑顔で応じ、手を振り返す。


「ミカ!遅かったね。疲れとか出たかなって心配したよ?」


「それは、悪いことをしましたかね。ちょっと、着替えたりとかしてただけですよ。ずっと旅装だと気が安まりませんからね」


 旅装は、確かに外を出歩く分には暑いとか寒いとか雨風とかにも対応できるし、魔物と戦う時には防御力の面からしても便利だ。先日新調した旅装とかだと急所を守れるようにちょっと良い素材を使っていたりもするので、尚更その面が強い。通気性もまぁまぁ良いし、着ていて快適ではあるのだが……やはり、普通の服の方がリラックスできる。


「あー、それはそうだね。私がミカヅキと旅してた頃よりも着心地が良いから忘れてたや」


 言われてみれば、フレアの方はいつも街で休む時のラフな服装に着替えているが、ミラは旅装のままである。


「俺は鎧の方が落ち着くんだよな」


 カウルは、いつも上から羽織っている外套とバックパックだけを仕舞ってきたのか、軽装鎧に盾と剣、というテンプレートなベテラン冒険者装備で立っている。それが様になるのがまたちょっとムカつくんだよな。


 俺も元の姿なら、そういうちょっとかっこいい系の装備もしてみたかったが……。いや、体格がそんなに良くなかったからやってみてもここまでは似合わなかったかもしれない。やっぱりちょっとムカつく。


「それで、これからどうします?……ヴィスベルさんとトマさんはしばらく帰って来なさそうですよね」


 行き先も告げずにさっさと出て行ってしまった二人……というか、トマとそれに引っ張られていったヴィスベルだが、試練に挑むための資格がどうの、と言っていたから結構時間がかかる筈だ。まさか、大神の試練に挑むための資格が簡単な書類仕事だけで手に入るはずもあるまい。


「まぁ、流石に夕食の時間には戻ってくると思いますけど……」


 すっかり遊びに行った子供に対するノリで、キーニが言う。この世界の一般的な夕飯の時間が日の入り前後であることを考えると……今が昼過ぎだから、結構あるな。

 大まかな時間を概算していると、キーニがそうだ、と手を打った。


「せっかくですし、父も言っていた里の案内でもしましょうか。私としては、外の状況をいくらか知りたい所ではありますけど」


「外の。キーニさんは里の外にも興味あるんですか?この辺は、あんまり外との関わりが少なそうですけど」


 ちょっと意地悪な言い方になってしまったかな、と言ってしまってから思い当たる。いや、でも、聞く限りではあんまり外交的な里って感じもしないし、気になったのは事実。反応が悪ければ謝ろう。

 俺の懸念とは裏腹に、キーニはあまり気にした様子ではなく、ほんのちょっぴり苦笑する。


「まぁ、ね。里の人達は大体みんな、ここで自分達だけで暮らせればそれで良いって思ってるみたいだけど……。やっぱり、それだけでは生きていけないもの。最近、一番近くのマルバスとも連絡が途絶えていたから余計に気になるのよ」


「マルバスと連絡してたんです?」


「ええ。マルバス・ギルドに友達がいてね。気の良い子で、ちょっと抜けてるんだけど、連絡だけはこまめにしてくれてたから……」


 確かに、それは心配にもなる。実際、マルバスはちょっと前まで病魔のせいで大変なことになってた訳だし。いや、病魔の影響が残ってるって意味では今も大変だろうけど。何て伝えたらいいんだろう?

 悩んでいると、キーニはつとめて明るい顔で手を叩いた。


「って、私のことは別に良いわよね。せっかく外から来たお客様だし、里のいいところをいっぱい知って貰いたいわ。できれば、その案内のお礼に、夕食の時とか、その後にちょっとだけ外の話を聞かせて貰えたら……」


「べつに、お礼とかじゃなくても知ってることなら何でも話すよ!」


 ミラの言葉に、俺達は全員で頷いた。


「ミラの言う通り。私達もキーニに色々聞くんだし、キーニも私たちにたくさん聞いて。答えられる分には答えるから」


「別段隠すような話とかも無いですしね。ね、カウルさん?」


「あ?まぁ、そうだな。お互い聞きたいことを聞いたらいいんじゃないか?」


「皆さん……!ありがとうございます」


 キーニは一際の笑顔を浮かべ、今度こそ、屈託のない笑い顔で手を叩いた。


「それじゃあ、主要な所から案内しますね!今は、カミツチの試練、ひいてはカミツチの宴に向けて、皆賑やかにしているところですから——」



 俺たちは、キーニの後に続いて、土守の里へと出掛けた。

土守の里編、はじめました。


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