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エピソード1:結果、仙台に降り立つ。③

 突発的な仕事を終えてから、二人は政宗の運転する車で仙台市の中心部まで移動する。

 先ほどの場所から数分車を走らせれば、すぐに、どこにでもあるような街の景色が戻ってきた。

 車が多く行き交う国道沿いには、大型の電器店やパチンコ店、コンビニエンスストア、マンション等がひしめき合い、人々の生活を感じさせる。

 そして、中心部へ近づくに連れて、車の動きがノロノロになり、高さのある建物も多くなってきた。

 歩道を歩く人も、皆、足早に目的地へ急いでいる。

「やっぱり、中心部は賑わっとるねぇ……」

 信号待ちの間、助手席の窓から目の前にある高いビルを見上げ、ユカはポツリと呟いた。

 その建物に出入りするのは、スーツ姿の大人達。この辺りの様子だけを見ていると、先ほどの光景が嘘みたいに思えてしまったから。

 程なくして、突き当たりに駅が見えてくる。その手前にある立体駐車場に車を止めた政宗は、車から降りて身震いするユカに、自分が着ていた上着を手渡した。

「とりあえず着てろ。駅ビルの中で何か調達してやるから」

「さっ、最初からこうしてほしかったんやけどっ……!」

 二回り以上大きな上着をいそいそと着込み、ほっと一息。

 駐車場から出た二人は、駅の方へと歩みを進めた。

 線路を超える連絡通路が高い位置にあるので、エスカレーターで上へ登る。丁度お昼の時間に重なっているので、昼休みのサラリーマンやOLと多くすれ違った。

 ここは、JR仙台駅東口。隣接するショッピング施設や大型電気店はあるものの、反対側の賑わいには少し及ばない。ただ、只今絶賛再開発中のエリアであり、高い塀に囲まれた更地では、大型の重機が淡々と仕事をこなしている。

「ねぇ政宗、そういえばあたしのお昼ごはんは? 牛たん?」

 駅の反対側へ抜ける通路を歩きながら、ユカは政宗のジャケットをグイグイと引っ張った。

 彼は歩みを止めることなく、肩越しにユカを見下ろして。

「そんなに食べたいのかお前は……生憎だが、昼食を食べながら打ち合わせをしたい。駅弁なんかどうだ?」

「えー……あ、そうだ! 博多駅には利休の牛たん弁当が売りよったよ! せめてそういうのが食べたい!」

「じゃあ博多で食ってこいよ……」

 ジト目の政宗がため息を付き、「仙台駅限定の牛たん弁当で勘弁してくれ」と、妥協案を提示する。

 ユカはこれみよがしに大きなため息をついてから、政宗から手を離して視線もそらし、前を見つめた。

「しょうがなかねー……じゃあ、それでよかよ。あと、あたしの洋服も後回しでいい。政宗がそこそこ急いでるってことは、次の予定があるっちゃろう?」

 彼女の言葉に、彼は無言で首肯して。

「相変わらず……気が回るんだな、ケッカは」

 刹那、ユカが言葉に詰まった。政宗には、彼女が気恥ずかしさを感じている時の反応だということが分かっているので、ニヤニヤした口元で見下ろしている。

 すると、無言で前を向いていたユカが、これまたニンマリした表情で政宗を見上げた。

「でしょー? 褒めて褒めて、あたしを敬って! そうだ、今日の晩御飯はこの辺りで、回らない海の幸でよかよー♪」

「バカを言うな。第一、駅前なんて観光地価格の店に入るわけないだろう」

「ケチ……まぁいいや。とりあえず、あたしも現状を把握しておきたいけん、内緒話が出来るところまで、さっさと移動しますか」

 そう言って、ユカは再び前を向く。

 すれ違う人の多さに、少しだけ、目を細めて。


 仙台駅と隣接するオフィスを内包した複合ビルは、駅を出て、仙台パルコを通りすぎると現れる。地上31階建ての大きな建物で、1階から4階には大型書店や衣服点、コーヒーショップに大型文具店等、バラエティ豊かなショップが軒を連ねている。

