41.白蛇討伐!
前話に比べるとかなり短い……や、それほど長々と書く内容でもないですし……。
ミカエラさんのターンです。
「ミラは、ちょっと中で待ってて。ちょっとディレルさんに話聞いてくるから」
ひとまず音の正体を確認しなければなるまいと、俺はミラをテントに残して外で見張りをしているディレルの元に向かおうとした。
「わっ、ミカ!私も行くよ!私、一応ミカよりもお姉さんなんだから!」
「や、別に平気だと思いますけど……まぁ、よろしくお願いします」
そんなやりとりをして二人でテントから出ると、目の前にはディレルの大きな背中。背負っていた大槍は、どうやら今は構えているらしかった。素振りで音でも出したかな?とディレルの背中から顔を出して、俺は思わず「うぇあ?!」という奇声を上げてしまった。
そこに居たのは、何故か所々ピンクになってしまっている白蛇だった。大きさ的に、多分俺たちを谷底に突き落とした個体……だと思うが、最後に見た時よりも随分弱々しく見える。ピンクになっているのは、鱗がめくれてその下の皮膚が見えているのだと気付いたのは、それから少ししてからだった。
しかし、思考を停止しては居られない。俺は慌てて魔力を回すと、とっさに広き守護の盾を広げた。半透明の結界が、ディレルと俺、それから背後のミラを覆う。二重で覆っておけば、多分あの白蛇でも手出しはできないと思う。ひとまず安全を固めて、俺はディレルに状況説明を求めた。
「ちょちょちょちょっとディレルさん!?なな、何があったんですぅ?!」
前言撤回。状況説明を求めようとしたものの、気が動転してしまって滅茶苦茶噛んだ挙句凄く雑な聞き方をしてしまった。
「知るか!いきなり出てきたんだよ!」
「いきなりって、何かしたんじゃないんです?!」
「何かするならお前の方だろ?!」
待って。何で俺この人にまでこんなイメージ持たれてるの?不服申し立てしていい?
後から思い返してみると、この時の俺は混乱していたのだと思う。緊張感もなければ警戒しているディレルに不用意に話かけるとか、多分絶対やってはいけない事だった。
「《ハイ・ヘヴィ》!」
「はぁぁぁぁあ!」
白蛇と数秒ほど睨み合っていると、聞き覚えの無い詠唱と聞き覚えのある吶喊声がして、白蛇が勢いよく吹き飛ばされた。
白蛇を殴り飛ばしたのは何だか踊り子のような露出過多な格好をした少女。何やら金色の手甲が輝いていてカッコイイ。
吹き飛んだ白蛇を斬りつけて俺たちの前に現れたのは、見慣れたブロンド髪。ヴィスベルだった。
「ヴィスベルさん!?」
「ミカエラ!」
「ミカ!」
「フレアも!?」
広き守護の盾を解くと、フレアが勢いよく俺に抱き付いて来た。首が締まる。あとどことは言わないが、柔らかい双丘が俺の息の根を止めに来る。
「フレア……、ぐるじぃ……」
「あっ、ごめんなさい……。もう、ミカ!心配したんだから……!」
ようやく解放されて顔を見上げると、フレアの頰には大粒の涙が伝っていた。その顔に浮かぶのは、安堵。どうやら、かなり心配させてしまったらしかった。
「うん、心配かけてごめんね?」
「ごめんじゃないわよ、ばか!」
「あはは……ありがとう」
再びぎゅっと、今度はかがんで抱きしめてくれるフレアの背中をさすりながら、お礼を言う。
「っと。感動の再会は後にして、アイツ倒した方がいいんじゃねぇの!《ハイ・エンハンス》!」
尤もな事を言って、ディレルが槍を構えて突撃していく。フレアは俺から離れると、双剣を構えて白蛇を見据えた。それを見て、俺はふと思い付いた事を試してみることにした。
さっき、爆ぜる魔弾を探している時に見つけた魔法。
「フレア、ちょっとこっち来て」
「なに?」
「《猛き兵の刃》」
付与魔法には珍しく、『付与・〇〇』の形になっていなかった上級付与魔法。ページを流し読みした感じ、物に魔力の刃を付与する魔法で、どうやら魔導書の著者のオリジナルらしい。
魔法はうまく発動したようで、フレアの剣が琥珀色の光に包まれた。
「斬れ味が上がる魔法なんだって。ヴィスベルさんにも」
同じようにヴィスベルの剣にも魔法を付与すると、ヴィスベルはふっと、小さく笑った。
「ミカエラ。帰ったら、君の使える魔法、全部見せてくれないか?」
「ちょっと。帰ったらとかフラグ臭いセリフ言うのやめてくれません?」
思わず返してしまって、俺は慌てて首を振った。いや、俺は悪くないよ。だってヴィスベルがあまりにフラグっぽいこと言うからさぁ。
「えっと、さっきのナシで。全然構いませんけど、珍しいですね。ヴィスベルさんから私になんて」
カウルには何度か『こんな魔法は使えるか?』みたいな感じで聞かれたことはあったのだが、ヴィスベルから聞かれるのは初めてのことだ。その事に驚いていると、ヴィスベルはいつもと少し違う感じの苦笑をした。
「思う所があったんだよ。……フレア、行こう」
「うん、ヴィス。ミカ、ちゃんと身を守るのよ」
「はい、それは……」
もちろん、と言おうとして、何やら聞き逃してはいけないものがあったような気がして、フレアの言葉を反芻する。『ミカ、ちゃんと身を守るのよ』これはいい、いつものフレアである。そうじゃなくて、その少し前に……
「え、待って、待って!ヴィス?!ヴィスって言った?!フレア、ヴィスベルさんと何かあったの?!」
ちょっと前までフレア、ヴィスベルのことヴィスベル君呼びだったよね?愛称呼び捨てって、何か知らない間に色々変わってない?もしかして俺、置いてけぼり?!
