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タケル救出隊

 理性が消えたタケル君は破壊神の如く、モンスターを殺し始めた。

 井戸など守ることなく、ひたすらモンスターを焼き払い、引き裂き、食いちぎり、叩き潰した。もはやモンスターも井戸など狙いもせず蜘蛛の子を散らしたように四方へと逃げ、タケル君はそれを追い掛けた。モンスターは追い払ったが、もはやタケル君は人類の救世主なんかではなくなっていた。魔族だろうが人類だろうが関係なく、目に映る全てを破壊し、動くもの全てを殺し始めた。

 タケル君はこの世界を破滅させる怪物となってしまったのだ。


「そんなのひどい……酷すぎるっ……タケル君はもう元には戻れないんですかっ……」


 長老はゆるゆると首を横に振る。


「タケルはもうこの世にはいない……先ほどのあれはタケルではない。タケルのかたちをした……怪物だ」

「違うっ! タケルは死んでなんていない! あれはタケルよっ! タケルなのっ!」


 シャーロットは火がついたように激しく否定した。その悲痛な叫びに胸が潰されそうだった。


「シャーロット……諦めるんじゃ……タケルはもう死んでしまった。あれをタケルと呼ぶことは、亡きタケルの名誉まで穢すことになる」

「生きてるじゃないっ! タケルは生きてるっ! それにさっきだって……」


 シャーロットは私を睨みながら指差す。


「さっきだってヒナタを見てタケルは逃げろと叫んでいたっ! タケルの魂はまだ残っているわっ!」


 確かに私も聞いた。タケル君の声を。

 あんな姿になってしまい、善悪の判断もつかなくなってしまったとしても、やっぱりあれはタケル君だ。


「そうです……シャーロットの言う通りです。タケル君は……まだ生きていますっ……」

「ヒナタ……」

「私が助けますっ! タケル君をっ……タケル君のことは私が助けますからっ!」


 異世界を救い、私たちの世界まで救ったタケル君の最期がなれの果ての化け物だなんて、絶対にそんなの納得が出来ない。

 そんなこと絶対に受け容れられなかった。


「私が必ずタケル君を救いますからっ!!」

「なによ、偉そうに言わないで……」


 シャーロットが涙目で私を睨む。


「タケルを助けるのは既に私がやってるのっ! どうしても手伝いたいなら手伝わせてあげるけど、リーダーは私だからねっ!」

「うん。わかった。じゃあ私がサブリーダーね」

「サブリーダーはエマ。あんたなんて下っ端の雑用係兼戦闘要員だからっ! わかった?」

「うん。それでいい。ありがとう。仲間に入れてくれて」


 手を差し伸べるとシャーロットは「ふんっ」とそっぽを向いてしまう。タケル君の小説を読んで知っていたけど、やっぱりシャーロットは素直じゃない。だけど何故か可愛らしかった。



────

──


 タケル君を救うメンバーに入れてもらった私はシャーロットに『渇水の神殿』というところへと案内された。

 そこは以前街があったであろうと思われる廃墟にあった。

 周囲の建物はほぼ破壊され尽くされていたが、この神殿だけは辛うじて残っている。


 タケル君はなぜか教会や寺院などは襲わないらしく、残された人類はそれらに逃げられるところに暮らしているらしい。

 しかしそれも絶対ではないらしいので油断は出来ないとのことだった。


「私たちは今ここを拠点にしてるの」


 この渇水の神殿はこの地方でもっとも歴史のある教会らしく、よく言えば月日の流れを感じさせられる趣があり、悪く言えば瓦解寸前だった。

 恐らく泰平の世であればこの神殿も歴史的な価値を認められて補修もされるんだろうけど、今は荒れるに任せたような状態だ。


「シャーロット、誰を連れて来たの?」


 神殿の奥から現れた女性は宝石のような翠眼で私を冷ややかに眺める。

 物憂げな表情や冷静な口調、そしてその翡翠色の瞳からしてエマさんだろう。


「エマ、この子がヒナタよ」

「へぇ……なぜヒナタがこの世界に?」


 エマさんの目から警戒の色が薄れ、眉を緩めながら微かに微笑んできた。

 彼女はシャーロットのように私を憎んでいないようで安心する。


「はじめまして。ヒナタです。タケル君が残してくれた情報をもとにやって来ました」

「そう。やはりあなたも異能を持ってるの?」

「ええ。どんなものかまではわかりませんけど、不思議な能力は持っているようです」

「ふぅん……」


 エマさんは品定めをするかのように私を見詰める。私がこの世界を救えるほどの力を持っているのか、推し量っているのだろう。


「エマさんはシャーロットと一緒にタケル君を助けようとしているんですよね。私もそれに加わりたくてここに来ました」

「助ける? そうね。タケルを助けるために集まっているのよ」


 エマさんが力なく笑うとシャーロットはなぜか気まずそうに俯いた。


「助けるということに間違いはないが、その解釈には違いがあるかもしれないな」


 そう言いながら鎧に身を固めた大柄の男性が柱の陰から姿を現す。

 鎧はかなり重厚な作りで、普通の人が着たらその重さだけで潰れてしまいそうなほどだ。


「失礼。何者なのか見極めるために隠れて拝見していた。俺はリューク。タケルを助けるメンバーの一人だ」

「リュークさん……中将から大将に出世された『彗星の騎士団長』リュークさんですか?」


 想像していたよりも随分と若い人だった。この世界では珍しく黒髪で、顔立ちもそれほど彫りが深くない。大きな目や口角の上がった口許は幼さを感じさせるが、戦闘を潜り抜けてきた経験からかやはり鋭く尖った気配を漂わせていた。


「大将、か……俺の策で人類を危機に曝してしまったようなものだ。ろくな将ではないがな……あの時タケルの言葉を素直に聞いていればこんなことにはならなかっただろう」


 リュークさんは表情を曇らせ、悲しげに自嘲した。



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