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26.目覚めと説明

ブックマークが何か100件超えてました!たくさんの人に読んでもらえて、私感動です!

 目を開けた視線の先には見慣れない天井。窓から差し込む朝日のあまりの眩しさに、俺は腕で顔を隠した。


 身体が重い。まるで自分の体じゃないみたいだ。全身に鉛でも巻かれてるんじゃないかと思えてくるくらい、体を動かすのが億劫だった。


 顔だけごろんと動かして辺りを見回すと、そこは見慣れない部屋だった。俺が寝かされているベッドであろう寝具と、あとはタンスと鏡が取り付けられたドレッサーみたいなものだけが置かれた殺風景な部屋。はて、何故俺はこんなところにいるのだろう。


 取り敢えず体を起こし、ベッドから降りてみる。正面にあったドレッサーの鏡の中に、アンリエッタに似た下着同然の姿の少女が映る。綺麗な銀の髪に、アンリエッタとは違う銀色の瞳。


 鎖骨の下辺りに小さくて薄い焼印のような痣が浮かんでいるのが視界に入ったが、視線はすぐに吸い込まれそうな銀色の瞳に惹きつけられた。


 あれ、誰だっけ、この人。


 俺が首を傾げると、鏡の中の少女も同様に首を傾げた……ん?鏡?


 そういえば、鏡なんてこの世界に来てから始めて見た気がする。てことは、この今可愛らしく首を傾げている半裸の少女はミカエラ(おれ)……?


 それを意識した途端、どこかでお湯が沸騰したような音が聞こえた。少し顔が熱くなる。鏡に映る少女の顔が、茹で蛸のように真っ赤に染まる。


 ——おおお落ち着け俺。これは自分の身体だ。何を恥じる事があろうか!


 見慣れた筈のキメ細かい白い肌は、鏡で見るとますます綺麗に見えた。少女特有の柔らかさを感じさせる乳白には羞恥からか僅かに朱が差しており、その幼い容姿と相まってどことなく不道徳な魅力を——


 ——いや、待って。そんな目で見ないで。自分の身体なら余計にそういう目で見ないで!


 悲鳴のような思考が過ぎり、俺はすい、と鏡から目を逸らした。危ない、危うくなにやらイケナイ感じの扉を開いてしまうところだった。俺は一度目を瞑って深呼吸をして、少し早くなった鼓動を落ち着ける。


 ……服を着ないと。


 落ち着きを取り戻した俺は部屋の中を見回した。そこに俺の荷物はない。まぁ、旅装束は一着しかないものを洗浄の魔法で着回していたから荷物があっても服は無いんだけど。


 何かあるかな、とひとまずタンスを開いてみる。タンスの中には様々なサイズの神火の担い手さん達が着ている服が吊られていた。俺のサイズに合いそうなのも何着かある。


 えーと、これは勝手に借りてもいいやつなんだろうか。とはいえ、この姿では外を出歩くこともできないし。


 俺は少し悩んだが、結局自分のサイズに合いそうな服を一着拝借することにした。サフィーが教えてくれたので、この形式の服はもう一人でも着れる。着てみると、サフィーの服に比べて肌触りが少し違う気がした。


「こんなもんかな……」


 一応、ドレッサーの鏡で身嗜みを確認。神樹様の上には鏡なんてなかったからそんなことしたことなかったけど、鏡があるなら身嗜みのチェックは多分エチケットだろう。あ、寝癖ついてる。雨露の水差しで軽く手を濡らし、ハネている毛を撫で付けておく。魔法って便利だ。


 寝癖を直し、服をしっかり着れていることを確認。たっぷり数分も掛けた身支度を終えて部屋の扉を開けると、目の前には形の良い双丘。見上げると、緋色の髪とその下の翠の瞳が見えた。えーと、確か神火の担い手の族長さんの娘で……フレアさんだっけ。


