エピソード7:その男、伊達男につき。③
仁義が『仙台支局』を後にしてから、ユカと政宗も行動を開始する。
準備として『仙台支局』の入っている建物に隣接する商業施設で手土産を購入、地下の駐車場に停めてある社用車に乗り込んだ。
とりあえず車で政宗の部屋に寄り、統治と合流する必要がある。シートベルトをしめた政宗は、前を向き、エンジンをかけて呼吸を整える。
後部座席中央に座ったユカは前に体を乗り出し、政宗の横顔を見つめ、先ほど聞いた話について、思っていることを吐き出した。
「政宗は……さっきの話、どげん思う? 桂樹さんは本当に黒幕なんやろうか……」
脇のボタンを押し、たたんでいたサイドミラーがひらいていくのを確認しながら……政宗は困ったような顔でユカに返答する。
「事実だけを並べると疑わしいのは確かだが……正直、桂樹さんが名杙に喧嘩を売る理由が分からない」
「だよねー……」
2人で考えても答えは分からない。ユカは頭を振って思考を切り替え、シートベルトを装着。シートに体を預け、動き始めた窓の景色に視線を向けた。
薄暗い地下の駐車場から抜け出し、世界が一気に明るくなる。
仙台市内から国道45号線を通って郊外へ抜ける。途中、政宗が借りているマンションの前で統治を拾い、そこから県道8号線に抜けて、仙台市のお隣・利府町を目指す。
助手席に座った統治は、薄いブルーのワイシャツに濃紺のジーンズという出で立ち。年上の人を尋ねるにはラフすぎる格好である気もするが……政宗が特に咎めるわけでもないので、ユカも特に口を挟まず、先ほどの仁義との会話をかいつまんで説明した。
桂樹が自宅とは別にマンションを借りていたこと、そこにぐったりした男性が運び込まれたことを聞いた瞬間、さすがの統治も表情が曇る。
「……そうか、恐らくそこが、俺のいた場所だろうな」
「統治、自分がどこにおったか分からんかったとね?」
「恥ずかしい話だが、自分が住んでいる場所以外の土地勘はあまりない。それにあの時は、外に出た瞬間、自分の『因縁』がないことに気がついて……焦っていた。手がかりを探すために、まずはあの場所へ戻ることしか考えられなかったんだ」
助手席で俯く彼に、それ以上突っ込んだことも言えず……ユカは言いかけた言葉を飲み込み、別の言葉を紡ぐ。
「とにかく今は、伊達先生って人に話を聞きたい。『仙台支局』でも名杙家でもない、第三者の話をね」
ユカの言葉に頷いた政宗は、法定速度より心持ち早く、車を東へ走らせた。
政宗が車を停めたのは、閑静な新興住宅街。戸建てが目立つ中に佇む、2階建てのハイツだ。
4部屋×2階建ての建物は、全体が白い壁で覆われ、植え込みの苗木も整理された、清潔感のある空間。車を降りてその部屋を目指す2人の後についていくと、建物脇にある階段を登り、2階の突き当りの部屋の前へ到着した。
モニター付きのインターフォンを押すと、程なくして、解錠された音が聞こえる。
代表して政宗が扉の取っ手を握り、それを下に動かしながら扉を引いた。
「……お待ちしていました」
扉が開いた瞬間、玄関にいた女性がペコリと頭を下げる。
恐らくロックを解除してくれたのは彼女だろう。長いストレートの髪の毛を高い位置でまとめ、切れ長の瞳にノンフレームの眼鏡、膝丈の白衣からスラリと伸びたストッキングの足が印象的な、背の高い女性だ。
玄関に入った政宗とほぼ同じ背丈の彼女は、ポカンとした表情で自分を見つめるユカに、再び軽く頭を下げる。
「初めまして、山本結果さん。私は伊達先生の助手をしております、富沢彩衣と申します」
「へっ!? あ、は、初めまして! 山本です……」
慌てて頭を下げるユカの後ろで、統治が静かに扉を閉める。
靴を脱いで廊下に立った政宗が、手に持っていた紙袋を彼女――彩衣に手渡した。
「富沢さん、とりあえずコレ、いつものです」
「いつもの」と彼が言って渡したのは、ここに来る直前に購入した、仙台パルコに入っているお菓子屋のスイーツ詰め合わせ。
