エピソード0:曇天に救いなし。①
息を、吐く。
白い空気が吐出され、霧散して……消えていく。
屋上から空を見上げると、夜が明けたはずなのに太陽は見えない。どんよりした鉛色の空から雪が舞い落ちてくる。
折り重なった車はバカになって、クラクションが鳴りっぱなしの状態だ。遠くからサイレンのような防災無線のような音も聞こえるが、警鐘ならばもっと早くに鳴らして欲しかった。そんな音が多方向から聞こえてきて……耳が、おかしくなりそうだった。
いやいっそ、おかしくなって欲しかった。そうすれば、クラクションに混じる別の音を聞くこともない。
――助けて。
――助けて。私はここにいる、まだ生きている、助けて、助けて、助けて……。
どうしろというのか、この非常識な世界で。出来ることならば今すぐに助けたい、助けたいけれど……陸の孤島となったこの学校から出ることが出来ない。
フェンス越しに見下ろす足元は、仄暗いただの湖だった。校庭との境目に設置されたフェンスが網のように車を絡めとり、どこから流れてきたのかコンテナが積み重なり、流木が積み重なり、家の屋根が積み重なり、家財道具が積み重なり……人が、積み重なる。
信じられるだろうか。つい数十分前まで、この足元に自分たちの生活があったことが。
ついさっきまで、変わらない明日に愚痴をこぼしながら、今日を安穏と生きていこうとしていたことが。
一瞬で、世界はひっくり返った。
これが、現実?
夢であってほしかった。でも、手に落ちた雪の冷たさで、これが現実であることを実感せざるを得ない。
『彼』以外にも命からがら逃げてきた人々が多数、寒々しい屋上に集まり始めていた。そして、目の前の光景に打ちひしがれ、ある者は泣き崩れ、別のものは叫ぶことしか出来ず……統制を取ろうとする人物の声等聞こえない。法律など何の意味もない無法地帯のよう。
「……姉さん……!」
『彼』が祈るように呟いた言葉は、クラクションの音にかき消された。
この物語は、宮城県、仙台市及びその周辺、福岡市等、実在の地名や名物、そして、東日本大震災を連想させる描写が登場します。
しかしながら、この物語は全てフィクションであり、実在する人物や地名、災害とは何の関係もございません。
私自身も宮城で被災し、精神的にギリギリの経験をしました。具体的に書くと、津波が引かず、陸の孤島となった建物に24時間閉じ込められ、(恐らく)自衛隊が作ってくれた、瓦礫(車ばっかりでした)を重ねた道を通って脱出しました。プリウスを踏んだことを鮮明に覚えています。
そして、抜けだした世界が全て壊れていたことは……たまに思い出してゾッとするくらい、脳裏に鮮明に焼き付いています。(その辺りのことは当時のブログに少し書いたので、興味がある方はご覧ください→http://ameblo.jp/frosupi/entry-10873934251.html)
こんな経験をしたからこそ、何らかの形で、震災や復興に関する自分の思いを残しておきたいと感じました。
同時に、復興の速度が遅くなっているんじゃないかという感覚もあり、そのあたりを自分に正直に書きなぐった結果が、この物語だと思います。
この物語を読むことで「それは違う」「不愉快だ」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。それは単純に私の伝える力が不足しているからです。期待に添えられず、申し訳ございません。
この物語が、少しでも、皆さんが「震災後の今、東北はどうなっているの?」と、検索するキッカケになれば幸いです。