エピローグ:叶えたい、未来のために。
ユカと政宗の福岡行き強行軍から約1週間後の土曜日、午後5時過ぎ。
休みのはずの『仙台支局』に、人の気配がある。
「だーかーらーさぁ!! 政宗は福岡で羽目をはずして反省したんじゃなかとね!?」
「勿論反省したぞ! だから日本酒や焼酎を控えめにして、ビールや発泡酒をだな……」
「反省するところが違う!! アルコールであることが大問題なんよ!! この……酒バカ宗!!」
『仙台支局』の事務スペースにて、今しがた到着したばかりの彼女がフロアに反響しそうな大声でまくし立てた。
膝に触れる長さのチュニックの上からカーディガンを羽織り、足元はレギンスとスニーカーという、動きやすさ重視の服装のユカが、チェックのブラウスにジーンズという、これまたオフな格好の政宗……の、手前、彼の机上にあるマイカゴ一杯に詰め込まれたビールの缶を指差し、その理由の説明を求める。
「そもそも、呑むのは政宗と統治だけなんよ!? 里穂ちゃんも仁義君も心愛ちゃんも、当然あたしも未成年なのに……ノンアルコール飲料が1.5リットルのペットボトル1本、アルコールがビール2箱分、って……バランスがおかしいやん!!」
「心配するな、ケッカ。俺と統治なら飲みきれる。あと、伊達先生も彩衣さん、『片倉さん』も来るぞ」
「そうじゃない!! あと『片倉さん』も未成年!!」
ドヤ顔の政宗にユカがノートパソコン(備品)を投げようとした瞬間、扉が開き、両手に荷物を抱えた統治と、肩掛けポーチ以外特に何も持っていない心愛が入ってきた。
統治が荷物――全員分の仕出し弁当――を応接用の机に置いて、一息つく。そんな兄をすり抜けて部屋の奥に入ってきた心愛は、ノートパソコン(備品)を持ち上げているユカを見て顔をしかめた。
髪型はいつも通りのツインテールだが、今日は土曜日なので私服姿。七分袖のTシャツにスキニージーンズ、腰元に寒さ対策のパーカーを巻きつけ、足元はスニーカーである。
「ケッカの声、廊下まで響いててうるさいんだけど……何かあったの?」
「止めんで心愛ちゃん! これは全部政宗が悪いんよ!! 第一、誰が政宗を飲み物担当にしたと!?」
ユカの問いかけに、心愛は迷いなく政宗を指差した。
「確か……この企画及び役割分担をしたのは佐藤支局長だったと思うけど」
「や は り お 前 か」
ユカが目を釣り上げてノートパソコン(備品)を投げ捨て、代わりにボールペン(0.3)を持って政宗に詰め寄っていく。
政宗の机上にある荷物で何となく状況を把握した心愛は、大きなため息をついて、地味だがブランド物の私服でこちらにやって来た兄へ目配せをした。
「お兄様……心愛、こんな上司(✕2)で大丈夫なのか、不安なんですけど」
「……何か有れば俺が何とかする。だから、遠慮せずに教えてくれ」
統治もまた、苦笑いでため息をつき……暴れるユカとなだめる政宗の間に割って入るべく、足を踏み出したのだった。
4月中旬、仙台を含む宮城県中部地方も桜が咲き、お花見シーズンに突入した。
朝や夜はまだ肌寒いものの、日中はある程度気温も上がり、ようやく訪れた春を満喫する人が外へ出始める。
仙台市中央部にもいくつかお花見スポットがあり、その中の1つ・榴岡公園つつじがおかこうえんも、桜が8分咲となり、多くの人で賑わっていた。
と、いうわけで、新生『仙台支局』も軽くお花見をしよう、ということで……心愛と里穂の部活を考慮して、土曜日夕方からの開催となったのだ。
食べ物等の荷物を運ぶため、一旦車での移動を開始したのだが……土曜日の夜はお花見をする人が多く、近隣の駐車場も全て満車状態。仕方ないので公園手前の路肩に停めて、運転手の統治以外の……ユカ、心愛、政宗の3人で、分担して荷物を運ぶことにした。統治は車を『仙台支局』に戻した後、歩いて再びここまで来ることになっている。
その結果。
「お、おいケッカ……お前も弁当1袋くらい持てよ……!」