中身をチラリと確認した彩衣は、赤い口紅が印象的な口元にニヤリと笑みを浮かべて、政宗を見つめる。
「いつもいつも、ありがとうございます」
「いえいえ、この程度で喜んでいただけるならいくらでも」
どうやら、政宗がここを訪れた際にはお馴染みの手土産だったらしい。
彩衣は口元を引き締め、先導するように手を部屋の奥へ向ける。
「どうぞこちらへ、伊達先生がお待ちです。山本さん、コーヒーでよろしいですか?」
「へっ!? あ、はいっ! ブラックで大丈夫ですっ!!」
政宗の背中越しに尋ねられたユカは、上ずりつつ返答した。そして、先に行く彩衣と政宗の背中を見つめ……無言で、隣に立った統治のシャツを全力で引っ張った。
「山本、シャツが伸びるからやめて欲しいんだが……」
迷惑そうな表情で見下ろす統治を睨み、ユカは小声で苦言を呈する。
「どうして教えてくれんかったと!? 麻里子様にそっくりな人がおるって!!」
「山本が驚くから、黙っておけと言われた」
「誰に!?」
顎で前方の政宗を指す統治。彩衣が突き当りの扉を開いた瞬間、政宗が肩越しにニヤリと……「どーだ、驚いただろうヘッヘッヘ」と言いたそうな、意地悪な表情を向ける。
そう、先ほど扉を開いた瞬間……ここにいるはずがない人物と瓜二つの彩衣に出迎えられたユカは、思わずその名前を呼びそうになってしまったのだ。
麻里子様――この3人にとって恩人であり、師匠であり、絶対に敵わない、『西日本良縁協会』に君臨する女傑の名を。
よく見なくても彩衣の方が若いし、身長も声も高いのだが……何の心構えもなく対面したユカは、見事に、政宗の思い通りの動揺をしてしまったのだった。
「山本、行くぞ」
ユカの手を静かに振り払い、統治も廊下の奥へ進む。
3人を慌てて追いかけるユカは……政宗(と統治)への復讐の炎を心に灯すのだった。
突き当りは広いリビングダイニングになっていた。
伊達先生、と呼ばれているくらいなので、てっきり本や書類に囲まれた室内を想像していたのだが……実際は、思っていたよりもずっと物が少ない。扉を抜けたところにあるのは、応接用のスペースなのか、横に長い楕円形の机。机の周囲には一人がけのソファが4脚、2×2で配置されている。その奥には背丈の低い本棚が並び、部屋を仕切っているように見えた。
本棚の向こう側にはパソコンやファイルが置かれたダイニングテーブルが見える。窓の近くや要所には観葉植物や花瓶が配置され、清潔感のある、生活感のない、特殊な空間。
その中で、ユカ達に背を向けるようにソファに座っていた人物が立ち上がり、ユカの方へ近づいてきた。
少し伸びて癖のある襟足を荷造り用の紐で結い、アゴの周りには無精髭、下にのみフレームの付いた眼鏡の奥に光る、猫のような目が印象的。
身長は政宗や統治、彩衣と同じくらいで、白衣の下にはスポーツブランドの黒いジャージを着用している様子。
マジマジと見上げるユカに、彼は目を細め、笑顔を向けた。
「君が……山本結果さん。名杙当主の切り札で、麻里子さんの秘蔵っ子だね」
低すぎず、聞き取りやすい声音。急に仰々しい評価をされたユカは、慌てて首を振る。
「え!? あ、いや、そんな大層な存在ではないですが……貴方が伊達先生、ですよね?」
オズオズと尋ねるユカに、彼は笑顔で頷いた。
「いかにも。ようこそ宮城県へ、自分は、ここで『縁』の研究をしている伊達聖人です」
彼――聖人に促されるように応接スペースのソファに腰を下ろすと、彩衣がコーヒーとシュークリームを出してくれる。
ユカの隣に政宗が腰を下ろし、その正面に統治、ユカの前に聖人が腰を下ろした。
全員の前にコーヒー(統治のみミネラルウォーター)とシュークリームを配膳し終えた彩衣は、1つ残った白い無地のカップを持ち、奥のダイニングテーブルに置いてあるにあるパソコンの前に移動した。椅子を引いて腰を下ろし、パソコンから伸びるイヤホンを耳に装着、そのまま作業にとりかかる。どうやら、こちらの話し合いに参加するつもりはないらしい。
