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第9話 山奥にて

 耀星暦1108年、俺は8歳になった。




 10歳で冒険者になろうと決めた俺は、周りにそれを認めさせるために積極的に狩りに出るようになった。




 午前中はセレスティンたちから勉強を教わり、午後からは狩りに出かける生活をこの3年程続けている。




 狩りは冒険者としてやっていけるという実力の証明になるし剣術や弓術、魔術の修行もできる。そして当然食事が豪華になる。一石三鳥という訳だ。









 いつもはグラン兄さんに連れて行ってもらった森で狩りをするのだが今日はオルランド家領の端にある山に来ていた。


 いつもの森は危険な生き物はいないが大物も少ないのだ。







 グラン兄さんの結婚式が近いので、数日前から大物のいる狩り場を探して家と領内の各地を往復していた。空属性魔術の転移と、風属性魔術の飛翔を駆使することで、領内のほぼ全域を回ったのだが、今のところいい狩り場は見つかってない。







 今度こそと思いながら山を歩く。ある程度進んでから俺は神経を研ぎ澄まし、獲物の気配を探る。





 ・・・ここもダメか。小物はそれなりにいるようだが大物の気配はない。




 とりあえずもう少し山を登りながら気配を探って行く。





 と、ここで俺は妙な気配を捉えた。




 (これは・・・人か?ずいぶんと多いな)





 感知した人の気配は数十人。それがこんな人里離れた山奥に集まっている。どう考えても奇妙だ。




 (とりあえず近付いてみるか)





 そう考えた俺は気配を消して集団の方に接近する。100メートル程進んだところで開けた場所が見えてくる。すると3、40人程の人々が集まっているのが見えた。




 (あれは・・・帝国兵か!?)




 軽装の集団の装備には、ルベウス帝国の証である赤い獅子の紋章が刻まれている。





 (何故こんなところに帝国兵が?)




 ルベウス帝国はハルトリア王国の北西に位置する。実家のオルランド家領ラドロンも王国の北西にあたるため、帝国は決して遠くはないが、国境の町というわけでもないのでこんなところに帝国兵がいるのはどう考えてもおかしいのだ。




 気になった俺は更に接近することにした。光属性魔術を使って光を屈折させ、姿を隠す。そして、音を立てずに近付き、風魔術で会話を盗聴する。






 「・・・・・も、ずいぶん上手くいったな」



 「ああ。指示通りに動いただけでに3千万ゴールドの報酬とはな」


 「これでしばらく酒を好きなだけ飲めそうだ」


 「俺は娼館で女を抱きまくるぜ!」



 「まだ依頼は終わってない。気を抜くな」




 彼らの会話が聞こえてくる。声や体格から見たところ男女比は4対1といったところか。




 動きにほとんど無駄がない。かなり洗練されている。




 「分かってますよ、団長。これでもカルツ傭兵団に入って五年ですぜ」



 「迂闊にその名を出すな。依頼人からは帝国軍のふりをして作戦を実行しろとのことだ。バレてはいけないんだ」



 「こんな山奥になんざ俺たち以外誰も居やしませんよ。」




 背の高い40代位の男が、体格はいいが、頭の悪そうな男をたしなめている。




 その後ろには、大きな麻袋を2つ担いでいる人たちがいる。




 麻袋からは時折「んーーー」と、呻き声が聞こえ、ジタバタ動いては止まるのを繰り返している。





 麻袋の大きさからして人間の子供だろう。会話の内容から、彼らは誰かの依頼で動いている傭兵団で、内容は帝国軍を装いつつ指定の人物を誘拐することだったのだろう。





 (さて、どうしたもんかね)



 一応ここはオルランド家領の範囲内だ。当然、領内に住む誰かが攫われた可能性がある。



 (まあ、とりあえず行っとくか)





 人数は多いが俺なら問題ないだろう。人を殺す度胸はない(と信じたい)が、俺は彼らをまとめて殺さずに無力化するすべを幾つも持っている。





 「サークルスリープ!!!」




 俺が魔術を発動すると、一人、また一人と倒れていく。リーダー格らしい長身はしばらく粘っていたが後ろからこっそり近付き、殴って昏倒させた。




 亜空間にしまってあったロープを取り出し、とりあえず全員縛っておく。そして麻袋の口を開けてみた。





 どちらの麻袋にも、少女が入れられていた。片方は俺と同い年位だろうか。明るい茶髪を長く伸ばしている。袋に入れられていたためかしわくちゃになっているが、一目で高そうと分かり、かつ上品さを失わない服装をしている。




 もう一方は綺麗な黒髪を短く切りそろえた少女で、侍女の格好をしているがこれもかなり立派なものだ。。年齢は10歳前後といったところか。

 2人共とても可愛い顔をしている。あと数年もすれば10人いたら9人が振り返るのではというほどの美少女になるだろう。




 とりあえず、家の領民ではなさそうだ。というかまず間違いなくオルランド家よりも格式が上の家柄のご令嬢だろう。





 「あー、ヤバいものに関わったかもな」


 思わず呟いてしまう。




 (まあ、とりあえず起こして本人たちから話を聞こうか。)





 俺は念のため2人にもかけていた魔法を解いた。




 「おーい、起きてくれ」



 軽く肩を揺すりながら声をかける。




 すると黒髪の侍女の方が先に目を開けた。





 「・・・ーーーっ!!!!」




 少しの間ぼんやりしていたが、突然飛び起きて辺りを見渡す。そして俺が視界に入った瞬間、袖に隠していたらしい短剣を一瞬で取り出し俺目掛けて・・・




 「危ねぇ!!!!?」




 俺は、上体を反らして刃をかわす。



 (おいおい、今狙いは完全に俺の首だったぞ)




 「落ち着いてくれ!俺は敵じゃない」





 「・・・・・・・・・」




 黒髪の少女は俺を警戒しながらも一旦俺から距離をとり、周囲を見渡す。




 そして、自分の足元で眠っている少女を見、俺の後方で縛られたまま眠っている集団を見て、武器を下ろした。





 「あなたは何者ですか?名乗りなさい」




 茶髪の少女の前に出て庇いながら、まだ俺を警戒している様子で名を聞いてくる。





 「私はここラドロンの領主、フリード オルランドの三男グレイ オルランドです。あなた方は?」




 「・・・・・・・・・」




 黒髪の少女は全てを見透かそうとするかのようにじっと俺の目を見ていたが、納得したのかようやく警戒を解いた。





 「大変失礼いたしました。私はリン。リン=V=サウスゲートと申します」





 (サウスゲートだと!?)



 サウスゲート家は王国の発祥時から続くとされる侯爵家だ。



 先祖は初代ハルトリア王の副官であり、同じく副官の子孫とされる政の名門エバンス侯爵家と対をなす武の名門だ。



 両家を合わせてハルトリアの双翼と呼ばれている。




 (・・・ということは)



 すごく嫌な予感がする。




 「そして、こちらにいらっしゃるのがアリサ=コーデリア=ルブラン=フォン=レストール王女殿下。現ハルトリア王国元首、アリシア女王陛下の孫娘にあたられるお方です。」




 (・・・マジかよ)




 帝国兵を装って女王のお孫さんと側付きの侯爵家令嬢を拉致とか




 俺はとんでもないものに首を突っ込んだようだ。

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