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エピソード2:歓迎!東日本良縁協会仙台支局!①

 立ったままのユカが机上に印刷した資料を広げ、頭のなかで構成を組み立てていると……インターホンが鳴る。

 自分の仕事机――部屋の最奥、全体を見渡せる位置――で事務作業を行っていた政宗が、手元の電話の受話器を取って応答した。

「はい。あぁ……お疲れ様、今開けるから」

 相手を確認して立ち上がった政宗の背中を見送りながら、ユカは改めて、本日対峙する2人の資料を拾い上げる。

「名杙の令嬢に、身元不明の女子高生、ねぇ……」

 感じたことのない違和感の理由は、直接会えばスッキリすると信じたい。ユカは湧き上がる不信感を丁寧に押し込めて、一度、口元を引き締めた。

 刹那、政宗が衝立の向こうから顔を出し、手招きする。

「ケッカ、ちょっといいか? 片倉さんに軽く自己紹介してくれ」

「はーい」

 返事をして、手元の資料を置いて移動した。

 先ほど昼食を食べたユカの位置に座っていた彼女が、ユカに気づいて椅子から立ち上がる。

 女性にしては身長が高めで、スラっとした印象。パステルブルーのブラウスに黒いジーンズスカート、足元はハイソックスにショートブーツという出で立ちで、飾り気がなく、堅実そうな印象を受ける。

 長い髪の毛を右側でゆるく1つにまとめ、ノンフレームの眼鏡の奥にある瞳には、明らかな緊張が伺える。

「は、はじめ、まして……片倉と申しますっ……!」

 そう言って深々と頭を下げる彼女。声が少しだけ震えている。よくよく見ると呼吸の感覚の短く、全身も小刻みに震えていて、怯えきった小動物のような印象を受けた。

 そして、頭が一向に上がらない。ユカがジト目で政宗を見やる。

「政宗……最低。何したん? こげん怖がらせてから……」

「お、俺は何もしてねぇよ!? 片倉さんはケッカと違って繊細で人見知りなんだ!!」

 狼狽えながら無実を訴える彼をとりあえず無視して、ユカは机を挟んで彼女の正面に立ち、「とりあえず、頭を上げんね」と、ため息混じりに提案してから。

「片倉華蓮さん、やね。初めまして。山本やまもと結果ゆかです。今日からヨロシク」

「は、はいっ! よろしくお願いしま……」

 頭を上げてユカを認識した彼女――華蓮の目に、明らかな戸惑いが浮かんでいた。

 無理もない。政宗がどんな風にユカを紹介していたのか知らないけれど……目の前にいたのは、どう考えても自分より年下の女の子なのだから。

「あ、あの、山本、さん……?」

「ユカでもよかよ。言いたいことは何となく分かるけど、もう一人が来てから改めて自己紹介するけんが、今はあんまり突っ込まんでね」

「は、はい……」

 ユカに牽制された華蓮は、腑に落ちない表情でストンと腰を下ろした。

 そんな彼女を見てあることを思い出したユカが、隣にいる政宗の服をグイグイと引っ張って。

「そういえば政宗、片倉さんの『絶縁体』は、どげんなっとると?」

「ああ、俺の机の一番上に入ってるから、入会が決まったら渡しておいてくれ」

「了解。それと――」


 刹那、ユカの声を遮って再びインターホンが鳴る。扉近くにはめ込まれた受話器を取った政宗が、相手を確認して扉を開いた。

「お邪魔しまーす。あー寒かったー……」

 甲高い声が室内に響く。政宗を押しのけて室内に入ってきた少女は、華蓮の隣の椅子に荷物を置くと、着ていたダッフルコートを脱ぎながら……自分を観察しているユカに大きな瞳を向ける。

 毛先に癖のある長い髪の毛は、高い位置からのツーテール。好奇心旺盛なつり目が印象的な美少女だ。コートの下は赤いチェックのリボンが特徴的なブレザータイプの制服を着ていて、学校帰りにちょっと寄り道、という、気軽な空気が感じられる。ド緊張の華蓮とは実に対照的だ。