 5階から8階には市の施設があり、9階から30階がオフィス、最上階の31階には展望テラスと結婚式場が入っている、実に多機能な建物だ。

 そして、政宗やユカの拠点となる『東日本良縁協会 仙台支局』は、このオシャレビルの24階に入っている。名前だけ聞くと結婚相談所のようで、勘違いをした人からの問い合わせが入ってくることも多いのだが……実際の仕事は、むしろ真逆であることのほうが多いかもしれない。

 駅で昼食の牛たん弁当を調達し、入り口で政宗に渡された来客用入館証を首からぶら下げて、導かれるままにこの場所までやってきたユカは……予想外に華々しいオフィスに戸惑い、扉の前で何度も周囲を見渡す。

 この階には、他にも3つの会社が入っており、丁度昼食を終えて帰ってきたサラリーマンが、明らかに場違いなユカを訝しげな視線で見つめつつ、己の仕事場へ戻っていく。

 ズボンのポケットから財布を取り出し、その中からカード型の鍵を取り出した政宗は、挙動不審に周囲を見渡すユカにため息をついて。

「ケッカ、少し落ち着けよ。怪しいことこの上ないぞ」

「だ、だって……こげんオシャレなビルの中に支局があるとか、思ってなかったんやもん! なんでこんな場所にベースを構えられると!? 信じられん……」

 扉の鍵穴に政宗がカードを差し込んだ。ピッと電子音が聞こえ、鍵穴横のランプがレッドからグリーンに変わる。

 扉を開き、脇にあるスイッチで室内の電気と空調をオンにする政宗。そんな彼の後ろから恐る恐る顔をのぞかせたユカは……目の前に広がる小奇麗なオフィスに、改めて目を見開いて絶句するしかなかった。

 扉を開いて飛び込んできたのは、応接に適したソファとテーブル。向かいあう形で4人まで座れるようになっており、部屋の角には観葉植物が置いてある、実にスッキリした空間。

 パーテーションの向こうには、何となく机とパソコンが見える。間仕切りの向こうが事務作業等を行う空間だろう。その奥には窓があり、綺麗な青空も見える。

 ユカは政宗のコートを脱いでソファの背もたれにかけると、そのまま窓の方へ走って行く。

 窓から見下ろす眼下には、商店街のアーケードが見える。道を行き交う多くの車がミニチュアのように見えた。

 視線を上に戻せば、ビルの隙間から遠く、ぼんやり山も見える。今日の天気が快晴ならば、もっとはっきり見ることが出来そうだ。

「う……うわぁーっ! な、眺めも最高……!」

「そうか? 慣れるとつまんねぇぞ」

 持っていたお弁当を応接用のテーブルに置いた政宗が、何か面白いのか分からないと言いたげな表情でユカを見つめる。

 ひとしきり景色を堪能したユカは、既に座って弁当を広げている政宗の前に座ると、はぁ、と、一度、ため息を付いて。

「こげな場所、どうやって借りれたと? 空きがあったとしても、賃料だって高かろうに……」

 LEDの明かりが眩しい、白い天井を見上げた。

 ユカの素朴な疑問に、政宗はペットボトルのお茶を一口流し込んでから、したり顔で返答する。

名杙なくいの力をちょっとだけ使ってもらった結果だ」

「はーなるほど、さすが……」

 その説明で納得した彼女もまた、目の前にあるお弁当を広げて、両手を合わせてから食べ始める。

 2段構成のお弁当は、白米の段とおかずの段に分かれている。6枚切りの牛たんと、添えられた白菜の漬物を見ると、口の中に自然とよだれが溜まっていくのが分かった。お値段は1250円也。

 焼き肉で食べるタンは薄切りの印象が強いが、仙台の牛たんは厚切りのものが多い。また、味が染みこんでいるので、タレなどを付けることなく食べることが出来る。加えて。

「や、柔らかいっ!! 厚みがあるけん、もっと固いかと思っとった……!」

 悠々と噛み切って箸に残った牛たんをしげしげと見つめ、ユカは高調した頬で感嘆の声を漏らした。

 肉質によって差が出るものの、基本的に柔らかい。厚切りで柔らかいとは、すなわち、最強である。

 店舗で定食として食べる場合は、白米が麦飯だったり、テールスープがついてきたりする。また、このお弁当はタレ味だが、味噌味も人気が高い。

 作りおきの駅弁なので、さすがに出来たての美味しさとはいかないものの……冷めても美味しいように計算されているので味は抜群。侮る無かれ、そして、機会があればご賞味あれ。

