表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

三話

そして次の日──。

「ふぁあぁ〜。」

いつもの様に龍二はヘッドフォンを耳に付けながら歩いていた。行き先は学校でもなく、ましてや影沼動物病院でもなかった。龍二はいつもの公園に来ていた。

「はぁ……暑い〜。」

そしていつもの定位置のベンチに座っていた。

「なら、オレん所に来るか?」

いきなり後ろから声がした。

「──ッ!!?」

「よぉ!待ってたぜ。」

影沼だった。

「何してんだよ、オッサン!!?」

龍二は慌てて振り向いた。

「オッサンじゃねぇ〜よ!こう見えても、まだ29歳だ。」

「もうオッサンじゃねぇ〜か!それより質問に答えろ!!」

「ったく……お前はどうせ来ないだろうと思って迎えに来た。さ、行くぞ!!」

影沼は龍二の腕を引っ張った。

「放せッよ!!!」

龍二は影沼の腕を振り払った。

「何でオレに構うんだよ!ウゼェんだよ!!」

「イイから来い!!!」

影沼は強引に龍二を掴み、病院へ向かった。


「座れ!!」

影沼は龍二を放り投げる様に椅子に座らした。

「何すんだよ!」

「だいたいの話は聞いた。それがどうした?一度そんな事があったからって。」

「──!!?」

龍二は驚いた。

「……雪江から、聞いたのか?」

そして重々しく口を開いた。

「あぁ……。オレも、お前みたいな経験を持つ人物を知っている。」

「──え?」

龍二は顔を上げた。

「オレがその人と出会ったのは今から10年前の、獣医師になる為に大学に通ってた時の事だ」

影沼は自分も椅子に座り、語り始めた。

「あの頃のオレはな、あまり授業とかを受けなかった。まぁサボりってヤツだ。正に今のお前みたいなもんだ。そんな時、お前と同じ能力“アニマルコミュニケーター”を持つ女性に出会ったんだ。彼女の名前は白石 志歩。オレの恩師でもある人だ。」

「オッサンの恩師……?」

「あぁ。オレはあの人に獣医師としての志や基礎を教わった。そして、動物の気持ちもな。そんな彼女にもトラウマがあった。お前と同じ……。でも彼女は逃げなかった。それどころか、立ち向かおうとした。動物の声は私にしか聞こえない!なら、私が動物と人間の掛け橋になるっ言ってな。」

「……。」

「世の中にはスゴい人もいたもんだろ?」

「あぁ……そうだな。オレには真似できねぇよ。今もその人は獣医師として働いてるのか?」

「会ってみたいか?」

影沼はそう言い立ち上がった。

「あぁ。」

「なら、付いて来い。」

影沼は病院から出て行った。それを追うように龍二も病院を出た。


歩く事、数十分──。

「おい、ココに病院とかはないだろ?」

龍二達は近くにある低い丘の頂上へと登っていた。

「着いたぞ……。」

影沼は大きな木に手を突きながら言った。

「は……?」

龍二の目の前には大きな木が1本堂々と立っていただけであった。そしてその隣りにお墓が立ってあった。

「死んだんだ……オレと出会って、その1年後に。」

「な、何で……?」

「ココにはな、いろんな動物が住んでるんだ。お前には聞こえるだろ?」

「……。」

「でもな、街のお偉いさんがこの丘の樹々をなぎ倒し、ゴルフ場を作るって言い出したんだ。そんな事彼女が許す訳がなかった。だが彼女一人の力ではどうする事も出来なかった。勿論オレも彼女に協力した。ストライキもした。それでも 、止める事が出来なかった。」

「でも、現に今もこうして残ってるじゃねぇ〜か。」

「最後まで聞け!それでも彼女は諦める事はしなかった。そんな時、彼女は事故しちまったんだ。打ち所が悪く、そのままもう目を開く事はなかったんだがな……その事故はマスコミによって大きく取り上げられた。そして白石 志歩という人間性や経歴なども、詳しく載せられた。その記事を見て彼女の考え方に賛同した世間の人々の声によって、この丘はそのまま残す事が決定された。それどころか、動物達を保護すると街のお偉いさんも約束したんだ。そうして、彼女はこの丘や、丘に住む多くの動物を守ったんだ。」

