第一話
観国の城門は、この国の南方にある鉱山で取れる特殊な石でできていて、耐火性能が高く、硬くて丈夫なものらしい。
先の戦争でも活躍したテオ・ラスの軍事砦も、この石で頑強に作られたものだと教わった。
士官学校の座学で教わったこの国の首都の大部分を囲んでいる、さほど高くはない城壁の中で僕たちは生きているらしい。
「こうも暑いと、皆参っているみたいだな」
首都から馬を走らせてしばらくの小さな街。
その街の中心から少し離れた小高い丘から見えるのは、その鉱石を必死に運ぶその街の人たちだった。
隣に立つ背の高い男は、そういった僕の隣に座り込んで、マッチ棒でタバコに火をつけた。
「この地区は激戦区だったみたいだし、人が住めるようになるまでに長い時間を要したんだ。みんな疲弊しているさ」
「戦争も終わったっていうのに、僕たちが行ったらまた暗い顔になってしまうな」
「何を情けない顔してるんだよ。武門の子息がすたるぞ、もっと堂々としておけよ。期待してる」
そう言って立ち上がって、相方は僕の肩をたたく。
あまり使い込まれていない鎖でできた薄い鎧が、いかにも騎士風だ。
「って言っても、俺は四男で、上の三人の兄貴達とは腹が違う、妾の子...士官学校でも有名だったろ、僕のことは」
「俺はあんたのことは勝手に知っていたがね、随分と優秀でいらっしゃることで有名だったことしか記憶はしていないな、悪いけどさ」
いつの間にかタバコを吸い終わった長駆の男は、僕の横を通り抜けて街の方へと降りていった。
僕は少し遅れて後を追う。
気乗りはしない。
それでもやらなくてはならないことが騎士には、この時代の騎士にはある。
形だけ、仰々しく腰にぶら下げた使われることのない長剣の柄には、家紋が刻まれている。
戦争の終わってしまった時代においては特に、この家紋というのは忌々しくて仕方のないものだった。
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「今回の派兵の目的は鉱山視察をカモフラージュにした検問だ」
騎士団長リチャードの低い声は僕の眠気を飛ばす。
「鉱山街ロモスは、鉄鉱石の扱いに長けた職人の街だが、最近不穏な報告があってな。なんでも、最近就任した街の役人数名が、重税への反抗だかなんだかで、違法に武具を作り、大使館の襲撃を企てているようだ。できたらこちらも武力には頼らずに、話し合いで課税の協議をしたいと思っているんだが、先に仕掛けられたらそうもいかなくなってくる。ま、念には念を、だ。お前たち二人には、報告の真偽を確かめに行ってきてほしいというわけだ」
書類に目を通しながら、砕けた口調で団長は要点を押さえた説明をしていく。
長い戦争で疲弊したこの国で、役目を終えた戦争屋は、今や取り立て屋に役目を変えたようだった。
ようは圧力をかけろということだ。
たかが一兵卒の自分に口を挟む余地はない、淡々と与えられた仕事をこなすしかないようだ。
僕と相方は短く返事を返して、それぞれが部屋を出た。