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幸せ理論  作者: 伊織
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落書き


『7月14日、僕は死にました』




それは夏休み間近のことだった。


気温、36度という猛暑日の中、私達学生はクーラー一つついていない教室でいつものように授業を受けていた。窓ガラス全開だというにもかかわらず、風が全く通らない教室では、じめじめとした暑さが教室を支配している。おまけに外では蝉達がミンミンとしきりに鳴いているものだから、余計に教室の温度は上がっていく気さえした。せっかくの自習の時間だというのに普段の騒がしい教室の面影など全くない。生徒達はこの暑さのせいか下敷きで扇ぐのに夢中になっており、無論、ペンを動かす音もしないのだが、教室は蝉の鳴き声だけが響き渡っていた。



私は最近つくづく思う。もしも私がこんなど田舎の公立の高校に通うのではなく、都会の私立校に通っていたなら。夏も冬も温度調節の設備が万全で、快適に授業を受ける事が出来ていたならば私はもっと違っていただろう。長い休暇の度に出される宿題だってすぐに片付けてしまうことが出来ただろうし、模試の結果だってもっと良かったはずだ。自分の家の経済状況からしてそんな事は全くもって無理な話ではあるが、将来のことを煩くいうわりにはそういう気遣いには随分と消極的である。まぁそれが大人というものだから仕方がない。



私は見もしない教科書を適当に1ページちらりと開ける。きっと一学期の最初に授業を受けていたところに違いないが、私の記憶にはそんなものの欠片も残ってはいない。ずらりと並べられた小さな文字達、黒字で濃く書かれた重要部分、ある程度文字の下に蛍光色のペンで線は引いてあるのだから、過去の私はやはりやったのだろう。きっと、未来の私のために。だんだんとページをめくっていけば面白い程にそれは新品さながらの教科書のようであった。教科書のページの端の折った跡はなくなり、線さえも書いてない、そのページを見たという証が下手くそな落書きへと変わっていく。私は悪い子だ。そして今、何も書いてはない、つまらない真っ白な教科書になってしまった。


落書きもこれで終わりか。私はため息1つする事なく、顔を起き上がらせる。何となく頬杖をついて、視線を辺りに配らせる。特に意味はなかったが、そんな時私の視線はある一定の場所に定められた。


普段なら目もくれないただの落書きであった。それは机の片隅に綺麗な達筆の字で書かれていた。『7月14日、僕は死にました』一体いつ頃書いたのであろう。それは鉛筆で書いたせいか滲んでしまい薄くなっている。指で軽く擦ってしまえばすぐに消えてしまいそうな位だったが、なぜかそれは極印のように私にその行為をさせる事を拒んだ。まるで彫刻刀で深く深く刻んだかのように、痛々しくもしかし興趣のあるものであった。



この位の年齢の生き物は死というものに酷く敏感である。最も生命の活力に溢れ、死という存在に遠くあるかのように見えて、本当はいつも死の影が常に垣間見えている。生きる事を望めば望む程、死は近くなり、現実に落胆するのだ。


私は至って常人、一般People。だから、死というものにとても興味がある、もちろん生きる事にも。だから、それはとんでもなく魅惑的な物産であり、悪い興味心が湧いてきてしまうのだ。おまけに、誰が書いたかわからないこの机の落書き、他人事ならば余計に面白い。私はその下に小さく返事を書いた。


『どうしてあなたは死んだのですか?』


返事を期待してはいなかった。たまたま移動教室の授業で見つけた、何人使っているかなんてわからない机に書いてあった落書きだ。どうせふざけて書いたものに間違いないだろうし、他の誰かが消してしまうかもしれない。




だけど、ただ少しだけ、この落書きがどうなるか、私には興味があった。だからどんな結果になっていようとも私はそれを素直に受け止めてみようと思っています。

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