紋章戦争
僕は戦争を知らない。
重たい鎧は背中のベルトでしっかりと縛られ、体に吸い付くように離れることはなかった。
汗が噴き出し、鎧の下でじんわりと湿気を帯びている、その隙間から覗く肩に突き刺さった弓はしっかりと僕の筋肉に突き刺さっていて、傷口からは泥のような血が流れていた。
後ろを追う足跡はないが、それでも警戒を続ける。
もう何日も椅子に座ってテーブルに出された豪華な食事をとるようなことはしていない。
さやは捨ててしまったので、むき出しの長剣を地面にこすりつけながら這うように進んでいるが、もう右腕の悪六はほとんどなくなってしまっている。
僕は戦争を知らない。
僕が戦争に出れるようになる前に、15歳の成人の儀式を終える前に、僕の国は戦争に負けてしまったからだ。
武門の家の子息として命をかけるつもりだった、軽々しくも、だがそこには確固たる意志があったように、今でも、思う。
生まれてからその日まで、僕は役目を果たすために生きてきたのに。
そう思わなかった日はなかった。
甘かったんだ、僕は。
涙が流れている。
照りつける太陽が密林で覆われているだけマシだった、これでもろに日に照らされていたのならたまったもんじゃない、少ない食料だって腐ってしまっていただろう。
足がもつれそうになる、それでも歩いた。
どれだけ歩いただろう、もう目の前のものを認識するというよりは、目的に向かって歩くだけだった。
僕は戦争を知らない。
聞けば僕が生まれる前から長く続いた戦争は、国に暮らす民の生活も困窮させたようだった。
士官学校でも、座学でも教わらなかった、戦争の真の被害者はそこに暮らす人間だったんだ。
そう思った時、国を守るために戦うことの意味がわからなくなってしまった。
少し先の方で大声が聞こえる。
誰かが大急ぎで僕に近寄ってきて、僕は倒れこむようにその誰かの肩に寄りかかった。
気がつくと、右手で引きずっていたはずの剣はなくしていて、包帯でぐるぐる巻きにしていた左手は、肩から担がれて、足は他人の力で引きずられていた。
みっともなく僕は泣いていた。
だって、こんなに辛いことは初めてだったから。
繰り返すが、僕は戦争を知らない。