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我が輩は聖獣コウノトリである。

作者: 瀬田 冬夏


 我が輩はコウノトリである。この国で、夫婦に赤子を授ける聖獣である。

 他国では、蛇や象、カンガルーなどが居る。

 また別の国ではキャベツ畑や竹林、桃園などから赤子が生まれる。


 聖獣が赤子を授ける国と聖なる植物が赤子を授ける国。

 人間はその二派に別れ、対立しているのである。


 我が輩達からするとばかばかしい争いである。


「コウノトリ。仕事は終わったのか」

「うむ。まだであれば手伝うぞ?」


 地面に降り立ち、象を見上げて尋ねるが、彼の長い鼻が否定の意味を示した。


「なあに問題はない。儂ももうすぐ終わる」

「お、コウノトリ。そっちはもう上がりか? 相変わらずはぇーな~」

「おお、終わったぞ。蛇。そちらは終わったのか?」

「ラス1だ」

「そうか。ではそれが終わったら。酒を持ってくる。奉納されたのでな」

「ほんとかよ! ありがたいねぇ。んじゃ、ちょちょいと終わらすから!」


 上機嫌で蛇は移動し、巨大な木を登っていく。


「あっれー? ミンナもう終わったのー? ボクが最後?」

「俺はまだだぜい。これがラス1だ~」

「儂はまだ三組残っておる」

「ほんとー? じゃあ終わったらみんなでご飯食べようよー。むしろ食べてくださいお願いしますー」

「なんだ、また果物でも入っておったのか?」

「そうなんだよー。あと魚とかね! ボク、肉食に見えるのかなー?」

「聖獣だからなんでも食うって思ってるんだろ~。っと行ってくるぜぃ」

「儂も早く終わらせよう」


 そう言って、象はその鼻を伸ばし、巨木から一つの実をもぐ。

 実が勝手に割れて、それは籠になった。籠の中ではすやすやと赤子が寝ている。

 象は重たそうな足取りで赤子の親の元へと向かった。


 そう。聖獣が授ける赤子も結局のところは聖なる植物なのである。


 実にばかばかしくて無駄な争いである。



****


 仕事を終え、我が輩達は夕餉をともにする。

 蛇は酒を飲み、我は魚を飲み込み、象は果物を食べ、カンガルーは草を食む。

 実に和やかな食事が繰り広げられる。


「そういや、また戦争なんだって?」

「無駄な争いなのにねー」

「無駄というよりも無意味だろうな。結局のところ、儂らが仲介しているぶんの制限があるかないかの違いなだけで」

「いや~。この仲介がでかいみたいだぜ~。さっき軽く聞いたら、桃園でそろそろ捜索五日目の猛者がいるとか」

「ほう。桃園で五日目とは、またずいぶんと長いな」


 意外である。桃は果樹故、一つの木に複数の赤子が成る。そのぶん、探す範囲が狭いのである。

 キャベツ畑や竹林は一つに一人の赤子だから範囲も広く、実に大変であるが。


「先代の話じゃ最長十日ってのが至ってボク聞いたけど~」

「竹林であれば、最長十六日というのがあったはずだ。両親ともに極度の方向音痴であったとか」

「……それ、誰もヘルプに付かなかったのか?」

「いや先々代のコウノトリが人に化けては、毎日方向を示していたようだが……」

「我が輩も聞いたことがある。原因は方向音痴もあったが、夫人が足を痛めていて、夫に支えられて歩いていたため、ちょっとずつちょっとずつ夫人に押される形で方向がずれていた、と。十三日目に気づいた、と」

「何それ、つらーい~」


 わっとカンガルーが鳴く(泣く)。


「十三日連続時間外勤務か。泣けるねぇ。そういや、そろそろキャベツ畑で三日目になる夫婦がいなかったか?」

「ああ。確かに居る」


 酒をあおりながら蛇が尋ねてくるので我が輩も頷く。

 我が輩コウノトリは、その機動力故に自身の仕事が早く終わるため、他の助っ人をする事が多い。同時に起こった場合はカンガルーや蛇が助っ人にいくことになる。


「さっさと聖獣作ればいいのに……」

「自分たちに似合う聖獣じゃなきゃ嫌なんだとよ」

「えー。わがまま~。せめて案内人作ればいいのにー」

「それは確かに有効だ。我が輩達は結局、方向を示してやるくらいしかできぬ」


 我が輩達はあくまでこの聖樹の聖獣ゆえ。他の聖域をうろちょろする訳にはいかない。


「ん~。キャベツ畑だったら、……青虫か? いや、それが成長した姿があっか。いいじゃん。モンシロチョウ。ぜひとも作ってくれモンシロチョウ」

「なら、桃園なら蜂とかかなー?」


 そんな話をわいのわいのとしていたが。

 問題なのはその二カ所ではないのだ。

 桃園は先ほども言ったが果樹故、範囲が狭いからまだ良い。キャベツ畑は背が低く、遠くまで見渡せるからまだ良い。

 問題なのは竹林である。

 あそこは見通しも悪く、範囲も広い。しかしだ。しかしながら……。それはしばらく望めぬであろう。


「……竹林もなぁ……。なんで……美人なねーちゃんにしちゃったかなぁ……」

「そもそも、なぜ、未婚の男が竹林にいたのか……」

「絶世の美女がいるって聞いたら確かめたくもなるんじゃないかなー?」

「竹林もよもや、聖獣が男に惚れて出て行くとは思わまい……」

「しかも生まれてたった三ヶ月で……。さすが次期帝。ハイスペック過ぎたな。しかし俺は言いたい。男は顔ではないと!」

「会うなり互いに一目惚れー。その場でプロポーズー、その場で子授祈願ー。滞在時間わずかの十分~。展開が早すぎるって竹林泣いてたって聞いたけど、ボク」

「そりゃ、泣けるよ」

「我が輩でも泣くと思う」

「儂も嫌じゃな」


 我が輩達は深く、悲しいため息をついた。

 我が輩達の時間外労働が増えるが、さすがに竹林には何も言えない。

 哀れすぎる。


「と、どうやら例の夫婦、時間内に赤子を見つけられなかったようだな」


 我が輩の前に一枚の手紙が降ってくる。

 内容はたったの一文。「助っ人頼む」のみである。

 両親を今か今かと待っている赤子が可哀想なので、もちろん我が輩は手助けをする。


 頑張れよー。と我が輩にかかる声を聞きながら我が輩は空を飛ぶ。

 天界は今日も平和である。





おつきあいありがとうございました。

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