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42.帰還

ブックマーク300超えたヤッター!

「はー、『蠱毒の白』ねぇ……。厄介な事になってたもんだ」


 白蛇……『蠱毒の白』討伐から少しした。ヴィスベル達の近況報告を聞き、ディレルが呟いた。俺はうんうんと首肯する。現在位置は、黒色バジリスクを倒した高台。


『蠱毒の白』討伐を知らせるための発煙筒を焚くのにあの地底湖のフロアは不適だったからだ。今は発煙筒を背後で焚きながら、ディレルが持っていた『携帯焚き火』なる魔導具を囲んで暖を取っている。魔石とかを使うのは勿体ないので、魔力が有り余っている俺の魔力を注いでいる。


 死体をあのフロアに放置してしまっているが、やはり少人数で中に残るのは危険だというのと、誰かがあのフロアまで案内しなければならない事を考えて皆で高台まで戻ってきた。洞窟から外に出ると、空は僅かに白んできている時分だった。


「やー、まさか名前付き(ネームド)になるような魔物がいるなんて……」


 名前付きと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、いつぞやに相対した『隻眼の紅』だが、隻眼の紅にせよ蠱毒の白にせよ、ギルドが危険視するレベルの魔物である事には違いない。そんな魔物から生き延びられた事に、俺はひとまず胸を撫で下ろした。


「ミカが突然吹き飛んじゃうし、ディレルさんまで落ちていって、私、本当に心配したのよ?」


 フレアが、普段の定位置……俺の隣で、俺の髪を手で梳きながら言う。フレアはどうも、こうして俺の髪を梳くのが好きらしく、野営などで焚き火を囲んで話すときはしばしばこうしてくれる。これが結構気持ちいい。


「あーしはその辺知らないっスけど、無事に合流できてよかったっスねぇ。仲間と逸れるのは冒険者の死因の第二位くらいっスし」


 言いながら、拳闘士、リーが、フレアの反対側で俺の髪を引っ張る。フレアが俺の髪を梳いているのを何やらそわそわしながら見ていたので許してみたが、手つきに繊細さが足りない。ていうか少し痛い。


「ごめん、リー。もう少し優しい感じがいいかな……」


「ありゃ。ごめんっス。こんなもんスか?」


「あ、うん。大分良くなったかも」


「すみません、ミカエラさん。うちの娘が……」


「いえいえ、大丈夫です。減るものでもありませんし」


 申し訳なさそうなシーラに答えると、「それで」とヴィスベルが口を開いた。


「ミカエラ達の話も聞きたいんだけど、改めて、その子……ミラについて、聞いてもいいかい?」


 その言葉で皆の目が俺に、正確には、俺の斜め後ろに座るミラの方に向けられた。俺は両脇の少女二人に頭を固定されているのでミラの方は向けないが、緊張からかミラが僅かに身動ぎした気配がする。


「私も軽く聞いただけだから詳しくは本人から聞いて欲しいんだけど……」


 そう前置きして、ミラと出会った時のこと、ミラが話してくれた事を、途中ミラの補足が入りながらも伝える。皆はにわかには信じがたいという様子だったが、話した内容自体を疑う気は無いらしい。思い思いの表情で頷いている。


「とりあえず、ミラについてはメタルジアに戻ってから考えよう。……ギルドの回収班が来てくれたみたいだ」


 そう言ったカウルの視線の先に目をやると、大きな担架のようなものを担いだ冒険者達が高台に上がってくる所だった。





 その後は何かアクシデントが起こる事もなく、無事に『蠱毒の白』の死体を担いで野営地に戻ることができた。


 野営地に着いた頃には東の空が朝日で真っ赤に燃えていた。何気に異世界初日の出である。ミカエラは何度か見た事もあった筈だが、神樹様の上から見ている訳ではないからかとても新鮮に感じられる。その暖かく眩しい光に目を細めていると、「ほら、行くっスよー」とリーに背中を押された。


