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二話

「誰がバイト君だι──さて、遊びにも付き合ってらんねぇし、オレもそろそろ帰るかな。」

龍二が立ち上がろうとしたら──。

「ったく……誰が帰ってイイって言った?」

影沼は龍二を引き止めた。

「イイ加減にしとけよ、オッサン!オレもマジでキレるぜ?」

龍二は睨みつけた。

「……ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ!!!患畜も怯えてるじゃねぇ〜か!」

「あァ?」

龍二は影沼を振り払い、服を持って病院から出て行った。

「どうしたんですか!?」

瞳はコーヒーを持って来ながら言った。

「あぁ、大丈夫ですよ。ったく、あのバカ……!」



「イライラするぜ!あのオッサン!!」

龍二は落ちていた缶を蹴り飛ばした。

「コラッ、龍二!!」

「あ?」

雪江が話しかけてきた。

「雪江か……何の用だよ?」

「何の用じゃないわよ!また学校サボってたでしょ?小町先生が怒ってたわよ?言い訳考えるの大変なんだからね!!」

「怒らせとけよ。あんなクソ教師!」

「そんな事したら卒業できないでしょ!?」

「ワンッ!!!」

犬の鳴き声が聞こえた。

「キャー、カワイイ!」

雪江はしゃがんで犬に近付いた。

「(…………あの犬!?)」

その犬は龍二が助けた野良犬だった。どうやら龍二の跡を付いて行ったみたいだった。

「雪江、行くぞ。」

龍二は犬に目も合わさず、振り返った。

「え、何で?でも、この犬手当てされてるよ?」

「なら、イイ──じゃぁな!」

龍二はヘッドフォンを付け、その場から逃げる様にして歩き出し た。

「待ってよ、龍二ッ!じゃぁね、ワンちゃん。ゴメンね。」

雪江も龍二の後を追う様にして歩いた。

「どうしたの、急に?」

「オレは動物が大嫌いなんだよ、知ってんだろ?」

「そう言えば、そうだったよね……あの事件からだよね。」

「………お前はもう平気なのか?」

「うん、私はね……。」

「ワン、ワン!」

「あ、龍二!あのワンちゃん付いて来てるよ!!」

「チッ……。」

龍二は舌打ちをして、ヘッドフォンを外した。

そして野良犬に向って言った。

「付いて来んな!!」

『………やだ!』

「何がイヤだ!!」

これが龍二の能力である。

人間同士が普通に会話出来る様に、動物とも普通に会話出来る能力、それが“アニマル・コミュニケーター ”である。

通常の人間には聞こえる事のない動物の声を今の龍二にとっては雑音の様に疎ましく思うものである。だからいつも龍二はヘッドフォンを首にブラ下げていたのである。いつでも“声”を遮断出来る様に……。