右手にカゴいっぱいの飲み物、左手に仕出し弁当9人分を持った政宗が、額に汗をにじませながら……数歩先を歩くユカに恨みがましい視線を送った。
一方のユカはスマートフォンを操作しつつ、肩越しにニヤリとした表情で政宗を見やる。
「それだけあるお酒を美味しくいただくために、運動を頑張りんしゃい。さて、仁義君はどこかなっと……」
「あ、ちょおまっ……!?」
そのまま背を向け、足取り軽く公園内へ進んでいくユカ。見かねた心愛が政宗に近づき、「一袋持ちます」とお弁当が4つ入った袋を奪いとった。
「ゴメンね心愛ちゃん……ありがとう」
左右のバランスを調整して、ユカが向かった方向へ歩き出す。政宗の隣を歩く心愛は、ため息を付いて彼を見上げた。
「佐藤支局長はケッカに優しすぎますよ。もう少し厳しくしてもいいんじゃないですか?」
中学生に指摘された政宗は、乾いた笑いで答えるしかない。
「俺もそう思ってるんだけどね……努力するよ。そういえば、この間の仕事はお疲れ様。上手くいったみたいだね」
話をふられた心愛は、少しはにかみながら、小さく頷く。
「はい、何とか……何とか出来ました」
まだ周囲は明るいが、ライトアップ用の提灯に火が灯る。多くの人が行き交う園内を歩きながら、心愛は……月曜日のことを思い返していた。
福岡帰りのユカと分町ママの同行で、心愛は改めて、『縁故』としての第一歩を踏み出した。
月曜日の案件は、小学校入学直前に事故で亡くなってしまった女の子が、事故現場に留まって他の子を引きずり込もうとしている……という、小さな『遺痕』。
心愛よりも幼い相手を前にして、少し切なく、たじろいでしまったところもあるが……最終的には無事に仕事を終えることが出来た。
見ず知らずの『遺痕』を目の前にしても、もう、以前ほど怯えたりはしなくなった。ただ、完全に恐怖心がなくなったわけではないので、もうしばらくは誰かに付き添われた練習が必要だけど……でも、一歩踏み出してしまえば、心がスッと軽くなる。それが心地よかった。
あの時のことを思い出して息をつく心愛に、鼻の頭にも汗が滲んでいる政宗が、前を向いたまま口元をほころばせ、しみじみと、感慨深い表情で呟く。
「これで心愛ちゃんも『仙台支局』の仲間入りだから……助かるなぁ、頼もしいなぁ、益々俺の仕事が楽になるなぁ……」
「えぇっ!?」
刹那、心愛が政宗を驚いた表情で見上げる。まさか、1件処理しただけの自分(しかも付き添いがいなければ仕事にならない)に対して、早くも頼もしいと思ってくれるんは嬉しいのだが……ちょっと早すぎはしないだろうか?
「心愛、そんなに期待されてるんですか!?」
「そりゃあ当然だよ。『仙台支局』は未来ある若者が集まって構成された……最強の精鋭部隊だからね」
そう言って心愛に笑顔を向ける政宗を彼女は横目で見やり……こう、言い返した。
「集めたのはケッカのため、ですか?」
「へ?」
政宗の表情が固まる。心愛は彼の半歩前を歩きながら、分かりきった情報源をリークしてくれた。
「リッピーと分町ママから聞いてますよ。佐藤支局長、ケッカに10年間片思いしてるって」
「……」
「まぁ、ケッカが仙台に来た時から何となく気付いてましたけど、でも、10年って……長過ぎません? さっさと告白すればいいじゃないですか」
「お、大人には色々あるんだよ心愛ちゃん……」
最年少の心愛にまで知れ渡ってしまった、政宗の届かない思い。ここまで周囲にバレているのに肝心の本人に微塵も伝わらないのはどうしてだろうと自問自答しつつ……政宗は泣きたい気持ちで足を進めたのだった。
大通りに面した入り口から公園に入り、階段を登って開けた場所を抜け、更に奥の――桜が集中して植えられているお花見スポットに到着した。
複数種類の桜の木が植えられ、目にも楽しいこの場所では、既に多くの花見客が宴会を始めている。公園の端には露店が軒を連ね、美味しそうな食べ物の匂いが風にのっていた。
そんな公園の一角、ひときわ大きなソメイヨシノの下で……ブルーシートの上に座っているユカと仁義が、政宗と心愛を手招きする。
