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第6話 5歳になり…

 俺はぼんやりと目の前の光景を見ていた。


 数十メートルに渡って大地が荒々しくその断面を覗かせている。幅は3メートルほどで深さは10メートルに達している。その裂け目を中心に数十メートルくらいの幅の範囲の木々が根こそぎ吹っ飛んでいる。



 これをやったのが自分なのだと俄かには信じ難い。





 どれくらいの時間がたったのだろうか。こちらに向かって複数の人の気配が向かってきているのに気づいて俺は我に返った。



 「やばっ!!」




 めちゃくちゃに蹂躙された大地の前に立つ3歳の子供。どう考えても見られたらいろいろとまずい。


 俺は慌ててその場を離れた。




 




 あれから数日、すぐに家の裏の林のことは周囲に広がった。ドラゴンの襲撃だとか魔王の復活だとかとんでもない噂が飛び交っていた。



 あの日は家に着くとメイドたちが俺を探して走り回っていたし、隣のコノリー子爵家のところに行っていた家族たちも大慌てで帰ってきたりと大騒ぎだった。


 


 さらに、5日ほどたった頃近くに駐屯していた王国軍がやってきて、その一週間後には王都から、近衛師団と宮廷魔術師の部隊まで派遣されてきた。どちらも、ハルトリア王国が誇る精鋭部隊である。彼らは現場を見て何かしらの危険な存在がいると判断し、1ヶ月以上も周囲を調査したり、町や村を警備したりしていた。


 軽い気持ちで自分の力を試してみたら大変なことになったものだ。


 ユルドたちの記憶のおかげで力のコントロールは完璧だった。しかし、俺は自分の力を見誤った。



 圧倒的な強さで人々を苦しめていた魔王とその部下たちが率いる魔王軍を倒した勇者ユルドと、彼に肩を並べる仲間たち全員分の力を持っている俺だ。よく考えれば当然の結果だったと思えてくる。俺は彼らの知識と経験を使い完璧に魔力をコントロールした。しかし、俺は3歳にしてすでに彼らよりも遥かに強くなっていたのだ。その結果がこの前の一撃だ。



 どうやら俺はユルドたちのイメージよりも遥かに繊細な力のコントロールをしなければならないらしい。そして、俺にはそれを成し遂げるだけの才能があることもわかっている。



 (やってやるさ!)


 そう決意した俺はこれから毎日誰にも見つからないように修行をすることにした。
















 あれから2年。耀星暦1105年、俺は5歳になった。あれから欠かさず修行をした結果、針の穴を通すような精密な力加減ができるようになった。


 ただ恐ろしいのは、俺の強さが二年前よりも確実に増していることだ。正直オーバースペックすぎる。どこまで強くなるのかあまり想像したくない。





 そんな俺は今、兄二人と一緒に両親の部屋の前に立っていた。


 先日で13歳になった長男のグラン兄さんは既に身長が170センチはある。体つきも年齢の割にがっちりしていて、スポーツマン風だ。実際に体を動かすのが好きで、よく馬に乗って出かけている。座学はあまり得意ではないが、剣術や槍術はなかなかの腕らしい。貴族の長男らしく既に婚約者がいる。相手は隣のコノリー子爵家の次女だ。ちなみにこの世界の成人は16歳で、グラン兄さんは16歳の誕生日を迎えた日にすぐ結婚式を挙げることになっている。早いように思えるが、貴族家の長男はそうすることが習慣になっている。これは、次男の事を考えてだ。基本的にこの国の貴族家では長男が家を継ぐ。例外もあるが、それは稀なケースだ。そして次男は長男に跡取りができるまで、家で過ごすことになる。これは長男が早死になどで、跡取りを産めなかった時のための保険を意味する。そして、長男に子供ができるとようやく、保険の立場から解放される。その後、保険の役割を果たした褒美として、良ければ男のいない貴族家、悪くても準貴族家の縁談を紹介して貰えるのだ。つまり、長男になかなか子供ができないと次男はいつまでも結婚することができないので、貴族の長男は成人と同時に結婚するのが慣習になったのだ。ちなみに大貴族以外の貴族家の三男以下は独り立ちできるくらいになったら家を出て自力で生きて行かなければならない。その分長男、次男よりも自由が認められているが。


 もうすぐ12歳になる次男のリュート兄さんは髪の色以外はあまりグラン兄さんに似ていない。流れるような長髪、線の細い体、とても整った顔。そして優しそうな雰囲気。


 グラン兄さんがスポーツマン風なら、リュート兄さんはモデル風だろうか。


 グラン兄さんとは逆で、体を動かすことよりも座学の方が得意だ。


 ちなみに二人とも魔力は持っていない。実は、この世界には魔術があるものの魔術師の人数はかなり少ないのだ。



 魔術師は文字通り魔術を使える者を意味するが、具体的に言うと少しでも魔力を持っている人間は全体の一割程度で、そのうち初級以上の魔術を使える程度の魔力量を持っているのは、さらにそのなかの一割ほどだ。つまり、魔術師は100人に1人しかなれない。



 この世界の魔術は、威力や効果でランク分けされていて、下から初級、中級、上級、将級、王級、帝級、聖級、天級の8段階になっている。また、魔術には属性というものがあり、基本的に火、風、雷、土、水の5種類に分類される。



 上級は一流の証であり、ハルトリア王国ではいずれかの属性の上級魔術が使えると宮廷魔術師として雇ってもらえる。


 また、これら以外に古代魔術(エンシェントスペル)と呼ばれるものがある。


 光、闇、聖、呪、時、幻、空という属性の魔術や、錬金術などがこれにあたる。


 古代魔術は古代の遺跡などから見つかった魔導書などに記されているが、適性を持つ者が極めて少なく、また習得も難しい。


 古代魔術を使える者は魔術師に対して魔導師と呼ばれる。大陸全土でも数人しかいないらしい。



 ちなみに俺は呪属性以外の古代魔術に適性がある。












 話が大きくずれたが、俺と兄二人は両親の部屋の前で立っていた。両親の部屋からは慌ただしさが伝わってくる。



 「…心配だな。」

 と、グラン兄さんが呟く。


 「ああ。」


 「はい…」


 リュート兄さんと俺は同時に返事する。




 扉の向こうには両親とメイド長のマリア、そして数名のメイドたちがいるはずだ。





 今朝になって母が突然産気づいたのだ。



 そう、母は妊娠していた。去年の秋頃に母は身体の変調を訴えた。その感じは既に何度も経験していたのですぐにそれが妊娠によるものだと分かったらしい。



 新しい家族が増える事を家族みんなで喜んだ。


 あれから半年とちょっと。予定ではまだ2ヶ月くらい先だったので家は軽いパニックになった。


 だが、家令のセレスティンとマリアだけは冷静だった。母を寝室に運び、メイドたちに指示を出し、すぐに出産の準備に入った。ああいうのを年の功と言うのだろう。



 母が産気づいて一時間くらいたった頃だろうか。




 「おぎゃぁー!!!おぎゃぁー!!!」

 と、大きな泣き声が聞こえてきた。



 俺たちは顔を見合わせると、両親の部屋に飛び込んだ。




 小柄だが元気に泣く、銀色の髪の女の子が産まれていた。マリアがテキパキと動いている。母も赤ちゃんも問題はなさそうだ。




 女の子の名はリーシャに決まった。

投稿遅くなりました。文を書くのは難しいですね(^^;)

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