29.5,閑話:路銀稼ぎ
リアルが多忙で執筆時間が取れないぞ!まぁ将来に直結するからね、仕方ないね。
今回は閑話です。読んでも読まなくても多分今後のストーリー展開には影響はありません。あと短い。
「えっと、ターゲットはこの薬草ですかね……?」
「そうね。さっきも説明したけど、採取の仕方は分かる?」
「はい、これはこの新芽の所だけナイフで落として……」
「こっちの薬草は?」
「周りを掘って引っこ抜いて、根っこを洗浄、ですよね」
「こっちは?」
「葉っぱだけ採取、ですね!あ、ギザギザになってたり虫食いのある葉っぱは毒性があるから今回は採取しちゃダメなんですっけ」
「そうそう。うん、よく覚えてる」
コッペル周辺のティンデル石原。その水源近くの小さな林の中で、俺とフレアは屈みこんで薬草を採取していた。何故こんなことをしているかって、それは勿論ギルドの依頼だからだ。じゃあ何でギルドの依頼をこなすことになったか。それは、二日ほど前、コッペルのまでの道中のキャンプでの話にまで遡る……。だけども、回想するほどの事でもないので結果だけ言ってしまおう。
まぁ、簡単に言ってしまえば路銀稼ぎである。次の目的地に向かうのに長距離移動の馬車を利用しなければならないのだが、その四人分の代金が全員の有り金全てを溶かしても足りない額だったので、食料品とか買う事も考えてここらでちょっと稼いで行こう、という訳だ。ヴィスベルとカウルは別行動で割のいい討伐依頼を、俺はこうして薬草採取の依頼を受けている。フレアは俺の引率の依頼だ。
これは冒険者ギルドの新人養成制度の一環なのだが、なんとF級・E級の冒険者が採取依頼などで街の外に出る時にはC級以上の冒険者に対して引率依頼が発注されるのだ。F級冒険者はこの引率無しで街の外に出る事は出来ないらしく、引率依頼の受注者が出るまで出発することができないそうだ。E級に対しては任意らしい。
フレアはC級冒険者のカードを持っていたので、割も良いし俺もすぐに依頼に行けるということでこうすることになった。
最初はこういうの、身内でやるのってズルじゃないの?って疑問があったが、カウルによると身内の方がしっかり見れるという事もあってギルドは寧ろ身内でやる事を推奨しているのだとか。
身内でやったら適当にならないかなっていう俺の疑問は、身内相手ならより親身になって教えるから下手に他人がやるよりもよっぽど生存率に繋がるんだよ、とのカウルの言により抹殺された。
死がすごい身近にあるものな、この世界。身内だからって甘めの採点するのが許される世界じゃないの忘れてたわ。
という訳で、今は俺とフレアで依頼をこなしている訳である。
フレアも薬草の採取に関しては知識の確認以上の干渉をしてこないので、本当に二人別々の依頼をこなしてるんだなって気がする。
「しかし、本当に、なんていうか……穏やかな雰囲気になりましたよね、この石原も」
以前、ドレークが竃に居座っていた時はピリピリと張り詰めたような空気だった石原は、今ではすっかり穏やかな雰囲気だ。気持ちいい風が吹いていて、聞こえるのは水のせせらぎと小さな生物の生活音くらい。神火の里への道中は魔物の雄叫びや何かの激突音らしい音が定期的に聞こえていたので、それと比べると実に静かなものである。
「うーん、私にはこっちの方がいつもの雰囲気だから何とも言えないんだけど……。たしかに、少し前に比べたら穏やかかもね」
「それにしても、フレアさんがC級の冒険者だったなんで驚きました。てっきり里からほとんど出てないものかと」
「私は、里長の娘として狩りにも参加してたから。里で消費できない牙や皮を売り捌くのに、冒険者登録が都合が良かっただけよ。……ていうか、猟師達はみんな、少なくともC級以上のカードは持ってるわよ?」
「え、もしかしてロンも?」
「あの子は……まだD級だったかしら。私が最後に見た時は、確かD級だった筈よ」
「D級……うーん、何か悔しいですね」
俺はといえば、未だにF級である。まぁ、あると便利だからって登録しただけで全然依頼もこなしてなかったから当然といえば当然なんだけどさ。何かこう……俺の中の男の子の部分が、同年代にランクで負けている事実に揺さぶられる。いや、勝ってた所で何かある訳ではないけどさ。それでもほら、何かね?