「えっと……。おはようございます……?」


 何をどう反応すれば良いのか分からなかったので、俺はとりあえず挨拶をしておく。挨拶は大事だ。前の両親にしてもだし、クリスやアンリエッタも常々言っていた。


「おはよう、ミカエラ、ちゃん。体は大丈夫?」


 少しかがんで目線を合わせ、フレアが言う。大丈夫かどうかで言えば大丈夫だと思う。死ぬほど気怠いし体は重いが、動こうと思えば動ける程度なのは今の状況が証明している。



 ……あれ、そういえば、何でフレアがここにいるんだろうか。神火の里に辿り着いて、族長に挨拶に行って、それで族長の計らいで里の外れの空き家を貸してもらったはずで——


 と、そこまで考えて、俺は火山で気を失う直前までの記憶を思い出した。


「……あの、私どれくらい倒れてました?」


 何だか嫌な予感がして、俺はフレアに尋ねた。意識してみると、俺の腹部は暴力的と思えるほどに空腹を訴えている。少なくとも一食抜いたとか言う程度の空腹感ではない。例えるならば、少し前にバンを救おうと全魔力を放出した時の感覚に近い。


「今日で二日目、になるのかしら。火山であなたが倒れたのが一昨日の晩で、あなたは昨日丸一日眠っていたのよ」


 言われ、俺はホッと胸を撫で下ろした。今回はあまり時間はかからなかったらしい。ただでさえ足手纏いなのに、こんな所でまでヴィスベル達の足を引っ張っていてはどうしようもない。


「ご心配をおかけしました……。えと、それで、フレアさんはどうしてこちらに?」


 聞いてから、俺はフレアの手元にあるお湯の入った桶とその中に浸けられた布巾に気が付いた。どうやら俺の身体を拭いてくれるつもりだったらしい。言われてみれば、身体が少しべたついているような気もする。そんな俺の予想を裏付けるように、フレアは微かに笑って桶を掲げた。


「ただ寝てるだけとは言っても汗はかくでしょ?あんまり放っておいても良くなさそうだから、体を拭いてあげようと思って」


 流石にこんなことヴィスベルさんやカウルさんには頼めないでしょ、とフレア。俺は思わず吹き出して、確かに、と同意を示す。


 確かにそんなことになれば絵面的には事案発生モノだ。それに、俺だっておっさんだの美青年だのに体を拭かれて喜ぶような趣味は持ち合わせてないし。


 まぁ、気絶してる間に何されてても記憶に残ってないことは無かったも同然なんだけど。


「ありがとうございます」


 少し肌がべたついているのも事実だし、俺はありがたくフレアの提案に乗っかることにした。桶を受け取ろうと手を伸ばすと、フレアはひょいと桶を遠ざけて、少し悪戯っぽい笑いを浮かべた。


「貴女は病み上がりでしょ。私がやったげるから、ほら、ベッドの方に行った行った」


 そんな風に促すフレアの顔に、僅かにアンリエッタの姿が重なる。


 ——前に私が怪我した時のお姉ちゃん、こんな感じだったな。


 危なっかしいんだから、と呆れたように笑うアンリエッタの顔が過ぎる。もう、随分と見ていないんだなと今更ながら思ってしまう。


 俺はフレアに促されるまま、さっきまで寝ていたベッドに座る。桶を持ったフレアもそれに続いた。フレアは手慣れた様子で俺の服を脱がせると、背後で桶の中の布巾を絞る音が聞こえた。


「……ええっと、それで。ティンデル火山、フラグニスの竃の事なんですけど」


 何となく沈黙に耐えられず、俺は口を開いた。何をどう聞けば良いのかも思い付かず、極めて大雑把な言葉が漏れ出した。フレアのクスリと笑う声が聞こえる。


「そのことはヴィスベルさん達も交えて、あとでゆっくり話しましょ。お互いに聞きたいことは沢山あるでしょうし」


 その言葉と同時に、俺の背中に暖かい布巾の感触。気持ちいい。自然と頰が緩む。


「そう、ですね」

「ええ……。それにしても、ミカエラちゃんって肌綺麗よね。真っ白だし、ぷにぷにだし、ハリもあるし」

「そうですかね?」


 あまり言われ慣れない言葉に首を傾げる。まぁ、白くはあるよね。神樹様の上は結構日差しが少なかったっていうのもあって、皆色白だった。


 最近は強い陽射しの中を歩き通しだったから手とか顔とかは少し日に焼けてきてるけどね。フレアは褐色という程ではないが薄い小麦色なので、それに比べたらまだ少し白いかもしれないが。

 フレアがつんと俺の背中を指でなぞる。少し、くすぐったい。


「むぅ……。これが若さなのかしら」

「若さって……フレアさんだってまだまだ若いでしょうに。

 フレアさんも見た感じ凄い綺麗だと思いますけどね。健康的だし」

「そうかしら……。背中はこんなところね。次、前拭くね」

「あ、前は自分でやれます」


 流石に自分で出来るところまで任せるのはよろしくない。そう思って、俺はフレアの手から布巾を受け取る。フレアは少し残念そうな顔付きだったが、「そう」と言って、布巾を渡してくれる。が、何故かそのまま見守る構えでベッドに座っている。何で?