「この丘にはそんな歴史があったのか……。」

龍二はそう呟き、お墓の前にしゃがんだ。

「アンタは偉大な人だな。」

その時、数羽の小鳥が飛び立ち、兎達も樹々の向こうからひょっこり顔を出した。

「オレには聞こえるぜ、動物達がアンタに“ありがとう”を言っているのが。」

目を閉じ、手を合わせた。そして、立ち上がった。

「なぁ、オッサン!オレはもう過去から逃げない!」

龍二は決意に満ちた目で影沼を見た。

「フッ……イイ目付きになったな。」

「オッサンのお陰だ。ありがとう。」

龍二は頭を下げた。

「どうだ、あの野良犬を飼ってみるか?まぁ家の人の許可が必要だと思うが。」

「両親はいつも海外でいないから、許可なんて必要ねぇ〜ぜ。」

龍二は丘を降りようとした。

「ドコ行くんだ?」

「決まってんだろ、あの犬を引き取りに行くんだよ。」

龍二はイタズラそうに微笑みながら言った。

「そりゃそうだ。」

影沼も自然と笑顔になった。



二人は丘を降り、影沼病院へと帰った。

「ただいま、志村さん。」

「あら、おかえりなさい。」

瞳は患畜に餌をあげていた。

「あの野良犬は?」

「あぁ、あそこにいますよ。」

「ワンッ!」

瞳は手を叩き、呼び寄せた。

「よし、イイ仔ね。」

野良犬の頭を撫でた。

「ホレ、お前もちゃんと世話しろよ?犬も人間と同じ“命”を持ってるんだから、な。」

「“命”の尊さは知っているつもりだ。」

そう言い、犬の頭を撫でた。

「ワン?」

『どうしたの、いつもと違うよ?』

「今日からお前はオレが育ててやるよ。ヨロシクな♪」

『ボクが嫌いじゃないの?』

「確かに前までは、な。でも今は違うよ!」

犬に笑顔を見せた。

「そういやお前、名前あるのか?」

『まだないよ。』

「じゃあオレが決めてやるよ!」

『うん♪』

「ソラ!どうだ?」

「ワンワンッ!」

『それイイ♪』

「スゴいですね、あの子。」

「あぁ。オレ達とは違う世界の言葉みたいだな、あれは。」

2人は遠くで龍二とさっき名前が決まった雑種犬のソラを見ていた。

「うらやましい能力だよな、獣医界のジジイ共が見たら驚くぜ。」

「オッサン!ソラ連れて帰るけどイイか?」

「おう、また来いよ。」

「ソラも来たいって言ってるよ!」

龍二はソラに首輪を付け、紐を持ち、影沼病院を後にした。



それから毎日の様に龍二とソラは影沼病院へ遊びに来ていた。

その日は雪江も一緒に来ていた。

その帰り道──

「変わったね、龍二。」

「そうか?」

「変わったよ、ソラ君のお陰だね♪」

雪江はソラの顔を見た。

「ワン!」

「何て言ってるの?」

「はっ……当たり前だよってさι」

龍二は苦笑いしながら言った。

「アハハ、当たり前かぁ!」

雪江は笑った。

「笑うなよ!」

何気ない話で盛り上がっていたその時であった。

ププーッ!!

と、トラックのクラクションの音が鳴った。

慌てて龍二は雪江の手を引き、雪江を守った。

「ったく、危ねぇ運転しやがって。大丈夫か?」

「あ、うん。ありがとう」

「ソラも平気か?」

と龍二は後ろを振り返って愕然とした。

「ソ……ソラ……?」

そこにはトラックに跳ねられ、横たわったソラの姿があった。

「ウソ……。」

雪江は泣き崩れた。

「ソラァ〜!!!」

龍二はソラに歩み寄り、ソラを抱き抱えた。

「死ぬな……死ぬな!!」

龍二はソラの心臓に耳を当てた。

「……まだ微かだが、動いている!雪江、大丈夫か?オレは今すぐオッサンの病院にソラを連れて行く!!お前はどうする?」

「後から行く………。」

弱々しい声で震えながら言った。

「絶対後から来いよッ!」

そう言い残し、龍二は影沼病院へと走った。



「オッサン!!!頼む!」

必死な龍二の声に影沼は慌てて奥の部屋から飛び出してきた。そして抱え込むソラの容態を見て真剣な顔つきになった。

「任しとけ。志村さん、オペの準備だ!」

「ハイ!」



「マズいな……コレは。」

影沼は眼鏡を取り、レントゲン写真を見た。

「アバラが肺に突き刺さってる。この仔の体力が持てばイイが……。」

手術室のランプが点灯した。

「頼む……ソラを助けてくれ……。」

龍二は祈りながら、手術室の前で座っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