リーシャの誕生パーティー
リーシャの誕生パーティーが始まった。参加者は隣のコノリー子爵家を始め、100人ほど。中には両親も名前しか知らない貴族家の人たちもいるんだとか。
貴族の人間関係は面倒だ。両親はほとんど接点がないような貴族家にもパーティーの招待状を出していた。
貴族の中には、面識がなくとも自分を招待しなかった事に腹を立て、周囲に悪評を流すような人もいるらしい。
だから貴族は、パーティーなどを開く際はとりあえずほとんどの貴族家に招待状を送り、参加の判断は相手方に一任するというスタンスをとることが多いようだ。
招待された側も大変で、ある程度の付き合いがある相手から招待されたらよほどの理由がない限り断れない。
それほどの付き合いがない場合でも、不参加ならば謝罪と招待に対する礼を書いた手紙を届けなければならない。
ならパーティーなんか開かなければいいと思うのだが、当主や跡取りの誕生日、子供が生まれた際など、少なくとも何かの節目にパーティーを開かない貴族はけちだの貧乏だのとそれはそれで馬鹿にされる。
貴族の人間関係はとても面倒らしい。
そんなパーティーだから両親も兄も忙しそうだ。両親はずっと招待した貴族たちの対応をしているし、ようやく復帰したリュート兄さんは、そのイケメンぶりを発揮し、貴族のお嬢様方に囲まれている。病み上がりの兄さんはにこやかに対応しているもののかなりキツそうだ。
・・・頑張れリュート兄さん。それがモテる男の宿命だ!!!
グラン兄さんは我関せずで、一通り挨拶を済ませた後さっさと婚約者のエーデルさんと会場から出て行った。庭を散歩してくると言っていたが、あれは絶対に面倒ごとから逃れるためだ。
今日の主役のリーシャはメイド長のマリアに連れられて、既にベッドに戻っている。
そんな中、俺はというと・・・
悠々と豪華な料理を食べ回っていた。
最初こそ両親や兄たちと共に挨拶回りをしていたが、それが終わった後は俺に構おうとする人はほとんどいなかった。
下級貴族の三男たる俺には貴族的にほとんど価値はないので、招待客の多くは両親たちや、他の貴族との社交に勤しんでいる。
・・・暇だ。する事がない。お腹いっぱいで料理はこれ以上食べられないし、家の人も全員フル稼働中だ。
リーシャの所にでも行こうかと考え始めたとき一人の男がこっちに近付いてきた。確か、コノリー子爵の伯父にあたる人で、名はオービッドといったはずだ。歳はすでに初老に差し掛かっており髪に白いものも混じり始めているが佇まいには一切の隙が無く、優しそうな雰囲気を纏いつつもその視線からは強い意思を感じる。ただ者ではなさそうだ。
「こんにちは。グレイ君だったね」
「はい。オービッド様」
「おや、私の名前を覚えていてくれたのか」
そう言ってオービッドさんは嬉しそうに微笑んだ。
「はい。コノリー子爵家の方々にはいつもお世話になっておりますから。ところで何か御用でしたか?」
「ああ、特に用事があったわけじゃないんだ。今少し退屈していてね。良かったら話し相手になってくれないかな」
「はい、僕でよろしければ」
おそらく、本当は俺が退屈そうにしているのを見かけて声をかけてくれたのだろう。
それからオービッドさんは色々な話をしてくれた。
オービッドさんは先代コノリー子爵の弟で、五男だった彼は、13歳で家を出て冒険者になったんだそうだ。様々な経験をし、彼は冒険者として名をあげていった。
そして5年程前に今のコノリー子爵が家に戻って兵たちの指南役を務めてくれないかとオービッドさんに頼んできたらしい。
お金には困ってなかったがそういう老後も悪くないと考え、彼はそのオファーを受けたらしい。
オービッドさんの冒険者時代の話は、色々な場所を旅した話や、強敵と戦った話など、聞いていてとても楽しかった。
こんなにわくわくしたのは久しぶりだった。自分が異世界にいることを知った時以来だろうか。
「面白いお話をしてくださってありがとうございました」
「こちらこそ、話を聞いてくれてありがとう。楽しい時間を過ごせたよ。冒険者時代の友人たちの事を思い出して懐かしくなったよ」
「っ!!!!?」
最後の言葉を聞き俺はあることに気が付いた。
(あれ?俺同年代の友達がいない!!!?)
家族や、メイドたちが話し相手になったりしてくれていたので今までまったく気にしてなかったが、考えてみれば、生まれて5年以上経つのに未だに友達と呼べる相手がいない。
僕は友達がいない
両親にも、兄たちにも貴族に友達がいるようだが、俺は基本的に家で開かれるパーティー以外には社交の場には出ないため、貴族の友達をつくるのは難しい。
そして、基本的に修行の時以外は家の敷地から出ないし、修行は人が近くにいない場所でやっていたので、領内の子供ともほとんど接点がない。
「オービッド様、冒険者って何歳くらいからなれるんですか?」
「一応規定では15歳からだね。ただ、特例として、一定以上の強さを証明したらそれ以下の年齢でも認められるから時々10歳くらいの少年がいたりするね」
(それだ!!!)
俺なら今すぐにでも、手加減しても余裕で特例を認められるだけの力があるはずだ。
冒険者になれば友人もつくれるはず!
それに今の生活は幸せだが、同時にどこか退屈だった。俺の精神年齢はもうすでに20代半ばなのだが、周りは当然5歳の子供として接してくる。正直絵本を読んでくれるのよりも魔術や剣術の修行の方が新鮮で楽しい。
俺はせっかく異世界に転生したのだから異世界らしい生活を早くしてみたかった。
ただ、今すぐ冒険者になるのは両親も周りも許してくれないだろう。
(特例を認められる者がちらほら出てき始める10歳くらいを目安に冒険者を目指そう。)
俺はそう考えた。
更新遅くなりました(^^;)