「レビィに報告行かなきゃなんスから、あんまりぼーっとしてないで行くっスよ」


 気が付けば、ミラもヴィスベル達に続いてテントの中に入った後だったようで、テントの前には俺とリーだけが残っていた。


「いやー、私は別に良いかなー、とかって。ダメ?」


「ダメっスね」


 現実逃避を試みた俺を、リーの無慈悲な言葉が打ちのめす。俺はがくりとうなだれた。何となくあのレビィって職員、苦手なんだよね。初対面がちょっとアレ過ぎて苦手意識を持ってるだけかもしれないんだけど……。あの見咎めるような鋭い目を思い出して、俺は思わず背筋が震えた。


「私あの人苦手なんですよね……。怖いといいますか、なんといいますか……」


「怖い?レビィがっスか?」


「私がちょっとミスしたんだけど、すっごい睨まれまして……。あの空気はもう二度と経験したくないです……」


「んー?ああ、多分お仕事モードの時に話しかけたんスね。大丈夫っスよ!ちゃんと報告したらイメージ変わるっスから!」


「えぇ?ほんとですか?」


 からかわれているのでは、とリーの顔を見ようとしたが、その暇もなく背中を押され、俺は皆に続いてレビィのテントに足を踏み入れた。


 シーラ、ディレル、ヴィスベルの三人を手前に。残りはその後ろに並ぶ形で整列。代表して、シーラが白蛇討伐の報告を始める。レビィは目の下に大きなクマを作っており、その眉間に刻まれた不機嫌そうな皺と相まってかなりの迫力である。やはり怖い。


「……そして、大空洞に逃げ込んだ『蠱毒の白』が向かった先で、行方不明になっていたディレルさん、ミカエラさんの両名と合流。協力して蠱毒の白を討伐しました。報告は以上です」


 シーラが簡潔に報告を終えると、レビィは「うむ、ご苦労」と良く通る声で返礼した。何かの書類にペンを走らせていたレビィが、羽ペンを置いて立ち上がる。


「君達の働きで、バジリスクの番や名前付き(ネームド)『蠱毒の白』の討伐は恙無く完了した。正式な報酬は後日、査定の後にメタルジア・ギルドから支払われる事になる」


 レビィは机の横を通り、俺たちの前に立ち、じろり、と俺たち全員を見回した。俺は思わず直立不動の姿勢をとる。レビィは一通り俺たちを見回すと、少し明るい表情で何度か頷く。その時突然、「ふわぁぁぁ……」という、気の抜けたような奇声が響いた。ため息のようなその声が、嫌に響いて聞こえる。


 レビィの前で一体誰がこんな真似を、と俺は続く叱責の声を想像して身を震わせて……果たして、予想したような叱責は、飛んでこなかった。


「皆さん、お怪我はありませんでしたか?医療班のテントがありますから、少しでも調子が悪くなったらすぐにそちらに言ってくださいね。あ、それより、夜通しの討伐依頼でお疲れですよね、今、仮眠室の用意をさせていますから、ゆっくりとお休みになってください……」


 どころか、聞き覚えのない第三者の声が聞こえる。誰だと思ってその声の主を探す。果たして、その声の主は、おどおどとした雰囲気の女性だった。


 小柄な黒髪の女性で、中々立派な胸元には銀羽の勲章が燦然と輝いている。目元は少しツンとしているものの、その雰囲気はそれとは真逆で、どこか小動物のような雰囲気を纏っていた。


 ……いや、待って。理解が追いつかない。


「……レビィ、さん?」


 いち早く現実に復帰したらしいヴィスベルが、恐る恐るといった様子で女性に話しかける。女性、レビィは、きょとんと可愛らしい仕草で首を傾げると、「はい?」と間延びした声で応じる。


