file.10-No.1
お待たせいたしました。頑張って初期イメージの事件をと考えたら、すごく疲れました。
といっても今回は全くそんな気配はなく終わるかもしれない。計画したのに無計画という奇跡。
長いです。
「んー……いい天気だぁ………」
本日は風なし雲なし文句なしの快晴。日差しも意外と強くない。完璧のアウトドア向きの天気である。いつもならこんな天気でも仕事だ何だとげんなりするところだが、あいにくそのお邪魔もの仕事も非番でお休み。そして貴重な休みは姉の手伝いに駆り出され食いつぶされてしまうのだが、珍しくけたたましい呼び出し電話がなかった。
つまりは本日の自分は誰にも手出しできない、いわばフリ―の身である。
さて、どこに行こうか。ふらふら近場の祭りに顔を出すのもいい。スポーツというものに無縁だったからこそ、どこぞの公園でのストリートバスケや草野球に混ぜてもらうのはどうだろうか。久しく行っていない釣りをしに海まで出向くのも悪くない。
やりたいことがたくさんあって大変だ。
とりあえず喫茶店でも言って一服でもしよう。ラフなシャツにジーパン、薄めの上着を羽織って運動靴に足を突っ込んで自宅を出る。もちろん胸ポケットには大事なもの、ズボンのポケットには財布が収納されている。
自宅である2階建も安めの賃貸マンション。錆が付き、ところどころ下が見え隠れしている危なげな階段を音をカンカン鳴らしながら降りる。そしてくるりと進行方向を変えて一歩踏み出した。
しかし背後より軽く一つ。車のクラクション。
振り向けば、黒いボディのクラウン。相当高いと思われる車だが、こんな高級車を所有している知人になど心当たりがない、というかいたら中古の安い軽自動車を探して歩いている俺への当てつけかと怒りたくもなる。
何かの間違いだろう。車のことを無視しようと歩き出そうとすると車窓がゆっくり開いた。
「お久しぶりです」
「へ?」
「もしかして今日暇です?よければお付き合い頂きたいのですが」
「………え?」
俺はつくづく休ませてもらえないらしい、羽田正輝はそう思った。
***
「……俺は何でここにいるんスかね」
がたんと羽田の体が揺れた。いや正確には羽田自身が振動したわけではない、乗っている車が走っているからだ。移動して揺れない車は無い。
羽田はbird servantのオーナー、黒鴎に車に無理やり乗らされてしまっていた。
その首謀者はのほほんと水筒を差し出した。
「羽田さんコーヒー飲みますか?」
「喉乾いてないんで大丈夫です」
「ごめん羽田さん、せっかくの休みなのに」
「いや、別に暇してたからそれはいいんだけど。本当に何で俺ここにいるんスか」
「淹れ立てですよ?」
「……頂くっス」
「本当ごめん……」
羽田の隣に申し訳なさそうに枢木が言う。帽子をかぶっていて表情は見えないが、声質の弱さから相当気を使った顔をしているに違いない。
コーヒーを受け取らない限りは質問に答えてもらえないと悟り、大人しくコーヒーが入っているらしい水筒を受け取った。何故か黒鴎は枢木とは正反対に上機嫌だ。
運転は黒鴎、助手席は誰もおらず後部座席に枢木と羽田が座っている。外の景色が軽快に滑り行く中、羽田は何とも言い難い居心地の悪さを感じていた。bird servantという人たち、といっても2人だけだが、その中に警察という異質な自分がいるからだろうか。
「羽田さん」
「はい」
「今現在の持ち物で何がありますか」
「んー、財布ぐらいしか……」
「運転免許証はお持ちですか」
「免許証は財布の中に」
「警察手帳はお持ちではないですか」
「持ってないわけないですよ。常日頃から肌身離さず、警察としての誇りと魂がこもってるもんスから」
「そうですか、それは丁度良かった」
「あの、だから一体」
「羽田さんかっけー……」
「へ?」
「かっけーよ、羽田さん……」
「え、えへへ、そう?照れること言わないで欲しいッスよ枢木君。それにコレ、実は陣内さんからの受け売りなんだ」
羽田はそう言ったが枢木は純粋にすごい、そう思った。
受け売りでもそれを忠実に心に秘め、努めていれば。いくら他人からのものでも自分のものにと形を変える。
でも羽田なら。なんとなくだけれど、大変な時間がかかるかもしれないけれど、出来る気がした。
「羽田さん、いくつかお願します」
「はい?」