彩衣に背を向ける位置に座っているので、気づけば肩越しに後ろを見ていたユカは……顔を正面に戻し、自分の前で美味しそうな湯気をたてるホットコーヒーを一口すすった。
上品な味にホッと一息ついていると……自分をマジマジと見つめている聖人に気がつく。
「あのー……どうかしましたか?」
「これは失礼。初対面の自分に見つめられるなんて不愉快だよね。そんな失礼ついでに1つお願いしたいのだけれど……その帽子、取ることは可能かい?」
「え? あ……」
思わず、隣に座った政宗を見つめてしまう。躊躇なく頷く彼の許可を確認したユカは、一度呼吸を整え、帽子を固定しているヘアピンを外した。
そして……帽子を脱ぐ。
同時に、ユカを見る聖人も目を細めた。そして……。
「……あぁ、なるほど。確かにこれは、非常にレアなケースだね……」
レアなケース、そう語る彼の瞳には、隠し切れない好奇心。
「山本さん……堅苦しいな、ケッカちゃんって呼んでいい?」
「あ、構いませんよ、好きに呼んでください」
もう今更なので訂正する気持ちにもならない。すんなり首肯したユカに聖人は「帽子を貸してくれるかな?」と右手を出した。
彼に帽子を手渡すと、ふむふむと頷きながら全体を確認して……。
「ケッカちゃん……最近、変な『痕』に絡まれた?」
「へっ!? あー……まぁ確かについさっき。どうしてですか?」
話していない自分の行動を言い当てられて首を傾げるユカに、聖人は帽子の後ろ部分を指差して答える。
「ココ、帽子の端が少しほつれてるの分かる? この帽子は特殊だから、普通に使っているとこんな壊れ方はしないんだ。だから、誰かから無理やり干渉されたのかなー、ってね」
「はへー……伊達先生、凄いですね……」
「それはどうもありがとう。あと、別に敬語じゃなくてもいいよ? ある程度は九州の方言も分かるつもりだし……それに、ケッカちゃんとは仲良くなりたいからね」
「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて……」
隣の政宗が何か言いかけたが、聖人が目線で制する。
コーヒーをもう一口すすったユカは、カップをソーサーに置き、正面で笑顔を向ける聖人を見据えた。
「伊達先生……ここ最近、仙台で起こっとる不可解な現象は、ある程度聞いとると思うっちゃけど……ぶっちゃけ、どげん思っとる?」
「おや、随分直球な聞き方だね。自分は歯に衣着せぬ物言いで有名だよ?」
「いや、そげなこと知らんけど……正直、あたしもお手上げ状態なんよ。他の『縁故』より経験は積んどると思って乗り込んできたけど、相手に翻弄されっぱなしやけんが、正直怖い。政宗はヘラヘラしとるし、統治は『因縁』を切られとるし……頼りにならん」
刹那、政宗がシュークリームのクリームを口の端に付けたまま、ため息を付いたユカの横顔を睨む。
「おいこらケッカ、誰がヘラヘラしてるって!?」
「その口! ほら、ヘラヘラしとるやろーがっ! 政宗がもっとピシっとシャキッとしとったら、相手にこげん舐めた真似をされることもなかったとよ!!」
「言いがかりだぞ!?」
「そんなことありませーんよーっだ!」
「このクソガキ……!」
いがみ合う2人を横目に統治は無言で水を飲み、チラリと聖人を見た。
「……伊達先生は、どうお考えですか?」
統治の言葉に、聖人はわざとらしく手を顎の下にのせ、考えるような素振りを見せる。
「そうだねー、これまでの話を総合すると……断然怪しいのは桂樹さんだね。でもまぁ、遅かれ早かれ、彼は何か行動を起こすと思っていたよ」
「行動を起こす……? どういう意味ですか?」
聖人の言葉の意味がわからない。眉をひそめて尋ねる統治に、聖人は手元のコーヒーを口元に近づけ、その香りを楽しみながら言葉を続けた。
「統治君が知らないのは当然だし、自分も当主から他言無用だと言われているんだけど……桂樹さん、後妻の息子だってこと、知ってる?」
「っ!?」
サラリと言い放った衝撃発言に、いがみ合っていたユカと政宗も目を見開いて聖人を見やる。