「政宗、心愛ちゃん、こっちこっちー!」
「ケッカ……お前、マジで手伝え……」
ゲッソリした表情で、政宗がシートの上に荷物をおいた。仁義が空の紙コップを持って立ち上がり、政宗と心愛にそれを手渡す。
薄いピンク色のシャツに黒いジーンズという服装の彼は、その顔立ちも相まって、色々な意味で目立っていた。
そこに、関係性のよく分からない3人が合流したので……「あのシートの集まりはなんだろう?」と、道行く人が訝しげな視線を向けている。しかし、当のメンバーは誰も気にしない。
「お二人ともお疲れ様です。とりあえず……何か飲みますか?」
「おう、呑むさ、呑むとも! とりあえずビールだー!!」
「全員揃うまでビールはお預けたい!!」
「げふっ。」
刹那、ユカが投げつけた500ミリペットボトル(未開封)が、ユカに背を向けて座り込み、手近なビールを開けようとした政宗の後頭部にクリーンヒットする。
「だ、だから……未開封のペットボトルは、鈍器だっつってんだろ……」
痛む頭をさすりながら涙目で抗議する政宗から目をそらしたユカは、「心愛ちゃん、そのお茶飲んでいいけんねー」とシートの上の転がっているペットボトルを指差し、お弁当を袋から取り出した。
「うわー、美味しそう! そういえば、里穂ちゃんはまだ来こんと? 誰か迎えに行ったほうがいいっちゃろうか……」
隣で箸の数を数える仁義に尋ねると、彼は腕時計を確認して笑顔を向けた。
「今日の練習は5時までで、片付けや着替え等がありますから……おそらく6時前になるかと。学校はここから近いので、歩いて来るそうです」
「そっか、分かった。ねぇ酒バカ宗、伊達先生達はどげんなっとると?」
「酒バカ宗……ケッカ、最近そのあだ名考えるの好きだろ」
「事実を的確に言い表した傑作だと思うっちゃけどね。って、そうじゃなくて……伊達先生達だよ。何時頃来ると? あたし、お腹すいて――」
「――フッフッフ、実はもう到着しているんだよケッカちゃん!」
「うわぁっ!?」
刹那、後ろから耳打ちされたユカがその場から飛び退き、呼吸を整えながら彼を見上げる。
そこには、黄色いシャツに白いズボン、という個性的な服装の聖人が、ドヤ顔で仁王立ちしていた。
「だ、伊達先生……おったとね……」
「お疲れ様、ケッカちゃん。僕らは仁義君と一緒に場所取りの係だからね。ちょっと買い出しに行っていただけだよ。はい、焼き鳥」
シートに上がり込んできた聖人が、ユカに焼き鳥の入ったパックを手渡す。
タレをつけて香ばしく焼き上げられた鶏肉が、空腹を更に刺激していく。
それを見つめたユカは……顔を上げ、真顔で、聖人に問いかけた。
「ねぇ伊達先生……豚バラは?」
「豚バラ? 何言ってるのさケッカちゃん、焼き鳥だって言ってるよね?」
「いやだから、焼き鳥には豚バラやろうもん……って、あれ?」
自信満々に言い放つユカだが……周囲から誰も賛同を得られず、目を丸くしてしまった。
「あ、あれ……焼き鳥は塩で焼いた豚バラ……」
若者に賛同を求めようと、心愛と仁義を見やるが……2人とも、怪訝そうな顔でユカを見つめている。
「ちょっとケッカ、何言ってるのよ。焼き鳥なんだから鶏肉でしょ?」
「そうですね、豚バラではないと思います」
「いや、心愛ちゃんに仁義君! あるんだって! 美味しいんだって!! そうだ、政宗はこの間福岡で食べたよね!?」
慌てて隣でお茶を飲んでいる政宗に同意を求めるが、彼もまた、眉間にしわをよせて首を傾げる。
「確かに食べたが……あれ、焼き鳥に分類されるのか?」
「そうなの!! 豚バラは焼き鳥なの!! そんな……全国共通だと思っとったとに……!」
隙間から湯気が出ているパックを見下ろし、絶望的な表情で膝を落とすユカは……しょうがないので1本取り出して食べた。
「こらケッカ! 俺のビールに駄目だししておいて、勝手に食ってるんじゃねぇよ!」
「はむ……ふ、んぐ……だって……だって、みんながユカを変な子扱いするから!!」