 少女はユカの全身を観察してから、脱いだコートを荷物の上にのせて、椅子の脇に置いた。

 そして、自分がその椅子に腰掛けると、口元にニヤリと笑みを浮かべて。

「どうしてここに子どもがいるの? もしかして、政宗さんの隠し子?」

「隠し子……だってよ、お父さん」

 ユカは視線だけを、隣に立っている政宗に向けた。

 勿論、少女もユカも冗談のつもりで言っているのだが……華蓮が完全に信じきった視線を向けるので、彼は大きなため息をつく。

「人聞きの悪い冗談はよしてくれよ、心愛ちゃん。第一、俺が子持ちに見える?」

 少女――心愛は政宗を見つめ、屈託のない表情で言葉を返す。

「えー? だって、政宗さんって何してるのかよく分かんないし、子どもがいてもおかしくない年齢でしょ?」

「いや、俺まだ23になったばっかりだからね!? 全く……まぁ、これで揃ったな。少し早いけど、始めるか」

 腕時計で時間を確認する。時刻は13時45分を過ぎたところだった。

 政宗は椅子に座った2人を交互に見てから、一度、呼吸を整えて。

「改めて……ようこそ、『東日本良縁協会』、『仙台支局』へ。支局長の佐藤政宗だ。階級は『統括縁故』、ここの責任者をやってるんだ。年齢はさっきも言ったとおり次の誕生日で24歳、要するにまだ23だから……2人とはちょっと離れてるけど、あんまりオジサンをいじめないでくれよ」

 はーい、と、心愛がふざけた口調で右手を上げた。華蓮は首だけで会釈をする。

 嘆息した政宗が無言でユカを見やると、2人の視線もまた、ユカに注がれた。

「じゃあ次、あたしは山本結果。本来は『西日本良縁協会』所属で、今まで福岡におったっちゃけど……政宗のヘルプでしばらくここで働くことになった。正直、東北は初めてで慣れないことも多いかと思うけん、迷惑をかけるかと思うけど……」

「えー? 心愛、年下にアレコレ教えられなきゃいけないの? 正直、嫌なんですけど」

 刹那、心愛がわざとらしい声音で口を挟んだ。政宗が諌めようとするが、ユカがそれを目線で制すると、胸の前で腕を組む。

「……誰が年下なんて言ったと? 勝手な判断は構わないんやけど、それを思い込んだら自滅への近道やね」

 そして、少しだけ声のトーンを落とし、目を細める。動揺など微塵もないユカの物言いに、分かりやすく動揺する心愛。

「え……? だ、だって、どう見ても小学生じゃん! 中学生の心愛より年下に決まってるでしょ!?」

 ビシっとユカを指さして、頑として譲らない心愛に……ユカは無言でポケットから財布を取り出すと、その中から引っ張りだしたカードを投げた。

 免許証のように顔写真がついているそれを、心愛は慌ててキャッチして……大きな目を更に見開くことに。

「え? 199……え!?」

 それはユカが『協会』に所属していることを示す、一種の身分証だった。顔写真から名前、生年月日、所属している場所、階級等が記されている。

 そして、心愛が見つけたのが、西暦で記された生年月日だった。2000年代初頭に生まれた彼女なので、90年代中盤生まれとなっているユカが年上であることは一目瞭然。横からチラリと覗きこんだ華蓮もまた、「私より上なの……!?」と、かすれた声で呟いた。

「これで、納得してもらえた? あたしは今年で19歳になる2人の人生の先輩やけん……どうぞどうぞ、好きなだけ敬ってよかよ」

 満面の笑みでそう言ったユカに、2人は何も言えなくなってしまう。

 と、今まで事の成り行きを見守っていた政宗が、戸惑いを隠せない2人に苦笑いを向けて。

「ケッカはご覧のとおりの外見だから、いつもは12歳ってことにしている。2人とも、対外的にはその体で頼むよ」

「ケッカ……? ああ……」

 華蓮がユカの身分証を見て納得した。

「政宗、あたしのことを『ケッカ』って呼ぶの、いい加減にしてほしかね……」

 ユカのジト目をスルーした政宗は、身分証とユカを何度も交互に見つめている心愛を見やり。

「驚くのも無理はないよ。ただ……心愛ちゃんが本当に『縁故』としてここで働くかどうか、片倉さんが『東日本良縁協会』に入会するかどうかは、ケッカの話を聞いてから改めて判断して欲しいと思ってるんだ」

「この人の話を、聞いてから……?」

 ユカが横から手を伸ばし、心愛から身分証を受け取った。それをポケットにねじ込み、彼女は……初めて、自嘲的な笑いを浮かべる。

「そ。『縁故』として働くのが、決して安全も楽もないこと……生々しい経験談で聞かせてあげるけんね」

 そう言ったユカから、心愛は無言で視線を逸らした。

 ユカは合法ロリです。あと、自分が外部から来ている人間だと強調するため、意識して九州の言葉を使っているところもあります。実際に同郷じゃない人と喋ると、あまり露骨な方言って出ないものですよ。(個人差があるとは思いますが、私はそうでした)


 そして、更なる女性キャラの心愛と華蓮の登場です。心愛は箱入り娘ゆえの生意気さが目につくかもしれませんが、本当は素直で優しい子なんですよ!? 多分ね!!

 華蓮に関しては、オットリして人見知りの激しい女性なので、ユカと政宗、心愛を苦笑いしながら見守るポジションです。

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