 ……あ、そっか、俺、一応病み上がりだものな。そりゃそうか。俺でもその立場ならそうするわ。


 ともかく、俺はフレアに見守られながら、自分の体を隅々まで拭いたのだった。




 リビングに向かうと、ヴィスベルとカウルは既に起床していた。二人は俺に気が付くと少しホッとしたような顔になる。結構心配掛けてたんだな。申し訳ない。


 俺は二人に声をかけようとして、ぐぅ、という誰かの腹の虫に先手を取られた。タイミングが悪い腹の虫である。いや、俺のなんだけど。


 育ち盛りなんだ、丸一日飲まず食わずだったんだから許して欲しい。なんて、心の中で誰かに弁明していると、ヴィスベルが「食事にしようか」と切り出した。俺は一も二もなく頷いた。


 丸一日ぶりの朝食は焼いたパンと魔物の肉だの穀物だの野菜だのがよく煮込まれたスープだった。何でもこの里に伝わる伝統的な料理だそうで、フレアの手料理らしい。


 ヴィスベルやカウルにできる調理は火に突っ込んで焼くだけだものな。こんな手の込んだ料理はできる想像ができない。


 ふぅふぅと少し冷まして口に運ぶと、中々深みのある味が口一杯に広がった。さっぱりした風味の香草が使われているのか、何だかスッキリした気分になれる。


「さて、少し落ち着いた所で、ミカエラにはいくつか聞きたいことがあるんだけど」


 ヴィスベルが言う。何だろう。俺は首を傾げる。何の話かイマイチ理解が及んでいないのを、俺の様子から読み取ったのだろう。ヴィスベルはいつもの少し困った風な笑みを浮かべ、どこから聞くべきか、と小さく呟く。


「……うん、何で僕らが旅芸人って事になってたのかが凄く聞きたいけど……まずは、どうして里で待っていたはずのミカエラが火山に居たのかから聞いていいかな」


 ああ、そういえば色々共有できていなかったっけ、と思い当たる。火山では必死だったからその辺り全く考えてなかった。


「ええっとですね、少し長くなるんですけど……」


 俺は色々と思い出しながら、成り行きで旅芸人みたいな振る舞いをしたこと、導の光を貫く弾丸で壊す芸が一番人気だったこと、そして「ジム」という少年とカナルという魔族の話を説明する。ひとまず火山におびき出されてまんまと捕まった所まで話して、俺はコップの水を口に含んだ。


「なるほどな、あいつら里の中に紛れてやがったのか」


 カウルが言うと、フレアが苦い顔をした。


「ジム、いいえ、カナル、だったかしら。全く気付かなかったわ」

「昔から夢魔は人に溶け込むのが上手いって言うからな……」


 ぽつり、カウルが感慨深そうに言った。

 その「ムマ」ってのはなんなんだろう。カナルを諌めていたロソニもそんなことを言っていたような気がするが……。


 わからないことはさっさと聞いてしまおう。うん、それがいい。聞くは一時、聞かぬは一生という言葉もあるしな。


「そのムマ……ってなんです?魔族とは何か違うんですか?」


 ぐるり、卓を囲む三人に目をやると、ヴィスベルやフレアもイマイチ分かっていないらしい。二人してカウルの方を見ていたので、俺もカウルの方に目をやる。カウルは小さくまじか、と呟いた。何が?