「驚きますよね……」


 何やら訳知り顔で、シーラが呟く。


「私達はレビィちゃんとは付き合いが長いんだけど、彼女、仕事のオンとオフが激しくて……」


「シーラさん、そういうこと言います?私だって、一生懸命やってるんですよ?冒険者の方ってとっても怖いのに、副ギルドマスターなんて言われて……」


「それは、レビィちゃんの実績が考慮された結果ですもの。実際、ちゃんとお仕事できてるでしょ?」


「ですけどー……」


 もー、と可愛らしい膨れっ面をしているのは間違いなくあのレビィで、しかも信じがたいことにアレが素であるらしい。


「今でも緊張すると固くなっちゃうし、他の冒険者の方もピシピシした態度で余計緊張するし……ともあれ、皆さんに怪我がなかったようで良かったです。えっと、ミカエラちゃん、だよね?蠱毒の白に襲われて谷底に落ちたって聞いたけど、大丈夫だった?」


「えっと……はい。なんとか……?」


 心底心配そうに俺の顔を覗き込んでくるレビィが、先日と同じ人間であることが信じられない。もう顔の形からして違うような気さえする。


「最初見て、こんな小さい子が冒険者なんてって凄い心配だったんだけど……ちゃんと立派に冒険者なんだね。お疲れ様」


 そう言って、レビィが俺の頭を優しい手つきで撫でた。少し腰が引けたような撫で方でくすぐったいが、まぁ、悪い感触ではない。


「それでは、私はギルドに提出する書類を作成しなければなりませんので……。ところで、そちらの女の子は?」


「えっ、あっ、私……」


 俺の頭を撫で終えて、レビィの目がミラに向いた。ミラはやや人見知りのケがあるのか、小さくなって俺の背中に隠れようとする。……まぁ、ミラの方が大きいから隠れられてはないんだけど。


 何と説明すべきか悩んでいると、カウルが「あぁ」と口を開いた。


「ディレル達が大空洞に取り残されてるのを保護した。何でも、呪いで石にされていたらしい」


「呪いで石に、ですか?俄かには信じがたい話ですが……まぁ、前例が無いわけでもありませんし、今回の事とは関係も無さそうですね。分かりました、一応報告書には記録します。その事について詳しい聴取が行われるかもしれませんので、その時にはご協力をお願いしますね」


 言って、レビィは俺の背後に隠れようとするミラににこりと微笑みかけるが、ミラはすっかり人見知りモードで反応しない。ていうか、そんなの前例あるんだね。流石ファンタジー。


 俺が感動していると、テントの向こうから「失礼します!」と威勢の良い声が響いた。ガタイの良い冒険者が、中に入ってくる。


「仮眠室の用意が整いました!」


「ご苦労。……あぁ、すまないが、ベッドの方をもう一つ組み立てて貰えるか?一人増えたのでな」


「了解です!」


 勢いよく返事をした冒険者が外へ出て行くと、レビィは椅子の方に戻り、机を挟んで俺たちと対面した。


「ここでの話は以上ですね。それでは皆さん、ごゆっくり休まれてくださいな。明日の……いえ、今日の昼頃には皆様をメタルジアに送り届ける馬車を手配しておきますので」


 その言葉を最後に、俺たちはレビィのテントを後にした。






『ねぇ。あなた達、旅をしているんだよね。私も連れて行って。できることなら何だってする。役に立てるように頑張る。だから、お願い。もう此処にはいたくないの』


 誰かの声が聞こえた。


『お前さん、その身体……随分と厄介な呪いに蝕まれておるようだな?魔晶の民に生まれ、それほどの呪いを身に受けるとは……興味深いな』


 嗄れたような声が聞こえた。古いフィルム映画のような、色褪せた景色が見えてくる。掠れて見えないその景色には、三人の人影があるように見えた。


『……俺たちは、命の女神に会う為に旅をしている。君が付いてくると言うなら……俺は、止めはしないさ。……ここは、君には居心地が悪そうだ』


 景色が暗転する。


『ねぇ、ミカヅキ。私の呪いは解けるのかな。もっと、ミカヅキと旅をしたいよ。ミカヅキと一緒にいたい。みんなで笑いたい。……何で、私はこんな身体に産まれちゃったのかな』