「実際そうだろうが!! 豚バラ焼きなら今度統治に作ってもらえ!!」
「いいもん! 作ってもらって1人でキャベツと一緒に食べるもん!! 今は悲しい気分を紛らわせるためにこれを食べるけんいいもん!!」
「だから1人で食べるんじゃねぇ!!」
焼き鳥パックの奪い合いを始める2人を、心愛が呆れ顔でなだめている。
そんな様子を、後から来た2人が……それぞれの表情で見つめていた。
「豚バラ……ご存知でしたか?」
片手にスーパーの袋を持ち、襟のついたワンピースにスキニーパンツという服装の彩衣が、隣に立つ『彼女』に問いかける。
「いいえ、初耳です」
同じくスーパーの袋を持ち、Tシャツに7分丈のカーゴパンツの彼女――片倉華蓮、もとい名波蓮は、長い髪の毛を髪になびかせ、眼鏡の奥の瞳に呆れを浮かべ、首を横に振った。
あれから――桂樹と蓮が企てた計画が破綻し、華の『縁』無事に『切れて』から――名杙家で行われた緊急の会議により、以下の処遇が決まった。
まず、桂樹について。彼は当主の弟の息子であり、名杙家直系の優秀な『縁故』として名杙家でも重要なポジションを担ってきた。また、蓮にそそのかされた被害者だという意見から、数週間の謹慎で済ませようという温情案もあったが……当主がそれを一蹴。最終的には『縁故』としての能力の剥奪、及び名杙家との『絶縁』となった。
姓として名杙を名乗ることは許されることになったのだが、桂樹自身がそれを拒否し、最終的には彼の母方の姓を名乗ること、家から出て『縁故』とは関係ない、普通の世界で生きていくこと……で落ち着いた。
そして、蓮。彼は今回のことで、身を寄せていた親類の家から出ることとなった。その家が名杙には色々と借りがある立場だったため、今後の安泰を考えて、蓮を切り捨てるという結論に達したのだ。
そんな彼の処遇をどうするか……いくら男性とはいえ、未成年の高校生を着の身着のままで放り出すのは対外的な心象も悪くなる。名杙の座敷牢で反省を促す、名杙を脅かす存在として秘密裏に処理する……色々と物騒な案が飛び交う中で、1人、彼の身元引受に立候補する人物が現れたのだ。
それが、伊達聖人。親族ではない彼の立候補は衝撃的ではあったが、名杙にとっては渡りに船の申し出となった。
聖人は、蓮が、親戚とはいえ直接的な血縁関係ではなかった華の『因縁』を2本とも繋げて生活しただけでなく、彼女の能力まで使ってみせたことに、並々ならぬ興味を抱いていたのだ。
彼の身元を引き受け、現在の高校に通わせ続けること。そして、彼の同意を得た上で、自分の研究に協力してもらうこと、生活資金として、『仙台支局』でのアルバイトは続けること――これらを条件に蓮へ話をつけ、研究室兼住宅である彼の部屋で、共同生活をすることとなった。
仙台に帰ってきた政宗がそれを聞き、ある条件を出して、『仙台支局』でのアルバイト継続を許可したのだ。
それが……アルバイトの時は、既に諸々に登録してある『片倉華蓮』として働くこと。要するに今までどおり女装して仙台まで来て働け、ということだった。
「そもそも、お花見はアルバイトなのでしょうか……」
不満そうな表情で買ってきたスナック菓子を開く華蓮に、横から手を出して未開封の袋を取ったユカが、ニヤリと笑みを浮かべて彼女(?)を見やる。
「当然、バイト先の用事は全部アルバイトやろうもん。でも、片倉さんのままでいることを了承するげな……正直意外やったね」
ユカの言葉に、華蓮は重たい重たいため息をついて……別の場所で飲み物の仕分けをしている聖人と政宗の背中を睨んだ。
その眼差しには、複雑な感情が隠し切れない。
「しょうがないじゃないですか……伊達先生が僕の身元引受人になってくれないと、僕の人生は終わっていたかもしれないんですよ。それに、佐藤支局長が「手続きをするのが面倒だし、誰も気付かなかったんだから『片倉さん』のまんまでよくない? 俺、職場にこれ以上男性はいらないんだよね」なんて言って、伊達先生がノリノリになったから……もう、いいんです。僕は自分のプライドを捨てて生きることしか出来ない哀れな若者なんですよ……」
