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最後の策

 シャーロットの精神を浄化する魔術が当たると、タケル君はそれまで見せたことがないほどもがき苦しみはじめる。


 シャーロットの目には涙が浮かんでいた。歯を食い縛り、何か納得のいかないことを堪え忍んでいるかのようだった。


(もしかしてシャーロット……私は思い出したのに自分は思い出して貰えてないことに傷付いているんじゃ……)


「ヒナタっ! 余計なことは考えるなっ! 縛り付けることだけを考えろっ!」

「はいっ!!」


 気を抜くと飛ばされてしまいそうな力だった。

 猛獣に綱をつけて引っ張ってる。そんな感覚だった。


「シャー、ロト……オマエダケハ僕ノ味方ダロ……モウヤメテクレヨ……」


 タケル君は先ほどと同じ鳥類の擬声のような語り掛けをした。声も言葉も総毛立つ不気味さだ。しかしシャーロットは不意に恋人からキスをされたような顔になる。


「タケルッ……私だよ! シャーロットだよっ!! 覚えてくれているのっ!?」


 感情を爆発させ、シャーロットが叫ぶ。


「駄目っ! シャーロットっ! 耳を貸しちゃ駄目っ!!」

「二人とも落ち着けっ! 術に集中するんだっ!」


 シャーロットは明らかに動揺し、魔術を弱めていた。


「助ケテ……シャアーロットッ……ミンナガ僕ヲイジメルンダ……」

「タケルッ……」

「シャーロットっ! これはタケルの言葉じゃないっ! 目を醒ませっ!」


 予想外のタケル君の心理攻撃にサバトも焦っていた。


「ごめん……タケル……一人で辛かったよね」

「シャーロットッ!!」


 サバトは手を振り上げ、しかし振り抜けなかった。そんなことをすればシャーロットの術が解けてしまう可能性があるからだ。

 ここはシャーロットが自分の力で切り抜けるしか方法はない。


「愛シテイルヨ、シャロット……サア、フタリデ逃ゲ」

「シャーロットッ!! 僕を殺してくれッ!」


 二つのタケル君の声が重なった。


「タケルっ!?」


 タケル君は目から血の涙を流し、シャーロットを見詰めていた。その目は間違いなく私の幼なじみのタケル君の瞳だった。


「グアアアエ!! ギャウワアアアッ!」


 死に物狂いになったタケル君は更に力を増していく。


「早くっ……シャーロットッ! もう、限界っ!」


 エマさんとリュークさんは傷付いた身体を引き摺りながら剣を構える。

 生きて助けるのが無理な場合は、殺す。それは約束したことだ。


「サバトッ! 私を、私をタケルの中に入れてっ!」


 シャーロットはサバトが話した最後の手段を叫んだ。


「シャーロット……!? それってっ……」



────

──


 陽が沈む寸前、サバトはワントーン低い声で伝えてきた。


「最後の手段、それはシャーロットの魂をタケルの中に入れてしまうというやり方だ」

「えっ……」

「内側から術をかけ、タケルの闇を打ち消す。それならば勝機はあるかもしれない」


 タケル君とサバトがはじめて戦ったとき、見せた技だ。混乱する部下達を静めるため、魂を抜いてその魂をコウモリに入れてしまった。あれをシャーロットとタケルで行うというのだ。


 シャーロットは目を見開き、息を飲んでいた。


「タケル君の魂を正常化させたら……またシャーロットの魂を抜いてシャーロットの身体に戻すんですよね?」


 恐る恐る訊ねるとサバトは首を横に振った。


「魂を抜いた瞬間、シャーロットの身体は死ぬ。すぐに戻せば間に合うには間に合うが」

「急げば間に合うってことですね」


 一人で納得したように頷くが、サバトは黙って首をまた横に振った。シャーロットは何も語らず俯いている。


「……一度タケルの中に入ったシャーロットの魂とタケルの魂とは融合して一つになってしまう。魂を抜けば今度はタケルの身体が死ぬこととなる」

「そんなっ……それじゃ……」

「死ぬまでずっとタケルとシャーロットは離すことが出来なくなる。二つの意識が一つの身体を共有する状態だ」


 説明が終わる頃、太陽はほとんど地平線に隠れていた。


「そんなっ……」

「あくまで最終手段だ。するかどうかはお前らで決めろ」



────

──


 このままでは確かにタケル君を戻すことは出来ないだろう。しかしそれをすればシャーロットの肉体は死んでしまう。


「お願いっ! 早く私をタケルの中に入れてっ!」

「必ず助けられるわけではない。しくじればお前もタケルの身体の中で闇に支配される。それでもいいのか?」

「構わないっ! タケルと一緒ならっ!!」


 サバトは私の目を見る。


「ヒナタも、それでいいか?」

「えっ……わ、私……?」

「私がいいって言ってるんだからいいでしょ! ヒナタは関係ないっ!」

「タケルは二度とシャーロットと離れられない。お前たちの世界にも連れ戻せないだろう。もう一度訊くが、ヒナタ、お前はそれでも、いいのか?」

「ッッ……」


 タケル君は助けたい。しかしその為にシャーロットの肉体は死に、更にはタケル君とシャーロットが一つの魂となり離せなくなってしまう。


「はい……して下さい……シャーロット、タケル君を……お願い……お願いしますっ……」


 私の返事を確認したサバトは間髪入れずにシャーロットから魂を抜く。その瞬間、シャーロットの瞳は精気をなくし、糸が切れた繰り人形のように崩れた。

 口から出たシャーロットの魂は一直線にタケル君の中へと吸い込まれていく。




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