表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

サバトの特訓

 私の手のひらからぽわっと弱々しい火が灯り、一瞬で消えた。


「そんな火では蝋燭も灯せないな……」


 サバトは小馬鹿にした顔で失笑した。いちいち毒づかないと会話も出来ないのだろうか。


「初めてだからしょうがないでしょっ!」


 私としてはちょろっとでも火が出ただけ驚きに値する。魔女っ子に憧れたあの頃の夢が叶った気がした。

 その後も雷、風、水と試してみたものの、手品としてもショボすぎる程度のものしか出せなかった。


「とんだ期待外れの救世主様だな」


 シニカルな笑みを浮かべたサバトが吐き捨てる。


「サバト、そんな言い方ないでしょ。他の力があるかもしれないわ。気にしないでいいのよ、ヒナタ」


 エマさんは優しく励ましてくれたが、正直私も期待外れの能力に落胆していた。

 タケル君は異世界でいきなり激しい魔法を使っていたと書いてあった。私の魔力はそれに比べてあまりにも非力すぎた。

 心のどこかでタケル君のような凄まじい魔法が飛び出すことを期待していた。ファンタジーに対する造詣の低さがそのまま結果に影響を及ぼしているのだろうか。


「まあそんな子供のような真っ平らな胸では魔力も子供並みと言うことか」


 調子づいたサバトは触れてはいけないことを無遠慮に指摘した。


「はぁあっ!? あっちの世界ではこれくらいが普通なのっ! てかキモいっ! 普通女の子のおっぱいのこと言わないでしょっ!! 最低っ!」


 恥ずかしさと怒りで思わず怒鳴ってしまった。

 その声が辺りの空気を振るわせ、波動となりサバト目掛けて飛んでいく。


「うわっ!?」


 景色が歪んで見えるほどの激しい波動に吹っ飛ばされたサバトは慌てて翼を広げる。しかし衝撃が激しすぎたのか、サバトは羽ばたくことも出来ずにそのまま数メートル飛ばされ、木にぶつかってようやく止まった。


「嘘っ……そんなに……?」


 以前私の声が波動となったのは見たが、ここまで威力があるとは思わなかった。

 サバトは少しばつが悪そうな顔をしながら飛んで戻ってくる。


「なるほどな……まあ、木偶の坊でもなさそうだ」


 吹き飛ばしてしまったことを謝ろうとしたが、失礼なことを言ったのはサバトの方なのだからおあいこということにしておく。


「こいつを俺が鍛えてやる。連れていくぞ」

「はあ? 訓練ならここでしたらいいじゃないっ!」

「ここでは気が散るし、人間どもが変な情とかをかけそうだから駄目だ。時間もない。多少強引でも早くこの女を覚醒させなければ状況はもっと悪化する」

「こんな狡賢そうな魔族と二人きりとか嫌っ!」

「お前だってさっさとタケルを助けてやりたいんだろ?」

「そりゃ、まあ……」

「安心しろ。別にお前みたいに色気のない女に何かしようって気はない」


 サバトは見下した目でからかうが、さすがにおっぱいに直接言及するのはまずいと学んだようだった。


「だからそういう発言がキモいのっ! 無理なのっ!」

「じゃあ私も行く」


 埒があかないと見たのか、シャーロットが同行を名乗り出てくれた。サバトは怪訝そうに目を細め、シャーロットを睨む。しかしシャーロットの方も負けじとサバトを睨み返していた。


「まあいいだろう。ひとまずこいつらは預からせてもらう」


 サバトはそう言うと私とシャーロットの二人を小脇に抱え飛び立つ。


「きゃっ!? 下ろしてよ! 歩いて行くからっ!」

「追い暴れるな。飛んでいった方が早いから少し我慢してろ」


 サバトは私たちを抱えたまま高く羽ばたく。上空から見下ろすこの世界はそのほとんどが手つかずの自然が広がっていた。豊かな緑も、清らかな川の流れも、切り立った山々も美しかった。

 タケル君がこの世界を守りたいと思ったのも、何となく理解できる。


 山を越え、岩肌が剥き出しの渓谷に入り、鍾乳洞へと入っていく。その内部は小さな入り口からは想像できないほどの空間が広がっていた。


「ここでお前を鍛えてやる」


 ひんやりとした冷気が漂っており足許は濡れていて滑りやすく、気を抜けば転倒してしまいそうだった。

 しかしそんな泣き言を口にしたらまたこの性格の捻くれた悪魔にせせら笑われそうだ。


「よろしくお願いしますっ」


 こんな奴でも頼るしかない。一応師匠なんだろうから敬語を使うことにした。サバトは口許だけで笑い、壁にかけてあった杖を手に取って私に投げて寄越してきた。

 「わっ!?」と言いながら私はそれを慌てて両手で受け止める。


「その杖を使え。魔術を扱いやすくなる」


 先端に宝石のようなものが沢山埋め込まれたその杖は見た目よりも随分と軽かった。


「私もっ……私も鍛えて欲しいっ!」


 シャーロットがサバトに訴える。縋るようなその瞳に力強い意志を感じさせた。

 タケル君を追い詰めた直接の原因を作った相手でも教えを乞う。それほどまでにシャーロットも本気だということだろう。


「貴様も? まあいい。ついでに相手にしてやる。だが死んでも恨むなよ」

「分かってるっ……」


 二人は当然のようにそんなやり取りを交わした。


「わ、私は恨みますからね! 死なない程度でお願いしますっ!」

「心配ない。お前は死なないだろう。ヒナタはタケルと同じで相当耐久力がありそうだ。それと同じだけ鍛えようとするならシャーロットは死ぬかもしれないというだけの話だ」

「そう……ですか……」


 「心配ない」と言われても些か心配が残る説明だったが、今さら後戻りも出来ない。



 サバトの特訓は本当に容赦がなかった。

 先程のようにどんな術が使えるのかというやり方ではなく、サバトとの実戦練習をさせられる。

 命を危険に晒すことで私に隠れている能力を引き出すという荒行だ。

 サバトは手を抜いていると言っているが、私に吹っ飛ばされたのを根に持ってるんじゃないかというくらいに厳しい攻撃を繰り出してくる。

 杖で突かれると普通に痛いし、焔や電撃はかなり恐怖だった。


 だが確かに彼が言うとおり、普通なら死ぬんじゃないかという攻撃もなんとか堪えられる。なんとか堪えられると言うだけで、かなり痛かったり熱かったりはするのだけれど。

 一方シャーロットの方は本当に死んでしまうんじゃないかというほどダメージを受けていた。

 サバトは予想通り、いや予想以上にかなりのドSだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