 誰かの泣き顔が見えた。水晶の瞳からは、透明な涙がこぼれ落ちている。その涙が、何故だか心に突き刺さった。再び、暗転。


『俺は……君を、救えなかった。俺に大神の加護さえあれば。俺に、もっと力があれば。知識があれば……』


 誰かが悔いる。


『ミカ、私の呪いを解いてくれて、ありがとう』


 ふわり、景色が切り替わり、私の眼の前でミラが笑う。俺が一番見たかったもの。しかし、その笑顔の向こう側に、ここには居ない誰かを切望する色が、確かにあった。あったのだと思う。


 ——その言葉を一番聞きたかったのは、今一番聞きたいのは、一体誰なんだろうな


 黒とも白ともつかない空白地に、誰かの声が響く。


 ——呪いは解けた。それでいいじゃん。


 私が答えると、その誰かは小さく笑った、気がした。


 ——君には敵わないな。俺には、そんなシンプルには考えられない。


 ——あなたは、考え過ぎなんだよ。



「俺は……」




 眼が覚める。また、奇妙な夢を見ていた気がする。あれは一体、何の夢なんだろう。考えようとするが、夢の内容にはすぐに靄がかかってしまい、深く考えることができない。


「おはよう、ミカ。魘されてたみたいだけど大丈夫?」


 フレアの声。見ると、ベッドの横でフレアが何かお裁縫をしていたらしかった。彼女は少し心配そうな顔で俺を見ている。身体を起こしてあたりを見回すと、近くのベッドでシーラとリーが眠っているのが見える。他のベッドは空っぽらしい。


「おはよう、フレア。平気だよ。……他のみんなは?」


 聞くと、フレアは裁縫の手を止めて小さく笑った。


「ヴィスとカウルさん、ディレルさんは狩りに行ってる。珍しい魔物が出たとかって大慌てでね」


「珍しい魔物」


 さっきまでバジリスクだの名前付きだのを相手にしていたのに元気な人達である。俺は感心と呆れが半々くらいのため息を吐き出した。


「あれ、ミラは?ベッドには居ないよね?」


 聞くと、フレアがくすりと笑った。え、なに?おかしなこと聞いた?


「ミカ、ちょっと隣見てみなさいな」


 言われ、俺は隣のベッドに目をやる。ベッドはもぬけの殻だ。首を傾げていると、フレアが「もっと下、下」と言う。下?と視線を下ろして、俺の右隣に布の塊がある事に気が付いた。まさか、と布の端をめくってみる。布の中では、スヤスヤと、気持ち良さそうな寝息を立てるミラが眠っていた。未成年の少女と朝チュン、事案確定である。


 ——いや、まぁ、今はこっちも幼女なんですけど。


 多少長くミカエラとして生活してきたからか、俺は特に慌てることもなく、ミラの顔に再び布を被せた。


「ミラちゃん、随分ミカに懐いてるみたいね。私が起きた時にはミカのベッドで寝てたんだよ」


 言われてみれば、眠っている途中に誰かに何かを言われて、頷いて招き入れたような記憶があるような、ないような……。別に気にする事でもないか。


「まぁ、成り行きとはいえ呪いも解きましたしね……それで、フレアは何してるんです?」


 身を乗り出してフレアの手元を見ると、そこにあったのは、俺のバッグに入っていたはずの導き手の舞服だった。それで、少しだけフレアの思惑を悟る。


「ミラちゃん、今は毛布で身体を隠してる状態でしょ?服が必要かなって思って。下着は、サイズもあまり変わらないから私の予備を着せたんだけど、服の予備は流石に持ってなかったから。勝手にごめんね」


「いや、大丈夫だよ。私も、戻ってきたらソレを着てもらおうと思ってましたし。……昨晩はすっかり忘れてましたけど」


 言うと、フレアは「ならよかった」と言って裁縫に戻る。その手際はかなり良く、神火の里でおばさんから手ほどきを受けただけの俺なんかとは大違いである。もうちょっと家庭科を真面目に受けておけばよかったと、少し後悔する。


