四話
手術は3時間近く続いていた。
その間に雪江も来ていた。
「ソラ……。」
龍二は祈りながら、名前を呼ぶ事しか出来なかった。それは雪江も同じであった。
それから数分後、手術室のランプが消えた。
影沼が出て来て、一言だけ言った。
「……スマン。」
深々と龍二に頭を下げた。
龍二はその言葉で全てを悟った。
「う……ウソだろ?オッサン!!?……ソラァ〜!!!」
龍二は床に崩れ落ち、叫びながら泣いた。
「ソ……ソラ……君。」
「本当にスマン……。最後の言葉を聞いてやってくれないか?」
影沼はそう言い残し、奥へ行った。そして龍二はその言葉で影沼と入れ替わるように手術室へと駆け込んだ。
「ソラ!」
そこには酸素マスクをして精気を感じられないグッタリしたソラがいた。
『り、龍二……』
「もう喋んな!大丈夫、オレはココにいるから!」
龍二はソラの手を握った。
『龍二の手は温かいなぁ』
「バカヤロー、何言ってんだよ……。」
涙がこぼれそうになりながら必死に笑った。そして雪江も遅れてソラの元へと駆け寄った。
「ソラ君……」
二人の表情に悟ったように
『今までありがとう──龍二と出会えてホントに良かったよ。ボクの人生は龍二に救われたよ。だからもしこのことでまた動物のことを嫌いにならないで欲しいな。龍二はボク達動物にとってはスゴく大切な存在なんだから』
龍二は微かな声のソラを一言一言聞き逃さないようにしっかりと目を見つめながら聞いていた。
『龍二、今度はボクだけじゃなく、色んな動物のことを救ってあげてほしいな』
「あぁ!救ってらるから、お前も生きて見届けてくれよ!」
『そうしたかったなぁ。だからボクは龍二がくれた名前のように空から見てるから。』
「バカヤローがっ!」
『ホントにありが──』
その言葉の途中で心音が停止したピーという甲高い音が響いていた。
「ソラ?……ソラ──ソラ〜〜ッ!!!」
そしてその甲高い音をかき消すように龍二の叫び声が手術室に響き渡った。
バンッ!!!
「クソッタレ!動物1匹も救えないで、何が獣医師だ!!!」
影沼は着替えの途中でロッカーを殴った。
「影沼先生……。」
その音に 瞳は気付いたが、声をかける事が出来なかった。
「畜生……せっかくアイツが前向きな気持ちになってきたのに……。」
その翌日──。
龍二は影沼を白石 志歩のお墓のある丘に呼び出した。
「この場所でオレの運命が変わった気がするよ。」
「………。」
「あの時オレは祈る事しか出来なかった。もし、オレが何か処置出来ていたなら死なずにすんだのかなって思うよ。」
そして龍二はこう続けた。
「このお墓の隣りにソラのお墓を立てる事にしたんだ。」
「えっ?」
「ココがオレの出発地点だ!」
龍二は影沼の肩を叩いた。
「アンタはソラの為に一生懸命手術をしてくれた。気を落とすな!そんな顔してちゃ空にいるソラに笑われるぜ?」
龍二は影沼に微笑んだ。
「決めたんだ、オレ!!獣医師になるって!」
龍二は握り拳を作った。
「もうオレの目の前で死なせはしない!そしてたくさんの動物の“声”を聞いて救ってやる!」
「そうか……頑張れよ!」
影沼は龍二の顔を見上げた 。
「そう言えば、水島さんはどうしてる?」
「アイツなら大丈夫だ。昔からオレよりずっと強いからな。それじゃぁ学校に行って来るわ。卒業出来なきゃ獣医師にもなれないからな!」
そう言い残し、龍二は学校へと向かった。
「サボるなよ!!」
影沼もそう言い、病院へと戻って行った。
「アイツが獣医師か──志歩さん、アイツの成長見守ってやろうぜ。」
影沼は笑いながら、ズレた眼鏡を中指で元に戻した。
「ん?」
影沼は何かを見つけた。
ソラのお墓の前にいつも龍二が身に付けていたヘッドフォンが置いてあったのだ。
「フッ……一気に大きくなりやがって──。」
影沼は嬉しそうに言った。
それから6年後──。
白衣を着た龍二は少し大人っぽくなっていた。
「今日は何のご用で?」
「はい……なんだか、この仔の食欲がなくて……。」
飼い主がハムスターを連れて着た。
「どれどれ……。へぇ〜、ミーちゃんって言うのか。」
「えっ?」
飼い主は驚いた。
何故ならハムスターの名前など名乗ってなかったからだ。
「あ、驚きました?オレには聞こえるんですよ。動物の“声”が。」
そう言い飼い主に微笑みかけた。
「“アニマルコミュニケーター”ですから♪」
完