ブツブツ呟きながらポッキーの箱を開き、いそいそとお菓子を準備する華蓮。華蓮の隣にいる彩衣は、出たゴミを一つの袋にまとめている。
ユカがこの話を最初に聞いたのは、火曜日の朝のことだった。未遂に終わったとはいえ、名杙家に喧嘩を売った――名杙家に恨みのある人間をこんな近くにおいていいのか、また裏切られるのではないか、と、一応苦言を呈した彼女に、統治と政宗が事情を説明する。
蓮には3つの条件を提示している。1つ目は、蓮には名杙でも名雲でもない、新たな才能の片鱗があるので、聖人の元で投薬を含めた今後の実験に協力し、役に立ってもらうこと。2つ目は、これからは普段から眼鏡をかけて、『縁』が見えない状態を維持すること、メガネを外す際は指定された人物(現時点では名杙家当主、聖人、統治、政宗の4人)の許可を得ること。
そして3つ目は……名杙に対して少しでも変な動きをみせた場合は、今度こそ、容赦なく『生命縁』を含めた『縁』を『切る』こと。それらを了承して、蓮は、名杙の監視のもとで生きる道を選んだのだ。
彼の本心はまだよく分からない。名杙に対する恨みはこれからも何らかの形で残り続けるだろう。
でも、ユカは、火曜日に『仙台支局』で再会した蓮(華蓮)が……憑き物が落ちたような、どこかさっぱりしたような印象を抱いていた。
だからこそ、聖人や政宗も蓮を生かして監視することを選んだのかもしれない、と。
勿論、彼を信頼しているわけではない。マイナスの評価をどうやってゼロの状態に戻すのか、蓮の真価が問われるのはここからだ。
同時に、ユカが抱いていた『片倉華蓮』という女性のイメージは、人見知りで臆病な印象が強かったのだが……そのイメージがここ数日でガラガラと崩れ、再構築されていく。
「片倉さん……性格が変わったというか、戻ったという方が正しいのか……」
「以前は『因縁』を無理やり繋げていたせいで、血圧が高かったというか……不整脈の一歩手前の状態だったことが多いんです。我ながら無茶をしたと思います」
「なるほど……そこまでして、頑張ったとねぇ……」
ウンウンと頷くユカを、華蓮がジト目で見つめた。
「しみじみ言わないでください。それに、やっぱり『仙台支局』は呑気な人たちばかりですね。山本さん、僕に殺されかけたんですよ?」
そんな華蓮に、ユカは真顔で返答する。
「そうやね。でも……次にそれをやったら、あたしか、もしくはあたし以外の誰かが確実に君を殺すよ。それを分かっとるけん、あたしは君にこうして接することが出来る。それに……」
ユカはポッキーを1本つまむと、頭上に広がる桜を見上げた。
「それに……蓮君は華さんの妹やけん、これ以上、華さんの顔に泥を塗るようなことはせんやろうって、勝手に思っとるんよ」
華蓮もつられて上を見上げる。風になびく桜が桃色のウェーブを作り、彼女の髪を舞い上げた。
桂樹と連絡を取ることは許されていないので、彼が今後、どんな生き方をするのか分からないけれど。
先日、名杙家で最後に会った彼は、既に次の目標を見つけていた。
現在のスクールカウンセラーを続けながら、先の災害で家族等を失った人をサポートするNPOの活動に参加するつもりらしい。
荷物を抱えて名杙家を出て行く桂樹の後ろ姿を、蓮と……蓮を監視していた統治は静かに見送った。
最後まで無骨で無表情、笑顔を見せることはなかったけれど、彼の後ろ姿に一抹の寂しさを感じた蓮は……もしも華が見つかったら、何とかして桂樹に知らせて欲しい、と、統治に頭を下げた。
「検討しておく」と答えた統治の真意は分からないけれど……でも、顔を上げた時に目に入った統治の含み笑いに、希望を捨てずにいたいと思う。
「――あ、うち兄あそこ! 見つけたっす!! お待たせしましたーっ!」
準備が整ったところに、部活帰りでジャージ姿の里穂と、車をおいて歩いてきた統治、彼の後ろについている分町ママが同時に合流する。