『ボクは龍二に助けられたんだ、お礼が言いたいんだよ!』

「……あのオッサンの所に戻ってろ!ってかオレの名前を呼び捨てにすんじゃねぇ〜よ!!」

『だって……』

「雪江、その犬をあそこの影沼動物病院って所に連れてってくれねぇ〜か?」

龍二は立ち止まって、言った。

「え、いいけど……どうしたの?」

「悪いな、頼んだぞ。オレは帰る!おい、犬!雪江の言う事聞けよ!!」

そう言うと龍二は走り出した。

「あ、龍二!!しょうがない……行こっか? ワンちゃん♪」

「ワンッ!」



龍二は自宅に戻り、ベッドに横たわった。

「(……久しぶりだな──動物と“会話”したの……何年振りだろ?)」



10年前──。


「よ〜し、今日はこの家に乗り込んでみよ〜ぜ!」

少し太ったリーダーみたいな少年が言った。そのグループの中には龍二や雪江もいた。

この頃のオレ達は誰も住んでいない家に乗り込んでは探検家の気分を味わう遊びにハマっていた。

その時のオレは動物とまだ“会話”をしていることに抵抗もなかった。むしろそれを楽しんでいた。

「おい、龍二〜!何してんだ?行くぞ!」

「おう♪じゃぁな。」

少年の龍二は仔犬と話をしていたが、リーダーに呼ばれて誰も住んでいない家に入っていった。


「なぁ祐介、何かココおかしくねぇ〜?」

龍二はリ ーダーみたいな少年の事を祐介と呼び、引き止めようとした。

「ビビったのか、龍二?何なら帰ってもイイぜ!」

祐介は見下したようにイヤミったらしく言った。

「行くよ!!」

その言葉にムキになり、龍二は先頭を歩いた。

「あ、龍二!待って、私も行く〜!」

龍二と雪江は地下の階段を見付け、地下にある部屋の扉を開けた。

その時だった。

急に大音量の“声”が聞こえた。

『助けて!!!』

『死にたくない!!』

『イヤだ!』

『殺される!!!』

檻に閉じ込められ、何かの実験の失敗作の様に見るも無惨な姿が龍二達の目の前に広がった。

そして龍二には動物の“声”が自分の意志とは関係なく聞こえ、動物達の断末魔の様な叫び声が聞こえた。

「や……止めろ……止めろ〜〜〜ッ!!!」

龍二は耳を塞ぎ、叫んだ。

「ひ……酷い。」

雪江もその場の光景から目を反らし、涙を流した。

その声に気付き友達も慌てて駆け付け、大人を呼びつけた。


その後龍二だけはその場から動かず、ただ大声で叫び続けた。

親も駆け付け、龍二は精神病院へ行き、一時入院もした。動物達は市の役所に預けられ、余儀なく安楽死させた。それ以来龍二は動物が嫌いになり、動物と“会話”をする事を拒み続けた。



「(何昔の事思い出してんだろ、オレ?……シジィだな。)」

少し笑みを浮かべて目を閉じた。そして一粒の涙が目からこぼれ落ちた。



「こんにちは……。」

雪江は龍二に言われた通り、野良犬と一緒に影沼動物病院へ来ていた。

「ハイ?」

中から瞳が出て来た。

「あの〜、このワンちゃんを……。 」

「あら、突然居なくなったと思ったら。」

そう言い瞳は犬を抱いた。

「さぁどうぞ?中に入って!」

優しく微笑みかけた。

「ありがとうございます。」

雪江はお辞儀をして、中に入っていった。



「どうしてココに連れて来たの?」

「龍……いや、友達がココに連れて行けって言ったんですよ。」

「あぁ、アイツか。」

奥から影沼が出て来た。

「龍二を知ってるんですか?」

「まぁ知ってる分類になるかな。あ、志村さん、コーヒーください。」

「また飲むんですか!?」

瞳は呆れながらコーヒーを酌みに行った。

「お嬢ちゃん、アイツの彼女?」

影沼はニヤつきながら言った。

「違いますよッ!!!龍二とはただの幼馴染みです!」

「ふ〜ん……じゃぁアイツの能力も知ってんの?」

影沼はズレた眼鏡を中指で押し上げながら言った。

「え、えぇ。動物と会話する事ですよね?まぁ今じゃ動物嫌いになって、会話してないですけどね。」

「何で嫌いになったか教えてくれないか?」

「この事は龍二には内緒ですよ?実は……。」

雪江は渋々あの時の事を話した。


「成程……アイツにはそんな過去があったのか。しかもその能力が原因ってわけか……」

瞳に渡されたコーヒーを飲んだ。

「そう言えば君の名前、まだ聞いてなかったね。」

「私の名前は水島 雪江って言います。」

「そうか、オレはこの病院の獣医師の影沼 俊樹で、看護師の志村 瞳さんだ。」

影沼は更にこう続けた。

「明日、龍二にココに来る様に言ってくれないか?」

「えっ!?別にイイですけど……何でですか?」

「アイツは将来必ずこの獣医界に必要な人物になるからだよ。」

「──?」

雪江は不思議そうに首を傾げた。

「ま、何にせよ、頼んだよ!水島さん!」

そう言い雪江の肩をポンと叩き、奥に入って行った。

「すいませんね、いつもあの調子だから……。」

瞳は呆れながら言った。

「いえ、構いませんよ。でも龍二が来るとは限りませんよ?一応行ってみますけど……。」

「本当ゴメンなさいね。あの人は無茶苦茶な人だから……。」

「それ分かりますι(成程、龍二の機嫌が悪い訳だ。アイツの嫌いなタイプだわ。)」



そして一段落して ──。

「じゃあね、ワンちゃん♪」

そう言い雪江は帰っていった。



その夜──。

ピンポーンと家のインターホンがなった。

「龍二〜?」

雪江が龍二の家に来ていた。

「あっ?雪江か。何の用だ?」

龍二は寝起きなのか、アクビをしながらドアを開けた。

「影沼先生からの伝言!明日病院に来いってさ!!」

「ハァ!!?何で?」

「知らないわよ!確かに伝えたからね。あ、明日はちゃんと学校行くんだよ!!じゃぁね♪」

そう伝えると、雪江は帰っていった。

「両方パスだな……。さて、もう一回寝るか。」

龍二は頭をかきながら、ドアを閉めた。




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