「今から向かうところに着いたら、調べて欲しいことがあります」
「調べて欲しいって、何を」
「出来れば先入観を持たずに見て頂きたい。到着したら依頼主から説明します。それと帰りの運転は羽田さんにお願いしたい。せっかくの休日を潰して大変申し訳ないことなんですが」
黒鴎の言葉に、羽田はいくつか引っ掛かりを覚えた。
調べて欲しいと言う割に、前情報はなし。勿論、先入観の問題を考えれば当然の配慮かもしれない。しかし最低限の情報は出来れば欲しいところだ、逆に素早い対応がしにくい。
運転の件もそうだ。何故帰りの運転だけさせようとするのだろうか。純粋に運転手として自分を今ここに乗せたのならわかるが、帰りだけというとそうでもないらしい実際に今は黒鴎が運転している。それに現在羽田が座っているのは後部座席、自分から座ったのではなく黒鴎自身がこちらとすすめたのだ。道を覚えるにしても助手席のほうが都合がよいのはあたりまえで、頭の冴える黒鴎もそんなことわかっているはず。
まったくと言っていいほど、羽田正輝はこの黒鴎という男の思考が分からなかった。
「今日は特に用事があったわけでもないし、それはいいッスけど。……でもそういうことなら現場経験豊富な陣内さんのほうが良かったんじゃ?」
「それこそお断りします」
「腕は自分より確かっスよ」
「あの方は苦手なんです、私が」
「あ、そうなんスか……」
「黒鴎我が儘だから、本当にごめんよ羽田さん」
「そんな謝らなくって良いって。それより帽子取ったらどうっスか?」
「あ、忘れていました。枢木君」
「何だよ」
「今もできるだけ、あちらに着いてもその帽子は脱がずにそのまま行動をして下さい」
「?おう」
枢木に対しても変な要求だ。帽子を脱ぐな?とは一体どういうことなのだろうか。
羽田はもんもんと疑問と真正面に立ち向かっていると、黒鴎はまた付け加えたように話しだす。
「ちなみに車内や室内でも帽子を着用したままだとハゲやすくなるらしいですが、枢木君の健康な毛根なら問題ないでしょう」
「黒鴎。さっきのさっきで、そんな急いで取りたくなるようなこと言うなよ」
「一応知らせておこうかと思いまして。知識はいくらあっても困りませんよ」
「嫌な無駄知識今要らない」
「いやいや。いつなんどきどんな知識が自身を守るかわからないんですよ。……あぁ、そうだ」
黒鴎の視線が真っすぐから少し脇にそれる。何か会話の種が思いついた、というよりも目的地以外の寄る場所を思い出したという声である。
「レンタカー?」
枢木も黒鴎と同じ方向を見た。少し小さめだが、レンタカーの貸出をしているチェーン店だ。
「私の車を少し預かっててもらっていたんです」
「じゃあこの車はここで借りたんスか」
「いえ、このクラウンは友人からお借りしました。私の車はアレです」
ずらりと所狭しと並んでいる車からぽつんと置かれている一台の黒い車。近付くとさらに細部まで良く見える、トヨタのistという車種のようだ。今乗っている同じトヨタ社製のクラウンと比べると3倍も値が違う。もちろんクラウンの方が高い。というよりこんな高い車を平気で貸す友人て一体どんな神経しているんだ。
「っていうか、黒鴎友達いたんだ」
「そこに反応しちゃうんスか?」
「どうぞ羽田さん」
ちゃりんと金属音がして運転席を見ると、車の鍵。にこやかに黒鴎は自分の車だという2ボックスを指さす。
「枢木君と一緒にあちらに乗り換えて、私の運転しているこの車の後に付いて来て下さい」
「……」
鍵を見つめ、思ったこと。
お願い増えてるじゃん。
今日は一体どんな忙しい1日にされるんだろう、早くも引き受けたことを後悔し始める羽田である。
この人が一番覚えてないです、むしろ現在でも名前が覚えられません。何故だろう。
(前回の羽田正輝氏に関するプロフィールでの一文)
ということで羽田正輝君を活躍させようの回です。陣内さんに弄られないと早くも結構な真面目君ということが発覚。単純っ子なので枢木君と同じく動かしやすくて楽ちん、ただ口調が一番難しいっす。
旭日は未だ免許獲得していませんし車自体にはあまり興味がないです、本文内に出てくる車はトヨタ社のHPからイメージに合うものを検索しました。最初言葉のイメージで決めたら大変なことになったので……。
大分学校の予定に振り回されています。次回掲載の予定がすぐとは言えないのが悲しい。