互いの顔が見えるよう、全員が内側を向いて円形に座った。中央にはお菓子や焼き鳥等が並べられ、それぞれの前にはお弁当と飲み物がある。
全員に食事が行き渡ったことを確認した政宗が、わざとらしく咳払いをしてから口を開いた。
「さて、改めて……今年度から『仙台支局』に仲間入りしてくれた若人の歓迎会と親睦会的なお花見という名の呑み会を開催します。初めて顔をあわせる面子もいるから、ひと通り自己紹介して、乾杯、で、いいかな?」
この言葉に全員が首肯したことを確認した政宗は、自分の右隣に座るユカを見やり、こう続ける。
「とりあえず俺から時計回りで自己紹介して……ケッカ、お前最後に乾杯の挨拶な」
「へ!? あたしが!?」
「一番キャリアが長い新入りはケッカだろうが。異論は認めん、支局長命令だ」
「そげなことに権限使わんでも……」
モゴモゴと口の中で文句を唱えるユカを尻目に、全員を見渡した政宗は……改めて、大きく息を吐いた。
「では改めて……俺は、佐藤政宗。『仙台支局』の支局長をしているから、今後もここにいる全員と何らかの関わりがあると思う。正直、頼りないところが目につくかもしれないけれど、そこはまぁ……大目に見て、これからも支えて欲しいかな。よろしくお願いします。じゃあ次、伊達先生」
「了解、この中では……心愛ちゃんが初めましてかな。伊達聖人です。普段は利府で『縁』についての研究に勤しんでいるんだ。一応、政宗君より年上だから……この中で最年長だね。あ、ケッカちゃん、宮城に残ってくれてありがとう。みんなのお兄さんとして、困ったことがあれば何でも相談にのるよ、守秘義務はそれなりに守るから安心してね。ヨロシク。さて、次は隣の美少女さん、どうぞ」
「片倉華蓮、もとい、名波蓮です。既に皆さんご存知かと思いますが、僕は男です。こんな格好でアルバイトをさせる大人の気は知れませんが……生かされている身なのでこれ以上文句は言えません。仕事はきっちり行うつもりですが、いかんせん新参者ですので、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。これでいいですか? 富沢さん」
「……いいと思います。では改めて……富沢彩衣と申します。普段は伊達先生のアシスタントとして利府におります。基本的にはサポート要員で、私自身は『縁故』としての素質はありませんが、それ以外で何か気になることが……主に伊達先生関連のことでございましたら、遠慮無く仰っていただければ幸いです。よろしくお願いします」
「じゃあ、次は私っすね。えぇっと、片倉さん? 名波さん? どっちでお呼びすれば……あ、片倉さんですね。初めまして、名倉里穂と申します。住まいは石巻で、沿岸部を主に担当しているのですが、高校が仙台市内なので、社会勉強のため、『仙台支局』管内でのお仕事にも関わらせてもらえるようになったっす! そのため、皆さんに色々とお世話になるかと思いますが……精一杯頑張りますので、よろしくお願いします! じゃあ次、ジン!」
「えぇっと……ご紹介にあずかりました、柳井仁義です。一応『縁故』としての能力は持っていますが、『仙台支局』では、『生前調書』作成の際のお手伝いが主な役割になるかと思います。片倉さんが事務仕事ということで、色々とご連絡をすることが多くなるかもしれませんが、どうぞ、宜しくお願いいたします。あと、ケッカさん、またご一緒出来て嬉しいです。宜しくお願いいたします。では……統治さん、どうぞ」
「……名杙統治、肩書は『仙台支局』の副支局長だが……分からないことは佐藤に聞いてくれ。もうすぐ業務アプリのリリースが出来ると思うから、その際は、使用感などを教えてもらえると助かる。あと……その、今後は不甲斐ない事態を避けられるよう、努力していこうと思う。妹共々、よろしく頼む。次は……」
