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bird servant  作者: 真琴
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file.4-No.2

ようやく復帰!また潜るかもしれませんが、とりあえず復帰です。



今回は長いです。お忙しい方、眠くて首かっくんしている方はご注意ください!!





「すー……」

「……」



枢木はソファで寝ている青年を見、少し固まった。この場合どうすべきなんだろうか。

この場にいるということは、きっとこの事務所、店?の関係者だろう。起こしたほうがいいのだろうか。しかし何と説明するのか。

「履歴書が風に飛ばされて、この事務所に入っちゃったので取りに来ました」

確かにそうである。がしかし、いくら相手方が鍵を閉め忘れていようとも自身が不法侵入していることに変わりはない。そんなことありえないだろう、嘘なんだろう?と言われても証拠がないため言い返せない。



「えっと……、何もしませんよー。ただ取りに来ただけです―」



自然と小声で言い訳してしまう。

このまま相手起こさないように目的だけ果たす。それしか道は無い。幸いぐっすり夢の中のようで、身じろぎ一つしなかった。

そろそろと開いたままの窓に近づく。窓のそばには書斎机とその椅子。大量の本やファイルがしまわれている本棚があった。そして窓の真下の床には、風が吹いたせいだろう書類が散乱していた。



「……あった」



散らばっている紙の一番上に、枢木は目的のものである自分の履歴書が目に入った。すっと手を伸ばす。これを持って外に出れば、なんの問題もない。そう確信した。

電話が鳴らなければ。そう、枢木の指が履歴書の届くか届かないかまで達したとき。書斎机に置かれていた事務所備え付け電話が呼び出し音を叫んだのだ。

枢木はびくりと肩を揺らした。そして青ざめた。音が鳴ることが危険なのではない。この音に反応している人物が問題なのだ。

枢木はソファから体を起こした青年と目があった。



「……」

「……」



電話が鳴り響く中。2人の間に無言が駆け抜けた。

寝ぼけ眼の青年が小さく口を開く。



「……あの」

「っし」

「?」

「失礼しましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



枢木は超高速で紙を拾いあげ、事務所を後にした。残されたのは青年と鳴り響く電話だけであった。




***




外はすっかり更けこみ飯も腹の中におさめ、ベットに寝そべりまったり漫画を読みふけっていた。すると近くに置いてあった携帯電話が鳴った。それを着信相手も見ず、そのまま取った。



「はーい、もしも」

『沢崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』

「どぅわ!?」



いきなりの怒鳴り声で、沢崎はベットから飛びあがる。つい携帯電話も耳から離してしまった。だがそんなこと相手はお構いなし。携帯が振動するんじゃないだろうかというぐらいの大声で今だ怒鳴り散らしていた。まぁ、耳から離しているため全部聞こえていないが。

きんとする耳を押さえ、とりあえず沢崎は読んでいた漫画を閉じる。どこまで読んでたかわかるように一応紙でも挿んでおこう。そういや喉乾いたや。そう思い近くに置いてあったペッドボトルを手にし、喉を潤す。

そうしてベットに座り、落ち着いたところで。ようやく放置していた携帯電話を手に取った。



『聞いてんのか沢崎!!』

「はいはい、今聞いてる」

『お前のせいで……俺不法侵入するはめになったんだぞ!』



まぁそうなるだろうなぁ。他人事のように思ってるなって?だって他人事だろ。

その後枢木がまくしたてた内容に耳を傾ける。

すべて聞き、沢崎は思ったことを口にした。



「そりゃ災難だったな。お疲れさん」

『お前のせいだろうが!!』

「俺とお前の仲だろ?水に流せよそれくらい」

『冬の川に流してやろうか、おい』



その後電話の向こうではぎゃあぎゃあ枢木が喚いていた。

まったく飽きない、まるで小型犬だ。だからこそいじりたくなるんだが。

しかしさすがにこのままでは可哀相なので、そろそろなだめることにしよう。



「ここらで落ち着けよ枢木」

『落ち着けるか!』

「履歴書はもう手元にあるんだろ?事務所の寝こけてた兄ちゃんはそれ見てないんだし、バレやしないって」

『そりゃあ、そうだ………あれ?……』



枢木の声が不自然に途切れ、止まる。



「どした?」

『……』



すぐに問いかけても、返事がすぐ帰って来なかった。

辛抱強く待っていると、ようやく返事が返ってきたが。その返答に沢崎は目を剥いた。



『……間違えて、事務所の書類持ってきちまってた』

「お前馬鹿だろ」




***




次の日。昨日と寒さは相変わらずの中、枢木またあのビルの前に立っていた。その顔は心なしか、緊張でひきつっていた。

昨日取り返したと思った履歴書。あの時は急いていて、確認もしなかった。紙に書かれていたのは自分の個人情報ではない。読めもしない英文がずらり。そう、間違えて事務所の書類と思しきものを持って来てしまったのだ。

事務所側からするとどうだろう。

しばし休憩のつもりで仮眠をとっていたら、電話で起こされ。起きるとそこには見知らぬ人物。そして脱兎のごとく立ち去って行った。のちのち落ちていた紙を整頓するとあるべき書類が一枚足りなく、代わりに見覚えのない履歴書が。顔写真と照らし合わせると、先ほどの人物と一致。



