戯曲:ストロベリーⅡ世
※これは近年発見された秩父山泰山による未完成の草稿の一部である。
※登場人物
ドリアン:前国王。強権的な君主。
スイカ侯爵:議会議長。クーデターの首謀者。
ラ・フランス:宰相。スイカに担がれた国王候補。
パイナップル将軍:公爵・軍務大臣。タカ派の野心家。
桃伯爵:内務大臣。
オレンジ:商務大臣。
ライチ:司法大臣。
イチゴ伯爵:没落貴族。ストロベリーⅠ世の落胤。王位継承者を自認する。
葡萄侯爵:イチゴを支持する反ラ・フランス派。
柿子爵:農政大臣。
林檎士爵:パイナップル旗下の将校。
キウイ男爵:知名度と実績に自信がある野心家。
バナナ:議会運営委員。
メロン公爵:議会運営委員。
ビワ:温厚で控えめな地方の有力者。
栗:地方代表議員。
みかん:地方代表議員。
ピスタチオ:マイノリティ代表。
アボカド:食糧・産業政策の専門家。マイノリティ代表。
キャベツ、白菜:衛兵。王宮に潜入するレジスタンスの一員。
第三幕 玉座をめぐる議論
第二場 造反劇の顛末
(青果王国王宮。御前会議の議場。中央の玉座にドリアンが座り、桃、パイナップル、スイカらが席についている。議員たちは退屈そうに書類をめくっている。)
スイカ議長 …以上をもって、予定された議題はすべて終了いたしました。……が、ここで緊急動議を提出いたします。議会を代表し、現国王ドリアン十三世の退位を提案いたします。
(議場がざわつく。ドリアン、顔を上げる。)
ドリアン国王 ん?いまなんと?
スイカ議長 今日の混迷した青物市場に鑑み、ご高齢のドリアン公におかれましては、もはや政務の遂行は困難と判断します。公にはすみやかにご退位いただき、新国王には、梨を推挙したく存じます。
ドリアン国王 ちょっと待て。何の話だ。
(沈黙。)
桃伯爵 え?私は何も聞かされてなかったぞ。
スイカ議長 失礼。急を要したため、領地へお戻りだった伯爵にはお声がけができず。
桃伯爵 そうなの?しかし梨とは…流石にそれは地味すぎんだろうか。
キウイ男爵 誰がなったって、ドリアンよりマシだろ。
ドリアン国王 なんだと!
イチゴ伯爵 残念ながら陛下、もうあなたに発言権はないのです。
ドリアン国王 は、謀ったな!これはクーデターか?
スイカ議長 皆で慎重に協議した結果、あなたには荷が重いという結論に至りました。果物全体のイメージにも関わることですから。これまでご苦労様でした。
ドリアン国王 誰がそんなこと決めたんだ!
スイカ議長 陛下。どうか、静粛に願います。これは議会の総意、ひとえに資質の問題なのです。
(スイカ、何事もなかったかのように書類を整える。)
ドリアン国王 資質だと? どんな資質だ!言ってみろ!
(ラ・フランス、鼻をつまみながら、)
ラ・フランス …それを我々に言わせるのですか?
ドリアン国王 何だと?
ラ・フランス いやだって、果物なのに臭いとか…
(イチゴ、ラ・フランスの言葉を遮り、)
イチゴ伯爵 ご存じのはず。前国王ストロベリーⅠ世の崩御につきまとう不穏な噂が、陛下の正当性に影を落としていることを。
ドリアン国王 貴様ら、国王を裁くつもりか!
パイナップル将軍 うるせえ。この簒奪者が。衛兵、この毒ガス野郎を地下牢に繋いどけ!
(衛兵のキャベツ・白菜がドリアンを取り囲む。)
ドリアン国王 触れるな、この無礼者!我は元首、ドリアン十三世なるぞ!
キャベツ 陛下、お静かに。議事進行の妨げになります。
ドリアン国王 スイカ!この逆賊め!貴様だけは許さんぞ!野菜と蔑まれていた貴様を果物と認めてやった恩義を忘れたか!
(ドリアン、衛兵に玉座から引きずり下ろされ、そのまま連行される。壮麗な扉の向こうに消える。)
(しばし静まり返る議場。)
ラ・フランス …ひとつ確認しておきたい。梨とは、つまり私のことで間違いないかね。
柿子爵 いや、梨と言えば二十世紀でしょ。二十世紀は料理にも使えるし。
(ラ・フランス、スイカをにらむ。)
ラ・フランス …どういうことだ?
スイカ議長 いや、彼は事情を十分に理解していないようでして…。
(議員たちが一斉に立ち上がる。)
オレンジ だったら私だって。カモ料理のソースは絶品だぞ。
パイナップル将軍 それを言うなら、俺だって酢豚に入ってるじゃないか!
みかん いや、あれは認めない。
柿子爵 あれは認めない。
林檎士爵 あれは認めない。
パイナップル将軍 なんなんだ!そ、それはお前たちが決めることじゃないだろ?!
柿子爵 でも、あれは違う。
パイナップル将軍 オメーに言われたくねえんだよ。なんだよ柿って。地味なんだよ!
みかん あーあ、言っちゃった。
(柿、ムッとする。)
オレンジ こらこら。君はオレンジの下位互換なんだから口を慎みたまえ。
柿子爵 …ぷ。
(柿とみかん、にらみ合う。)
キウイ男爵 やれやれ、となると、俺の出番か。たしかに知名度、実績から言っても―
柿子爵 お前はダメだ。モジャモジャだから。
栗 そうだな。ひっこめモジャモジャ野郎。
キウイ男爵 聞き捨てならんぞ。これは明らかなルッキズムじゃないか!
