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最後の望み、魔女っ子ヒナちゃん

「タケル君を元に戻してあげる方法は本当にないの? 何か方法はあるんじゃない?」


 生きて元に戻さなくては意味がない。私は唯一の頼りとなってしまったシャーロットの目を見て問う。


「絶対あるわ! 人にばっか訊かないでヒナタも考えなさいよっ!」

「わ、分かってるよっ……」


 本当に仲間なのかと思うくらい刺々しい。でもシャーロットの言う通りだ。タケル君をどうやって助けるか、教えてくれる人なんていない。自分で考えなきゃ、誰も解決策なんて教えてくれる世界じゃないんだ。

 魔王の力を持ち、敵味方の区別さえつかずに暴れるダークサイドに支配されたタケル君。ダークサイドを解けるのはシャーロットただ一人だが、それすら通じていない。


「あっ……」

「なに?」

「ダークサイドを解ける人って本当にシャーロット以外いないの? もしかすると他にもその力を持っている人がいるんじゃ……?」


 シャーロット一人では無理でも何人かいれば何とかなるかもしれない。

 しかしシャーロットは悔しそうに首を振って否定した。


「ダークサイドを解ける術が使えるのは私たち一族だけ……でも私の親も親戚もみんな既に魔王との戦争で死んでいるの……」

「そんなっ……他にはいないの?」

「残念だけど……」

「じゃあタケル君本人にダークサイドを制御する力を強くさせる方法はないの? 実際に少しは制御できるようになったんでしょ?」


 その言葉にエマさんが首を振る。


「無理よ……今のタケルはほぼ完全にダークサイドに支配されている。タケルにそんな力を会得する余力はないわ」


 私が考えつきそうな浅はかな案などもう何度も検討されてきたのだろう。

 絶望しかけた私に希望の欠片を与えてくれたのは意外にも魔族のサバトだった。


「唯一可能性があるとすれば、お前だろう?」

「えっ? どういうこと……?」


 サバトは冷たく光る眼で私を睨み、薄笑いを浮かべる。


「お前はタケルと同じように異能を持っているはずだ。その力がどれくらいなのか見極めろ。もしかするとタケルを助けられる力があるかもしれない」

「私の……異能……」


 全員の視線が私に集まる。

 確かに現状ではタケル君をどうすることも出来ないのだろう。私という新しい因子がこの世界でどれだけ力を発揮できるのか、それにかかっているのかもしれない。


「それにお前に期待できるのは異能だけではない。タケルはお前を見て『逃げろ』と言ったのだろ? ダークサイドに支配されたあいつが瞬間だけでも正気を取り戻したんだ。お前のならあいつを動かせる可能性もあるのかもしれない」

「で、でも……」

「なんだ? 自分がやるとなったら怖じ気づいたのか? お前がタケルを助けたいなら、お前がやるしかない」

「そうじゃない」


 私は睨もうとしたが、怖くて伏し目がちにサバトを見る。


「タケル君を何度も殺そうとしたあなたの言うことが信じられないの。だってあなたはタケル君を殺したいんでしょ?」


 ビシッと言ってやるつもりだったのに、ほとんど消え入るような声になってしまった。

 その怯え具合が面白かったのか、サバトは癪に障る声で笑った。それが皮肉にも私の緊張を解き、勢いをつけてくれた。


「な、何がおかしいのよっ!」

「いや。実に生ぬるいものの言い方がタケルと似ていてな。お前ら異世界人というのはよほど平和ボケした世界で暮らしているんだな」

「生ぬるくて悪かったわね! そもそもあなたがタケル君を殺そうとしたからこうなったんでしょ」

「うるさい小娘だな。だから助けてやろうとこうしてお前たちと手を組んでやっているんだろ?」


 サバトは私の目の前に指を突き出す。


「私がお前の能力を開花させてやろうと言ってるんだ。やるのか、やらないのか? 答えはその二つに一つだ」


 サバトの端整な顔立ちがグイッと迫る。威嚇したつもりなのだろうが、不覚にも私は違う意味で心拍数が上がってしまった。


「か、顔近いからっ……やるわよ。タケル君を助けるためならっ」


 タケル君を殺そうとした奴に鍛えてもらうのは癪だが仕方ない。

 それにタケル君と戦ったことがあるからこそ、サバトのアドバイスは役に立つかもしれなかった。


「じゃあ聖堂の外に出ろ」

「えっ? すぐに始めるの?」

「当たり前だ。時間がないからな」


 サバトには心の準備という繊細な感性は持ち合わせていなさそうだ。

 仕方なくそのまま聖堂の扉を開ける。

 その瞬間──


「はっ!!」


 サバトの短い叫びと共に背中に何かが激しくぶつかる衝撃が走った。


「きゃあっ!?」


 そのまま数メートルすっ飛ばされ、瓦礫の上を転がった。背後から何か魔術をかけられたようだった。


「ちょっ……いきなりなんて卑怯だからねっ!」


 思ったほど痛くはない。これも私の異能の一つなのだろうか?でも痛いとか痛くないとか関係なく、背後からの不意討ちは許せなかった。


「敵に背を向けるお前が悪い。どうやら戦闘経験は皆無のようだな」

「当たり前でしょっ! っとにもうっ!」


 リュークさんたちは黙って様子を見ている。当然ながら助けてはくれないようだ。今は私にこの世界を救えるかがかかっている。そんなプレッシャーはもちろん生まれて初めてだった。


「タケルは日没後にしか現れない。特訓するなら夜明けから日没までだ。さあ、魔術を放ってみろ」

「それが分からないから特訓するんでしょ!」

「そんなところから教えないと駄目なのか?」


 サバトは本気で驚いているようだった。まるで呼吸の仕方や歩き方を説明しなくてはいけないかのような面倒臭そうな顔をする。どうもこの男は苦手だ。


「お、教えてよ……どうすればいいの?」

「頭に思い描いてみろ」

「思い描くって……何を?」

「火を出したり電撃を出したりとかだ。そして精神を集中させてそれを飛ばそうとしてみろ。それでまったく出ないようなら力はないんだろう」


 そんなに面倒臭そうに言わなくてもいいのにと思いながら目を閉じて意識を集中させる。


 火、焔、火柱……

 昔見たファンタジー映画を思い出してそれが私の手から放たれることを想像したが、どうもピンとこなかった。次いで小学生の頃、魔女っ子アニメに憧れて友達と遊んでいたことを思い出す。

 魔法なんて使えないと言うことは理解できる年齢だったのに、あの頃の私たちは無心に魔法の呪文を唱えていた。


「はぁあっ!!」


 手のひらに力を入れ、声を上げながら目を見開く。



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