「ミカも少しやってみる?練習がてら」


 あまりに興味津々に覗き込んでいたからだろうか。小さく笑ったフレアが、そんな提案をしてくれた。何事も経験かなと、俺は頷いてフレアから舞服と裁縫道具を受け取った。


「うん、そこをもう少し縫って……それで留めたら、完成」


 途中何度もフレアの指導を受けつつも、無事に舞服の仕立て直しが終わる。広げてみると、俺が着るには大き過ぎるが、ミラが着るには多分丁度いいくらいの丈になっている。妙に多かったフリフリの装飾は、少し大きめの布をサイズ変更がてら寄せて装飾に見せていただけみたいで、その辺がすっきりしたお陰で立派な民族衣装に仕立て上がっていた。


 うまくできた、と二人で笑い合っていると、丁度ミラが目を覚ました。


「ふわぁ……」


「おはよう、ミラ。よく眠れた?」


「うん、ミカ……。おはよう。それは?」


 目敏く舞服を見つけたらしいミラに、俺はふふんと笑う。


「ミラの服だよ!今フレアと二人で仕立て直してたんだ。着てみてよ!」


 そう言って服を渡すと、ミラは目をぱちくりとさせていたが、やがて嬉しそうにその目を細める。


「ありがとう、二人とも」


「うん。それじゃあ、私達は外で待ってるね?」


 流石に着替えるのに俺たちがいたら恥ずかしいだろう。そう思って提案して、俺はベッドから降りる。フレアも同じ考えらしく、テントの入り口に向かう俺に付いてくる。


「あっ、待って」


 外に出ようとする俺達を、ミラが制止する。なんだろうと思ってそちらを向くと、舞服を胸元で抱えたミラが何やら恥ずかしそうにしていた。


「その……このタイプの服は、ちょっと着方がわからないかなー、なんて」


 ああ、確かに、舞服はちょっと着方が特殊だったような。


 とはいえ、慣れてきたとはいえ流石に着替えに付き添うのはまだ羞恥心が勝る。どうすべきかと悩んだ末に、俺はテントの入り口に手を掛けた。


「じゃあフレア、ミラの着替えをお願いします。私、外で人が入って来ないか見てますね!」


 そう言って、俺は颯爽とテントから飛び出した。



 時刻は進んで、昼頃。軽く昼食を摂ってから、俺たちは手配された馬車に乗り込みメタルジアへの帰路についた。行きよりも少し広い馬車で、俺達全員が乗り込んでも少し余裕がありそうだった。しかも揺れも少ないし、心なしか速度もちょっと速い気がする。ここからしばらくは暇になるな、と俺は魔導書を開こうとして、そう言えばと何やらにこやかに談笑する男どもに目を向けた。


「そう言えば、珍しい魔物って結局何だったんです?」


「おっ、聞きたいか?」


 何やら乗り気な様子で、カウルが身を乗り出してくる。俺はその勢いに少し引きながらも「ええ、まぁ」と答える。フレアも興味があるのか、「私も聞きたい」と身を乗り出している。カウルは勿体ぶった様子で、自分の素材袋に手を突っ込むと、その中から何かの魔物を取り出した。


 取り出されたのは、金色の毛並みを持った小さなウサギ……のような魔物である。背中や頭部に、銀色の金属質な甲殻を持っていて、明らかにウサギではないが。甲殻には金色の紋様のようなものが刻まれていて、何やら神秘的な雰囲気を醸し出している。


「うわぁ、コレ、ゴルトラビットだよね!?」


 意外にも、それに真っ先に反応したのはミラだった。


「ミラ、知ってるんです?」


「うん!前にミカヅキが取って来てくれたの!満月の日に運命の女神様が気まぐれに解き放つっていう魔物で、お肉がとっても美味しいんだよ!確か、額と背中の鉄の部分がとっても縁起が良いって!」


「よく知ってるな。そうなんだよ、このゴルトラビット、半年に一回見れるかどうかくらいの魔物でな。生息域は広いんだが、群れもあまり見つからないってので冒険者や狩人の間じゃあ幸運の象徴として有名なんだ。それがなんと、三匹もいたんだ!一匹取り逃がしちまったが、何とか二匹は捕まえられてな」