ライチ だってアレだよ?お前でもOKってことになったら、メロン公爵だって有力候補ってことになっちゃうよ?
キウイ男爵 どの口が言うんだ。アラフォーの踵みたいなツラしやがって!
(メロン、戸惑いながら立ち上がる。)
メロン公爵 え? 待って待って。俺の見た眼ってそういうふうに思われてんの?
(議場に失笑が漏れる。)
(イチゴ、おもむろに立ち上がる)
イチゴ伯爵 …仕方ありませんな…よろしい。ではこの重責、私が引き受けましょう。
パイナップル将軍 はあ?なんでそうなるんだ。
(議場がざわつき、スイカが木槌を打ち鳴らす)
スイカ議長 静粛に!
葡萄侯爵 ま、血筋から言っても、イチゴ伯爵が王位を継ぐのは当然でしょうな。
スイカ議長 ちょ、葡萄侯爵、先走らないで頂きたい―
パイナップル将軍 ふん、血筋など怪しいものだ!前王がそなたを庶子と認めたという証拠でもあるのか!
イチゴ伯爵 それは、ひがみですかな?
パイナップル将軍 何だと?!
イチゴ伯爵 軍人が政治に口を出すのは感心しないな。これは私が望んだことじゃない。しかし国民の声に応えて、敢えて火中の栗を拾おうというのです。
栗 笑わせるな。俺はカチューシャなんかしない!
イチゴ伯爵 いや、ちが…
キウイ男爵 お前に王権を握らせれば、食い物はみんなイチゴ味になっちまうじゃないか。
ライチ 独裁だ!
みかん イチゴ味を許すな!
イチゴ伯爵 ははは。皆さん、それはもう言外に私の実力を認めているようなものではないですか?
(反駁した者たちは言葉に詰まる。)
(ラ・フランス、机を拳で叩く。)
ラ・フランス スイカ議長、説明していただきたい!私は、すでに皆の合意は取り付けてあるとあなたが確約したから、この話に乗ったのだ。
スイカ議長 いやあ、これは、つまりその…。
バナナ まった。まった。俺を忘れてないか。
みかん 確かに、バナナ殿なら実績ではイチゴに引けをとらん。
(イチゴ、鼻で笑う。)
イチゴ伯爵 ふん、ひと房150円が…。
バナナ …な、今なにか言ったか!
(ピスタチオがおずおずと挙手する。)
ピスタチオ そういうことなら、僕も最近キテますけど。
パイナップル将軍 お前は果物ですらないだろ! この豆野郎!
ピスタチオ ま、豆野郎?
パイナップル将軍 なぜこいつがここにいる!衛兵、つまみ出せ!
(キャベツと白菜がピスタチオの両脇を抱える。)
キャベツ 議員、ここは御辛抱ください…。
白菜 ここで争っても、あなたのお立場を悪くするだけです。
ピスタチオ いや、しかし…!
(ピスタチオ、連れ出される。)
アボカド …なら、私だって料理には重宝されていますが。
パイナップル将軍 お前はもはやフルーツの括りにさえ入ってねえんだよ!
バナナ 酢飯にでも巻かれてろ!
(憎悪をむき出しにしたシュプレヒコールが上がる)
議員たち フルーツの恥晒し!裏切り者!この異端者!
(スイカが木槌を打ち鳴らす)
スイカ議長 静粛に!みなさん落ち着…
(イチゴ、スイカを遮り、)
イチゴ伯爵 まあまあ、皆さん。落ち着いて。議論も出尽くしたようだ。そろそろ決を採られては?
バナナ なに仕切ってんだてめえ!もう王様気取りか?
イチゴ伯爵 それは邪推というものだ。私はただ、皆さんの意見を聞いただけです。
葡萄侯爵 まさに、王に必要な資質ですな。
メロン メロン味の評価については、まだ議論が尽くされておらん。
栗 …苦手なんだよなあ。こういうトゲトゲした雰囲気。
ライチ それマジで言ってる?
柿子爵 …ハア。これでは収まりがつかんではないか。しかし、ここで政治的な空白を作るのは不味いぞ。
(桃、身を乗り出す)
桃伯爵 とはいえ、ここにいる皆を納得させるとなると、血筋や実績より、むしろ求められるのは、中庸、公平性ですぞ。
(議員たち、疲れたようにうなずく。)
みかん …じゃあもう、ビワあたりで手を打っちゃえば?
(ビワ、戸惑いながら立ち上がる)
ビワ え?わたしですか?
(沈黙。)
栗 あー、ね。ビワかー。アリかも。
みかん なんて言うか、味に主張がないもんね。
林檎士爵 まあ、そっか。無難な落としどころかな。
ラ・フランス まてまてまて!これでは話が違う!スイカ!いったい根回しはどうなってるんだ!
スイカ議長 ちょ、待っ…私としては…。
イチゴ伯爵 王家の血を絶やす気か!国民はイチゴ味を望んでいる!
ライチ なんで誰も俺を推さないの!ねえ?ねえってば!
(議場は騒然となり、果物たちは椅子などを振り回して乱闘を始める)
(スイカが木槌を連打する)
スイカ議長 静粛に!!静粛に!!静粛に!!
(暗転。)
第三幕終。
編者による注記:
この後、物語は紆余曲折を経て、数年後、虐げられてきた野菜たちの反乱により、果物王国は共和制となる。
ビワは国外追放。政変の黒幕であり「野菜界の裏切り者」スイカは、広場でスイカ割りの刑に処される。
そういう訳なので、読者の皆さま、これからはフルーツの「首相」はアボカドということで認識をお改めください。
くれぐれも粗相のないよう、重ねてお願い申し上げます。




