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bird servant  作者: 真琴
2/18

file.2

今回は長いです!急いでいる方は、ご注意ください。



またすべて英語のタイトルにしようとして挫折しました。

ちなみに前回つけていた(今ではfile.1になっています)



I`m at your service.



この英文の意味は



「何でもお申し付けください」



です。

では本編へどうぞ。

右を見ても人、左を向いても人。隙間なく人が流れる。粋のいい声たちと煌びやかなネオンが街を賑やかに演出する。

しかし、光があれば闇がある。賑やかな裏には閑静な場所が存在する。

まさに裏路地とはそんな場所である。

灯りも乏しく、民間ばかり並ぶ静かな路地。その道を女性が1人、歩いていた。

きちんと皺をのばしたジャケットにタイトスカートに、そして背の高いヒール。その手には仕事用であろうバック。

ただ肩口まで伸びる髪に見え隠れするその顔は、どこか青白い。額に伝うのは冷や汗だろうか、顔色の悪さは暗がりのせいだけというわけでもないようだ。

かつんかつん。

ヒールが鳴る。


「……」



かつんかつん。

音が屋根から覗く藍色の空に吸い込まれた。



「……!」



女が息をのむ。

とっとっ。

自身の足音に混じって、別の他人の足音。バックを掴む手に力がこもる。



「……っ」



1度は止めようとした足を、逆に早く動かす。

だが混ざる足音もさらに加速する。次第に耳に届く音も大きくなっていく。

恐怖が彼女を縛りはじめた。



「っ……!」



とうとう女が走り出す。

ヒールの足音と、別の足音が道路に反響してさらに大きくなる。後ろから気配もどんどん色濃くなる。女は恐怖で息が引きつった。

そんな女の横顔に。音もなく。

大きな手が伸びる。



「あっ……むぅ!?」



手が女の口を塞いだ。だが伝わる感覚はやわらかい肌ではない。少し突っ張るような感覚。男は手術に使用する薄いゴム手袋のようなものを嵌めているらしい。

振りほどこうと女は暴れるが、大柄な男に華奢な女の力が敵うわけがない。



「静かにぃ、してくれよぉ」



妙に間延びをした、くぐもった声。

生々しい息遣いが女の耳にかかる。



「俺もぉ、こんなことしたくないだよぉ」



電灯の明かりを受けて、銀色の光が目を瞬かせる。女は大きく目を見開いた。

手袋を嵌め、その手に掴んでいるもの。それは。

ナイフ。小さい、けれど十分に人を殺傷できる、凶器。



「ひぅ!!」

「ただ君がぁ、俺だけ見てくれればいいだけなんだよぉ」



刃が、女の頬に張り付いた。あまりの冷たく恐ろしい感覚に、女はまた暴れ出す。

大きく動くと、男は動揺したのか。女の口を塞いでいた手がはずれた。



「いや、やめてぇ……!!」



必死な声が漏れ出たが、恐怖のあまり掠れて大きな叫びにならない。辺りは相も変わらず、静かである。



「おとなしくしてくれよぉ」



そう男は呟くと今度は女の手を掴む。その強さに比例して掴まれた袖口に皺が広がる。



「いっ……!」



街灯に照らされ、男の容姿が顕わになる。

紺の上下のジャージ。スニーカーとよく見かける格好。そこに野球帽を目深にかぶり、帽子の端からちりぢりとした黒くうねった髪が覗く。その顔は黒縁の眼鏡に白いマスク覆われていた。

嫌な息遣いが、マスクから零れる。街灯がナイフを誇張させた。

氷が駆け降りるような悪寒に、女は体を硬直させる。

だが、男がそのナイフを振り下ろすことは無かった。



「やめろぉぉぉぉ!!」



小柄な影が男に衝突した。変なうめき声をあげ、男は地を滑る。そして分が悪いと悟ったのか。すぐさま立ち上がり、そのまま無言で走り去り暗闇の中に完全に姿を溶け込ませてしまった。後には持ち主のいなくなったナイフだけが残った。

反対に影は電灯の下に着地し、深追いをすることなく女を振り返った。



「大丈夫か!?」

「は……はい」

「そっか、ならよかった」

「……枢木さんも黒鴎さんも、ありがとうございます」

「黒鴎、今からでもあいつ追いかけたほうがいいか?」

「いえ、今日はもう来ないでしょう。彼女はこのまま交番に行って、保護してもらいます。……よろしいですね」

「……はい。お手数、おかけします」




***




町が明る過ぎて、星が見えない。

黒鴎と枢木はその後、そのまま女性を交番へ送り届けた。

女性は頬に切り傷の他、手首が強く掴まれたために軽いねんざのような状態になっていた。がそのぐらいで、特に大きな怪我は無かった。

そして警官の制止を振り切り早々に立ち去った2人は、また先ほどとは違う閑静な道を歩いていた。



「本当にあいつ追いかけなくて良かったのか?」

「それ以上は契約違反になります」

「……まぁ、そうだけどよ」

「枢木君は優しいですね。ですが……」



口ではそう言いつつも、納得できない様子の枢木。

その理由とは。



「ストーカーに襲われたところを助けてほしい。それが依頼内容ですから」



そう、それが今回の依頼なのである。

依頼主の女性はストーカー被害に悩まされていた。後をつけられるのはもちろん、何度もかかってくる無言電話にメール。あげくに女性がいない間に部屋に忍び込み盗聴器・盗撮器を取り付け監視していた。