「ロンで思い出したけど、あの子と一緒にいるサフィー、あの子はもうC級のカードを持っていた筈よ」
「サフィーが?」
「えぇ……。あの子の父親がこっそり連れ出しててね。私も父も、報告が上がってきた時には頭を抱えたわ。いくら猟師長だからって里の女の子、しかも自分の娘を危険な目に合わせるなんて、って。それで謹慎を与えたら、今度は勝手に竃に入り込んでロンに移し火もするし……」
「え、移し火の儀って、血縁とかじゃないとできないんですよね?」
「里の人間はみんな祖父母の代までに大体血縁関係があるのよ。だから、みんな従兄弟とか姪とか甥とか、そんな感じなの。コッペルに出るまでは当たり前だと思っていたから、気にした事もなかったけど」
……そういえば、神樹様の上でも従兄弟関係とか多かった気がする。うちの曽祖父が確か下から来た人だったから他の人に比べたらちょっと親戚は少ないけど、それでも両手で足りるか足りないかくらいの従兄弟はいたような気がする。バンとクリスも確か従兄弟同士だったかな。神樹様も神火の里も物理的に結構閉鎖された土地だから、そういうものなのかもしれない。
ひとまず依頼分の薬草が集まったので、支給された素材袋の口をしっかり締めて帰ることにする。長時間屈んでいたので少し背中が痛い。
「まだ少し採取の段取りが悪いけど、それでも初心者にしては上出来ね」
「フレアさんの教え方が上手いからですよ。葉っぱの特徴とかすごくわかりやすかったです」
「……ねぇ、ミカエラちゃん。その敬語、やめない?何だか他人行儀っていうか」
「え?そう、ですかね?」
俺は首を傾げる。そんなに敬語を使っているつもりはないんだけどな。でも、言われてみれば結構使ってるような使ってないような……。
「うん……。里ではあんまり言われ慣れてない言葉遣いだからか、何だかむず痒いっていうか……」
「あんまり意識して使ってないんです……ないんだけどね。気を付けるよ」
自分で言ってみて、少し違和感。もしかすると、カウルやヴィスベルと話す時はずっと敬語を使っていたのかもしれない。
俺の中身は多分、彼らと同年代の筈だ。カウルは圧倒的に歳上だけど、ヴィスベルもフレアも十七前後だと思うし……。
しかし、そうは言ってもミカエラとしては十二歳な訳で。それで歳上相手にタメ語っていうのが違和感があるんだろうか?まぁ、別に些細なことだとは思うけど。
「んんっ。えっと、それで、これからコッペルに戻ったらどうしたらいいんで……いいのかな。採取依頼って初めてだから何にも分からなくって」
「ギルドの納品受付、って分かる?」
「えーっと。多分見たら分かりま……分かると思う」
「素材袋とギルドカードをそこの受付の人に渡して、処理してもらったら依頼は終わり。……無理して言い方変えなくてもいいのよ?」
「や、ヘーキヘーキ。ヴィスベルさんもカウルさんも、そういうことは言ってくれないから。フレアさんがそういうの言ってくれたら、私ももっと打ち解けられると思うし」
せっかく一緒に旅をしているのだから打ち解けた関係になりたいというのは俺も思ってるし、そういう意味では今回の指摘はいい機会だったのかもしれない。言葉遣い一つで人間関係って結構違うって言うしね。
うん、頑張ろう。
そう自分に言い聞かせて、俺達はコッペルの街に戻って行った。
……余談にはなるけれど、薬草集めの報酬金は思ったよりも少なかったので、俺は結局、コッペルの街の大通りで魔法を披露して旅芸人をする事にした。
時間当たりでは芸で得られたお捻りの方が薬草集めの依頼より多かったので、俺はしばらくは旅芸人をしていた方が良いのかもしれない。
ほのぼのしたストーリー……すき……
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