「へぇ……?」


「いかに鉄の部分を傷付けずに倒すかってのがまた難しくてだな……」


 カウルが身振り手振り説明してくれる。ディレルやヴィスベルもそれに乗っかって説明したり、狩りの様子を詳細に教えてくれた。


 その話はとても面白く、思わず聞き入ってしまう。途中からシーラとリーも参加して、馬車の中が明るい声で満ちる。話がひと段落するのと、馬車がメタルジアの馬車ターミナルに到着するのはほとんど同時だった。


「っと、もう到着か。俺はこの辺で別れさせてもらうぜ。もうヘトヘトなんだ、早い所宿で寝たい。また明日か明後日か、報酬を受け取る時にまた会おう」


 言って、ディレルが立ち上がる。そう言えば、ずっと一緒に居たから忘れていたけどディレルとはこの依頼で一緒にいるだけなんだっけ。少し名残惜しい。


「んじゃ、あーしらもこの辺で。無事に帰って来たこと、父さんに報告しないとっスから」


「あ、そっか。リー達もここでお別れなんですよね」


「ま、ディレルのおっさんも言ってたっスけど、明日か明後日の報酬受け取りの時はまた一緒っスけどね。そっからも、冒険者稼業なんてやってるんスから、お互い生きてりゃそのうちまた会えるっスよ」


「縁起でもないこと言わないでよ」


 軽く言ったリーに、俺も軽い感じで返す。こういう友達っぽいやりとりも、最後かと思うと少し寂しい。リーが「それじゃ、またっス」と言って立ち上がると、シーラも立ち上がって会釈する。それに会釈を返すと、三人は馬車から降りてどこかへと消えてしまった。


「……俺達も、シルヴィアの館に戻ろうか」


 三人が居なくなった余韻に浸っていると、カウルが言った。あれ、でも、シルヴィアに連絡とかしてないけど大丈夫なんだろうか?そう思って首を傾げていると、同じように疑問に思ったらしいヴィスベルが口を開いた。


「帰りの連絡とか良かったの?急に行くことになると思うけど、大丈夫なのか?一応、というか領主の館だろ?」


「なに、心配はいらないさ」


「え?それってどういう……」


 フレアの声に、カウルは「まぁ外に出れば分かるさ」とだけ答えて立ち上がった。


 俺たちはカウルの言に首を傾げながら馬車から降りる。そしてそのまま馬車ターミナルから外に出ると、見覚えのあるメイドが一人、立っていた。


 確か、シルヴィアの館で見かけたエミリーとかいうメイドだったはずだ。何をしているんだろう、と見ていると、こちらを見つけたらしいエミリーが一直線にこちらへやって来た。


「皆様、お待ちしておりました。館でお嬢様達がお待ちです。……バジリスク、並びに名前付き(ネームド)の討伐、お疲れ様でした」


「何で知ってるんですか!?」


 予想だにしなかったエミリーの言葉に、俺は間髪入れずに大声を出してしまった。一瞬雑踏の目がこちらに向く。それに少し羞恥を覚えるも、そこまで珍しいことでもなかったのか視線はすぐに霧散する。


 それにホッとしていると、目の前にいたエミリーがそっと口元に人差し指を当てて、小さく微笑む。


「私、ワルトロアのメイドですからね。それくらいはできますよ」


 ワルトロアすげぇ!俺はエミリーの不敵な笑みに戦々恐々として生唾を飲み込んだ。


 ……後日、カウルがレビィに頼んで彼女の報告書と同じタイミングでシルヴィアと連絡を取っていた事を知り、年甲斐もなくカウルとエミリーに抗議しに行ったのは、また別のお話である。

と、言うわけで白蛇さん、『蠱毒の白』退治のエピソードはこの辺りで完結です。


ご意見、ご感想、誤字脱字の報告、「ちょっとここよくわかんないなー」とかありましたら、コメントよろしくお願いします!


評価もお待ちしておりますのでよろしくお願いします!

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