全員の反応で誰一人としてこの事実を把握していないことを悟った聖人はコーヒーを一口すすり、「ここまで大事になってるんだから、いずれ知れると思うけど……自分から聞いたって、あんまり積極的に言いまわらないでね」と、軽く釘を刺してから話を続けた。
「現当主の弟さん……統治君の叔父さんにあたる人なんだけど、実はバツイチで再婚してるんだよね。桂樹さんは、その再婚相手が産んだ子どもなんだ。前の奥さんとは事情があって離婚して、その人との間には、桂樹さんから見れば2歳年上のお姉さんがいたんだけど、今の奥さんが名杙家に入ったことで、お姉さんは前の奥さんと一緒に、奥さんの親戚に引き取られていった。当時はまだ、統治君なんていなかったから……男の子は手放したくなっかたんだろうね。ただ、幸か不幸か統治君が生まれて、跡取り問題は解決してしまった。叔父さんにしてみれば、自分の子どもを次期当主に送り出したかったのに計画が狂ってしまって……桂樹さん、幼いころは特に色々と大変だったみたいだよ」
「……」
そう言ってカップを置いた聖人は、統治の顔色を観察していた。
第三者から語られる衝撃の事実に、統治は平静を装いつつ……膝の上で両手を固く握りしめ、何も言えなくなってしまう。
自分は何も、知らなかった。
それはある意味で当然のことだった。誰もそんなこと、教えてくれなかったのだから。
自分に優しくしてくれた桂樹も、叔父も……両親でさえも、誰も。
無言になる統治に代わって、政宗が聖人に問いかける。
「伊達先生は、その話を一体どこで? 正直、俺も仁義君も辿りつけていない事実なのですが……」
仁義がいくら若くて経験に乏しいとはいえ、彼の情報収集能力もかなりのものだ。そんな彼が辿りつけなかった情報源を問いかける政宗へ、聖人は自分の口に人差し指をあてて、首を横に振る。
「今回の情報ソースは秘密にさせてほしいな。ただ……そういう噂話が大好きで、名杙家のことを良く思っていない大人は、みんなが思っている以上に多いと思った方がいいよ」
「分かりました。では、先ほどの発言はどういうことですか? 桂樹さんが何か行動を起こすって……」
「あぁ、それはね……彼のお姉さん、確か、ハナさんっていったと思うけど、彼女は前妻だったお母さんと一緒に、先の災害で亡くなったんだ。身を寄せていた親類の家が沿岸部にあって、家ごと全部流されてる。お母さんは確か見つかったんじゃないかと思うけど、彼女は今でも行方不明のはずだよ」
「お姉さんは、行方不明……」
「で、ここからは僕も又聞きオブ又聞きした話なんだけど、名杙家が彼女の捜索に関わらないことを決めたんだ。名杙の力を使えば、彼女が『痕』になっていれば御遺体を見つけることが出来る。政宗君は知っていると思うけど、名杙を頼ってご遺族の方と再会した人は少なくないんだ。亡くなった方――『痕』になった本人から、今の自分の居場所を聞くことが出来るんだからね」
それは、名杙家が始めた新しい試みの1つ。先の災害で行方不明となった方のご遺族から依頼を受けて、行方不明となった方が『痕』になっていないかどうかを探す。もしも『痕』になっていれば接触して、本人から直接、当時の状況や自分の体が眠っている場所を聞き取り、その状況を警察に引き継ぐ……というもの。
大体が突然の死を認められずに『痕』になっているので、依頼を受けた仕事が成功する可能性は高い。
当然、名杙の存在がトップシークレットであり、着手金や成功報酬など、色々とお金もかかるため、ごく一部の有力者や、名杙と親戚筋の限られた関係の間でのみ、これらの仕事が行われていた。
「親戚がいなくなってしまったお姉さんの代わりに、桂樹さんがお姉さんを探し始めて、名杙家にも協力を要請したけれど……断られたんだ。名杙家は彼女を含めた先妻の家のことに関るつもりはないって」
それを言えば、彼女――ハナは立派な名杙本家筋の人間にあたるだろう。彼女の捜索から名杙が手を引いたとは、一体どういうことなのか?
