第7話 必要な場所
「お前のやり方を、教えろ」
カイルの言葉は、真っ直ぐだった。
迷いはない。
さっきまでの戦いで、理解したんだろう。
自分たちに足りないものを。
だが。
「断る」
俺は即答した。
カイルの目が、わずかに揺れる。
「……理由は」
「教える義理がない」
それだけだ。
シンプルな話だ。
カイルは一瞬だけ黙る。
怒るかと思ったが、違った。
「……報酬は出す」
「問題じゃない」
「なら、何が」
「場所だ」
俺は周囲を見た。
戦いの痕跡。
崩れた足場。
倒れた魔物。
そして、蒼狼の牙。
「お前たちは、俺のやり方を使えない」
「……なぜだ」
「使う気がないからだ」
カイルの眉が動く。
「違うな」
低い声。
「今は、必要だと分かった」
「“今は”だろ」
俺は言う。
「状況が変われば、また切り捨てる」
沈黙。
誰も反論しない。
できない。
実際に、そうしてきたからだ。
ガルドが舌打ちする。
「……だったらどうすりゃいい」
苛立ち。
だが、さっきよりはマシだ。
少なくとも、聞く姿勢はある。
「簡単だ」
俺は答える。
「変えろ」
「……何を」
「見方を」
それだけだ。
だが、それが一番難しい。
エドが苦笑する。
「それができりゃ、苦労しねえよ」
「だろうな」
俺はあっさり言った。
「だから無理だ」
空気が少しだけ荒れる。
リナが不安そうにこちらを見る。
アルドは黙っている。
セレナは、楽しそうだ。
カイルが一歩踏み出す。
「……なら」
もう一度言う。
「お前が来い」
その言葉に、少しだけ驚いた。
「戻れってことか」
「違う」
カイルは首を横に振る。
「お前のやり方でいい。だが、俺たちと組め」
なるほど。
戻るのではなく、組む。
言い方を変えただけだが、意味は少し違う。
だが――。
「断る」
やっぱり同じだった。
カイルの目が細くなる。
「なぜだ」
「同じことになる」
「さっきも言ったな」
「重要だからな」
俺は肩をすくめる。
「お前たちは強い。だから変わらない」
「……それが理由か」
「十分だろ」
強い奴は、自分を疑わない。
疑う必要がないからだ。
だが、それは同時に、変われないということでもある。
セレナが横で口を開く。
「では、こうしましょうか」
全員の視線が向く。
「アレンは、ここに残ります」
「……は?」
ガルドが顔をしかめる。
「残るって、どういう意味だ」
「そのままの意味です」
セレナはにこりと笑う。
「この支部を拠点に、動く」
カイルが目を細める。
「……つまり」
「あなたたちは、依頼を受ける側」
セレナは続ける。
「アレンは、依頼を選ぶ側です」
沈黙。
言っている意味は、はっきりしている。
立場が、逆になる。
ガルドが笑う。
「はっ、冗談だろ」
「いいえ」
セレナは真顔だった。
「もうそうなっています」
その言葉に、カイルがゆっくりと俺を見る。
さっきまでとは違う目だ。
評価する側の目。
「……そういうことか」
小さく呟く。
理解したらしい。
俺は特に何も言わなかった。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、事実としてそこにあるだけだ。
リリィが不安そうに口を開く。
「で、でも……それって……」
「嫌なら、関わらなければいい」
俺は言った。
それだけだ。
強制じゃない。
選択だ。
カイルが息を吐く。
「……分かった」
一言だった。
「今回は、借りにしておく」
「好きにしろ」
俺は答える。
カイルはそれ以上何も言わなかった。
振り返る。
「行くぞ」
蒼狼の牙が動き出す。
ガルドも、エドも、リリィも。
誰もこちらを見ない。
だが――。
さっきとは違う。
完全に切り捨てる視線じゃない。
理解できないものを見る視線だ。
それでいい。
十分だ。
足音が遠ざかる。
静けさが戻る。
リナがぽつりと呟く。
「……すごい」
「何がだ」
「さっきまで、あっちだったのに」
「そうだな」
俺は頷く。
「位置が変わっただけだ」
アルドが苦笑する。
「それ、簡単に言うなよ」
「簡単な話だ」
実際、簡単だ。
難しいのは、そこに立つことだけで。
セレナが一歩前に出る。
「では、これで正式に」
手を差し出す。
「あなたは“こちら側”です」
その言葉に、少しだけ引っかかった。
「こちら側?」
「ええ」
セレナは微笑む。
「評価する側です」
俺はその手を見る。
少しだけ考えてから、握った。
「……まあ、いい」
セレナが満足そうに頷く。
リナが嬉しそうに笑う。
アルドは、まだ少し戸惑っている。
だが――。
悪くない。
ここは、悪くない場所だ。
「まずは何をする」
俺が聞くと、セレナは少しだけ考えた。
それから、いつもの調子で言う。
「次は、“捨てられた街”ですね」
「……は?」
「評価されなくなって、放置された場所です」
リナが驚く。
アルドが顔を上げる。
俺は少しだけ目を細めた。
どうやら。
思っていたより、規模が大きい。
「面白そうだな」
そう言ったとき。
少しだけ、笑っていたと思う。
立場が変わると、見えるものも変わります。
そして今度は、人ではなく“場所”の話へ。
この先、どこまで広がるのか。
もし少しでも面白いと思ってもらえたら、
ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
次も楽しみにしていてください。