 首を傾げていると、カウルがあー、と言って頭を掻き毟る。あんまりやるとハゲるぜおっさん。


「えっとだな。まず大前提、魔族ってのは少数部族の集まりをざっくり呼ぶ時の呼び名なんだよ。夢魔ナイトメアとか竜人ドラゴニュートとか、まぁ色々いるんだが」

「獣人やエルフ、ドワーフとは何か違うのか?」


 聞いたのはヴィスベルだ。獣人はそれらしい人がドナールギルドの職員に居たので把握していたが、エルフとかドワーフもいたんだね、この世界。それに対し、カウルはおう、と頷くことで応える。


「根本的なルーツが違うんだそうだ。俺たち人類、いや、今は魔族も含めて人類だが、古い区分での人類ってのは原初の神々が自分達に形を似せて作った生き物の中でも知恵を持った存在を指す。ここまではいいな?」


 言われ、俺は頷いた。創世神話的な話の中に、確かそんな内容の話があったのは覚えている。原初の神々が各々好き勝手な材料を混ぜ合わせて作ったヒトガタに命の女神が命を吹き込み、死の女神が死を与えたという、なんとも興味深い話だ。他の二人も聞き覚えがあったようで、そこまでは、という様子で頷いている。


「で、魔族のルーツなんだが、なんでも原初の神々ではなくて、その眷属神である魔の神が作った魔物や悪魔がルーツらしい」


 魔の神。それなら知っている。


 神話上魔の神と呼ばれるのはアニムス・マギウスとアニマ・マギアの二柱。彼らは原初の神々である死の女神と闇の神から生じた眷属神で、あまりにも悪人が増えたからそれを間引くのにさっきもカウルが言った通り魔物とか悪魔を作ったとされているヤバい神様だ。


 確か、彼らが魔物や悪魔を創り出すのに原初の神々とか他の眷属神に加護を貰いに行った、というような話を一度だけ聞いたことがある。あんまり面白くなかったから二回目聞くことは無かったけどさ。


「だから部族ごとに見ていったら数百種類、混血まで含めたら数千種に分かれる……とかって偉い学者先生が言ってたかな。すまんが、俺も詳しくは知らないんだ」

「はぇー。色々細かいんですねぇ」


 ともかく、魔族っていうのがざっくりした表現だってのは分かった。三人揃って感心して頷いていると、カウルが話を続ける。


「その中でも夢魔っていう奴らは、二人には前も説明したと思うが淫夢だの悪夢だのを使って人の心を乱す種族の事だ。

 聞いた話だと、人の夢の中に入りこんで悪さするらしい」


 夢の世界でカナルと相対した時のことを思い浮かべる。なるほど、あれが夢魔の力という訳か。そういえば夢の牢獄とかって言ってたな。頷いていると、対面に居たカウルが机に肘をついた。


「で、捕まった所までは分かった。俺たちが旅芸人呼ばわりされたのもな」

「あはは……なんかすみません」


 半目のカウルに言われ、俺は思わず目を逸らす。でもあれがあの時の最善手だったと思うよ?皆も笑顔だったし、それで良いじゃん。言うと何だか拗れそうだから言わないけどね。曖昧に笑って済ませると、カウルははぁ、とため息を吐いた。こちらはカウルが妥協した時の癖である。俺はこっそり胸を撫で下ろし、椅子の背もたれに体重を預ける。微かに軋んだ木材の音が心地よい。


「それじゃあ、次は目が覚めてすぐの行動について聞きたいかな」

「目が覚めてすぐ……と言いますと、ドレークから鈴を奪った辺りですかね?」


 聞き返すと、ヴィスベルはそれを頷くことで肯定した。


 あの辺りはなぁ。ほんとに流されるままだったから説明できることってほぼないんだよね。

 俺がヴィスベルの立場だとして、気になるのは何でドレークが鈴を持ってるのを知ってたか、とかだから……その辺を説明できれば充分だろうか?


「えーと。カナルに夢の牢獄だったかな、そんなのに閉じ込められてたのをアニマ・フィブに助けて頂いたんですけど。その時に目が覚めたら鈴を奪って火口に飛び込んで、と言われたから……としか説明のしようがないのですが」


 夢の世界での話はしても仕方がないだろうから省いて、そこだけ説明する。正直言ってる自分でもこいつ何言ってんだと首を傾げてしまいそうになるレベルの雑な説明だ。実際、ヴィスベル達も首を傾げている。


「……アニマ・フィブに?」


 言葉の意味はわかったけれども訳が分からない、という様子でヴィスベル。奇遇だね、俺もさっぱりなんだ。何とか説明できる言葉はないものかと、アニマ・フィブが話していた事を思い返す。結構断片的にしか覚えていなかった記憶を掘り返して形にしつつ、俺は口を開いた。