くそ、もしかして俺がおっさんと二人で暗い地下を歩いている間に友情イベントでもあったのか?羨ましい!
「それも含めて、また後でね」
そんな風に窘められて、俺はひとまず頷いた。二人は俺が頷くのも見ずに白蛇の方に駆け出す。俺はその二人の背中を見送って、呆然としながら白蛇の方を見た。白蛇は、妙に焦った感じの顔をしているように見える。よく見れば、満身創痍な白蛇から感じられる命の灯火は殆ど消えかけていて、今にも消えてしまいそうだった。
ここに来るまでもかなり激しい戦闘をしていたのだろう。それは、白蛇だけでなく、ヴィスベル達の動きからも伺えた。
ヴィスベルとフレアの動きが、昨日……昨日?以前までとは何かが明確に違っているのだ。なんというか、熟れた動きをしているというか……ともかく、俺が居ない間に二人は一皮剥けてしまったらしい。
っていうか今までスルーしてたけど一番に突っ込んで行ったあの茶髪のお姉ちゃん誰なんだ?
「えっと……あれがミカの……仲間の人?」
俺と同じように、というか、多分今一番置いてけぼりを食らっているミラがぽそりとつぶやいた。俺は、一応安全に気を配って広き守護の盾を張り、ミラの問いに答える。
「あっ、はい。ブロンドのイケメンがヴィスベルさんで、赤髪の方がお姉ちゃん……じゃなくて、お姉ちゃんみたいに良くしてくれるフレアだよ」
アンリエッタは血縁上ミカエラの姉だからともかく、フレアを姉と認めてしまうのは流石に俺としてのプライドが許さない。ミカヅキの年齢で言ったら、ヴィスベルもフレアと歳下なのだ。最近少し子供っぽくなっている自覚はあるが、そこだけは譲れない。
「はぇー……あ、じゃあ、あっちの入り口?の方にいる二人も仲間の人?」
「あっち?……あ、よく気付きましたね。うん、片方はカウルさんっていうちょっと乱暴なおじさんで、隣にいる女の人は……見覚えがないけど、ナンパでもしたのかな?メタルジアにシルヴィアさんもいるっていうのに、カウルさんてばダメなんだ……っていうのは冗談だよ、うん。多分応援の冒険者さんだね!」
何故かカウルから射殺すような視線が飛んできたのでフォローしておく。この距離だと俺の声とか聞こえない筈なんだけど、何でバレたし。あ、日頃の行いか。
ひとまず白蛇と交戦するヴィスベル達の方に目をやる。白蛇は威勢良く暴れまわっていて、茶髪の人はちょくちょく攻撃を入れるそとができているようだが、ヴィスベル達の方が中々手出しできていないようで、詰めきれないでいるのが分かる。ここは、魔法で何とか支援した方が良いだろう。
「とりあえず、このままだと落ち着いて話もできませんし、私も白蛇に攻撃しようと思いますけど……ミラって遠距離の攻撃手段ある?」
「えっとね、水と風の魔法なら、中級まで使えるよ!」
「それじゃあミラは水で攻撃してね。えっとね、ヴィスベルさん達は基本的に攻撃できる所に攻撃してるから、私達が後ろから攻撃するのはヴィスベルさん達が攻撃できてない所ね。今だと……あの辺とか。《爆ぜる魔弾》」
ミラへの説明がてら、ナイフを抜いて、狙いを定め、撃つ。狙いは、さっきの茶髪の人が退いたばかりの頭。
茶髪の人はさっきから頭を叩いた後はしばらく隙を見計らうのに白蛇の視線をちらちら横切るような動きをしているので、多分この狙いだと味方に誤射することは無いと思う。
弾丸は、俺が狙った通りの軌跡をなぞる……が、その速度が普段よりも遅い。そこで初めて、俺はいつもの貫く弾丸のつもりで爆ぜる魔弾を撃ってしまったのだと気付く。
爆ぜる魔弾は貫く弾丸に比べて遅い。効果を「貫く」事に特化させた貫く弾丸に比べ、爆ぜる魔弾は「着弾点での小規模な爆発」を目的とするため、魔法式が若干複雑になっていて速さが出ないのだ。
外したかもしれない。そんな不安が頭を過ったが、放たれた弾丸は綺麗な軌道で白蛇の頭部へ向かい、勢い良く振り回された白蛇の頭部に突き刺さる。
命中してくれた事にホッと胸を撫で下ろしていると、魔弾が命中した白蛇の片目が、勢い良く爆ぜた。
「あ」
白蛇が断末魔を上げる。片目が潰れた痛みにのたうった白蛇の頭を軽やかな動きで宙を舞っていた茶髪の人の拳が叩きつけ、勢いよく地面に衝突。その隙を突き、ヴィスベルとフレアの剣が白蛇の胴を切り裂いて……白蛇の頭が、ごろりと地面に転がった。白蛇の中に感じられた命の灯火が完全に消え去る。
こうして、『蠱毒の白』と名付けられた名前付きの討伐は、ヴィスベル達にしてみれば得るものの多い熱戦として。俺の目線では、実にあっさりとした戦いとして、終幕を迎えたのだった。
一皮剥けたのはヴィスベル君達じゃなくて白蛇君だけどね(書いてる途中に思い付いた)
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