 初めて食べた仙台の牛たんは、ユカに至福の喜びを提供してくれた。

「牛たん、牛たん……あー、美味しい……」

 柔らかい牛たんをゆっくり咀嚼しながら、味を堪能するユカ。そんな幸せそうな彼女の表情を、目尻を下げた政宗が見つめる。

「……まはふね?」

 普段から軽薄な笑いを浮かべているものの、すっかり油断した彼はあまり見たことがなかった。ユカが牛たんを口いっぱい入れたままで首をかしげる。

「まは……政宗ってば、どげんしたと?」

「あ、いや、こうして会うのは何年ぶりだ?」

「ふへ? んー……知らん。メールや電話ではやり取りしてたし……あ、2年前に熊本で会ったのが最後じゃない? なんで?」

 母体が同じでも所属している『協会』が異なるので、あまり同じ環境で仕事をすることがなかった2人。たまに、突発的に人出が足りなくて遠方から駆り出されることがある程度で、2年前も、ユカが政宗を半ば脅して呼び寄せたのだ。

 過去に同じ修羅場を経験した『腐れ縁』から、互いの近況を愚痴混じりにして連絡を取ってきたけれど、こうして生身の状態で会うのは久しぶり。


 ……政宗はこの姿の自分には会いたくないのではないか、そう感じたユカが避けてきたことも否定出来ないけれど。


 政宗の質問の意図が理解できずに首を傾げるユカに、彼は一度咳払いしてから、ため息をつく。

「いや……正直、断られると思っていた。ケッカがここまで来てくれて良かったなぁ、と、思っていたところだ」

 刹那、ユカの目が彼を睨んだ。

「は? 断る? あたしが? どうして?」

「どうして、って、そりゃあ……」

 言いよどむ政宗は、回答を避けるように、箸で掴んだ牛タンをそのまま口に放り込んで無言になる。その態度でユカは理由を察して……彼が飲んでいたペットボトルを奪い取ると、中身を口に含んで、口内の食事を流し込んでから。

「あーのーねーっ! まだ、あたしが政宗を恨んでるとでも思っとったとね!? そげなことなかって……何回言えば分かってもらえるとやろうか」

 握っていたペットボトルを机上に戻し、彼を睨みながらわざとらしく大きなため息をついた。

「それは……でもだな……!」

「あーもーよかよか、この話は終わり! 折角の美味しいお弁当が台無しになるやん。仙台に来て初の食事なんやけん、楽しい気分で食べさせてよねー」

 狼狽えた政宗を遮って話を強制的に終わらせたユカが、箸を握り直し、手元のお弁当に再び集中。

 そんな彼女に、政宗は言いかけた言葉を飲み込み……無言で、ペットボトルのお茶を飲み込んだ。 

 『仙台支局』が入っているオシャレビルは、仙台駅からほど近い「AERアエル」(http://www.sendai-aer.com/)をパクっ……参考にしています。家賃? 大型スポンサーが何とかしているんです。(ちゃんと払えるだけの利益は出してます多分きっと!!)

 また、ユカが食べたお弁当は、株式会社こばやしの「仙台名物牛たん弁当」(http://www.ekiben.or.jp/kobayashi/type/meat/2014/09/001762.html)を参考にしました。

 仙台の牛たんは厚切りで確かに美味しいのですが……日常的に食べているわけではなく、お客様へのおもてなしメニューという印象が強いですね。でも、だからこそ、味は本当に美味しいよ!!

 そして、仙台牛たんの名店・利休は、博多駅にもあります!(http://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400101/40026327/)

 初めて見た時はぶったまげましたが、こうして全国へ進出していくのは嬉しいですね……味も本当に美味しいので、お近くで見かけた際は食べてみてください!!

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