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混濁した意識の中で、どこからともなくとても美しい歌声が聞こえてきた。少し切なげに、どこか母親の子守唄のような安心感も含んでいる素敵な歌声。
色んなテンポで音色を奏でて、ぼんやり聞いているとまた眠りの世界に落ちそうになる。
(あれアラームこんな音にしてたっけ?)
ふと疑問に感じて、眠たいのを我慢して少しずつ瞼をあげてみる。
ぼんやりと歌声の主が姿を表わす。跪き瞳を閉じて手は祈るように固く結んでいて、まるでそれが神様への歌声の贈り物のようで神秘的な光景だった。
なぜか邪魔をしてはいけない気がして、そっと歌声を聞きながら主を観察してみる。
薄い紫のウエーブがかった髪が足元に届きそうなぐらい長くて一見女性のようだが、顔は瞳を閉じていてはっきり分からないが男性とも女性とも言えそうな中性的な顔をしている。
(わー・・・美人さんだあ)
身長はでもすごい高いよね・・・。まさかどっかのモデルさん?歌も上手だし海外の知らない歌手だったりして。
頭の上から順番に観察しているとふと違和感を感じて原因を探っていく。
(白い・・・猫耳・・・!!!!!!!!)
コスプレしながら歌ってるの?なにこれどういうこと?
というかここどこ?周りを見渡しても土臭く薄暗い洞窟の中にいるようで全くどこかわからない。
何かないかと探っていると足元は氷のようなものでできていることに気づく。
(これ冷たくない・・・。水晶?)
じっと足元の水晶を見つめていると、水晶を通して銀色に輝く竜がこちらを見つめていた。
『ぐるるるる!!っがあ!?』
驚いて思わず声を上げたけど、口から出たのは獣のような雄叫びでまたその声に驚いてしまう。
え、なにこれ!どうなってるの?!
いや、とりあえずここは冷静に。そう。深呼吸しよう。
うん。とりあえずもう一度声をだしてみよう。
『ぐるる・・・』
うん。獣だ。うん。
うん。落ち着けるかああああああ!!!!!!!!
『ぐるがああああ!!・・・がう。』
一通りパニックに陥って落ち着くと、ふと先ほどから続いてた歌声が止まっていることに気づく。
さすがに先ほどの雄叫びで歌声の主も気づいたのか、これでもかというぐらいに目を見開いてこちらを凝視していた。
「ルナッ・・・!!!!」
そうだよね。驚くよね普通。私も驚くよ。初対面の女子が話した最初の言葉がぐるるって。
・・・え、るな?
「ようやく目覚めてくれたのね・・・?」
なぜこの方は瞳を潤ませて今にも泣きそうな表情なのだろうか。
-ねえさま、泣かないで。
なぜこんなにも心臓が掴まれたように痛いのだろう。
-ねえさまは僕が守るよ。
なぜこの方をこんなにも愛しく思うのか。
-ねえさま、ごめんなさい。
ああ、何か、とても、大事なことを忘れている気がする。
心臓が痛い。
喉の奥が燃えるように熱い。
吐き出したい。
体中の熱が喉の奥に集まっている気がする。
もう、無理。
そう思った時には空に向けて灼熱の炎を吐き出していた。
(なにこれ、なんなの!!!なに!!!)
またパニックに陥りながら、私の意識は混濁の中に消えていく。
目を閉じる瞬間に黄金に輝く満月が空に浮かんでいるのが見えた。
-だめだよ、きちんとねえさまは守らなきゃ。
自分じゃない自分に話しかけられた気がした。