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終戦とノーカウント

「アガァヒャアアウウウヴヴッッ!!」


 シャーロットがタケル君の中に入った瞬間、タケル君が叫び暴れだした。


「きゃああっ!」


 その力は凄まじく、私は抑えきれずに吹き飛ばされた。


「グヒャアブァハアァア!!」

「シャー……ロットッ!?」


 タケル君は咆哮と驚きの声を同時に上げ、地面を転がり回る。

 毒物を投与されたような暴れ方だった。よほど苦しいのか、髪を引きちぎったり、喉元を掻き毟ったりしながら釣り上げられた魚のように身体を跳ねさせている。


「ヒナタっ! 縛り付けろっ! 自害するかもしれないっ!」

「は、はいっ!」


 サバトに指摘され、慌てて光を放ってタケル君を抑えつけた。たとえ闇落ちしたタケル君でも、見た目はタケル君だ。もがき苦しんでるのを束縛するのは辛かった。


「タケルッ! 私が助けてあげるからっ!」

「馬鹿っ!なんでこんなことをっ!」

「馬鹿はタケルでしょ!! 無茶ばっかりしてっ!」


 タケル君の中で二つの人格が会話しているが、傍目からは一人二役を演じているように見える。

 ただシャーロットの台詞ははタケル君の声ではなく、ちゃんとシャーロットの声だった。


「グハファガァオオオオッ……オオオッ!!」


 死に物狂いのタケル君は私の光の束をブチブチと力づくでちぎっていく。


「駄目……タケル君っ……!!」

「ガアアアアアアア!!」


 目を剥き、口から血みどろの泡を吹き、ゆっくりと紫色の禍々しいオーラが消えていく。苦しんでいるが、浄化されている。直感でそう分かった。


「タケルッ!!」


 シャーロットが叫んだ瞬間、タケル君の身体が閃光した。


「うっ……」


 あまりの眩しさに目を開けていられない。

 私の力も限界に達し、縛り付ける力が抜けてしまった。


「グエエエエエエエエエッッ!!」


 怪鳥が絞め殺されるような雄叫びが響き、辺りに振動が巻き起こる。

 轟音が鼓膜をつんざき、爆風に巻き込まれるように飛ばされながら、私は意識を失った。



────

──


「……ナタ……おい、ヒナタっ!!」


 頬を叩かれる気付けの刺激でぼんやりと目が醒める。身体のあちこちが痛くて、首を動かすことすら出来ない。

 瞼をゆっくりと開けると目の前にサバトの顔があった。


「サバ、ト……」

「無事だったか……よかった」


 サバトの安堵の表情の先に、星が無数に散らばった夜空が見える。星の光というのはどれ程華やかに無数に煌めいていても、静寂を感じさせる。


「タケル君は……?」


 起き上がると身体に激痛が走ったが、構わずに辺りを見回す。

 激しい衝撃までは覚えていたが、その先の記憶は消えていた。

 私は思ったほど遠くまで吹き飛ばされてはいなかったようで、タケル君は十メートルほど先で横たわっていた。


「タケル君……シャーロット……」


 立ち上がることは出来なかったので、這いながらタケル君の元へ向かう。


「おい……無理するな」


 サバトも血塗れで傷付いているくせに私の首と腰に腕を回して抱き上げる。人生はじめてのいわゆる『お姫様抱っこ』がこんな瀕死の状態だなんて想像もしていなかった。

 というかこれは『お姫様抱っこ』というより、『要介護抱っこ』だからノーカンにしておこう。


「下ろして……サバトさんこそ無理しないで……」

「サバトさんじゃなくてサバトだったんじゃないのか?」


 その嫌味は疲労困憊で聞こえない振りをしてやった。

 わずか十メートルだが数分もかかり、ようやくタケル君の元に辿り着いた。


「タケル君……」


 紫色のオーラは消え、静かに目を閉じていた。あまりに安らかすぎるその顔に不吉な予感も感じたが、微かに動く腹部を見て安堵する。


 久し振りにまともにタケル君の顔を見た気がした。

 やつれ、髪も髭も伸び、掻き毟った爪の傷痕が痛々しいけれど、間違いなく私の幼なじみのタケル君だった。


「お疲れ様、タケル君……ごめんね、助けに来るのが遅くなって……」


 記憶にあるタケル君よりも随分逞しい腕を掴んで謝る。


「タケルのダークサイドは解けた……疲労でタケルもシャーロットも眠っているが、明日には目を醒ますだろう」


 サバトは岩を背にして腰掛け、長い息を吐きながら夜空を見上げていた。


「ありがとうございました、サバトさん……」

「ふん……ヒナタに礼を言われる筋合いはない。私は私の意志でこいつを助けただけだからな」

「照れてるんですか?」

「照れる? そんな感情は魔族にはない。照れというのはお前たち人類が自分たちの無力さや愚かさを恥じて──」


 魔族でも照れるものだと知って思わず顔がにやついてしまう。でもそれを言うとうるさそうなのでそっとしておいてあげる。


 リュークさんとエマさんも爆風で飛ばされていたが、何とか生きているようだ。

 倒れたままのタケル君の隣で寝転がり夜空を見上げる。

 揺らめきながら輝く光の礫を見詰めているうちに、私は眠りに落ちていった。





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