全員の問いかけに、聖人はチラリと統治を見たが、すぐに視線をユカに戻した。
「ケッカちゃん、もしもケッカちゃんが名杙家の現当主だったとして、スキャンダルのネタにしかならないような仕事は受けたい?」
ユカは即座に首を横に振る。
「離婚して、既に『縁』が『切れて』いる人達に、自主的にこれ以上関る気はない。金銭が支払えるなら話は別だ……とか言って、この問題を終わらせようとすると思う」
「そう、当主の弟さんを含め、それが名杙家の総意として桂樹さんに伝えられたんだ。でも、それで納得出来るはずがないよね。桂樹さんは長町に名杙家とは別の拠点を設けて、自主的にお姉さんについて調べ始めたんじゃないかって……まぁ、これは自分の想像だけどね」
そう言って、聖人はシュークリームを半分ほど口に含んだ。
コーヒーを飲み終えた政宗が、足を組んで聖人を見つめる。
「要するに桂樹さんには、名杙家に喧嘩を売る理由があるってことですね」
「まぁ、そうなっちゃうね。しかも、前の奥さんが離婚になった理由の1つとして、お姉さんが持っていたらしい特殊能力が挙げらてているんだ」
「特殊能力、ですか?」
「そ。どうやら前の奥さんは、遠縁に名雲の人間が混じっていたみたいでね、そこから名杙の血も混ざって生まれたお姉さんには、類まれない『縁故』としての素質があった。そして、お姉さんには……人の『縁』を見えなくする能力があった、らしい」
「『縁』を、見えなくする……?」
そんな能力は聞いたことがない。政宗とユカは互いに顔を見合わせ、首を横に振った。
聖人はチラリと隣りにいる統治を見やり、言葉を続ける。
「名杙が、自分の名前を伝えることで相手の反抗を許さず干渉出来る攻撃型だとすれば……名雲は、自分の名前を相手に伝えることで、自分の『縁』の見え方を変えて相手を混乱させることが出来る防御型だということが出来る。その両者の血が混じった桂樹さんのお姉さんは、自分や、自分の名前を伝えた誰かの『縁』を、第三者から見えなくする能力があった……みたいだよ。もしも、そんな能力者が力をつけていったら……今の名杙は引っくり返る。勢力図が変わってしまう可能性がある」
「だから名杙家は、お姉さんを追い出したってことですか……?」
「お姉さんの能力も含めて、推測+伝聞だからね。自分の話は真実ではないかもしれないことを忘れないで欲しい。真実を知るのは、名杙家の当主くらいだと思うけど……統治君が聞いて、すんなり話してくれるような内容でもないと思うよ」
そう言って、聖人が統治に視線を向ける。
それは彼も分かっていたのか、聖人の視線に首を縦に振り、一度、深い溜息を付いた。
「名杙の家は、古くからの因習を守る風潮が強いと思っていた。それを悪いことだとは思わなかったんだが……その軋轢で傷ついた人がいたかもしれないんだな」
「でもそれは、統治のせいじゃなか」
ユカのはっきりとした言葉に、聖人も笑顔で頷いた。
ここで、「伊達」の名字を持つ聖人が本格参戦です。
この名字は、宮城でもやはり特別な意味を持つと思うので……通常ならば政宗の立場のキャラクターにつける名字なのかもしれませんが、聖人の存在が今後のユカに対して非常に大きなものとなっていくので、こうなりました。そもそも政宗は偽名ですからね。
あと、彩衣さんの名字を富沢にしたのは……えへへ、分かる人だけ分かってくれればいいです。