「ハイハイ、ここは最年長の私が割り込もうかしら。伊達君、最年長は君じゃなくて私だからね。改めて……みんなの分町ママこと分町ママよ。この中では唯一の『痕』で、今は『仙台支局』の『親痕』として、皆とは違う位置からサポートが出来ればいいと思っているわ。あと、お酒大好きだから、こういう宴会には必ず呼んでね♪ じゃ、心愛ちゃんどうぞ」
「え? 心愛? あ、その、えぇっと……な、名杙心愛、です。まだ『縁故』になって日が浅くて、でも……心愛はすぐにお兄様を超える『縁故』になって、この『仙台支局』のエースになってみせます! だから、その……よ、よろしくお願いしますっ……! は、はい次っ!」
「とまぁ、若者の頼もしい宣言が出た所で……改めまして、この度無事に『東日本良縁協会 仙台支局』の所属となりました、山本結果です。もうケッカでよかです。諦めました。まだまだ仙台や宮城については分からんことが多くて、でも、それを知ることが楽しいけんが、きっとこの先も楽しくやっていけると思います。だから、もしも――」
ユカは言葉を区切り、一度、俯いた。
しかしすぐに飲み物の入った紙コップを握り、それを高く掲げる。
「もしも……あたしが変わることを躊躇っているようならば、叱咤激励してやってください! と、いうわけでお腹すいた! 乾杯っ!!」
ユカの声を合図に、全員が銘々の飲み物を掲げる。
桜の花が満開に向かう4月中旬……ユカの新たな仲間は、実にマイペースに、とても優しく、ユカを受け入れてくれた。
焼き鳥といえば豚バラ!!と、宮城で主張したら、すっげー冷めた目で「鶏肉じゃないじゃん」と突っ込まれたことを今でも根に持っています。いやいや、福岡では焼き鳥屋さんで豚バラ(間に玉ねぎが挟まっている)を食べるのが定番なんだよ!、と、何度言っても分かってもらえなかったので……しょうがないので福岡へ一緒に行った際に食べさせたら、その美味しさで納得してもらえました。美味しいよね豚バラ!!
そして、めでたく(?)伊達先生のモルモットになった蓮君ですが……こうでもしないと本当に世界から抹消されていたので、政宗も内心では安堵しています。政宗的にも今回のことは必ずしも彼のみに全責任があるわけではないと思っている(災害後の混乱、大好きな姉への容赦無い冒涜、最期まで姉を見捨てる名杙家への不信感、そんな名杙家に媚を売っている滞在先の家の大人、そこから出られない自分への苛立ち、など)のに加えて、過去に自分も家族と離散し、それ以降は1人で生きてきたので……蓮の境遇に若干の同情もありました。
そこが彼の甘いところでもありますが、統治はそれを分かった上で、蓮が伊達先生のところへいくよう最大の便宜を図ったのでした。統治がそれを出来たのは、名杙の力を借りずにこの問題を解決し、桂樹の反乱を最小限度で抑えた功績が大きいですね。
とにかく、まだまだ彼らについて語りたいこともありますし、書きたいエピソード、仙台グルメもありますので、続編もありますよ!!(https://ncode.syosetu.com/n2377dz/)
また、ボイスドラマでユカ役をお願いしているおがちゃぴんさんが、このエピソードをまとめた動画を作ってくださいました。是非御覧ください!!(https://twitter.com/ogachapin7/status/844882428757893120)
更に、ボイスドラマで名波蓮(片倉華蓮)をお願いしている狛原ひのさんも、蓮(華蓮)の視点からの動画を作ってくださいましたよ。本当にありがたいです……!!(https://www.youtube.com/watch?v=MHO-TqT5VJQ)
よろしければ、東北・宮城にも遊びに来てくださいね。最近は地震も少なく、万が一の時のマニュアルも食料の備蓄もあるので大丈夫ですよ!!
ここまでのお付き合い、本当にありがとうございました! Twitterでもなんでも良いので、感想など聞かせていただけると舞い上がって喜びますので、よろしくお願い致します。霧原菜穂でした。