「はい。えっと、なんか井戸で偶然拾った鈴に封じられてた?とか何とかって言ってたような……で、結構慌てた様子だったし、神様に言われたらやらなきゃなーとか思いまして」


 うん、このことに関しては俺にはこれ以上の説明ができない。時間がなかったってのもあって、俺も最小限の説明しか受けてないし。


「鈴……」

「はい、ほら、さっき話した、井戸に落ちたっていうの。あの時井戸の底に落ちてたんです。私のポーチに入ってませんでした?」


 聞くと、眉を顰めたカウルが顎に手をやる。


「ひしゃげた鈴のようなものは一つだけ。いや、あれがお前が拾ったやつだとするなら、もう一つはどこにやった?」


 もう一つの鈴。ドレークから奪った鈴のことだろう。あれを抱えて火口に飛び込んで……あれ、そういえばあの鈴、いつ手放したんだっけ。記憶を辿ってみる。


「あー……火口から出た時には多分持ってなかったと思います。なので、恐らくは火山の底かと」


 というか、アニマ・フィブの手で神界らしきところに招かれた時点で既に手放していた気がする。結局あの鈴は何だったんだろう。そんなことを考えていると、フレアがスッと立ち上がった。


「お父様に報告してきます」

「え?」


 何かまずいことでも言っただろうか。フレアとヴィスベル達の顔を交互に見る。二人の顔は少し明るいので、そんなに悪い事ではない……と、思いたい。


「ミカエラが持ってた鈴、タルボさんが探してたんだ」

「へぇ?何でまた」


 レアアイテムっぽかったし実際アニマ・フィブが封じられてたそうだから超絶レアな代物だった訳だが、そんなものを族長さんが探していたとは意外だ。だって普通に井戸に落ちてたし。


「あの鈴は放っておいたらこの辺り一帯が焼き尽くされる代物だったみたいでね。ドレークはいなくなっても鈴が残っていたら危ないままだからって」


 何気なく呟かれたヴィスベルの言葉に、額を冷や汗が伝う。そんな危ないものだったのアレ。何がレアアイテムっぽいし持っとこなんだ俺。迂闊すぎるだろ。


 俺は慌てて飛び出していくフレアを見送りつつ猛省する。フレアが慌ただしく出て行った後、しばしの沈黙。俺は机の上のコップに雨露の水差しで水を注ぎ、口に含む。結構喋ったから喉が乾くったらない。


「あと一つ、あの火口から飛び出してきた時の力は何だったんだ?あれもお前の魔法なのか?」


 沈黙を破ってカウルが言った。俺はまさか、と言って首を横に振る。あんな魔法が使えたらカナルとロソニ、二人の魔族に捕まるなんて多分起こらない。というか、あんなちょっと使っただけで魔力が枯渇して筋肉痛まで出てくるようなピーキーな魔法、知ってても使いたくない。


「あれは火の大神様の力です。なんかあの黒い魔法陣を焼き払うのに必要だって言うので身体を貸したっていうか、原初の火種を貰って依り代になったっていうか。まぁ私もよくわかってないんですけど」


 できうる限り最も詳しく、かつ簡潔な説明。何一つとして必要な要素を欠いていない素晴らしい文章である。内容なかみは意味不明だけどな!


「……お前サラッとトンデモないこと言うな。曲芸の説明に時間割くよりもそこを掘り下げるべきだったろ、絶対」


 言って、カウルがコツンと俺の額にデコピンしてくる。大きめの机を挟んでるからかいつもよりかは痛くない。そうは言ってもちょっとズキズキするし涙目になるレベルではあるのだが。俺は弾かれた額に癒しの光を当てつつ、恨みがましい目をカウルに向ける。


「って言われましても、私にはこれ以上の説明もできませんし。芸は自分で考えたんですから説明が長くなるのは当然じゃないですか」

「はは……ミカエラらしいといえばミカエラらしいや……。カウル、僕らもタルボさんの所に行こう。言わなきゃいけないことが増えた」


 困ったような笑みを浮かべ、ヴィスベルが言った。

はい、というわけで恒例のコメントくださいタイムです。

思ったこと、こんなストーリーが見たい、そんな感じのものでも良いので送ってください!私が元気になります!

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