「あほすぎる、あほずぎるぞ俺……!!」



つい往来のど真ん中で頭を抱えた枢木である。

しかしうじうじしていても仕方がない。下手に警察に届を出されてはたまらない。その前に誤解を解なけれがならない。そのためにもう一度ここに来たのだ。

枢木は深呼吸をし、昨日ものぼった階段を上り。昨日と全く同じに佇む扉の前に立った。変に暴れる鼓動を無理やり落ち着かせ、少し震える拳で数度ノックをした。



『はい、鍵はあいています。どうぞお入りください』



扉越しに業務的な呼びかけが届く。

枢木は一度はためらったが、そのまま勢いに任せ扉を押した。



「……失礼します」

「おや」



昨日紙が散乱していた机のある窓際。そこには昨日と同じ、あの青年がいた。

違うところは青年が起きているところと、メガネをかけているところだけだろうか。

青年は来客の枢木を見、顔は全く変わらなかったが。意外そうな、不思議に驚く声をあげた。



「もしかして昨日の……」

「っ……!昨日はすいませんした!!」



まず枢木は頭を下げた。不可抗力でもやってしまったことは変わらない。やはり謝るのが筋であるはずだ。



「実は昨日風に飛ばされた履歴書を取りに来て、その、ノックとかいろいろしたんですけどなんか不法侵入みたいになってしまって。えと、それに間違えてそちらの書類らしいものを持って来てしまったみたいで……。本当にすいませんした!!」



そうまくしたてて、再び枢木は首を垂れる。

全く、こういう時にすらすら言葉が出ないのがもどかしい。

背中にじわりと汗をかいた。相手はどう思っているんだろうか。正直怖くて頭があげれなかった。



「わざわざ店まで、ご足労ありがとうございます。ではあなたが持って行ってしまった書類を渡して頂けますか」

「え……。あ、はい」



言われるがまま、枢木は返そうと持ってきた書類を返す。

特に感情なく。淡々とされると逆に反応に困った。

そして青年は枢木の目の前で、受け取った書類の字を目で流す。青年の瞳は少し緑がかった黒だった。立場を忘れて、枢木は素直にきれいだなと思ってしまう。



「確かに、これはここのものですね。中、見ましたか?」

「いや、読めね……じゃなくて、英語だったので。それに勝手に人のものは読めません」

「ですよね。いや、すみません。わたしはあなたの忘れていったものは読んでしまいました」

「はぁ……?そう、ですか」



微妙に会話が成り立っていない。

文句を言える立場でないので、微妙に返答する。気が付くと、青年は自分のことをじろじろ観察していた。どことなく、居心地悪い。



「な……?何ですか?」

「あぁ。失敬」



すると今度はあっさり見るのを止め、背中を向けて書斎机のほうに歩きだす。一体何なんだ。

もう帰るか。そう思い枢木も先ほど開けた扉に踵を返そうと、足を一歩動かした時だ。



「本当に驚きました。まさかこんな不思議なめぐり合わせがあるとは」

「はい?」

「この店を開いてからは初めてです。望みを持たない者に出会ったのは」

「……はぁ。えと、それだけで」

「バイト。探しているんでしょう?」

「え?」



おそらく履歴書から分かったんだろう。あんなもの書くのは職を探すぐらいだ。高校入学を控えた者が就活するとは思えない。だからだろうか。



「そう、ですけど」

「うちで働きませんか?」



枢木は返答なく。ただただ目をぱちくり瞬かせていた。

にこりと青年は笑う。



「丁度探していたんです。バイトして下さる方。働きませんか?」

「で、でも」

「ほら、もう履歴書頂いてしまいましたし」



言葉的には脅しのように聞こえる。ぴろんと履歴書を見せられたが、自分の顔写真を突きだされると何処かこっぱずかしい。

すると自分の言葉のあやに気が付いたのだろうか。改めて青年は微笑む。



「冗談ですよ。無理強いするつもりはないです。……よければ、という話ですね」



今度はじっと枢木が青年を観察する番だった。

確かに言動は怪しくて、信用できる話なのかは定かではない。しかしきれいな瞳は嘘を言っているように見えなかった。それにバイトを探しているのも事実だ。それも早めに。

小さく枢木は笑う。これも何かの縁なのだろうか。随分奇妙ではあるが。



「……そうっすね」



何の仕事をさせられるか分からないし、自給もまだ知らない。



「バイト、やりますよ」



けれど。まったく、面白そうじゃないか。



「ありがとうございます。では、詳しいことはまた後で、とりあえず……」



青年も面白そうににやりと笑う。

本当に楽しいことが起こりそうだ。そう、予感した。



「ようこそ『bird servant』へ。私は店のオーナーの黒鴎です。歓迎しますよ、枢木君」




これが、2人。




枢木と黒鴎の『bird servant』の序章。

正直、沢崎との電話シーンは要らなかったのではなかろうか。つくづくそう思います。



また、初期は枢木くんは黒鴎さんのペースに飲まれてますね。初々しいなぁ……。



ついで宣伝。

おNEWというほど新しくないですが、短編投稿してました。


「とあるバーでの話」

http://ncode.syosetu.com/n7922bi/



ここまで読んで頂きありがとうございます。

ではでは、また次話でお会いしましょう。

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