相手のだいたい見当はついており、おそらく1度会っただけの会社員。落ちた書類を拾っただけで好意があると勘違いされ、執拗なストーカー行為に発展したのである。



「面倒だよな警察ってもんは」

「まったくです。警察という組織は何かしら、事が起こらなければ動かないですからね」



そう。女性の訴えに、警察はすぐに動いてくれなかった。

まだ何か盗まれたり、暴行を振るわれたことは無いようですね。少し様子を見てみましょう。さらに酷くなるようでしたら来てください。最悪の事態は避けます。

それはいつ?また行ってもすぐに動いてくれる保証はない。最悪の事態は明日にでも……。

そのために女性は依頼した。

「事」が実際起きれば、警察が動く。そのため既成事実を作るためには、実際に男に襲われなければならない。そして、「最悪の結果」に繋がる前にあなたたちに介入してほしい。

それが依頼内容だった。

藍色の空がさらに色濃くなった。



「普通はさ、こう……犯人を捕まえてほしい!ぐらい言ってもばちは当たんねぇと思うわけよ」

「それは言っていたじゃないですか。そこまで手を煩わせるわけにはと」

「でもよ……」

「それにあの男性の性格上、私たちがあれ以上関与すると危険です」



そう、女性の依頼の不自然さ。あれはストーカーの男性の問題があったのである。

男は勘違いしやすく、またそれを信じて疑わない。

もし黒鴎と枢木が女性の部屋、もしくは彼女の周りで待ち伏せし男を捕まえたとする。すると男はどうだろうか。変に関係を勘繰り、後に逆恨みという復讐を企てる可能性がある。

結果、黒鴎・枢木以外にまた女性が危険にさらされる。それでは意味がない。

だから全く疑いが向くことない第3者の「警察」が必要だったのである。



「後は無能な警察が何とかしてくれるでしょう」

「うーん……実際に被害に遭ったんだから、今度は動いてくれるといいんだけど」

「さすがに行動を始めるでしょう。それにすぐに捕まりますよ。彼はきちんと痕跡を落としてくれました」

「証拠ってあのナイフのことか。でもあいつ手袋嵌めてたし、指紋は残っちゃいないだろ?」



枢木が見上げると、黒鴎はにこりと笑った。



「あのタイプの手袋は強くナイフなどを掴むと掌紋、つまりは手のひらの紋が残ります。あの様子では前科がありそうですし、そこから辿えるでしょう。それにあのナイフは一部のサバイバルショップのみで販売されているものです。販売履歴を追えばすぐに誰が買ったか特定できます」

「うへー。あの暗がりの短時間で良くそこまで見てたな」

「目が良いものですから」

「視力がいい奴は眼鏡なんてかけねぇ」

「では観察力がいいので」



のらりくらりと言ってのける黒鴎に、何言っても無駄だと枢木は諦めた。



「なんにしても、これで依頼完了です」



黒鴎がやれやれと肩を揉む。その隣を歩く枢木は眠そうに欠伸をする。



「枢木君も遅くまでお疲れ様です」

「お疲れ様どころじゃないって。俺明日も学校あるんだぞ」

「ケーキ作ってあげますから。それで許して下さいよ」



黒鴎はお願いとばりに片手を顔の前に持ってくる。不満に顔を膨らましていた枢木だが、ケーキの言葉で目が輝いた。が簡単に釣られてはたまるかと、ぷいとそっぽを向く。



「……しょーがねーな。ケーキに免じて許してやらぁ」

「ありがとうございます」



そんなやり取りの頭上には。

星が無い空に、小さな月がぽっかり浮かんでいた。




***




今では珍しい、年代ものの黒電話。呼び出し音が事務所内に響いた。

ファイル片手に黒鴎が受話器を取る。



「はい、こちらbird……ああ、先日はご利用ありがとうございます」



窓越しに鳥が鳴いた。



「そうですか、あの翌日には……。ではもう安心ですね」



黒鴎は持っていたファイルを机に置いた。そしてはめていた眼鏡を外す。

少し緑を含む瞳が顕わになった。



「怪我の具合はいかがですか?」



相手の返答を聞いている間、まるでその場で会っているかのように笑顔になる。



「……それは安心しました。お大事になさってください」



また受話器より女性の声が発せられる。黒鴎はそれなりに驚いたように軽く目を開く。



「お代……ですか?こちらの手違いで怪我をさせてしまいましたし、お代は最初に頂いた分で結構ですよ。それに実際、その程度しか我々は働いていませんので」



窓を小突いていた鳥が、一度小首を傾げ。そのまま飛び立った。



「……ふむ、お礼ですか」



相手の好意は無下にも出来ない。ううむと顔の笑顔と似つかず、悩む黒鴎。

受話器の向こうでは返答を待っているようで、しんと静まり返っている。



「ああ、そうだ」



黒鴎が声をあげた。ようやく思いついたようだ。



「ではケーキを焼いてくださいませんか?あなたお手製の」



机に置かれた眼鏡のレンズが窓から差し込む日に照らされ、きらきらと反射した。

後日、「bird servant」の事務所のおやつ時には。とてもおいしいチーズケーキが並んだそうだ。

正直、ストーカーを書いていて本当に気持ち悪くなりました……。あの間延びした喋り方がなんとも……。



そして既にコンセプトから外れている気がします。残念すぎる、この頭。

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