primary colour
一昨日、髪を切った。
窓から差し込む僅かな光にあてられた艶やかな君の長い髪の毛がバラバラと舞い落ち、赤かった絨毯に黒の華を添えた。
昨日は、爪を切った。
君の指は細くて長い、そこだけを切り取っても美術品に仕上がりそうなほどだ。だけど爪は人よりも脆くって、切るたびに割れてしまって一苦労だった。
今日は……そうだ、君の為のドレスが届いたんだった。
安アパートの一室、観客が一人しかいない質素な舞台だけどささやかなファッションショーを開こう。
君の肌は透き通るように白くって、うっかり触れてしまえば泡となって消えてしまいそうな気がして、すぐ近くにいるのに、誰よりも遠い存在だった。
それが、今ここでこうして肌を重ね合わせられる程の距離にいられる奇跡。
一週間前の自分に教えたら、きっと泡吹いてひっくり返ってしまうだろうな。
――大丈夫、これは現実だよ。夢なんかじゃないよ。
緑のドレスに身を包んだ君の姿はまるで大きな花束のよう。
可憐な花びらにキスを落とすと、君が微笑んでくれた気がした。
明日は出かけよう。
だってこんなに綺麗に着飾ったのに、独り占めなんてもったいないよね。
誰かに見てもらおう。大丈夫、怖がらなくても良いよ。
君はこの世界中のどんな花よりも美しく、どんな物語よりも繊細で、どんな星より輝いているのだから。
――透き通るほど白かった肌が、くすんで、青く見えた。
やっぱり明日は出かけないで、テレビでも見ながらゆっくり過ごそうか。